第04話 品のいい保険委員さん
冒頭から殆ど半分以上、なんだか話がシリアスで重くて重いです。笑いどころもなくて、すいません。
苦手なかたは、斜め読みして後半最後の方まで飛ばしていただいても良いかもです。
我が1年C組の1時間目はHRだ。幸いにして。
そして、私は教壇に立っていた。そのように向坂先生が取り計らってくれた。
クラスメートの視線が私に突き刺さる。半数は怯えたように俯いてる。
「……私、竜堂瀬梨華は……4月以来、このクラスの皆様に多大なるご迷惑をお掛けしてきたことを……深くお詫びいたします」
深く頭を下げた。クラスに息を呑む気配が広がる。
先生にも言われたが、クラスメートは別に教師ではないし向坂先生のように「信じるのが当たり前」な訳もない。通り一遍等の謝罪の言葉で、許してもらえるとも思っていはいない。だけど、気持ちは言葉にしなければ伝わらないのだ。だから、まず、何をしても謝る。
少しお辞儀の角度を戻す。早く次の行動に移らないと。
私を取り巻いて同じように行動してた人達が「瀬梨華様は高貴な方で、ちっとも悪くはないわ!」とか言い出されても収拾がつかなくなってしまう。
「思い返せば……4月7日の朝、昇降口で鈴木様に対し『邪魔よ!』と失礼な言葉を、吐き蹴り飛ばしました……」
自分でも驚くほど……克明に覚えていた。いわば自分の罪状リスト。
その数、五十件以上に及ぶ。
結構長い時間かかって、思い出せる限りは全部挙げた。
「……以上、憶えている限りではありますが、他にも不愉快な言動はたくさんあったハズで……忘れてしまっていること自体も含めて……本当に……申し訳ありませんでした」
そっとクラスの様子を見て、再度、深く頭をさげる。……ほとんどの人が、ぽかんとした顔している。
「このような謝罪の言葉で赦されるとは全く思っていません。それだけ酷い事をして迷惑をかけたと自覚しております」
がたん!
「……ふ、ふざけるな!!」
普段は大人しい秀才型の山本くんが、顔を真赤にして激昂して立ち上がった。私は、一瞬怯えて、ビクッと肩を震わせる。
だが、それも仕方ないんだ。
罪状報告のときには『彼を傷つけるような、とても酷いことをした』と伏せたが……
それは、体育の授業前。用事があって最後に残っていた彼のズボンを無理やり脱がして廊下に蹴りだした。教室に入れないように鍵をかけた。
休み時間中で廊下には生徒も沢山いた。彼は泣きながらトイレに駆け込み、先生が30分後に助け、その日は早退し次の日は学校を休んだ。
どうして、そんな事をしたのか?
といえば……くだらない理由だ。「生物の授業中にクラスでレポートが一番良く出来ていると、担当の先生に山本くんが褒めらた」のが気に入らなかった。それだけだ。
これは自分のツケを払ってるだけ。何とか自分を奮い立たせて……山本くんの前まで行くと深々と頭を下げた。
「あなたを深く傷つけるような事をしてしまって……ほ、ほんとうに、ごめんなさい」
「どうしてっ!?……どうして、あんなことを!!」
山本くんの言葉にならない悲鳴が私を打ちのめす。私の心が慙愧と後悔でベッタリと塗りつぶされていく。
だけど……自分のしたことに向き合わないと。
「…………生物の……島屋先生に山本くんのレポートが褒められたことが……愚かにも妬ましくて…………や、やりました」
「そ……そんな……そんなことで!?たった、そんなことで!?」
頭を下げたままだから、山本くんの下半身しか見えないけど……ぎゅっと握りしめた手がブルブルと震えている。
「私が幼稚で愚かでした。身分がどうのとこうの言って傲慢な振る舞いをしてました。あれでは身分以前に人間としてダメだと思ってます。申し訳ない気持ちでいっぱいです……。許してくれとは言えません……でもっ、本当にごめんなさい!!」
「お、お前の……あの時の!あの顔!!あんなことして、高笑いしてたくせにっ……今更っ!!」
がたんと机の動く音。山本くんの左足が私の方に1歩踏み込んでくる。
私は頭を下げたまま、避けるつもりはなかった。こういう謝罪をすれば、殴られても当然だし、その覚悟もしていた。
……ああ、これは……殴られるか蹴られるな……
私の脚がガタガタ震えてる。生唾を飲み込む。
──逃げるな!瀬梨華、肚をくくれ!
私は身体のどこかにくるであろう一撃を歯を食いしばって待った。
「やめろ、山本!」とか何人かの声が錯綜する。複数の立ち上がる物音。人が集まってくる気配。
「今更、彼女を殴ったところで……あなたの心が癒えるとは思えません」
クラス委員の三枝さんの宥める声も聞こえる。山本くんは、誰かに押さえられたようだ。
私を取り囲むように多くの生徒が立っている。ヒソヒソ話す声が自然と耳に入ってくる。私は、お辞儀したまま不動の姿勢だ。
「……こういっちゃ何だけど、こんなふうに皆の前で謝られちゃったら、絶対に殴ったりできないじゃん。それ、狙ってるんじゃないの?」
「誰かしら止めるのは計算済みってこと?誰も止めなくても、先生が止めるか」
「前にも……向坂先生に泣いて謝ったことあるしな。全然、変わってなかったけど」
ぐっ……胸に重い痛みが走ったような気がする。床しか見てないから、誰が話しているのは特定できないし、したくもない。そんな時に、女子の一人がハッキリと私に悪意のこもった質問をぶつけてくる。
「これも演技なの?計算ずく?」
「ち、違います!自分がしてきた事を思い返すと、謝って済むようなことじゃないって!物凄く後悔してます!自分が本当にバカでした……!」
私は頭を下げたまま、必死に訴えた。今までぶちまけてきた悪意が自分に戻ってくる、そんな感じだ。何を言っても、私を弾劾する黒い話し声に侵蝕されていく。
責めて詰る声が飛び交い、そのうち野次や誹謗中傷まで混じり始める。私は自分の謝意を何とか伝えようとした。私の心の中が、どんどんドス黒い絶望に沈んでいく。
教室の床板の模様が潤んだ涙で滲んで歪み始める。
「おい……その辺にしとけよ……」
すうっと絶対零度の凍りつくような声が教室を通り抜ける。その存在しない冷気に生徒全員がビクッと反応してしまう。こんなの……誰も聞いたことのない声だ。
それは、私を許す救いの手なんかじゃない。私の周囲に雑然と蠢く悪意を遥かに上回る混じりっ気なしの圧倒的な憤怒を孕んでいた。
思わず、私も半分上体を戻して顔を上げてしまう……確認しないと恐いのだ。
声の主であろう人物は、窓際最後尾の自分の席から、ゆらりと立ち上がる。
それは新入生の中でも群を抜いて有名な……悟桐鳳渡。この学苑の創立者の曾孫にあたり、竜堂家に匹敵する数少ない財閥の御曹司だ。
長身で緑がかった黒髪。くっきりとした目鼻立ち。少しワイルドな雰囲気もある美形だ。その琥珀色の瞳が、射るように私を見つめる。
そして普段の落ち着いて優しげな口調とは、まるで違う話し方。
底冷えするほど冷たい声音。
「竜堂が謝罪?茶番もいいところだ。……挙句に、竜堂一人吊るしあげて鬱憤晴らしか?……くだらねえ」
かつての瀬梨華が恋い焦がれてまとわりついていた鳳渡様が、今は見下げ果てた視線で吐き捨てるように言った。
……もちろん、幼稚園児の頃の初恋とも呼べない憧れなんて、すっぱり吹き飛んでる。むしろ、付き纏って申し訳ありませんの気持ちで一杯だ。私は、彼のことを「高級アクセサリー」同然にしか見ていなかった。自分の空虚なプライドを満たしたかっただけだ。
鳳渡様が悠然とこちらに歩いてくる。人垣が左右に割れる。が、人垣の手前で彼は立ち止まる。
「下衆のお前が謝罪しようが改心しようが、俺の知った事か。誰か山本の心に残した傷を消せるのか?できるのは神様くらいだ。そんな奴はいねえ。山本が癒やされたとしても、傷は傷痕として一生残るんだ。お前、それがわかっているのか?」
うぐ……その通りだ。私は取り返しのつかない事をした。山本くんだけじゃない。大勢の人を傷つけた。あらためて、それをハッキリと言われると……辛い。……だけど、まだ、この程度では泣き言を吐いていたら償うことすらできない。
「……わかって、います。自覚してます」
私は鳳渡様の目を見据えて、はっきりと言った。言った……つもり。もしかしたら声が震えていたかもしれない。
「お前がどんなつもりで、こんな茶番してるか知りたいとも思わん。もし何か企んでいて、俺の周辺の誰かを傷つけたら……俺はお前を潰す」
それは……最早、殺気といってもいい。全身の毛穴が開いて、冷や汗が流れ落ちる。膝がガクガクと震えて、気を張ってなきゃ、座り込んでしまう。
「……企むなんてしてません!」
心が崩れ落ちそうになるの必死で堪えて⋯⋯目線を外すことなく、辛うじて絞りだすように……言えた。
「口では何とでも言える。もしお前が実家の力まで使って報復してきたら……俺は、全力をもって龍胆財閥ごと葬ってやる」
普通の中1男子が言っても絵空事だが……この人が断言するなら、本当にやりかねない。
私、ここまで嫌われていたんだ……この人に……伝わる言葉ないのか?
例え……空虚な憧憬だったとしても、鳳渡様は間違いなく「好きだった人」なんだ。
視界が滲む。こんなことでっ……泣くなあっ!!
まだ、終わってないのに!許せない!
挫けそうになってる自分が許せない!
歯ぎしりをして立ち上がる。背筋を伸ばす。シャンとしろっ!怯えて震えてる場合か!
殺意が感じられるほど強烈にギラリと光る琥珀色の瞳を、真っ直ぐ見て……口を開く。
「私は……私の出来る限り、誠意を込めて、償わせていただきます」
暫く間、私の睨みつけると……鳳渡は、ふんっと鼻を鳴らすと、私の方を見向きもしないで自分の席に戻る。
「俺の言いたい事は言った。後は好きにしろ」
もう完全に興味を失くしたように、窓の外を眺めている。教室に漂うビリビリとした緊張感が解れていく。
私の周囲に集まっていた人たちが、どうしたらいいのかわからず持て余し気味に顔を見合わせたりしている。
すると、一人の女生徒がツカツカと私の前にやってきた。クラス委員の三枝さんだ。
クラスの皆を見回しながら声を張る。
「言葉で幾ら何かを言っても、そう簡単に納得できる訳じゃないでしょ?」
私の方に三枝さんが向き直り……え!?
ぱぁんッ!!!──ガタガタ!がたん!!
まるでバレーボールのスパイクを打つようなフルスイングの強烈な平手打ちを受けて、私はよろけて倒れこみ教壇に背中を打ちつける。
「お、おい!?」
今まで静観していた向坂先生が、さすがに咎める声をだす。
頭の中が真っ白になって何も考えられない。顔がビリビリ痺れている。
このまま、しゃがみ込んじゃダメだ。視界がグルグル回るのを無視して、よろよろと立ち上がる。
「貴方も皆も、これくらいはしないと納得できないでしょ?」
ぱっぱと何事もなかったかのように手を払うと、三枝さんは、さっきよりは少し温かみのある口調で言った。
「クラスの公式のペナルティは、これでお終い!みんなもいいでしょ?」
かなり衝撃的な派手な平手打ちだったのか、むしろ無残な様子の私に同情的な目線が集まり、比較的多数の生徒が頷く。
「あとは、竜堂様が今後どのように変わったのか行動で証明してください。私達はそれを見て判断します」
「わかりました。皆さんの貴重なHRの時間を割いて頂き、感謝します。ありがとうございました」
最後に私は、もう一度深々と頭さげた。
戸口のドアに寄りかかって静観していた向坂先生が、ゆっくりと教壇の前にやってくる。
「さて。とりあえず……席に座ってくれないか?」
人垣が崩れ、ぞろぞろとクラスメートたちが席に戻っていく。
先生が、ぽんと私の背中を軽く叩く。振り返ると、先生の口元が一瞬柔らかく微笑む。一瞬だけど。
いつの間にか持ってきた冷たいおしぼりを手渡される。打たれた頬を冷やせってことか。
先生の瞳が、何となく『よく頑張ったな』と言ってる気がして……ちょっと嬉しい気分になる。
自分の席に戻ろうとして今更、気づく。私の隣が……鳳渡だった。
鳳渡は腕を組んだまま、相変わらずつまらなさそうに窓の外を眺めている。
さっきの強烈な眼差しを思い出して、一瞬……動揺する。でも、そのまま足を進めて自分の席に座る。
じんじんと疼くように痛む左頬に冷たいおしぼりを当てる。すうっと少し痛みがひく。
……ふう……袋叩きも覚悟してたんだ。このくらいで済んでありがたいって思わなきゃバチが当たる。
頬を冷やしてる私を、鳳渡が横目でチラリと眺めた気がした。一瞬感じた目線に激しい感情は何も見えなかった気がする。
ざわつく教室に、よく通る先生の声が響く。
「よし……HRは後5分くらいか? 小川!HR終わったら、竜堂を保健室に連れてってくれ」
保健委員の小川さんが、わかりました、と返事をする。向坂先生が皆の顔を見渡す。
生徒たちは、先生の言葉を待つ。
「俺は、竜堂が最低限だが仲間はずれや村八分を周囲に強要したことはない、と思ってる。それは、そういう目にあったときの心の痛みを知ってるからだ」
クラスメートの間に、『そうだっけ?』『あー、そういえば』『なるほど』という空気が流れる。
「痛みを知っている奴は、相手の痛みを理解できる……と俺は信じている。
そういう意味では、竜堂もクラス全員も俺は信じている。償いと称して竜堂に報復したり爪弾きにしたりするのは、以前の品のない竜堂と同じレベルだってことだよ。この学苑の生徒は品位を重んじるんだろ?」
うぐ、という息の詰まる気配が幾つか感じられる。もしかすると、私に仕返しすることを考えてた人がいたのかもしれない。
「許せとは言わない。ただ、竜堂は変わりたいと決めた。本当に変われるかはわからない。是非とも竜堂は、行動でそれを示してほしい。クラス皆は、厳しく見守ってほしい。……でも、竜堂だってクラスの仲間なんだ、余裕がある奴は手伝ってやれ。俺が言いたいのはそれだけだ」
もう行動で、これから証明していくしかない。私は強く頷いた。
私は……変わりたいんじゃない……変わってしまった。変わってしまって、自分の罪に気がついてしまった。
もともと、退路なんてないじゃないか。あんな昔の自分に戻りたいなんて「せりか」だって思っていない。
こうして、学苑初日の一時間目の長くて重いHRは、チャイムとともに幕と閉じた。
★ ★ ★
保健室にいる。さきほど、小川さんに連れられてきた。
私は色々な薬品の載ったカートの横の丸椅子に腰掛けて、おしぼりで頬を冷やしている。
養護の先生は不在で、必要な書類には保健委員の小川さんが何か書き込んでいた。
小川さんは、教室からここまで終始無言だった。黙々と作業している。
彼女は、小柄でショートカットの黒髪が良く似合う可愛い感じの人だ。中等部に一般入試で入って来たコで、割と喋り方とかも気さくだった気がする。
きっと、笑ったら、こっちまで嬉しくなっちゃうようなコなんだろうな……今は難しい顔をして無言だけど。
小川さんがこっちに来るので、おしぼりを離して、じんじんする左頬を晒す。
間近で少ししゃがんだ小川さんが身体をかしげ、私の頬を覗き込む。
「……うわ」
呟くような小川さんの呻き。え?……私の頬、けっこう酷いコトになってるの?
小川さんは何も言わずに、壁際にある割と背の高い両開きのキャビネットのところへ行き、なにかガサゴソと探している。後ろ姿で顔は見えないが、少し届かないのか、一生懸命背伸びしてる。……ちょっと可愛い。
でも、自分の顔の様子が心配になって、そぉっと左手で患部に触れてみる。けっこう熱くなってる。少し腫れてるような気もする。なんともない右側と比べてみよう。
右の頬も触ってみる……触った感じでは、そんなパンパンに腫れてる訳じゃなさそうだ。
何となく目線を上げると……上の棚に手を伸ばした小川さんがこっちを見てるう!?
バッチリ目線が合ってしまう。慌てて両手を膝に戻し、俯いて視線を外す。小川さんも慌てたように顔をもどした。
どこ見ていいのかわからなくて、リノリウムの床をウロウロと視線がさまよう。
でも、顔をむこうに戻す時に、一瞬……小川さんが微笑んだ気がした。
割と大判の湿布薬を持って小川さんが戻ってきた。ぺりぺりと手際よく透明な保護シート剥がす。
端をつまんでこっちに向けてきたので、貼りやすいように少し首を傾け、左サイドの髪が頬にかからないように手で纏めて避けて押さえる。
うひゃあ、ちべたい……とか思っていたら……
「……美香ちゃんも、ちょっとヤリスギだよ」
私の頬に湿布を貼りながら、小川さんがポツリと呟いた。
うーん、でもなぁ……どう考えても私が悪いんだし……。全然、やりすぎとか思わない。むしろ、アレで「終わりの合図」にしてくれたんだと思う。
それに、美香ちゃん……って三枝さん??
「そ。三枝美香ちゃん」
……ん?なんだろう……ちょっと、その名前に引っ掛かるものを感じる。
とはいっても、心当たりはない……どっかで会ったことあるのかなあ??
「せりか」の記憶をさらっても……パッとは思い出せない。何か、もやもやする。
「……派手に赤くなっちゃってるから大き目のやつ貼っただけで、たぶん明日には治ってると思うよ」
何箇所かサージカルテープで湿布を固定される。
明日にはひいてるなら、まぁ……いいかな。
「小川さん、ありがとうね」
「いいえ、どういたしまして」
ちょっとビックリした顔で小川さんは手が止まったけど、普通にさらりと返事をした。
彼女には、乱暴はしてないけど……そこそこ、キツイ態度はとってた気がする。一般入試組とかなんとか言って。こうして普通に接してくれるだけでも、すごくありがたい。ガン無視されても、散々なじられても、おかしくないんだから。
……ひとまず処置完了ってことで、教室に戻ることになった。
教室の少し手前の廊下で、先を歩く小川さんがふと立ち止まり、こっち向く。
「そういえば……さっきね。竜堂さんが、こうして頬を両手むにむにしてるの……すっごく可愛かったよ?」
頬を挟むように両手押さえて、むにむにする小川さん。
ぶっ……!!
思わずびっくりして変な声でちゃったじゃないか!
上目遣いでこっち見ててビックリしたよー、とか呑気なこと言ってる彼女は
そのままのポーズでニッコリ笑う。
「んでもね。……私、あんな竜堂さんの方が好きだな。前と……えらいギャップあるけどね?」
くすくす笑いながら、私の手を取ると教室に向かって歩き出す。彼女の手は、ちっちゃくて柔らかくて暖かかった。
手を引かれて数歩歩いたところで、私はちょっと嬉しい気分が萎んでいく。
……あ、でも……こんな手を繋いで教室に入ったら……小川さんが何か皆に言われるかも……。
そんなのダメだ……。
私の気持ちを察したのか、くるっと小川さんは振り返る。
「気にしなくてイイって。私は『品のいい保健委員』だからね」
ぱあっと笑う彼女は、思った通り……思ってた以上に、メチャクチャ可愛くて……
とっても幸せな気分にしてくれた。
「しずか」の『惚れてまうやろおおおおおお────ッ!!!』という心の絶叫はシカトした。
お読みいただき、ありがとうございます。とりま、メインの王子様の一人を登場させることができて、ほっとしてます。
たぶん、瀬梨華の【ドン底】は、この辺で打ち止めの予定です。多少、上げ下げはありますが、二番底とかはないと思います。
引き続き、ぽつぽつと書き進めていきたいと思っておりますので、よろしくお願いしますです。