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#22 高みを目指して。

 過去の記憶へと(さかのぼ)っている内、知らぬ間にウトウトしてしまっていたようだった。大きな欠伸をしてふと目を開けると、エイルが俺の顔をひょっこり覗き込んでいた。俺と目が合うと、垂れたブルーの前髪を耳に掛けながらくすっと控えめに微笑む。


「トーマくん、お疲れさま」

「……俺寝ちゃってた?」

「うん、少しね。近くに魔物の気配も無いし良いかなと思って起こさなかったの。……でも、ああいうことはあんまりして欲しくないな、私は。休憩も無しにたった一人で五体も連続で相手するなんて、流石に無茶が過ぎるよ。最後の方なんか集中力が切れて一発マトモに食らってたじゃない……」

「そんなこと言うんだったら、手伝えば良かっただろ」


 俺がにやりと微笑を滲ませながら挑戦的な視線を向けると、エイルは腰に手を当てて心底呆れたように大きなため息を吐いた。


「もー、手を出すなって言ったのはトーマくんでしょ」

「エイルが戦闘に参加すると、俺が貰えるEXPが減るんだよ……。けどそのお陰でレベルが3も上がって、今や58だ。この前ちゃんと可視設定したんだから、エイルにもちゃんと俺の頭上表示が見えてんだろ?」

「それとこれとは話が別。今までもそうやって無茶してきたから、三ヶ月なんていう短期間でこんなに強くなったんだろうけど……。見てるこっちがハラハラしちゃうよもうっ」


 と、ちょっと怒ったふうに言って口を尖らせる仕草は、ピコピコと前後に揺れるキツネ耳も相まって、こちらが思わず照れて顔を逸らしてしまうレベルで可愛かった。たぶん彼女自身は自覚していないだろうが。

 しかしエイルは、俺のその行動を『痛いところを突かれて気まずくなった』と取ったのか、更にお説教を重ねてくる。


「確かにトーマくんの剣の上達ぶりは凄いよ? 私は武器を振り回すのはあんまり得意じゃないけど、それでもトーマくんは総合的な戦闘力だけで言ったらベテラン攻略者にも匹敵すると思う。けどやっぱり、何でそんなに頑張るのか分かんないな……。アサヒちゃんだって、まだレベル30に達するかどうかってところなんでしょ? シェーラから聞いたよ」

「――朝妃は関係ねぇよ。単純に……俺がただ強くなりたいだけだ」


 短期間でこれだけレベルが上がったのも、ひとえに《魔剣技》のおかげだろう。一度発動してしまえば半自動的に腕が動いてくれるゆえ、俺自身の技術が未熟でも何とかなるのだ。今となっては俺が使用可能な魔剣技の種類は二〇を超える。

 俺はおもむろに上体を起こし、アイテムストレージを開いて【治癒水】をオブジェクト化した。ぱっと手の上に現れた、小瓶の中で揺れるのは、魔法使いの治癒魔法が込められた水だ。


 きゅぽんっとコルク栓を抜いて中身を一気に飲み干す。仄かな甘みが口に広がるのを感じながら視界端のHPバーに目をやると、瞬く間にその幅を広げ全快してしまった。

 この世界において、治癒水は外傷に直接振りかけるというのが本来の用途であるが、当然《窓の使徒》は別だ。

 HPは食事か睡眠により回復する。普通の食物の場合、消化とともに徐々にHPが回復していくという仕組みなので、即座にHPを回復させたいときは、治癒魔法をかけてもらうか《治癒水》を摂取するというわけだ。


「次は私も手伝うからね」

 そう意気込みを見せてエイルが立ち上がり、続いてお尻をはたきつつ俺も腰を上げる。

「なら……ミノタウロスじゃダメだ」

「ほら。やっぱりミノタウロスはトーマくんには荷が重かった――」

「もっと下に行こう」


 という俺の提案に、エイルは喋りかけていた口を半開きにしたまま、茫然と固まった。絶句とはたぶんこういう状態を言うのだろう。目だけで『冗談だよね?』と問うてくるが、俺は踵を返すことで否と答える。

 慌てたようにエイルは駆けてきて俺の横に並ぶと、やや俯きがちな俺の顔を覗き込んできた。


「下に行くって……これ以上高レベルの魔物は流石に私たちだけじゃ危険だよ」

「ミノタウロスが俺一人で狩れるなら、エイルの補助があればもっと強いのでも問題ないだろ。レベルだって、ここに来た時より5も上がってんだしよ」

「理屈で言えばそうだけど……。でも本当なら五〇層以下は四人かそれ以上のチームで潜るもので、こうやって二人だけで五〇層にいる時点で普通じゃないんだよ。それに目的が攻略じゃなくて鍛錬なら尚更……」

「簡単に倒せるのをちまちま狩ってるんじゃだめなんだ。もっと、ギリギリで……」


 そこまで言いかけてふとエイルの顔を見やると、どこか心配そうにこちらを見つめ、それとともにキツネ耳も僅かながら力を失っているように感じる。そこでようやく俺は我に返った。いつもの合理的な思考を取り戻した。

 ……危ない。

 俺のわがままでエイルまで危険に晒してしまうところだった。エイルの言う通りだ。リアルワールドのRPGでだって、レベル上げは自分が簡単に勝てる敵を大量殺戮するのがセオリーだろうに。


「――いや、やっぱ今日はもうやめるわ。今のは忘れてくれ」


 俺の記憶が正しければ、ワープフロアを設置してある場所は次の分かれ道を右だったはず……。と、まさに分岐点に差し掛かったそのとき、背後からまたしても深い溜め息が聞こえてきた。


「もう、しょうがないなぁ……。一層だけだよ? 下りるのは。それより下は本当にダメだからね」

「……ああ、さんきゅ」


 大丈夫。たった一層下りるだけ、出没モンスターのレベルが1上がるだけだ。どんなモンスターが相手だろうと、強さはミノタウロスと大差はあるまい。

 それにエイルは朝妃と違ってアホではない。俺などより余程ダンジョンに詳しい彼女が了承したという事は、その判断は信じるに値するものだ。


 そして下層へ向かうべく、俺たちは左へ曲がった。


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