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#20 城下町の見学2。

 数分後。


「冬馬、どお?」


 という、朝妃にしては少々控えめな問いとともに試着室のカーテンがそっと開放された。

 彼女の服装はというと、ヘソ出しシャツにデニムっぽい生地のショートパンツ。その上からロングマントを羽織ったような形である。いったい誰に感化されたか、なーんかどっかで見たようなコーデなんですけど……。


「まぁ良いんじゃねぇの」

「あっ! テキトーは無し!」


 言ってびしっと指を突き付けてくる朝妃だが、今のは俺なりのちゃんとした感想なんだよなぁ。


「別に適当じゃねぇよ。つーかお前、基本的なルックスは良いんだから、どんな服でも似合わんことなんてそうそうねぇだろ。雑誌のモデルと同じだっつの。イケメンが着るからカッコイイのであって、俺が着ると『なんか変』って言われるのが落ちなんだよ。あれ以来、何があろうと母ちゃんのファッションセンスに任せる事を俺は誓った」

「何で途中から自分の話になったし……」


 いやマジで当てになんねぇからな、あれは……。むしろ逆説的に、雑誌モデルのコーデが似合うなら自分はイケメンだと思ってももはや問題無いまである。


「要するに似合ってるから安心しろって事だよ」

「あ、ありがと……」


 素直に褒められたことが照れくさかったのか、朝妃は頬を染めて俯きがちにお礼を言った。そういう反応されるとこっちも照れるからやめてくんないかな……。

 そんな感じで合わせ辛くなった視線をつい右へ泳がせたとき、ちょうど隣の試着室のカーテンがほんの少しだけ動く。その隙間から顔を覗かせたエイルが、なにやら不安げに苦笑しつつこんな前置きをした。


「私も着替え終わったんだけど――……その、笑わないでね?」

「お、おう」


 俺の返事を待ってから恐る恐るカーテンを開け始めるエイル。テレビならここで一旦CMが挿まれそうなもんだが、幸いそんな心配もない。いったいどんな服を着てるんだろう……!? と、俺は期待に胸を膨らませ固唾を飲んで見守った。

 まぁ結局のところ、明らかになったエイルの姿に俺は堪らず笑みを零してしまったわけだが。


「……ふっ」

「あっ!? 笑わないって言ったのに!」


 途端、エイルが口をへの字に曲げてカーテンの後ろに隠れてしまう。咎めるような眼差しに、俺は慌てて取り繕う結果となった。


「あー待て、いやごめん。別にエイルの服を笑ったわけじゃなくて、ただお前らの考えてることが面白かったからさ……。二人とも、ちょっと互いの格好を確認してみ」


 言いながら、朝妃とエイルを交互に見比べる。すると二人は怪訝そうな表情を浮かべつつも、俺に従って試着室から出てきてくれた。顔を見合わせ、そして一瞬遅れて吹き出すように破顔した。

 エイルの服装はというと、上は白っぽい生地を基調としたブラウスに紺色ベスト。首周りにはネクタイに似たスカーフ巻いており、そしてなんと、ボトムスがまさかのミニスカートだった。色合いは微妙に異なるものの、組み合わせに関しては朝妃の初期装備からヒントを得たに違いあるまい。

 つまるところ朝妃とエイルは、単に互いの普段着を入れ替えてみただけみたいな状態になっていたのだ。隣の芝は青いとはよく言ったもんだな。


「あははっ、実は最初にアサヒちゃんを見た時からずっと可愛いなって思ってたんだ。こっちの世界じゃ、こんなに丈が短いスカートなんて見た事なかったから……。でも実際履いてみるとすごいスースーするんだね……」


 言って、エイルがスカートの裾を押さえて困ったような笑みを浮かべてみせる。興奮した様子の朝妃も、胸の前で両手を握りながら、エイルを上から下までキラキラした目で眺め回す。


「エイルちゃんすっごい可愛いよ! もう私が着るのより全然っ!」

「本当? ありがとー。アサヒちゃんもすごい似合ってるよ。私よりもよっぽど攻略者みたい」


 女子二人がきゃぴきゃぴはしゃぐ姿は、えらく目に嬉しい光景だった。うんうん、仲睦まじいことで何よりですね。

 それにしても普段から見慣れてるはずの服装も、着る人間が変わるとこうも新鮮だとは……。たぶん二人とも美少女だからこそ成り立つんだろう。少なくとも、ジャニーズと俺が衣装チェンジしたところでこうはなるまい。よし、ちょっと悲しくなってきたからこの話はやめよう。


「あのー、君たち。楽しそうなとこ悪いんだが早く終わらせちゃってくんない」

「あ……トーマくんごめんね。私はもうこれに決めたから、このままお会計済ませちゃうけど……アサヒちゃんはまだ試着したいのがあるんだよね?」

「うん、やっぱりトーマに言われたみたいにいらない服とか買うのはなんかやだし。だからもうちょっと待ってて!」

「もちろん」


 といった具合に勝手に話を進めてしまう女子二人である。すると朝妃は再び試着室へと引っ込み、エイルはここまで来てきた服を抱えてカウンターの方へ歩いていく。俺もその後ろを付いて退店する際、こそっと一言だけ断りを入れておく。


「んじゃ、俺はその辺の屋台ででも時間潰してるから、終わったら声掛けてくれ」


 しかしエイルは去ろうとする俺の手を取って慌てた様子で引き留めた。


「ちょっと待ってよトーマくん。それ本気なの?」


 どこか怒っているような口調で問いかけ、朝妃が着替え中の試着室を見やる。その視線に、俺はエイルが言わんとするところを理解した。

 ははーん……やっぱりエイルも、自分のは見てほしいけど他人のを見るのは面倒くさいんだな。たぶん朝妃を押し付けられたのが気に入らなかったに違いない。だから、俺は肩を竦めて己の言い分を口にした。


「だってそういう話は女子同士の方が良いだろ。エイルも買い物終わったんなら、わざわざ俺なんぞがアドバイスしてやる意味なんて――」


 ところがエイルは俺の言葉を途中で遮るように、俺の肩に手を置いた。そっと瞑目してかぶりを振る。


「トーマくん、違うよ……。そういう事じゃないよ……」


 その声音には明らかな落胆の色が含まれていた。しかし、自分がいったい何を期待されていたのか、俺にはまるで心当たりが無い。俺が言葉の意味を目だけで問うと、エイルは伏し目がちに下唇を噛んで、口を閉じた。

 数秒の間を開けて、まるで親が子供に言い聞かせるような穏やかな口調でこう尋ねてくる。


「もうちょっとだけ、アサヒちゃんのことも考えてあげられないかな?」

「……え、いや何の話?」


 マジで何の話だよ。俺がアサヒのことを考えてなかったらあいつ、ダンジョンでとっくに死んでるんですけど……。

 だがエイルはまたしても何も答えることなく、代わりに大きな溜め息を吐いてみせる。すると何を思ったか、突然俺を回れ右させたかと思うと、そのまま背中を押して試着室の前まで連れて行った。


「何の話か分からなくてもトーマくんが見てあげて。アサヒちゃんだって、私よりもトーマくんの感想の方が嬉しいに決まってるんだから」

「……エイルがそこまで言うなら拒む理由はねぇけど」

「なら決まりっ」

「あのーお客さん、この服うちの商品じゃないみたいなんですが……」


 一転して笑顔で頷くエイルに、店主から呼び掛けがあった。どうやらまだ会計の途中だったようで、更には来てきた服をカウンターに置きっぱなしだったらしい。そりゃ店主も混乱するわな。


「あっ、すいません!」


 慌ててカウンターの方へ戻っていくエイルを見送ってから、今度は俺が溜め息を吐く番だった。

 うーん、やっぱ納得いかねぇ……。だいたい、朝妃がエイルの感想より俺の感想の方が貰って嬉しいとか、どう考えてもそんなわけないんだよなぁ。俺なんぞから感想もらってどうすんだっつーの。土に埋めて肥料にするぐらいしか使い道が思い付かねぇわ。

 もう考えるのも面倒くさくなってきた俺は、暇つぶしに朝妃に催促してみることにした。


「あーさひちゃん、もーいーかい」

「そんな簡単に着替え終わんないし、言い方キモいし」


 間もなくしてカーテン越しにそんな返事があった。

 何でそういうとこだけノリ悪いんだよ……。そういえば話変わるけど、俺ってば味付け海苔よりもただの焼き海苔の方が好きなんだよねー。それなのに、関西出身のばあちゃんが作ってくれるおにぎりはいつも味付け海苔でちょっとがっかり……。以上、ノリの話。

 と、そんなくそ益体もない事を考えている間に、朝妃が着替えを終えたらしい。シャッと音を立ててカーテンを開け放つ。


「これはどうかな?」


 ……ただまぁ、こんなに楽しそうに笑う朝妃を見るのも、結構久しぶりな気もする。面倒くさいことに変わりはないが、たまにはこいつに付き合ってやるのも悪くはないのかもしれない。


「おー可愛い可愛い」

「やっぱりテキトーだ!?」

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