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第5話「マンティスシザーだよプリティミュー!」

 日曜日だって言うのに、呼び出しされてミユはカンカンだった。

「ったく、今日は友達と遊ぶ約束してたのに」

 ただでさえ減少中の友達。友達との約束は重要事項の1つだった。が、ヤツはアレを握っている。そう、ミユの命を繋ぐ起爆スイッチ。

 そんなわけでミユは仕方なくアインの自宅&研究所に向かっていた。

 街を歩いていると、人だかりができていた。

 ミユは人ごみを掻き分けて、その中心にいた人物を見た。

 両手がハサミの男が女性の髪をカットしていた。

「シザーマン?」

 と、ミユは呟いた。

 あんな大きなハサミなのに仕事は繊細で、華麗なハサミさばきで観客の心を鷲づかみ。

 いったいこのハサミ男は何者なのか?

 そんな感じで観客とのトークが進められ、ハサミ男はこんな話をはじめた。

「実は……ゲル大佐という方を探して、旅をしているのです。人の髪を切るのは、旅を続けるための路銀稼ぎとでもいいましょうか」

 ゲル大佐を探して3千里ですか!?

 見方によっては感動話じゃないか!!

 ま、ミユは『へぇーそうなんだぁ』程度にか思わなかったが。

 そこらにいる路上パフォーマーと変わりませんね。

 てなわけで、ミユはこの場を後にした。

 獅子舞町を駆け抜け、裏路地を奥まで進んだ。

 金属のドアの前に立って、いつもどおりインターフォンを――押そうとしたのだが。

「貸家?」

 って書いてる張り紙が貼ってあった。

 インターフォンを押しても反応ゼロっていうか、電源すら入ってない感じだった。

 ミユはドアに耳を当てて、中のようすを探った。

 音はしない。

 気配も感じられなかった。

「…………」

 ミユは目を白黒させて、脳ミソをフル回転させた。

 そして――。

「人を呼び出しといて、どーゆーことじゃボケッ!」

 ドアを殴る蹴る!

 金属製ドアなので、辺りに爆音を撒き散らす。

 10万馬力のミユでもドアはびくともしなかった。

 それでもミユはドアに闘いを挑み続けた。

「意味わかんない、借家ってどーゆーことなのよぉぉぉっ!!」

 闘いを続けていると、どっかのビルの窓が開いた。

「うっせーよ!」

 男の声がした直後、2階から投げられたナベがミユの頭にヒット。

「イタッ……」

 ナベをぶつけられた。

 怒ったミユはナベを投げ返す。

「シネ!!」

 ナベを顔面に受けた男は鼻血の噴水を拭きながら倒れた。

 本当に死んだかもしれない。

 邪魔者がいなくなって、ミユはさらにドアと格闘した。

「オラオラオラオラ!」

 なんかもうヤケクソだった。

「ハァ……ハァ……」

 サイボーグでも頑張ると疲れるんですね。

 ミユが息を切らしているとケータイが鳴った。

 誰か確認せずにミユは通話に出た。

「なに!」

《ふむ、電話に出るなり怒鳴るなんてカルシウム不足だよ》

 アインの声だった。

「シネ!」

《言語中枢に障害かい?》

「シネ!」

《ふむ、どうやら重症らしいね。早くボク元へおいでよ》

「ハァ? 来たけど借家ってどういうことよ!」

《そうだ、そのことで電話をしたんだよ。引っ越したからそこに来てくれたまえ》

「シネ!」

 絶対にコロス、次に会ったら絶対にコロス。ミユは心に刻み込んだ。

《ケータイに地図を転送してあげるから、早くおいでよ》

 ブチッっと通話が切れた。ブチッとキレたいのはミユのほうだった。てゆか、もうキレてます。


 地図を頼りにミユがやって来たのはアキバ区ネオ・アキバタウン。

 オタクの聖地だ。

 街を歩いているとそこから中から音楽が聞こえてくる。

 アニソンばっかりですね。

「汚染される……あたしの心が汚染される」

 ミユは吐き気を催していた。

 日曜日の今日は特にヤバイらしい。

 メインロードが歩行者天国になっているらしく、なんか変な人たちがわんさかいますよ。

 レイヤーさんに群がるカメラっ子。

 その中に知ってる顔を発見してしまったミユは、断じて見ていないことにした。

 こっちがあっちを見つけたことよりも、あっちにこっちが見つかることを恐れた。

 なのにあっちは見つけやがりましたよ!

「センパーイ!」

 メグが駆け寄って来た。

 聴こえないフリ聴こえないフリ。

 ミユは空を眺めながら逃走。

 しようとしたが、腕を掴まれてしまった。

「センパイ待ってくださいよぉ」

「ワタシ日本語ワカリマセン」

「センパイ大丈夫ですか?」

「ワタシ日本語ワカリマセン」

 強引過ぎる。

 メガネの奥から覗くまん丸の瞳。

「センパイですよね?」

「センパイ誰デスカー?」

「ミユ……センパイですよねえ?」

「世界ニハ自分ト似タ人ガ3人クライイル言イマース」

「はぁ……そうなんですか……」

 不思議な顔をしてメグはきょとんとしている。

 その隙を突いてミユは逃走した。

 今度こそ逃走に成功!

 メグは呆然と立ち尽くしたままだった。

 絶対に変人だと思われましたね!

 そのまま走ってミユは地図に書かれた場所までやって来た。

 いくつかの店が入っているビル。

 そのビルの地下2階にアインは引っ越したらしい。

 エレベーターで降りる間、どうやって血祭りに上げてやろうかミユは考えた。

 とりあえずメガネごと目潰しで奇襲をかける。

 視界を奪ったところであとはじっくりコトコトお楽しみだ。

 邪悪な笑みを浮かべるミユ。そんな顔で街中を歩いていたら職務質問されます。

 エレベーターを折り、少し歩いてドアのインターフォンを押す。

 小型ディスプレイにワトソン君の顔が映された。

《今開けるにゃー》

 自動ドアが開き、中に進入するミユ。口元が邪悪だ。

 ミユは辺りを見回しながら獲物を探した。

 部屋は前より広くなっているが、家具の配置は前とほとんど同じで、棚に並べられたフィギュアがミユを見ている。

 その部屋の中心にアインはいた。ソファに座ってさっき届いたばかりのアニメDVDを鑑賞している。

 今だ、相手が油断し切っている今こそチャンスの時だ!!

 ミユはチョキの構えでアインに飛び掛った。

 ガツーン!

 突然現れたフライパンによってチョキが塞がれた。

「いったぁ〜い!」

 ミユは指先を押さえながらしゃがんだ。

 アインはアニメを見ながら言う。

「今いいとこなんだから邪魔しないでくれたまえ」

 命を狙われたことなど、まったく気づいていないらしい。

 ミユは再びアインに襲い掛かった。

「シネ!」

 今度はマジだ。

 フライパンごと叩きのめしてやる!

 が、アインの高機能ランドセルから飛び出したフライパンは、またもやミユの攻撃を防ぎ、さらにミユを思いっきりぶっ飛ばした。

 ぶっ飛んだミユは棚にぶつかり、フィギュアが雪崩のように床に落ちた。

「ボクのフィギュアー!!」

 アインが絶叫した。

 アニメなんか見ているどころじゃない。

 騒ぎを聞きつけてワトソン君も部屋の奥から顔を出した。

「どうしたにゃ?」

「どうしたもこうしたもないよ、バイト君がボクのフィギュアを!」

 ワトソン君が見たのは、床に散らばったフィギュアの山と、目を血走らせたミユの姿だった。

「シネ!」

 ミユはまたまたアインに襲い掛かった。

 ガツーン!

 自動操縦のフライパンがまたミユをぶっ飛ばす。

「あーっまたボクのフィギュアがぁっ!」

 アインは頭を抱えてうずくまった。

 ワトソン君がこんな発言をする。

「今日のミユは可笑しいにゃー。まさか偽者にゃ!?」

 またかーっ!

 またそういう展開ですか!

 ある意味まさかの展開ですね!

 反則ワザな展開ですね!!

 が、ミユはこう反論した。

「ハァ? あたしのどこが偽者なの? 日曜日に呼び出された挙句、行ってみたらアンタらいなくて、引っ越したなら先に言えよバカ! だから怒ってるんの!!」

 アインは納得したように頷いた。

「ふむ、怒る動機としては筋が通っているように感じるね。ここまで怒り狂うほどじゃないと思うけどなぁ」

「今回のことだけじゃないの、今まで溜め込んできた物があんのよ!」

 身体に埋め込まれた爆弾ひとつで、かなり人権無視をされてきた。それと、馬鹿力を手に入れてしまったために、学校でトラブルばかり起こしてしまって友達減少中。

 いろんなストレスが溜まりに堪って、ついに大爆発を起こしたのだ。

 だが、まだ本物のミユだと決まったわけじゃない。

 アインは起爆スイッチに手をかけた。

「本物かどうかを調べるには、これを押して見るのがいいね」

「ここで押したらアインのフィギュアもただじゃ済まないにゃー」

 ワトソン君のバッドツッコミ。

 ツッコミを入れるところは、フィギュアだけじゃないと思う。

 アインはため息をついた。

「バイト君がそこまで思いつめていたとはね、早く気づいてあげるべきだった」

 しんみりそう語るアイン。

 過去のアインの態度からは想像できない変化。そんなギャップに、ミユはちょっぴり感動さえしてしまった。

「アイン……わかってくれればそれでいいの」

「わかったよ、キミの気持ち。コレをあげるから機嫌を直したまえ」

 コレと差し出されたのは美少女フィギュア。

「こんなのいるか!」

 ミユはフィギュアを床に叩き落した。

「あーっボクのフィギュアぁぁぁ!」

 首が飛んだフィギュアをアインは抱きかかえ、メガネの奥にいっぱいの涙をため、怒りのこもった瞳でミユを見上げた。

 なにも言わず、アインは壊れたフィギュアを抱きかかえ、部屋を静かに立ち去った。

 あーぁ、アイン君スネちゃったよぉ。

 ――アインは戻って来なかった。

 その間にミユの怒りはすっかり冷め、ちょっと悪いことしちゃったかなぁ、と思いはじめていた。

 床に落ちたフィギュアを棚に片付けるミユ。

 棚にはシールが貼ってあった。フィギュアの立ち位置を示すシールだ。几帳面というか、こだわりが怖すぎる。

 ミユは片づけを続けながらワトソン君に尋ねた。

「ねえワトソン君、どうして急に引越したの?」

「ジョーカーにあの場所がバレたらしいにゃ。ミユがプリティミューだってこともバレてるにゃー」

「は?」

 そーゆーことは質問される前に言いましょうよ。

 引越しの話をしなかったら、ずっと黙ってる気だったんですか?

 聞かれなかったから、答えませんでしたなんて言い訳通用しませんよ?

「早く言ってよ!!」

 ミユは激怒した。

「ごめんにゃー、引越し作業で忙しかったにゃー」

「ケータイにメール打つくらいできたでしょ!」

「最近ミユ怒りっぽいにゃー」

 怒って当然だ。

 正体がバレているということは、学校にジョーカー怪人が教師として赴任してくるとか、宅配便を装って自宅に来るとか、家族にだって危険が及んでるじゃないか。

 ジョーカー怪人のイケメンが母親を誘惑して、不倫の果てに家庭崩壊だってありえるじゃないか!

 ミユは頭を抱えた。

 想像すれば想像するほど、かなりピンチだ。

 でもね……このピンチにミユはもっと早く気づけたハズだった。

 ジョーカーにアインの自宅がバレと思われる要因は、あの偽者ミユ騒ぎが発端だ。

 あの変態オヤジはミユに変装していた。つまりミユの存在を知ってるいる可能性は、限りなく100パーセントに近い。

 けど、ミユは今でもあの変態オヤジが自分にそっくりだと認めていない。

 こうしちゃいられない!

 ミユは一刻も早く家に帰ろうとした。

「あたし帰る」

「急にどうしたにゃ?」

「急にじゃないし、ジョーカー怪人があたしの家族を襲うかもしれないじゃない!」

「それなら平気だにゃ。ミユの家族には24時間監視がついてるにゃ」

「は?」

 そんな話聞いておりませんが?

 またアレですか、質問されなきゃ答えませんってヤツですか?

 人間不信に陥る寸前だ。

 ミユの心配は治まらず、やっぱり家族の元へ駆けつけることにした。


 ミユは玄関のドアを開けて自宅に飛び込んだ。

 まだまだ夕飯の時間でもないのに、台所から匂ってくるクリーミーな匂い。

 台所に駆け込んだミユは唖然とした。

「ハァ?」

 と、思わず口から漏れるくらいだ。

 台所に立っている母親。そこまではオッケーだ。

 ……そこにいる人だれですか?

 なんと、食卓にはあのハサミ男がいたのだ。

 はい、意味不明ですね!

「おかえりなさいミユ」

 柔らかな笑顔で母親はミユを見つめ、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。微笑ましい食卓の風景……じゃねぇよ!!

 だからなんでハサミ男がいるんだよ!!

 ミユはハサミ男を指差した。

「その人なに?」

 ハサミ男が自ら答えました。

「はじめましてミユさん、私の名前はマンティスシザーです」

 ミユは遠目から見たからはじめてじゃないし。てゆか、なんでミユの名前まで知ってるの!?

 ええ、もちろんそれはミユママが話したからですよ。

「マンティスさんと町で出会って、髪を切ってもらったお礼に、夕食でもごちそうしようと思って来てもらったのよぁ〜」

 そういう馴れ初めでミユママとマンティスシザーは出逢ったらしいですよ。

 ミユは理解できなかった。

「そんな凶器を持った変種者をどうして家にあげるわけ!」

 ハサミは体の一部なので、存在自体が銃刀法違反です。

 ミユママは少し怒ったような顔をした。

「どうしてそんなことを言うの? 人は見た目で判断しちゃいけません。マンティスさんはとても心の優しい人のなのよ。今も生き別れになった上司を探して旅をして苦労しているのよ、食事くらいご馳走してなにが悪いの?」

 上司を探して旅って……普通、兄弟とか両親でしょそこは。

「ママはちょっとお人よしなのよ。こんなのハサミ持ってる変態でしょ!」

「わたしにだって人を見る目くらいあるわよ。ジョニー・デップに似ているマンティスさんが悪い人のハズないわ!」

「ママ、イケメン大好きだもんね。パパのことだって顔で選んだんでしょ!」

「失礼なこと言わないでよ、パパとは大恋愛の末に駆け落ちして結婚したのよ!」

 思春期の娘と母親の戦いは、まさに女と女のぶつかり合い!

 このまま放って置いたら、ケンカはドンドン加速して行きそうだった。

 そこへブレーキをかけたのはマンティスシザーだった。

「あの〜、私がいるとお二人がケンカをしてしまうようなので、また旅に出ようと思います」

 マンティシザーは立ち去ろうとした。

 だが、その腕を掴んで引き止めるミユママ。

「行かないでマンティスさん、あなたはなにも悪くないわ!」

 近距離で見詰め合う男と女。

 瞳をキラめかせるミユママと、それを受け入れるマンティスシザー。

 そのまま二人の顔が近づき……。

「ちょっと待ったぁ!」

 ミユが二人の顔を引き離した。

 展開になんだかバラの花びらが舞っている。どう考えてもアブナイ展開だ。

 ここでミユはハッと気づいて、マンティスシザーから守るように母親の体を抱いた。

「あんたジョーカーの怪人ね!」

 そうだ、これはミユの脳内シミュレーションと同じだ。

 ジョーカーのイケメン怪人が母親を誘惑して、昼ドラ風に家庭崩壊、登場人物の精神錯乱を企んでいるに違いない!

 母親の得意料理がたわしコロッケになってしまう!!

 マンティスシザーはうつむいて、なにも言わずじっとしていた。そこにミユが追い討ちをかける。

「ジョーカーだから何も言えないんでしょ!」

「……そうです、私はジョーカーの改造怪人です」

 ついに認めた!

 やっぱり母親を堕落させる気だったんだ!

 ミユはさらにマンティスシザーを責め立てる。

「ママ、ジョーカーっていうのは悪の組織なんだよ。こいつはその一員なんだよ、悪いヤツなんだよ!」

 バシーン!

 ミユの頬が強く叩かれた。叩いたのはミユママだった。

「どうして叩くの!」

 頬を押さえて声を上げたミユをミユママはじっと見つめていた。

「ママはジョーカーのことはよく知らないわ。でも、マンティスさんのことは信じてる。この人はとても心の優しい人よ」

「ママは騙されてるのよ!」

 再びケンカがはじまりそうだった。

 そのとき、マンティスシザーが叫んだ。

「やめてください!」

 そして、すぐに声を沈めて話はじめた。

「私はジョーカーの怪人です。そして、ジョーカーは悪の組織です……でも信じてください! 私はジョーカーを憎んでいます」

 声を震わせ、怒りと哀しみを込め、マンティスシザーは肩を落とした。

 ミユはまだマンティスシザーを信用したわけじゃない。けれど、なにか心に響くものがあった。

 そして、ジョーカーを憎んでいるとはいったい?

 ミユと母親はマンティスシザーの話に耳を傾けた。

「ジョーカーの怪人はもともとみな人間です。ジョーカーは優れた才能を持つ人間を捕まえ、怪人に改造し、洗脳してジョーカーへの忠誠を誓わせるのです。私はどういうわけか洗脳が利きませんでしたが、それでも恐怖心からジョーカーに逆らうことができません。でも、私は……こんな体にしたジョーカーを憎んでいるのです!」

 そう言いながらハサミの手を胸の前に掲げた。

 今まで戦ってきた怪人……蜘蛛男、蝙蝠伯爵、レイディスコーピオン、サラセニアぁン、みんなジョーカーの被害者だった。そう考えるとミユは胸が痛くなった。

 母親はハサミの手を握った。

「たとえどんな姿をしていようと、わたしはあなたの傍にいるわ!」

 トキメキ炸裂!

「……ママさん」

 呟き、マンティスシザーはミユママを見つめた。

 再び見詰め合う男と女。

 母親のハートはファイアーしていた。

「ジョーカーだかなんだか知らないけど、あなたのことはわたしの命に代えても守るわ。だからここにいて、この家は出て行かないで!」

「それはできません……私がいたらみなさんに迷惑をかけてしまう!」

「いいよ、あなたはここにいて……」

 な、なんですかこの展開!?

 プリティミューらしくありませんよ!!

 普段なら、ここで強烈なツッコミが入ったりするのだが、ツッコミすら飛んでこない。

 第3者のミユはさっきから厳しい顔をして黙り込んでしまっている。

 ミユが急に台所を出て行った。

 そんなことにも気づかないほど、ミユママとマンティスシザーは見詰め合ってます!


 ミユはネオ・アキバタウンに来ていた。

 ここに来る理由はアインに会うほかなかった。

 なのに関係ない人にバッタリ出会う。

「センパ〜イ!」

 駆け寄ってきたのはメグ。

「また会いましたね」

 なんて声を掛けてきたメグを完全シカトでミユは先を急いだ。

 研究所&自宅のドアをワトソン君に開けてもらい、ミユはアインの姿を探した。

 アインはまだ部屋の奥から出てこないのだと、ワトソン君が困ったようすでミユに伝えた。

 ミユはアインの部屋の前に立った。ドアには『使用中』のプレートが飾ってある。

「アイン、ここ開けて!」

 ドアをドンドン叩くミユ。

 どこからかアインの声がした。

「バイト君の出力と硬度じゃ壊せないないよ。この地下全体はかの有名な合成金属でできているんだ」

 有名な金属ってなんだーっ!?

 ミユはドアを殴る蹴るした。

「さっさと出てきなさいよ、話があるんだから!」

「うるさいなぁ、ボクならここにいるよ」

「えっ?」

 振り向くとアインが立っていた。

 どうやらアインは部屋の外にいたらしい。

「ボクになんの用だい?」

「もう……怒ってないの?」

「ボクが怒ってるって、どうして?」

「だって、ずっと部屋にこもってたってワトソン君が……」

「ああ、部屋にこもってたのは『龍玉』のDVDボックスを観てたからだよ。やっと『冷凍編』まで見終わって、一息ついていたところさ」

「……へぇーそうですかー」

 なんだか、自分もちょっと悪かったかもぁ――なんて反省した自分がバカだったとミユは思った。

「他に話がないならボクはまた龍玉の続きを見るから」

 自室に入ろうとしたアインの服をミユが掴んだ。

「待って、聞きたい事があるの」

 シリアス路線満開なミユの瞳に見つめられ、アインも神妙な顔つきになった。

「なんだい?」

「ジョーカーのこと」

「ジョーカーのこと?」

「あたし、ずっとジョーカーと戦ってきたのに、ジョーカーのことよく知らなかった」

 ミユは自分の見てきたこと以外、ジョーカーのことを知らなかった。

 人々に危害を加えようとしていることは確かだ。そこだけを見たらジョーカーは悪だ。

 でも、ミユが今まで見てきたモノは……。

 横○ん男、ロリコンジジイ、SM嬢、オカマ……。

 急にミユの顔色が曇った。

「やっぱりただの悪かも」

 えっ、自己完結しちゃった?

 ミユは頭を激しく振って考えを捨てた。

「違うの、ジョーカーの怪人はみんな……無理やり改造されて洗脳されてるって聴いたの!」

 もし本当にそうだったら……。

「あたし……もう戦えないかもしれない」

「ふ〜ん」

 と、アインは素っ気無く鼻を鳴らした。

 デリカシーゼロっていうか、ミユの話ちゃんと聴いてましたか? みたいな。

 アインの態度でミユの感情はジャンジャングルグルした。

 そりゃもうジャンジャングルグルした。

 怒り、哀しみ、虚無感。

 無言で立ち去ろうとしたミユの背中にアインが声をかける。

「無理やり改造とか洗脳とかどこで聞いたの? ジョーカーの怪人はみんな志願者だよ。戦闘員は時給のバイトらしいけどね」

「え?」

 戦闘員ってバイトだったのか!!

 さっきアインが『ふ〜ん』と鼻を鳴らしたのは、ミユが戦えないと言ったことにたいしてじゃなくて、無理やり改造なんてウソだよそれ、って意味の『ふ〜ん』だったのだ。

 きょと〜んっとしてるミユにアインは話を続けた。

「ジョーカー怪人は手広く募集しててね、ネットの裏サイトとか、大学のサークルだったり、スカウトマンがホウジュ区あたりでスカウトしたり」

「悪質な新興宗教みたいに、いつの間にか入団させられちゃったりじゃないの?」

「前にさ帝都警察が押収した証拠物件を見たんだけど、法的な手続きを踏んで契約書とか作成してるみたいだね」

「そ、そうなの?」

 あれ、なんか話が違ってきたような……。

 ここでもう1度、ミユは冷静になって考えてみた。

 マンティスシザーの話(ミユの解釈)では、無理やり変態に改造されて、変態になるべく洗脳され、華麗なる変態に生まれ変わると聞いた。

 アインの話(ミユの解釈)では、自ら進んでド変態に改造され、根っからの変態が、さらに変態になるべく日々精進。

 どちらが言っていることが間違っているのか?

 むしろ根本から『ミユ』の考えが間違っているのか?

 マンティスシザーがミユママに近づいたのは偶然だったのか?

 やっぱり、もしかして……イケメン怪人不倫大作戦!?

 どんどんミユは不安になってきた。

 あの心に訴えかけてきたマンティスシザーの言葉も、全部ウソ?

 見事にミユは騙されちゃった?

 ミユママはケータイを持っていないので、ミユは自宅に電話をかけた。

 トゥルルルルル……発信音が聞こえるだけで、いくらコールしても誰も電話にでんわ!

「家に電話かけても誰もでない。パパは残業かもしれないけど、弟だって家にいるはずなのに……」

 不安だ!

 さらにミユを不安にさせる要素を持ってワトソン君がやってきた。

「ミユのママを監視していたロボットの反応が消失したにゃ!」

 はい、ピンチですね。

 とてもとてもピンチでございますね。

「早く帰らなきゃ!」

 ミユは急いで自宅に向かおうとした。

「待ちたまえバイト君!」

 アインが引き止めた。

「待てない、早くママを助けなきゃ!」

「交通機関を使って帰ると時間がかかるよ。ボクが宅配ピザよりも早く届けてあげるよ。というわけだから、いざ出動!」

 アインがリモコンのスイッチを押すと、ミユの足元に落とし穴が開いた。

「きゃっ!?」

 悲鳴と一緒にミユは闇の中に落ちた。

 この展開ってたしか……第1話と同じだ!

 ミユはチューブ状の滑り台を降り、ストンと着地したと思ったら、身体をシートベルトでグルグル巻きにされて発射準備完了。

 秒読み、5秒前、4、3、2、1――ゼロ!

 なんか今回はビルの配管を通って屋上の砲台から発射された。

 人間ロケット発射!

 びゅ〜ん!

 もうすっかり日も暮れて、ミユは夜空の星になりましたとさ。

 願い事はミユが地面に激突するまでに3回唱えるんだよ♪


 科学少女プリティミューが人気になりますように!

 科学少女プリティミューが人気になりますように!

 科学少女プリティミューが人気になりますように!

 ――余裕で3回願い事を唱えてからミユは着地した。

 実際は着地というか着屋根。

 隕石が落ちてきたみたいに、ミユは屋根をぶち破って着地した。

 しかも、自分んちじゃなくて隣んち!

「アッツーッ!」

 ミユは熱々のナベに浸かっていた顔をあげた。口にはチクワをくわえている。

 箸を持ちながら固まっている住人たち。

 どうやら食卓に突っ込んでしまったらしい。

 ミユは苦笑いを浮かべて逃げた。

「おでん美味しかったです、さようならぁ!」

 チクワを美味しくいただきました。

 急いで自宅に駆け込むと、幻想が見えた。

 バラ色が見えるような気がする幻想。

 なんだかよくわからない空気感に家中が汚染されていた。

 リビングで二人を発見。男と女の距離がゼロだ。

 ソファに寄り添って座り、指を絡めて見詰め合う二人。

 ミユママとマンティスシザーは見詰め合っているだけ、もう二人の間に言葉なんて不必要だった。

 かなりの高みまで到達している様子だ。

 ミユの飛び蹴り炸裂。

「ママのことたぶらかしてんじゃないわよ!」

 マンティスシザーはひらりと避けた。

 一撃必殺で仕留められなかったことで状況は悪化してしまった。

 ミユママがマンティスシザーに抱きつき、全身で守ってしまったのだ。

「なんてことするの、ミユをそんな子に育てた覚えありません!」

「覚えてなくても、育てたのはママでしょ!」

「あなたなんてもうわたしの子じゃないわ!」

「……重症だ」

 まさか母親に離縁されるなんて、ここの父親が帰ってきたら泥沼だ。

 ミユはあることを思い出した。

「そうだ、ユウはどうしたの?」

 ユウとはミユの3つ離れた弟である。

「ユウだったらとっくに家を出て行ったわ。バカとかアホとか叫んでたような気がするわね」

 ミユもその言葉を母親に言ってやりたかった。

 マンティスシザーがミユの前に立った。

「私たち結婚することにしました。私たちの愛は誰にも邪魔させません!」

「ハァ?」

 ミユの思考回路は正常に動作しなかった。

 あまりにも話が進みすぎている。

 ミユママがある1枚の用紙をミユに見せた。

「もうわたしの名前は書いたわ」

 それは離婚届だった。あとはミユパパの同意があれば即離婚だ。

 ミユは離婚用紙を奪って破り捨てた。

 すると、ミユママはまた離婚用紙を出した。

「破ってもムダよ、いっぱい書いたもの」

 離婚用紙の束をミユママはドスンと床に落とした。

 それを全部燃やしてやろうとミユは思ったが、そんなことをしても根本的な解決にならない。

「ママ、お願いだから考え直して!」

「それは無理よ……だってわたしたち愛し合っているんだものぉ〜!」

 指を絡めてミユママとマンティスシザーは見詰め合った。

「私も愛しています、ママさん」

 キラキラエフェクトの幻想が見える。

 やっぱりこうなったら根本を抹殺するしかない。マンティスシザーを倒せばミユママの甘い夢も覚めるハズだ。

 ミユパーンチ!

 ミユキーック!

 ミユアッパー!

 全部ひらりゆらりとかわされた。

 マンティスシザーは避けるだけで戦う意思を見せない。

「どうして私たちが戦わなくてはいけないのですか……もう家族じゃないですか!」

「家族じゃないし!」

 強烈なミユのパンチが決まった!

 頬を殴られたマンティスシザーが床に尻をつく。

 すぐにミユママがマンティスシザーを抱きかかえて守った。

「なんてことするの!」

「大丈夫ですママさん。ミユさんが私を殴ったのは、私を父と認めて本気でぶつかって来てくれた証拠です」

 そんなプラス思考を見習いたいですね!

 マンティスシザーは頬を押さえながら立ち上がった。

「しかし、その力を私に向けず、どうして世界平和のために使わないのですか。そう、偉大なるジョーカーのために使わないのですか!」

 あれ?

 ジョーカーのため?

 ジョーカーを滅ぼすため?

 ジョーカーに協力するため?

 なんかどっちにも取れるような言い方をしたが……偉大なる?

 あれれ?

 ミユは首を傾げた。

「あなたジョーカーに恨みがあるって言ってなかった?」

「そんなこと言いましたか? ジョーカーはとても素晴らしい組織ですよ。あなたの力はジョーカーに捧げるべきです。そして、共に世界を愛で包みましょう!」

 ……ウソつきだ!

 ついにミユはマンティスシザーの正体を見切ったり!

 こいつは絶対にペテン師だ。

 やっぱりそうだったんだ。イケメン怪人不倫大作戦だ。

 そして、その真の目的は家庭崩壊……ではなくて、ミユをジョーカーに引き入れること。ミユを倒すだけなら、いくらでもチャンスはあったハズだ。それを母親から陥落させたのは、肉親から攻めたほうがミユの心が揺らぐと考えたのだ。

 怖ろしい、今回のジョーカーは怖ろしいぞ!

 今までの変態怪人どもとは一味も二味も違う。

 ミユママは今やジョーカーの仲間であり、人質でもあるのだ。

 マンティスシザーとミユママはベッタリくっ付いている。

 手出しできないじゃないですか!

 プリティミューに変身することすらできない。母親の前で変身するわけにはいかない。

 だって、あんな衣装着てるとこ見られたくないもん!

 どうするミユ!!


 ミユが世界崩壊なんかよりも切実な家庭崩壊の危機を迎えているころ、アインの研究所ではワトソン君(人間モード)が発射の準備を整えていた。

 発射!

 星空に打ち上げられたワトソン君。フンドシが風になびいてヒ〜ラヒラ。

 ヒューン!

 そのまま地上に向かって落下。パラシュートなし!

 屋根を突き破って激突、ドーン!

 その一部始終をミユは目の前で見ていた。

 いきなり屋根を突き破って落ちてきた変態が、見事マンティスシザーに激突!

 マンティスシザーは泡を吐いて気絶。

 ワトソン君は床にめり込んで動かない。嗚呼、きっと死んだね♪

 ミユママは何が起こったのかわからず、目を白黒させて気を動転させてしまっている。

 ワトソン君がムクッと生き返った!

 ゾンビかっ!

 全身青アザだらけのワトソン君がカッコよくポーズを決める。

「ひょっとこ仮面ただいま参上!」

 出たーっ、ふんどし仮面!(誤字)

 が、ひょっとのお面がない。どうやら落下の衝撃でどっかに行っちゃったらしい。

 素顔のひょっとこ仮面を見たミユママ。瞳が輝いた。

 そこにいたのはふんどし姿の美青年。

 身体はしなやかに引き締まってるのに、顔は童顔で主婦の心をくすぐる。

 年下の可愛い彼!

 母性本能をくすぐられまくり!

 ミユは思った。これはチャンスだ!

「ワトソン君、そのままママを誘惑して外に連れ出しちゃって!」

「にゃ?」

 状況を理解できないワトソン君だったが、ミユママのほうからワトソン君の手を握って来た。

「ぼく大丈夫? ひどい怪我、わたしが病院に連れて行ってあげるわ」

 ミユママはワトソン君の腕を引いて消えてしまった。

 床で倒れていたマンティスシザーがなにか呟いている。

「おのれ……許さんぞ、プリティミュー!」

 マンティスシザーが鋭いハサミで襲い掛かってきた。その顔は前とは似ても似つかないカマキリの顔。これがこいつの正体なのだ!

 ミユは攻撃をかわし、ケータイを取り出した。

「サイエンスパワー・メイクアップ!」

 白い光に包まれ、瞬く間にプリティミューに変身した。

 ミユはカマキリ怪人を見ながら、なにか思い出そうといていた。

「そうだ、ア○ガールズの特にキモイほうだ!」

 カマキリ男に変身したマンティスシザーは、田○にソックリだった。

 なんだかミユはヤル気が湧いた。

 ボコボコにしても良心の呵責を感じないで済む。

 ミユは邪悪な笑みを浮かべた。

 家庭崩壊の危機をもたらしたこのペテン師に対する恨み。

 ミユはマジカルハンマーを振りかぶった。

「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」

 ぶん殴られたマンティスシザーがぶっ飛んだ。

 あれれ、フィギュアにならない?

 怪人をフィギュアにするためには、ミューに取り付けられた萌えメーターを溜めなくてはいけないのだ。

 そ〜んなこと、ミューはちゃ〜んとわかっていた。

「あれぇ〜おかしいなぁ、一発でフィギュアにならないなら、何発も殴らないとね♪」

 確信的にヤルつもりです。

 ボコボコの半殺し決定!!

 襲い掛かってくるマンティスシザー。

「シネーッ!」

「死ぬのはそっちじゃボケ!」

 ハサミを避けてハンマーで横殴り。

 また顔面を殴られたマンティスシザーがぶっ飛んだ。ついでに鼻血ブー!

 怯んだマンティスシザーに容赦ない仕打ち!

「オラオラオラオアラ!」

 マジカルハンマーが行ったり来たり、それに合わせてマンティスシザーの顔も左右にフリフリ。

 大量の返り血(鼻血)が、ミユの白い衣装を彩る。

 血の染まる甘ロリヒロイン!

 一部のマニア層に受けることから、萌えメーターがいつの間にか満タンになっていた。

 だが、ミューに止めを刺すつもりなんてない。ニヤッと笑いながら、まだまだ甚振るつもりだった。

 顔をボコボコにされたマンティスシザーは、床に尻餅を付きながらたじろいだ。

「ま、待ってください……私は生き別れになった上司を探さなきゃいけないんです。ですから、ですからどうか見逃してください、お願いします」

「ハァ?」

「本当です、本当なんです。上司を探して町を歩いていたら、たまたまジョーカーの秘密資料にあったママさんに出会ってしまって……ジョーカー怪人として仕事を果たさないわけには、見てみぬフリをしたら、あとでどんなヒドイ目に遭わされるか……」

「最期に言いたいことはそれだけ?」

 マンティスシザーを見下すミューの瞳は冷たい。冷凍ビームを発射できそうなほど冷たかった。

「ま、ままま、待ってください。私は無理やりジョーカーで働かされてるんです。そうです、脅迫されてるんです。そうだ、あ、姉が人質に捕られていて……」

「お姉さんが人質に……そんな、可哀想な……」

 ミューは沈痛な面持ちで全身から力を抜いた。

 その隙をマンティスシザーは狙った。

「シネーッ!」

「ウソだってわかってんだよ!」

 マジカルハンマーが大きくスイング!

 顔面に強烈な一撃を食らったマンティスシザーがぶっ飛んだ!

 もう虫の息になっちゃったマンティスシザー。

「うふふ、まだまだ」

 怖いです、怖いですよプリティミュー。

 再びミューはマジカルハンマーを振り上げたのだが、急に脳ミソに謎の声が響いた。

《バイト君、ちゃんとフィギュアにするんだよ?》

 それはアインの声だった。

 久しぶりに使われたこの機能。そう言えば、そんな通信機能があったような気がする。

 ミューは肩を落とした。

「はいはい、わかってますよーだ」

 起爆スイッチを前にしたら、邪悪モードのミューもサッと醒めてしまうのだ。

「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」

 虫の息のマンティスシザーに止めの一撃が炸裂!

 フィギュアゲットだぜ!

 これにて一件落着……と、思って辺りを見回したミユが青ざめる。

「ヤバ……イ」

 どんちゃん騒ぎをしたせいで、部屋の中はひっちゃかめっちゃかだった。強盗に入られたよりヒドイありさまだ。

「あはは、やっちゃった」

 ミューが天井を見上げると、屋根に開いた穴からキラキラ星が覗いていた。


 ――秘密結社ジョーカー帝都支部。

「ゲホゲホッ」

 ベッドに横になって咳き込んだゲル大佐。

 なんか心労で風邪を悪化させて寝込んでしまったらしい。

 羽根布団を被ってしまっているのでわからないが、ゲル大佐の寝るときの姿はスッポンポンらしい。

 掛け布団の下には秘境が広がっているのです!

 顔に汗を掻き、心労で弱っているゲル大佐の顔は、いつも以上に艶めかしい。

 表情がエロすぎます、犯罪です。

 小型の通信装置に映し出される謎のシルエット。

《おまえともあろうものが心労で倒れるとは不甲斐ない》

 低音ボイスの首領エックスだ。

「申し訳ございません首領!」

 ゲル大佐はビシッとベッドから跳ね起きた。

 すぐさまピンク戦闘員(女)たちがゲル大佐の胸と股間を手で隠した。見事な仕事振りだが、その隠し方エロイです!

 見えそうで見えないチラリズム。

 ゲル大佐が動くのに合わせて、ピンク戦闘員の手も動く。まったく肝心なトコロを見せない連携プレイ。日ごろから特訓しているとしか思えない。

「もうすでにプリティミューの正体は掴んでおります。次こそは次こそは必ずやプリティミューを……」

《正体を掴んでおってまだ倒すことができぬのか!》

「も、申し訳ございません首領!」

 通信機から視線を逸らしたゲル大佐は歯を食いしばった。ついでに巨乳もプルプル震えていた。

 怒りが頂点達したゲル大佐は立ち眩みで床に手を付いた。

 ピンク戦闘員ひとりの動きが遅れた。

 かろうじてアレが見えなかったが、ゲル大佐は激怒した。

「練習が足りん!」

 ゲル大佐はいつ間に握っていた鞭を打った。

 ひょいとピンク戦闘員は鞭をかわした。

「仕置きの鞭をかわすとは何事だ!」

 さらにゲル大佐は怒りを露にした。大量に掻いた汗が身体を濡らす。

 鞭を避けたピンク戦闘員は『チッチッチッ』と舌を鳴らした。

「オレですよ、ゲル大佐」

 ピンク戦闘員は女性限定のハズなのに、聴こえたのは男の声だ。

 そのピンク戦闘員が顔のマスクを脱ぎ捨てた。

 驚きの瞳でゲル大佐はその男を見た。

「おまえは……カメ・レオン」

「なかなかゲル大佐に気づいてもらえないんでね、ワザと失敗してみたんでさ」

「さすがは変装怪人のレオンだな。して、あの作戦はどうなっている?」

「ええ、うまく潜入しましたぜ」

「宜しい、そのままミューの身辺調査をするのだ。そして、機が熟したら刈り取るのだぞ、ミューの首をな! おーほほほほほほほっ!」

「わかってますぜ」

 カメ・レオンの姿が消えた。

 消えたのではない、見えなくなったのだ。


 ミユの私生活に土足で踏み込んでくるジョーカー怪人。

 今や危険に晒されるのはミユだけではない。

 ジョーカーとの闘いは熾烈を極めることを予感させた……。


 そー言えばさ、ミユママとワトソン君が夜の街に消えたって噂が……。

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