夜からの忠告
「こんな感じで良いかなあ……」
鏡の前に立って、少女は呟く。
「……あっ、リボンが曲がってる……よいしょっ…………うん、完璧!……かな?」
制服を初めて着たときから変わらず、彼女にとって、制服は少し恐い。
デザインは可愛いのだけれど、何とも言えない恐ろしさがある。
きっと、気のせいだが。
「由姫ーー?着替えられたんなら早く行きなさいーー。お迎え、来たわよー!」
「あっ、うん!!今行くーー!」
少女は制服を着て、鞄を持ち、危なげな足取りで階段を駆け下りていった。
「おはよ、お母さん!」
少女・葉桜由姫はポニーテールを揺らしながら爽やかな笑顔で朝の挨拶をする。
「おはよう、由姫。今日は何時頃帰ってくるの?」
「んー………今日は午前授業だけど、部活があるかな。あと、終わったら由ちゃんととーちゃんとショッピングするから………6時くらいかな?」
「わかったわ。あんまり遅くならないでね」
「うん!遅くなりそうだったら連絡するよ。行ってきま~す♪」
「いってらっしゃい」
そう言って、由姫は元気よくドアを開けた。
そこに待っていたのは、
「おはようございます、由姫。今日はいつもより早いですわね」
「由姫、遅いぞ!あたしは今日も朝から補習なんだから早くしろ!」
由姫の友達の、柴咲由と白岸透だった。
3人は小学校からずっと一緒だ。
3人共部活は同じ、『桜部』に入部した。
「ほんと、由ちゃん!嬉しいなあ♪とーちゃんは自業自得でしょ?」
「仕方ねーだろ、わかんねーんだもん」
「それに、放課後に補習が入ってしまったら部活に参加できませんからね。朝であれば、透が早起きすれば済む話ですし」
「そっかあ。……あ、ねえ由ちゃん。今日、部活あるよね?」
「もちろんですわ。ショッピングはその後、楽しみましょうね」
「やたーっ!うーっ、テンション上がってきたー!!!由ちゃん、とーちゃん、誰が先に学校に着くか競争しよっ!お先に~!」
「あっ、由姫!ズルいぞ!!待てーーっ!」
「ふふふ………全く、仕方ありませんね……」
「えへへ~♪……って、由ちゃん、早っ!?」
「うふふ、お先に~♪ですわ♪」
「あーっ、だめー!ほら、とーちゃん、追いかけるよ!」
「わかってるよ、待てって!」
3人は楽しそうに、朝の通学路を駆けていく。
まだ中学1年生だから、仕方ないのかもしれない。
2017年の4月に、3人は中学生になった。
あれから半年が経ち、今は10月である。
3人にとって、あっという間の半年だった。
あと半年あるが、現時点で一番の思い出は?と聞かれたら、3人は迷わず同じ答えを言うだろう。
『部活』
と。
3人にとって、『部活』は特別だ。
先程も書いたとおり、3人の部活は『桜部』だ。
恐らく『桜部』なんて部活、他の学校には無いと思う。桜が美しく咲き、特別な桜『夜桜』が咲く風吹市じゃないとできない部活だと思う。
そんな、桃英中学校にある桜部の活動とは何か。
1:桜道の変化を観察(春でなくとも行うこと)
2:桜の開花時期、満開時期を予想し、実際と照らし合わせる。
3:1学期ごとに部員が1人1人桜について思いを述べる。
4:夜桜の開花条件を調べる。
5:夜桜が今まで開花した例を調べ、規則等があるかを調べる。
6:夜桜の開花時期に起こる現象を調べる。
7:夜桜に発生すると言われている『エネルギー』はどのような物質かを調べる。
8:『エネルギー』の利用方法を考える。
この8つが桜部の部活内容である。
ちなみに、単語の説明をしておくと。
風吹市は由姫達が住んでいる市。
桜道は、風吹市にある桜が綺麗に咲くところ。
夜桜は、風吹市の桜道で特別な条件を揃えると咲く特別な桜。まだ、条件は一つしかわかっていない。
夜桜のエネルギーとは、日本で2014年に観測されたもの。
夜桜が、2014年に観測され、その時にとても巨大な力が働いていた。
国は、このことについて『なにか不思議な力』としか言わず、あまり深く探ろうとはしなかった。
しかし、桜部の顧問はどうしてもそれを調べたいという事で、桜部を創った。
そのため、桜部とは顧問の探求心の故に出来た部活と言われている。
また、『ほぼ帰宅部』とも言われている。
まあ活動と言ってもほとんど喋っているだけだから仕方ないのかもしれない。
けど、3人はそんな『桜部』を気に入っている。
先輩が好きだし、活動内容がなんだかかっこいい、と思ったのもある。
けれど、一番の理由は『桜』という単語に強く惹かれたからだ。
なんだか、『桜』が自分たちにとってなにか大きな物な気がしてならないから、入部した。
そして、今予想以上に満足している。
だから、3人の一番の思い出は『部活』なのだ。
今日も、そんな桜部の活動はある。
* * * * * * * * * *
「やーっと、放課後っ!!」
「そーいや今日4時間だったな……すっかり忘れてた」
「では、2人とも?部活に行きますわよ。先程、携帯を確認したら先に着いているということですから、早く行きましょう」
「えーーっ、いっつも私たち遅いじゃーん。ゆっくり行こーよー」
「まあまあ、由姫。あたしたちは後輩なんだから、先輩を待たせちゃだめだろ」
「その通りです、透。いつも先輩達は笑って許していてくださってますが……本来なら、かなり怒られるものなのですよ?」
「そっかあ…。そうだよねぇ……。……うーん……」
「どうしたんだよ、由姫?」
「え、えっとね………最近、変な夢ばっかり見るの」
「変な夢ぇ?どんな夢なんだよ」
「それがわかんないんだよ……」
「はぁ??」
「どういうことですか、由姫?」
「どういうこともなにも無いんだけど……。えっと、起きた瞬間その夢の全部を忘れちゃって……。……なんだか、正夢みたいに思うんだよね」
「正夢ならいいんじゃね?……ま、どんな内容かによるけど」
「そうですね。……正夢であってほしいような、あってほしくないような……というところでしょうか?」
「あっ……そういえば」
「ん?なんだ?」
「なんか……叫んでた気がする」
「叫んでいた?誰が、ですか?」
「わかんない……けど、私じゃないよ」
「言い切ったな…。なんでだよ?由姫の可能性も、無くはないだろ?」「絶対違うよ。……だって、髪の長さが違いすぎるもん」
「髪の長さ?どれくらいだったのですか?」
「ええと……身長は、由ちゃんくらい。長さは……とにかく、長い。地面についてたんだけど、それでも余ってるくらいだった」
「そりゃ由姫とは違うな。由姫は肩よりちょっと長いくらいだし」
「そうですね……。とにかく、誰であろうと正夢ではあってほしくないですね。叫んでいるなんて……なんだか、恐ろしいような気がしてなりません」
「そうだよね………ご、ごめんね!こんな暗い話しちゃって……………あ、ほら、ついた!」
そんな暗い話を断ち切るようにして由姫が声を上げたのは桜部の部室についたから。
外見は、なんだか『小さい家』のようなものだ。
文化部の部室にしては、大きい方だ。
「こっんにっちは~!」
由姫は勢いよく、部室のドアを開ける。
「こ、こら、由姫。丁寧に入らなければ……」
「こんちはー。ちょっと遅れましたっ」
「透まで……。……こんにちは、先輩方。遅れてしまい、申し訳ありません」
待っていたのは、桜部の先輩達。
桜部の部室は、入ったら目の前にテーブルがある。
各方向に椅子があり、計4人が座れる。
そして、両サイドには2人が座れるソファがある。
今は、計3人が座っている。
そして、奥には社長が座るような椅子と机があり、1人が座っている。
座る席は決まっている。テーブルのところに座るのは、由姫達1年生。
由姫達3人の他にもう1人、王祭文弥がいるのだが、今日はまだ来ていないみたいだ。
両サイドのソファには、部長以外の先輩達が座っている。
左側には、男子の先輩達。
メガネを掛けていて、左に座っているのは鍵西夜斗。
右に座っているのは時橋汰火。
どちらも中2である。
そして、右側には女子の先輩。
右に座っていて、編み物をしているのは花沢梨奈。
もう1人、左にはいつもは座っている光草沙夜裡がいるはずだが、今日はまだ来ていない。
梨奈は中3で、沙夜裡は高1だ。
そして、奥の社長が座るような椅子に座っているのは桜部部長であり、創立メンバーの1人、長谷川篠音。中3だ。
ちなみに、創立メンバーは後もう1人いて、梨奈がそうだ。
桜部は、この9人で構成されている。
「申し訳ありません、部長。遅れてしまって……」
「良いって、良いって、由ちゃん。由姫ちゃん、透ちゃん、こんにちは」
「篠音さん!!こんにちは~!!!」
「部長、こんちは。今日はまだ文弥君来てないんすか?」
「うん、来てないよ。……なんか連絡あったっけ、梨奈」
篠音が、梨奈の方に振り向く。
「きてなかったとおも………今、来た。『本日親戚の集まりが急遽出来たので、部活に行けません。申し訳ないっ(>_<)次の部活時には必ず来るっす<(`^´)> 王祭文弥』だってさ」篠音とは目をあわさずに、淡々と送られてきたメッセージを読み上げた。
そして、
「誰か1人が文弥君の代わりやんないとねー。誰やるー?……『了解』……っと。『……いい加減、顔文字のレパートリー増やしなさい』っと」
「じゃ、あたしやるわ。どうせ、次回やるし」
「いいの?透ちゃん」
篠音が申し訳なさそうに聞く。
「全然大丈夫っす。めちゃくちゃ大変って程のもんでもないんで」
「ありがとう。……ん、由姫ちゃん、どうしたの?」
部室に入ってからずっとキョロキョロしている由姫に声をかける。
「あ、あの、光草先輩、まだ来てないのかなって……」
「あー、沙夜裡さんなら今日は来ないよ」
携帯を見ながら梨奈が答える。
「光草先輩、今日は来られないのですか?」
部室に入ってから部員全員の紅茶を淹れていた由が(部員の中で、紅茶やコーヒーなどを上手に淹れることが出来るのが由しかいないのだ)全員分の紅茶を持ちながら聞く。
「ん。今日は振替でピアノがあるから行けないってさ」
「つまり、本日は2人休みなのね。………メモしときましょうか」
「……っよし、準備完了!」
透は2Lのペットボトルを2本用意し、石などを粉々に砕いた欠片が入っている袋を持ち、皆の方に振り向いて、
「んじゃ、あたし行きますけど、誰が一緒に来ますか?」
そう聞く。
今からやることは、絶対に2人でやらなければならないという決まりがある。
「いつも通り、梨奈が行くよ。透、行くわよ」
「あ、待って、梨奈」
「?どしたの?篠音」
篠音が梨奈を引き止める。
「今回は、私が行ってもいいかな」
「篠音が?どうして………っ、もしかして、言うの?」
「まあ、ね。透ちゃんには伝えておこうかと思って」
「たしかに、透なら良いけど……。……篠音、あとでみっちり聞くよ」
少し鋭い目で梨奈が言う。
「わかったって。じゃ、透ちゃん行こうか」
「え、あ、はい」
行こうとしたとき、
「あのっ、篠音さん!私たちは何してればいいんですか??」
由姫が呼び止めた。
由は、自分で淹れた紅茶を飲んでいる。
「うーん、そうねぇ…………あっ、そうだ!梨奈、久々にあれでも調べといてよ」
「あれ?……ああ、あれか。まあ、いいけど……」
「あの、夜桜が咲く条件とかのやつ?やだな~……」
由姫は嫌そうな顔をしながら言う。
由姫は、この作業があまり好きではない。
「まあまあ、あそこで仲良く寝ている2年生達も起こして使えばいいし。……ね?」
篠音がお願いすると、由姫はコクリと頷いた。
「それじゃ、よろしくね。……行きましょ、透ちゃん」
「っす、部長」
篠音と透が、部室から出て行く。
「まあ……話すタイミングとしては……いいのか?」
「ねー、梨奈さん!篠音さんととーちゃんは何話すの??」
「ん……由姫にも話すときが来るかも、ね」
どこか遠くを見るような目をしていた梨奈を見た由姫が心配そうに顔をみる。
梨奈はそれに気づくと、にこりと笑った。
「なんでもないっ。さて、それじゃ調べていきましょ!」
「資料読むと、眠くなる~……」
「そうは言っても桜部なのですよ?活動内容に従って活動することは本来、部活があるべき姿であり……」
「そうは言ってもねぇ。いっつも違うことしてるし」
「ぐ……そ、それは……そ、そうですけれども……」
「由はもうちょっと頭を柔らかくすることを勧めるよ。なんであっても、決して、正しいことだけをやってるだけが良い人間とも限らないしね」
「わかってはいる、のですが……」
梨奈はやれやれ、と言ったような顔を由姫に向ける。
由姫はそれに対し、苦笑を送った。
「じゃ、調べよっか……………っと、その前に」
梨奈は必要な書類を一通り出し終わった後、2年生のいるソファに向き直った。
「……まあ、夜斗は良いよ。いっつも遅くまで夜桜について調べてくれてるからね。もうちょっと寝かせておこう」
そう言って、夜斗には暖かい毛布をかけた。
部活にある毛布の中でも、かなりもふもふしているやつだ。
「でも、このバカは………」
「い゛だぁっ!!!!!?!!?」
梨奈は汰火に向かって、キックをお見舞いした。
「ん……?あれ……僕、寝てた……?……?汰火、どうしたの…?」
状況が全く分かっていない夜斗に、由姫は声をかけた。
「夜斗先輩、寝てましたよ」
「ほんと?どれくらい寝てたかな……」
「さあ……。少なくとも、私たちが来たときにはもう寝ていましたよ」
「そっか……。あ、で、汰火はどうしたの?」
「……時橋先輩は夜斗先輩と違って、何かを遅くまで調べていたわけでもないのに偉そうに寝ていたので梨奈さんがキックをお見舞いしているのです……ザマァ」
由姫が小さな声で言った『ザマァ』という言葉を、夜斗は無視した。
「そっか。んー~…………んっ!!けっこう寝たし………そろそろ働こうかな」
「ええっ、夜斗先輩は寝てて!」
「大丈夫だよ由姫さん。……お、夜桜についてまた調べるの?じゃ、僕も調べるか」
「すみません、疲れているのに……」
「良いって、由さん。……えーっと、どの資料まで読んだかな……」
由姫と由と夜斗は3人共、汰火の悲鳴を無視して、篠音たちが戻ってくるまで作業を続けた。
「ただいま~!遅かったかな?」
「大丈夫だよ篠音、普通くらいだね」
「そっか、良かった!ちょっと手洗ってくるね。え~っと……あと10分活動したら、今日は終わりにしましょうか」
「マジで!!よっしゃ!!」
「あ、汰火君はもちろん、このあとお説教タイムね♪梨奈も交えて♪……沙夜裡さんがいれば、完璧だったのにな……」
「……ハイ(´・ω・`)」
しょんぼりした顔で汰火は頷いた。
「……あの、部長」
「ん?どうしたの?」
「……色々説明されましたけど……やっぱ、話が話だけに頭がついてかなくって……」
「まあ…普通、そうだろうね?」
「はい。……なんで、今日部長に電話してもいいっすか?」
「私に?え~っと……夜なら、大丈夫だけど」
「あたしも大丈夫っす。じゃ、夜に電話かけさせてもらいます」
「はいはーい」
篠音は手を洗いに行った。
この場で、状況を飲み込めていない由姫と由が?マークを浮かべている。
「梨奈さん、なんの話??」
「梨奈先輩、今のはどういった話で……」
「ああ、2人にもいつか、必ず話すから。今は、気にしないで?ね?」
梨奈は困ったような笑顔を見せて、言った。
「そだ、夜斗君」
「……この資料はこうなのに……なんで、こっちの資料では全く別のこと言ってるんだ?どっちも証明されてるし…………あっ、はい!なんですか!?」
「いや、たいしたことじゃないよ。今日、私ちょっと篠音の家に寄って話聞いてくるから……先に帰っててもらおうかと」
「あっ、じゃあ、僕も行きます」
「え?いいの?」
「はい。………あっ、けどこっちの資料で否定してるかな……あっ、資料の日にちがずれてる。きっと、こっちが……?」
夜斗は、一つのことに夢中になると周りの音が聞こえなくなるくらいに調べ始める。
そんな夜斗は、桜部にとっては貴重な戦力だ。
「お待たせっ、じゃあ解散ね!汰火は、私たちと一緒に帰るわよ?由姫ちゃん達はショッピングよね?気をつけるのよ?最近、中学生を狙う変な輩が増えてきてるんだから……」
「大丈夫ですよ、篠音さん!!それじゃ、お疲れさまでしたー!」
「部長、お疲れっした。先に失礼します」
「みなさん、お疲れさまでした。それでは、お先に失礼させていただきます」
由姫達3人は部室を出て行った。
「はあ~やっぱり、ショッピングは楽しいなっ♪その後のティータイムも良いよねぇ♪」
「今、4時35分ですか。ちょうどいい感じの時間ですね」
「ん…………」
3人はショッピングを終え、今はショッピング後恒例のティータイムをしている。
「とーちゃん、どしたの?」
「部長と一緒に行ってから様子がおかしいですよ?」
「ん………あ、いや……」
「なにかあるなら言って?親友だよ、私たち!」
由姫の笑顔と言葉に負けた透はため息を一つ、ついた。
「えーっとだな……もし、自分の周りにいる人たちが特別な能力を持ってて……それを、急に打ち明けられたらどうする?」
「……………」
「……………」
しばらくの沈黙の後、由姫が沈黙を破った。
「なにそれ!え、とーちゃん、そんな話を篠音さんから話されたの!?」
「ちっげーよ!!例えだよ、た・と・え!!!」
「例えにする必要はあるのですか…?」
由の言葉を聞いて、しばらく透は動きが止まった。
「……と、とにかくだな!お前らだったら、こういう時どうする!?」
「私でしたら……やはり、自分の持ってないものですし、的確な事は言えませんが……ゴクッ……話してくれて、嬉しいですよ。その力は、私は持っていないけれども、何か困ったことがあったらなんでも相談してほしいです」
由が、紅茶を飲みながら言った。
「だよな、普通そうだよなぁ……」
「私はねー、優しく抱きしめてあげる!」
「へ?」
「だって、その子は苦しくなったから打ち明けたんじゃないの?だから、心配しないでって意味を込めて………」
由姫は立って、透の近くに行き、抱きしめた。
「おまっ、なにやって」
「こんな風に抱きしめてあげるの!!きっと、安心するはずだから!」
ね?と言ったような笑顔を由姫は透に向けた。
「……なるほど、な。……あんがとな、由姫」
透は優しく、由姫の頭を撫でた。
「えへへ~、それほどでも~♪……あ、時間!!帰んないと!!」
「あっ!?やべ、急がねーと!」
「あら……私としたことが……急がなくては……!」
3人は急いで立ち上がり、片づけて、家に帰った。
「……………宿題終わったっ!!」
由姫は先程まで解いていた問題集を放り投げ、立ち上がる。
それを拾い、バッグに入れ、外に出ても寒くない格好に着替える。
階段をゆっくり降りて、1階にいる母親に声をかける。
「お母さーん、ちょっと行ってきまーす」
「はいはい。早く帰ってきなさいよ」
「わかってるってば」
靴を履きながら答える。
「今日のショッピングはどうだったの?」
「楽しかったよ!!文房具、3人でお揃いの買っちゃった!」「そう。それは良かったわね。今度は、先輩達にあげたら?同じ種類で、学年別で色違いにしたり」
「あっ、それいい!今度、由ちゃん達に話してみる!………っと、それじゃ、行ってきまーす!!」
「いってらっしゃい」
母親の見送りを背に、由姫は桜道へと走った。
「……ついたっ!」
だいたい、走って5分程で着く距離に由姫は住んでいる。
「やっぱり、夜の桜道は良いなあ♪」
由姫は、昔から夜の桜道を歩くのが好きだ。
今じゃ、夜の習慣になっている。
たとえ桜が咲いていない10月でも、桜道を歩くことが好きなのだ。
「~♪………ん?」
由姫は足を止めた。
由姫の歩いていく先には、誰かが立っていた。
なんだか、不思議な存在感を放っている。
見たところ自分と身長が変わらないから、同じ中1なのだろうか、と由姫は考えていた。
由姫がじっくりと見ていたら、その人影はこちらを向いた。
振り向いたその容姿に、由姫は驚いた。
右目は薄い緑、左目は紫。
髪は長く、黒髪。
背は由姫より高い。
そんな美しい容姿。
その少女は、由姫に近づいてきた。
「え、あ、あの……?」
「………いで」
「え?」
何かを少女は言ったが、小さくて聞き取れなかった。
「……忘れないで。そして、思い出して」
「え……?」少女が儚げに微笑むと、風が由姫の視界を奪った。
「うわっ……!?」
その時、確かに由姫の手は握られた。
優しく、温かく。
「え………っ!?」
目を開けたら、少女はいなくなっていた。
後ろを見ても、誰もいない。
「……誰……?」
由姫は、空に問いかけた。
風は、未だに騒ぐ。
これからの、不吉の予兆の様に。
END




