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第2話「蝙蝠伯爵だよプリティミュー!」

 帝都の夜に潜む悪。

 仕事帰りのOLに忍び寄る影。

 痴漢でも通り魔でもない。

 キャンピングカーみたいなシルエットが近づき……通り過ぎた。

 思わせぶりかよ!

 あっ、バックで戻って来た。

 戻って来た車のドアが開かれ、OLはあっという間に車内に引きずり込まれてしまった。

「きゃ〜〜〜っ!」

 OLの叫びが車の中に木霊した。耳がキンキンして、耳鳴りになってしまう。大変だ。

 違う、車の中に連れ込まれたことが大変だ。

 OLをさらった相手はきっと変態だ。

 なぜって!

 白衣に聴診器装備。

 お医者さんごっこ!?

 やっぱり変態だ。

 白衣の上で蒼白い老人の顔が嗤っている。

「ケケケッ、美味そうな娘だ」

 老人の口から長く伸びた歯が覗いている。

 まさか、その歯で女性の首元を……。

 ブスッと!

 OLの首筋にぶっとい注射針が刺さった。

 歯は見せかけかよ、思わせぶりかよ、期待はずれかよ!

 注射器が女性の血を吸っていく?

 もともと注射器の中は真っ赤な液体で満たされていた。

 血を抜いているのではなく、謎の液体を注入しているのだ。

 いったいなにをされているのか?

 OLの意識は闇の底に落ちた。

 そして、老人の笑い声が木霊する。

「ケケケッ……ゲホゲホッ!」

 笑いすぎて咳き込んだ。

 お爺ちゃんムリしないでね♪

 一瞬、意識が堕ちかけたOLは目を覚まし、老人が咳き込んでいる間に逃げた。

 車を飛び出し、人通りの多い繁華街に逃げる途中で、また意識が遠のく。

 そして、今度こそ本当にOLは気を失ってしまった。

 地面に倒れるOLに忍び寄る男の影――。


 ミニマム学院女子中等部2年――ミユ。

 ひょんな出来事からサイボーグにされて10万馬力。バストはBからDにアップしてラッキーと思いきや、実は合成樹脂の作り物。

 そんでもってなぜか怪人と戦うハメに……。

 帝都の平和を守るため、それゆけ科学少女プリティミュー!

 なんていうのは嘘っぱちで、実は変人科学者アイン・シュタインベルクの趣味、フィギュア集めがメインだったりする。

 改造されても、怪人と戦うハメになっても、やっぱり学校には行かなきゃいけない。

 でも、ごく普通の学生生活は営めそうになかった。

 体育でバレーをやったら、殺人サーブで本当に殺人をしかけ、女子生徒をひとり病院送りに……。

 友達の肩を軽く叩いたつもりが、肩が外れて脱臼で病院送りに……。

 もう嫌だと逃げ出せば、早く走りすぎてコンクリの壁を突き破る。器物損壊で逮捕されると思いきや、偶然にも誰にも見られず、壁に空いた穴は巨大モグラがやったと話は丸く収まった。

 そんな問題累積のミユ。

 しかし!!

 本当の問題はアレだった。

 怪人横ち○男――もとい、怪人蜘蛛男と謎の美少女との戦い。もちろん謎の少女とはなにを隠そう、パンツ隠さず顔隠さずのミユだった。

 プリティミューとして戦ったミユの姿が、数分後にはネットでバラ撒かれ、数時間後にはホウジュ区のローカルニュースでテレビ進出を果たし、翌日には科学少女プリティミューファンクラブが発足した。

 学校で否普通に過していたミユだが、病院送り事件を起こしたことに関わりなく、なぜか周りの視線が熱かったり寒かったりする。その理由はなぜってこともなく、プリティミュー=ミユの公式が、生徒たちの間で伝染していたからだ。

 プリティミューのパンチラ写真や映像が、そこら中に出回っているせいか、それとも『えっ、ミユちゃんてゴスロリの趣味があったの!?』という嫌煙か、誰も直接ミユにプリティミューの正体について訊かなかった。

 訊きたいのに訊かないという、周りの雰囲気を感じるミユは、そんな態度するくらいなら訊いてくれモジモジ気分。蛇の生殺しのようなものだ。

 そんな感じで学校での一日が終わろうとしていた。

 教室をさっさと出て帰宅をしようとするミユ。

 このままでは友達をなくしてしまう――クラス全員病院送りにして、学級崩壊。

 どーにか対策を練らなきゃいけない。なので今日はこれ以上怪我人を出す前に帰宅。

 しようかと思ってる矢先、ミユとは色違いの制服を着た女子生徒が廊下を爆走してくるではないか!?

 この状況でミユが確認できる事項は、制服の色から判断して、走ってくる相手は一個下の1年生だということだ。それ以上の情報は皆無。けれど、なぜかミユは逃げた。

 改造人間にされても、やっぱり人間いざというときの第六感。

 ビビッと危険を感知したミユは逃亡した。まだ悪いこともしてないけど逃亡。器物損壊をモグラのせいした罪もあるけど、1日で友達を二人も病院送りにしたけど、とりあえず走ってくる女の子には悪いことをしていない。

 と、思う。

「待ってくださいゼンパーイ!」

 後ろから聞こえる声にミユは耳を塞いだ。

 聴こえない聴こえない、きっと幻聴。

 改造されて聴力が良くなっていたとしても、聴こえない聴こえない。

 人間思い込みが大切だ。

「きゃぁっ!」

 後ろから悲鳴が聴こえ、思わずミユは足を止めた。

 振り返るとアノ女子生徒が大の字になってコケていた。スカートがめくれて、パンツ丸出しだ。

 もうすぐミユは下駄箱を出ることができる。アノ女子生徒がコケている今が、振り切って逃げ切るチャンスだ。

 ミユの良心VS悪心!!

 ズッコケタ女の子を放っておけない。という良心。

 ズッコケタのは自業自得のおっちょこちょいだ、そんなドジ置き去りにして逃げちまえ。という悪心。

 二つの心の狭間でミユは動けなくなってしまった。

 そんな葛藤している間にミユの背後に忍び寄る謎の影!

「センパイ!」

 元気ハツラツな声の主は、コケていたはずの女子生徒!?

 女子生徒は眼鏡の奥の瞳をキラキラ輝かせている。

 しまった、葛藤している間に復活してしまったらしい。

 純粋な人間のころから脚の早かったミユだが、改造後の今ならまだ逃げる余地はある。

 けれど、これだけの至近距離に迫られた今では『センパイって自分のことだったの? てっきり別の人を呼んでるのかと思っちゃったテヘッ♪』という言い訳もできない。

 無理やり逃げて感じ悪い人と思われたくない。

 なのでミユ・スマイル炸裂!

「どうしたの、あたしになにか用?」

 と白々しく訊いてみるテスト。

「センパイの正体って科学少女プリティミューですよねっ!」

 縮髪強制にも優るとも劣らないストレートだった。

 今まで周りは訊きたくても訊かなかったのに、なんて清々しいクエスチョン。

 思わずミユも『うん♪(音符マーク重要)』と答えそうになったが、ゴクンと言葉を呑み込んだ。

「だ、誰それ?」

 知らないフリをしてみるテスト。

「わたし今写真持ってます」

 女子生徒がポケットから取り出した写真は紛れもなくプリティミュー。ネットで複製に複製を重ねられているパンチラ激写シーンだ。

 写真を前にしても、まだ認められない。

「世界には自分に似た人が三人いるとかいないとかいうけど、その写真の人あたしにソックリ。でもあたしのほうが髪の毛がちょっと長いかな」

「同じ髪型に見えますけど?」

「1センチ、0.5センチ……1ミリくらいあたしの方が長いかな……あはっ」

 苦しすぎて窒息しそうになる言い訳だ。

 眼鏡の奥でミユを見つめる瞳は疑い一色。

「センパイがプリティミューですよねぇ?」

「だ、だとしたら……?」

「わたしファンなんです!」

「はぁ?」

 ファンとのファーストインパクト。

 昨日まで普通の中学生だったのに、人生180度回転。顔の見えないファンが、あとどれくらい、いることやらわからない。

 このままでは、突然知らない人にプレゼントを押し付けられたり、後ろを振り返ったらストーカーに追っかけされそうだ。

 やっぱり認めちゃいけない。

「だからあたしプリティミューとかじゃないし、今日はじめて名前聴いたし……」

「やっぱり正義の味方は自分の正体を明かしちゃいけないんですね!!」

「えっと……そうじゃなくて……」

「でも絶対にわたしがセンパイがプリティミューだって証拠を見つけてみせます!」

「あはは……そう」

 マズイ展開だ。下駄箱にミユの乾いた笑いが響き渡った。

 コッソリ靴を履いて、コッソリ後ろにミユは下がる。

「あたし急に急用があるような気がしてきちゃった。またね!」

 できれば『また』はないで欲しい。

 ミユは逃げた。

 その背中に声がかかる。

「わたしの名前メグっていいます!」

 眼鏡少女メグ。

 記念すべきプリティミューの追っかけ第1号だ。

 てゆか、ストーカー第1号!?

 後ろから付けてきてるし!

 下校するミユの後をストーキングするメグ。電信柱の影に隠れているが、ストーキングする前から気付かれているので、今さら隠れてもバレバレだ。にも関わらずメグは私立探偵気分で隠れたつもりになっている。

 どうしちゃうミユ!

 どうやってメグを撒く!

 人間以上のスピードで走れるミユだけど、そんなスピードで走るわけにもいかない。そんなの自分は人間じゃアリマセンと言ってるようなもの。

「……カミサマ助けて」

 なんとなく祈ってみる。ミユは無宗教だが、きっと心の広いカミサマなら助けてくれるだろう。

 そんなミユに救いの手が!

 白いワゴンがミユの真横に止まり、開いたドアから巨大マジックハンドが伸びた!

 そして、ミユは救いのマジックハンドによって、車内に引きずり込まれてしまった。これって救いなのか?

 救いの手というより、魔の手かもしれない……。

 車内でミユを待ち受けていたのは、光り輝く巨大な瞳。

 その正体は!

 白衣の眼鏡少年。背負ったランドセルから伸びたマジックハンドがミユを捉えている。こんなギミックを使うミユの知り合いはひとりしかない。

 自称天才科学者のアインだ。

「やあ、バイト君」

 未だに名前を覚えてもらっていない。

 てゆーか、町中で突然車の中に連れ込まれるのは人攫いだ。

 そんなことより、車を運転してるのネコだし!!

 アインの助手のワトソン君だ。もちろん、『ワトソン』が苗字で『君』が名前だ……んなことはない。

 最近はサルでも運転できると告知を打つ車のCMもあるが、ネコが車を運転するのは想定外だ。

 てゆーか、ワトソン君人語話すし!

「ミユさんこんちわにゃー」

「こんにちわとかそんな問題じゃなくて、どーしてあたしさらわれてるワケ!?」

 アインの眼鏡がキラリーンと光る。

「説明しよう。新たな怪人が現れたらしい。ぜひともボクのコレクションに加えたいね」

「ハァ?」

 嫌悪感全快モードのミユにすかさずアインが呟く。

「ドーンと行くよ」

 ミユ封じ&言うことを聞かせる呪文だ。

 体内に爆弾を埋め込まれたミユは、アインの意志でドーンと逝ってしまう。

 しかし、ミユにも考えがある。

「やれるもんならやってみなさいよ、こんな場所で爆破したらあなたも巻き添えなんだから!」

「……バイト君、頭よかったんだね」

 うはっ、絶対バカにしてる。言い方がバカにしてる。

 年下なのにバカにされてる!

 ちなみに年下と言うのは憶測。見た目的にはガキンチョだが、実年齢はまだ聞いていない。親しき仲にも礼儀ありってやるだね(言葉の使い所を間違ってる&まだそんなに親しくない)。

 バカにしている証拠にアインはすでに切り返しを考えていた。

「しかしね、バイト君。ボクに起爆スイッチを押させないためには、キミが常にボクの近くにいることが最低条件になるよ。さて、それでは今回の任務について話そうかな」

 もう前の話おわりですか?

 切り替え早すぎですよアインさん。

 完全にミユ無視の方向性でアインは話し続ける。

「もちろんバイト君も知っていることとは思うけど、夜間に独り歩きをしている女性が、車に連れ込まれ血を抜かれるという事件が多発している」

「……知らないし」

「その犯人がジョーカーの怪人らしいんだ」

 またミユの発言はムシである。

 ミユが知ってようが、知らなかろうが、どーでもいいのだ。どっちにしても話はミユを置いて進み続ける。

 車の運転を続けていたワトソン君が、車を停めて振り向いた。

「ついたにゃ」

 どこに?

 ミユは窓ガラス越しに外の景色を眺めた。

 十字のマークを掲げる白い建物。

 ミユはいつの間にかホウジュ区からカミハラ区に移動し、帝都随一の大病院に来ていたのだ。

 病院の名前は帝都病院。政府公認の病院のクセして、腕さえあれば無免許でも雇うとんでもない病院だ。

「で、ここになんの用?」

 と、尋ねるミユにアインは微笑んだ。

「着いて来ればわかるさ、ここに被害者が入院してるんだ」

 ワゴンを降りて歩き出すアインのあとをミユは急いで追っかけた。


 病院ロビーについたアインは辺りを見回す。白衣を着ているが医者ではない。ランドセルを背負った医者なんかいますか!

 帝都にならいるかもしれないけど。

「あっちだね」

 と、前置いてアインはスタスタと歩きはじめた。

 どこに行くかわからないままついていくミユ。ちなみにワトソン君は車でお留守番。お留守番もできるなんて、エライネコだね!

 アインたちがたどり着いたのは、一般病棟ではなくだいぶ奥まった隔離病棟。

 IDなどがないと入れない場所なのに、アインはIDカードを差し込み、静脈認証まで済ませて先に進む。

 アインって何者なの?

 なんて疑問がミユの脳内に浮かぶ。

 白い扉が左右に開け、患者のいる個室に入った。

 部屋は一般病棟の個室と変わらず、窓から景色も望める。比較的軽く、逃亡の心配のない患者が入れられる場所だろう。

 逃亡の心配がないというのは確かだろう。

 ミユは日当たり良好な窓辺に立つ患者を見て息を呑んだ。

 植えられてる!

 まるで患者は植木のように鉢植えに足を突っ込んでるのだ。

 しかも体調が優れないのか、顔色が悪い。そう、まるで葉緑体で色づいているみたいに、草色をしている。

 ま、まさか!

「植物人間!?」

 芸人みたいに声を張るミユ。

 ミユの勘は正しいかもしれない。

 なぜならば、鉢植えに植えられた女性の指先から、実がなっている。赤くて瑞々しいトマトがなっているじゃありませんか!

 トマトマンだ。女性なのでトマトウーマンだ。トマトはフルーツだ!

 アインは意識がないトマトウーマンの傍に行って、トマト(仮)を指さした。

「コレ、なにに見えるかい?」

「トマトでしょ?」

「見た目はね」

「見た目はって……?」

「中身は血だよ、血」

 グ、グロイ!

 瑞々しいトマトの中には女性の血がいっぱいに詰まってるのだ。

 とってもグロイよトマトさん。

 真面目モードでアインはミユを見つめる。

「これはジョーカーの仕業なんだ」

「なんでこんなヒドイことを……」

「彼ら怪人はみなキメラ生物なんだ」

「キメラ生物?」

「遺伝子操作をされた合成生物さ。今回もその実験の一環かもしれない」

 全世界できっと猛威を振るってると思う秘密結社ジョーカー。まだまだ謎だらけの組織だが、なぜアインは奴等と戦っているのか、やっぱりフィギュア集め?

「というわけでバイト君、いざ出動だよ」

 また唐突な出動命令だ。

「はぁ?」

「はぁじゃなくて、ハイだろ。とにかく出動だよバイト君。今回の任務はこのクランケをこんな姿にした怪人をフィギュア化することだよ」

「はぁ?」

「そうだ、今日は良いアイテムを持ってきたあげたんだ。ちょっとキミのケータイ貸してよ」

「はぁ?」

「早くケーター貸してよ。まさかケータイ持ってないとか言う原始時代的なことはいわないよね?」

「はぁ?」

 完全にミユ置いてけぼりで展開している。

 ミユはなんとなくケータイをアインに手渡した。するとアインはケータイの端末からデータをインストールしてミユに返した。

「これで完了だよ」

「なにが?」

「さっきから理解力不足だよバイト君」

 本当に理解力とかも問題だろうか?

「ちゃんと説明してよ」

「仕方ないなぁ、一回しか言わないからちゃんと聴くんだよ。ケータイに777と打って『サイエンスパワー・メイクアップ!』と叫ぶんだよ。ちなみに叫ぶときにケータイを頭の上に掲げるとカッコイイよ」

「はぁ?」

「とにかく実践だよ。やってみなよ」

「はぁ……」

 ため息をついてミユは言われたとおりやってみた。

「サイエンスパワー・メイクアップ……」

 ちなみにダルイのでケータイは掲げなかった。

 しかし、やっぱりなんか起きた!

 突如眩く光り輝くミユの体。重力無視でふわりと浮き上がり、クルクル回転しながら体の周りになにかが巻きついていく。ちなみに光輝くシルエットで、BからDに豊胸されたバストが強調される。

「な、なに!?」

 ミユが驚いているうちに変身完了。

 なんとミユはいつの間にか白いゴスロリ姿に変身していたのだ。

 科学少女プリティミュー見参!

 驚いているミユにアインが補足説明。

「ちなみに変身時、ちょっとだけ裸になるからね」

「はぁ!?!?」

 本日で一番デカイ『はぁ』だ。

「大丈夫だよ、キューティー蜂蜜と違って輝いてるからモロ見えしないよ」

 そういう問題なのか、輝いていても公衆の面前で変身したら、素っ裸になることには変わりないような。

 アインがミユの背中をポンと押す。

「とにかく早く出動して怪人をフィギュアにしておいでよ」

「だからなんであたしが……」

「バイト君、起爆スイッチがドーンとか以前に、キミはボクに月収100万で雇われてるんだよ、忘れてないかい?」

 ミユがバイト君と呼ばれる由縁。バイトしてるからバイト君。そのまんまだ。

「忘れてないけど……」

「今月の給料は前払いしてあげただろ」

「そ、そうだけどぉ……」

 ミユの心の天秤が揺れる。

 怪人と戦うか、100万円を手に入れアインに起爆スイッチを押させないか……。

「やる! あたし行ってきます!」

 即決した。

 なぜってすでに前払いされた100万円の一部を使い込んでしまっていたから。

「物分りが良くて助かったよ。それでは出動したまえバイト君」

「はーい、頑張って行ってきま〜す!」

 給料を返せない痛さから、ミユは行くしかなかった。作り笑いを浮かべて。

 でも、病室を駆け出そうとしたミユが急ブレーキ。

「ちょ、ちょっと待って、行くってどこに?」

「そのくらい自分で考えなよ」

「はぁ?」

 なんの手がかりもない。被害者の女性はすぐそこで光合成をしているが、口を聞ける状態じゃなさそうだ。まるで本当に植物になってしまったように、魂が抜けている。

 そのとき、ミユのケータイの着信が鳴った。

「知らない番号からだ」

 ナンバーディスプレイは非通知でもなく、登録してある番号でもなく、090からはじまる誰かのケータイからのようだった。

「もしもし?」

 通話に出てミユが尋ねると、電話の向こうから悲痛な叫びが!

「助けてセンパイ!」

「誰!?」

「メグです……助けて……」

 そこで通話はツーツーツーと切れた。

「番号教えてないのに……」

 さすがはストーカーだ。

 しかし眼鏡少女メグの身にいったいなにが?

 てゆーか、わざわざなせミユに助けを求めたのだろうか?

 てゆーか、助けに行きたくてもどこにいるのかわかんねぇーよ!

「知り合いの子から助けてって電話がきたんだけど?」

 ミユはアインに顔を見合わせた。

「ふむ、正義のヒロインは困ってる人を助けに行かなきゃいけないよ」

「でも場所がどこかわからないから」

「相手の電話番号はわかるかい?」

「うん、着信履歴が残ってる」

「見せたまえ」

 ケータイに表示された番号を見るや、アインはランドセルからパソコンを取り出し、キーボードを連打しはじめた。

 けれど、その動きもすぐに止まる。

「ホウジュ区だね、キミが通ってる学校の近所らしい」

 パソコン画面を見るアインの横でミユも画面を覗いた。そこには地図と赤く点滅する点が表示されていた。ケータイのGPS機能でメグの居場所を突き止めたのだ。

 パソコンをランドセルにしまって駆け出すアイン。

「行くよバイト君!」

「えっ、う、うん」

 アインを追いかけてミユも病室を飛び出した。

 病院内では入っちゃいけないのにね!


 ワトソン君の運転する車ですぐに現場に向かう。

 カーナビには先ほど調べたメグの居場所が表示されている。

 が、ワトソン君はカーナビを見ながら焦っていた。

「相手が移動してるにゃ!」

 アインは後部座席から身を乗り出してカーナビを見た。

「移動してるね。たぶん車かな」

 相手が一箇所に留まっていないとなると厄介だ。車で車を追いかけるのは物理的に難しい。

 けど大丈夫、こっちには自称天才科学者アインがついている。

「高速ならジェットエンジンで追いかけるけど、住宅街じゃムリだね」

 自称天才さじを投げる。

 うはっダメじゃん!

 なにか言い手はないのか?

 ワトソン君が気付く。

「止まったにゃ」

 追いかけている相手が止まった。

 信号待ちかと思ったが、どうやら違うらしい。大型スーパーの敷地内で赤い点が止まっている。

 まさかお買い物かっ!

 今晩のおかずを買うつもりなのかっ!

 今晩の夕食はカレーなのかっ!

 これは好都合だ。相手がお買い物をしている間に追いつける。本当に買い物をしているかは、カーナビからは皆目不明だけど。

 本当に買い物をしているのか、相手はまったく動く様子がない。その間にミユたちを乗せた車は目的地に着いてしまった。

 夕方の買い物客が多いこの場所に、本当にメグがいるのだろうか?

 アインは車の窓から外の様子を窺った。

「アレ、怪しいね」

 視線の先にあるアレとは、大型の車だった。その周りには人が集まっている。それは献血車だった。

 カーナビの位置から見ても、あの献血車の位置をピッタリだ。

 けど、どうしてあんな場所にメグがいるのか?

 まだいるとは決まったわけじゃなく、電源が入ったケータイがあるだけかもしれない。

 とにかく確かめなきゃいない。

 さて、ここで次の行動が重要になってくる。

 が、アインは即決だった。

「それではバイト君、献血者を装って行って来たまえ」

「ヤダってば、あたし注射苦手だもん」

「本当に献血をする必要はないよ、ちょっと中の様子を見てくればいいよ」

「だったらワトソン君の方が適役のような」

 ミユはワトソン君に顔を向けたハズだった。なのにいない!

 隠れられた!

 そうやらワトソン君も注射が苦手らしい。

 仕方なくミユが行くことになり車から降りた。

 そこでミユは重大なことに気付いた!

 しまったプリティミューの衣装のままだ!

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらミユは車の中に戻ろうとした。

 ド、ドアが開かない!

 閉められた!

 閉め出された!

 鍵を閉められた!

「中にいれてよ!」

 ドアをドンドン叩くもシカト。ミユの超合金パンチでもへこまない車は素晴らしい。

 声を張り上げて車を殴っていたことで、ミユは周りの視線を集めてしまった。

 もうここまで人の注目を浴びたら行くしかない。

 今さら着替えてもムダだ。

 なので、ミユは俯き加減で献血車に向かって歩き出した。

 献血車の前に出来ている短い列にミユも律儀に並ぶ。

 献血を受けるヒロインの姿は社会に貢献してるよね!!

 ミユの番が来て車の奥に通された。

 そこには白衣にサングラス姿の老人の姿があった。見るからに怪しい臭いがプンプンだ。

 サングラスの下で笑う口と、手に持った注射器が不気味だ。

 丸椅子に座らされ、ミユはいつの間に看護婦に腕を消毒されていた。

 マズイ、このままでは本当に献血してしまう!

「あの、あたし献血しに来たんじゃないんです!!」

「このお嬢ちゃんを抑えろ」

 と、老人は注射器を構えて行った。なんて強引な医者だ。

 いや、そもそも本当に医者なのか?

 医者だとしても見るからに藪医者っぽいぞ。

 押さえつけられたミユは必死に抵抗しようとするが、なぜかこの看護婦力が強い。

「放して!」

 暴れてミユは老人の腹を蹴っ飛ばした!

 ヤバイ、プリティミューのキックは殺人キックだ。相手が老人なら粉骨爆砕してしまう。

 蹴られた老人は後ろのカーテンを破りながら吹っ飛んだ。

 マズイ、殺してしまったかもしれない。

 が、老人は何事もなかったように立ち上がった。ご老体のクセして強いぞ。もしかしてボケで痛みも感じないのか!?

「ケケケッ、お主ただの人間ではないな?」

 尋ねる老人のほうがきっとただの人間じゃない。

 ミユは質問をオウム返しした。

「あなたこそ何者!」

「よくぞ訊いてくれた。わしは偉大なるジョーカーの怪人蝙蝠伯爵じゃ」

「ジョーカー!?」

 しまった、こんな場所でジョーカーの怪人に出遭うなんてついてない。

 狭い車の中に閉じ込められたミユに逃げ場はない。

 しかも、さっきまで看護婦だった人が全身タイツの男に変わってる。ミユの視線は全身タイツの股間に注目だ。モッコリしてる!

 前回の蜘蛛男同様、ミユはどーしてもモッコリした股間に目がいってしまう。

 ダメだ、可憐な乙女が戦闘員の股間ばかり見ちゃダメだ。

 ミユは必死になって股間から目を放した。すると、その視線の先には床に倒れた人影があった。

 先ほど蝙蝠伯爵が破ったカーテンの後ろに隠されていたのは?

「メグちゃん!」

 やはりメグはここに拉致監禁誘拐されていたのだ。

 困ったことにメグは気を失っている。

 困ったことにミユは2対1だ。

 困ったことに気付けばミユも車に拉致監禁!

 どうするプリティミュー!

 絶体絶命のピンチを迎えちゃったミユの運命はいかに!


 どうするもなにもない。

「逃げなきゃ」

 ミユはアクションコマンド『とんずら』を発動。

 しかし逃げられない。

 大きな車とはいえ、やっぱり逃げ場がないほど狭い。

 しかしやっぱり逃げる。

 強引にでも逃げる!

 戦闘員Aに顔面パンチを食らわせ、閉まっている出口にプリティミューキック!

 なんて必殺技はないけど、とにかく蹴りを食らわした。

 吹っ飛ぶドア。飛んだドアの先に通行人がいないことを祈りつつ、ミユは見事脱出成功ミッション1クリア。

 ミッション2は追いかけてきた蝙蝠伯爵をどうにかする。

 追いかけてきた蝙蝠伯爵が白衣を投げ捨て、タキシード姿に変身した。

「ケケケッ逃げてもムダだ」

 蝙蝠伯爵と向かい合うミユ。

「もうこうなったら戦うけど、そんなことよりなんで陽が出てるのに平気なの?」

 蝙蝠伯爵のバックには沈みかけている太陽がある。

「わしは蝙蝠伯爵、吸血蝙蝠であって、吸血鬼ではない」

 納得の答えだ。

 てっきり雰囲気的に吸血鬼だと思っていたミユのミスジャッジ。

「ややこしい怪人だなぁ、もぉ!」

 勝手に間違えたのだから逆ギレだ。

 いつの間にか辺りには買い物客たちで人だかりができていた。

 ケータイカメラでバッチリ撮られてる。

 駅前とか遊園地のヒーローショーのノリだ。

「頑張れプリティミュー!」

 野次馬の中から声があがった。すでに正体バレてるし。てゆか、ローカルヒロインなのに、もう知れ渡ってるとは情報社会って怖い。

 バレてるついでに蝙蝠伯爵にもバレた。

「お主が蜘蛛男を倒したプリティミューか!」

「……ええっと、まあ成り行きで……」

「お主がプリティミューと知ったからには、その首を持って帰らねばならん」

「マジで!」

 秘密結社ジョーカーを完全に敵に回してしまったミユ。一昨日までの平凡な生活サヨウナラ。

 頑張れ、負けるな、くじけるなプリティミュー!

 逆境に負けずに悪に立ち向かうのだミュー!

 と、いきたいところだったが、なんとここで重大な問題が発覚。

 ミユは自分の両手を見た。

 ……素手だった。

 丸腰=素手=ピンチ!

 焦るミユは作戦を考えた。

 名づけて時間稼ぎ。ポピュラーな作戦のひとつと言えよう。

「えーっと、戦いをはじめる前にいくつか質問があるんだけどいい?」

 質問攻撃だ!

 これを有効に使えば敵に精神的ダメージを与えられるかもしれない。

「どうして献血なんてしてたの?」

 攻撃力の弱い質問だった。

「若い乙女の血が好物なのだ。お主の血も味わってくれる、ケケケッ」

 近づこうとしてくる蝙蝠伯爵に、ミユは手を突き出して待ったをかけた。

「ちょちょ、ちょっと、まだ質問は終わってなくて、あの、その、えっと……」

 質問が思いつかないミユは、逆に精神的に追い込まれてダメージを受けそうだった。

 そんな困ったミユの元へ、野次馬を掻き分けて白衣の少年が現れた。

「なら代わりにボクが質問しよう」

 アインだった。

「蝙蝠伯爵と言ったね、トマトの遺伝子を植え付けられた患者がいるんだけど、ボクはそれがジョーカーの仕業と睨んでるんだけど、どうかな?」

「ケケケッいかにも、わしの仕業だ。その患者とやらは、あと一歩で逃げられたOLだな」

「やっぱりね」

 自信満々の笑みを浮かべるアインにミユが質問。

「なんでわかったの?」

「天才というのは無意識のうちに森羅万象を読み取る力があるんだ。だから勘が鋭くなる。つまりね、世の中の現象は全て繋がっているということさ。数値こそがこの世の心理、計算で導けないことは、この世に存在しないんだ。でもね、導けるといっても、ほとんどの現象には膨大な計算が必要なわけで、佐藤さんちの来週の食事を当てろと言われても、計算しているうちに来週になってしまう可能性も大いになるけどね。ちなみに佐藤さんちの今日の晩御飯はカツカレーらしいよ」

 もうすでに誰もアインの話を聴いていなかった。でも、佐藤さんが誰なのかは気になる。

 ミユは蝙蝠伯爵の戦いが今まさにはじまろうとしていた。

 けど、できれば戦いたくない。ミユは。

 なのでまだまだ粘ってみる。

「ええっと、まだ質問があるんだけど、どうしてメグちゃんをさらったりしたの?」

「あのお嬢ちゃんはわしのプラントになるのだ」

「プラント?」

「わしの食事を栽培する人間植物じゃ」

 ミユはまだ首を傾げている。

 わかりやすく説明すると、カワイイ女の子をさらって、植物人間にして、血の実を収穫して食べるということだ。

 まあ、なんておぞましいんでしょう。

 蝙蝠伯爵がロリコンで眼鏡っ子好きだったなんて、おぞましい。

 老人のクセにロリコンだなんて、不潔!

 眼鏡少女メグがお爺ちゃんに食べられちゃう!

 なんとしても助けなくては!

 でも、ミユは素手だった。

 やっぱり素手じゃ戦えない。

 そこにグットタイミングなことが起きた。二本足で立っているワトソン君から、ミユにマジカルハンマーが投げられた。

 ミユは見事マジカルハンマーをキャッチゲットした。これさえあれば、たぶん、きっと、おそらく100人力だ。

 見た目はただのオモチャにしか見えないピコピコハンマー。しかし、その実体は驚くなかれ、自称天才科学者アインが発明したウェポンなのだ。

 このマジカルハンマーで攻撃された怪人は、なんとフィギュアになってしまうという恐ろしい武器。科学者のクセに、物理法則を無視した魔法としか思えない現象が起こる、マジカルなハンマーなのだ。

 マジカルハンマーを構えたミユ。その手が汗で滲む。冷や汗とかそういう類ではなくて、恥ずかしくて身体が火照って出た汗だ。

 白いゴスロリ姿にピコピコハンマーという姿は、ただのコスプレにしか見えない。その上、マジカルハンマーで敵を叩くときに、『マジカルハンマー・フィギュアチェンジ』などというセリフ(呪文?)を言わなくちゃいけない。

 そんな趣味がないミユには恥ずかし過ぎる行動なのだ。

 マジカルハンマーを握ったまま、その場で立ち止まっているミユにアインから催促。

「バイト君、6時からアニメがはじまるから手短にやっつけちゃってくれたまえ」

 ミユの決死の戦いよりも、アニメ優先。どーせ録画しているクセに、オンタイムで観ることにアインはこだわっている。

 もうこうなったらミユはヤケクソだ。100万円と自分の命を守るため、ついにミユは蝙蝠伯爵に立ち向かった。

「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」

 大きく振りかぶったミユのハンマーは空振った。パンチラチラリン♪

 空振りをした反動をしたミユが尻餅を付く。まさか、恥ずかしいセリフを叫んでミスるなんて、信じられない。と言った目でミユは上空を見ていた。

 夕焼け空をバックにして漆黒の翼を広げる蝙蝠伯爵の姿。ミユの攻撃を空に飛んで回避したのだ。

「空飛ぶなんてズルイ」

 呟くミユ。

 続けてアインも呟く。

「上空戦を考慮にいれるの忘れてた」

 自称天才のクセに忘れるなんて、やっぱり『自称』だ!

 考慮に入れるのを忘れていたということは、それすなわちミユに空を飛ぶ術がない。蝙蝠伯爵と戦えないということだ。

 またまたミユピンチ!

 上空にいる蝙蝠伯爵に、文字通り手も足も出ない。

 こうなったら、手と足以外を出すしかない。

 ミユは自分の靴を脱いで蝙蝠伯爵に投げ付けた。

「降りてきてよ!」

 ある意味足で攻撃するも、軽く靴はかわされ、やっぱり手も足も出ない。

 蝙蝠伯爵は長い牙を覗かせて嗤っている。

「ケケケッ、手も足も出ないようだな」

 そんなこと言われなくてもわかってる。だからクツを投げたのだ。

「うるさい、さっさと下に下りてきて勝負してよ!」

 ミユは怒鳴って見るが、効果は薄く蝙蝠伯爵はあざ笑っている。

「ならば降りて進ぜよう」

 急に蝙蝠伯爵が滑空してミユに襲いかかる。

 風のように襲い迫る攻撃をミユは必死に避けた。運動神経はミユの自慢なのだ。

 しかし、そのままカウンターを食らわそうとミユはするが、すぐに蝙蝠伯爵は上空に逃げてしまった。

「この卑怯者!」

 ミユの罵声は虚しく響いただけ、蝙蝠伯爵にはノーダメージだった。

「卑怯とは失礼な、羽を有効に使った戦法じゃ」

「伯爵とかいう偉そうな名前のクセに、女の子をイジメるような戦い方をするなんて卑怯よ!」

「ケケケッ、可愛い娘を苛めるはわしの趣味じゃ」

 サディストだ。ロリコンのサディストだ。卑怯者でロリコンのサディストだ。卑怯者でロリコンのサディストのお爺ちゃんだ。

「絶対あたし負けたくない」

 ミユは心に強く誓うのだった。

 そんなころ、アインはなにをしているかというと、地べたに座ってノーパソでテレビを見ていた。

「宝石強盗だって、コレうちの近くだよ」

 ニュース番組に夢中だった。

 ダメだ、アインったらまったく役立たず。

 そんなころ、ワトソン君なにをしているかというと、ちょうちょを追いかけて遊んでいた。

 ダメだ、アイン以上に使えねぇー。

 もうミユは独りで戦うしかない。

 自分って不幸なのかもと思いはじめたミユに、周りの野次馬から声援が!

「頑張れミュー!」

「あんな怪人コテンパンにしちゃえ!」

「今日の下着何色ゲヘゲヘ」

 若干不純物も混ざっていたが、ミユは胸に熱いものが込み上げてきた。

「そうだ、あたしは独りで戦ってるんじゃないんだ。あたしにはみんなついてる!」

 その勢いでミユは蝙蝠伯爵に立ち向かおうとした。

 が、ミユの視線は上空。

 やっぱり空飛び相手じゃ手も足も出ない。一気にボルテージ低下でヤル気減退。

 落ち込むミユに声援が飛ぶ。

「頑張れ!」

「胸はなにカップ? ゲヘヘ」

「立つんだジョー!」

 不純物が増えている。これじゃヤル気もまったく出ない。

 ついにプリティミューは戦いに敗れてしまうのか!

 ついにってほど怪人と戦ってないけど。これで2人目だ。

 上空から再び蝙蝠伯爵がミユに襲い掛かる。

 ミユは決死の覚悟を決めた。

 逃げずに迎え撃つ!

「マジカルハンマー・フィギュアチャンジ!」

 蝙蝠伯爵はミユの目と鼻の先だ。

 そんな状況下で、献血車から女の子が降りてきた。

「センパイ! やっぱり助けに来てくれたんですね!」

 メグに声をかけられビックリドッキリミユは振り返った瞬間、回した腕が蝙蝠伯爵の顔面に炸裂。

 歯を粉砕されながら、鼻血ブーで蝙蝠伯爵はブー飛んだ!

 ミユのミラクルな攻撃が決まった。

 ついに地上に落ちた蝙蝠伯爵。

「おにょれー、プリテーミョー!」

 歯を砕かれ、鼻血ブーで、うまく喋れないらしい。

 立ち上がろうと蝙蝠伯爵が地面に手を付いた瞬間、ゴキッと濁音が辺りに響いた。

 蝙蝠伯爵は変な体制で動きを止めてしまっている。

「こ、腰が……」

 ギックリ腰だ!

 吸血怪人蝙蝠伯爵も歳には勝てなかったらしい。

 ギックリ腰で蝙蝠伯爵が動けない今がチャーンス!!

「マジカルハンマー・フィギュアチェンジ!」

 横殴りでミユのマジカルハンマーが炸裂した!

「ぎゃぁぁぁ!」

 叫んだ蝙蝠伯爵の身体が見る見るうちに縮んでいく。

 そして、呆気なく小さなフィギュアになってしまった。

 さっきまでちょちょと遊んでいたハズのワトソン君がすかさずフィギュアを回収。

 終わったのだ。

 戦いは終わり、ミユは勝利したのだ!

 ドッと疲れて立ち尽くすミユにメグが駆け寄る。

「センパーイ!」

「……しまった」

 どうにか誤魔化さなくては……。

 とっさにミユは目元を片手で隠し、残って手で鼻をつまんだ。

「センパイって誰のことかな?」

 鼻のつまった声で苦し紛れの誤魔化しをするミユをメグはきょとんと見ている。

「なにしてるんですかセンパイ?」

「センパイなんて知らない。私は正義のヒロインプリティミュー。ミユさんと私は一切無関係だから、彼女に迷惑をかけないように。それではさらばだ!」

 メグに背を向けて逃亡するミユ。始終苦しすぎる言い訳と行動だった。

 頑張れミユ!

 負けるなミユ!

 苦しすぎるぞミユ!


 ――秘密結社ジョーカー帝都支部。

 ゲル大佐は蝙蝠伯爵が倒された報告を受けていた。

「おのれ、またプリティミューか……」

 ゲル大佐は怒りに任せて鞭を鳴らした。その衝撃でほぼ丸見えの巨乳が揺れる。今にも乳首を隠しているサスペンダーが外れてポロリしそうだ。

 歯をガチガチ鳴らすゲル大佐の正面で、通信装置が波打って何者かのシルエットが現れた。

 即座にゲル大佐は背筋をピンと伸ばして敬礼をする。

「首領!」

 突然の首領の通信にゲル大佐は硬直した。

「蝙蝠伯爵がやられたそうだな」

「ヤー!」

 ドイツ語でイエスと答えるゲル大佐の顔は苦々しい。

 首領の口調は厳しかった。

「小娘相手になにをしておったのだ」

「蝙蝠伯爵は歳でち○こが使い物になりませんでした。だから負けたのです!」

 蜘蛛男が負けたとき同様、ゲル大佐はちん○にこだわっているようだ。半裸状態のコスプレから考えても、やっぱりただの○んこ大好きな痴女だ。

「ち○こさえしっかりしていれば勝てたのです!」

 よくわからない理屈だ。

 物陰から声がした。

「ち○こち○ことこだわっているから、負けたのではありませんか?」

 姿を現したのは赤いハイレグ水着に手はカニのハサミ……じゃなかった。よく見ると、サソリの尻尾が生えている。サソリ女だ!

「ち○こなどついているから気になるのです。このレイディスコーピオンが必ずやプリティミューを倒して見せましょう」

 メスのレイディスコーピオンにはち○こはついていないが、根本的な問題として戦いにち○こは関係ないよう気がする。

 だが、ゲル大佐は期待を寄せた。

「ふふっ、よかろう。プリティミューのことはお前に任せたぞ、レイディスコーピオン!」

「はい、お任せあれ」

 女二人の笑い声が基地に木霊した。


 秘密結社ジョーカーに命を狙われるミユ。

 ち○このないレイディスコーピオンが、科学少女プリティミューに戦いを挑む。

 果たしてプリティミューVSレイディスコーピオンの女同士の戦いゆくえはいかに!

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