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第02話 いつもと違う朝の風景

私の中で大谷静の意識が唐突に甦って、更に3日が過ぎ──。


いちおう、私は多重人格とか人格分裂とかいう事態に陥ることもなく、なんとかつづがなく日々の生活をやり過ごす事に成功している。


うーん、やっぱ、前世の記憶が戻ったっていう感じなのかなあ??


──どこのラノベだよ?


……とりあえず……「しずか」と「せりか」の区別は徐々に曖昧になってきてて

ときおり、ふわっとツッコミが入ったりしますが。気にせず無視無視。


素の性格でいうと「せりか」も「しずか」も結構似たとこ多くて、そのへんが幸いしたのかな?そんなに日数経った訳じゃないから何とも言えないけど。


くよくよ悩んでも、どーしよーもないコトなので……とりま起きます!



ここはドコのエルミタージュですか??的な豪奢な自室の天蓋付きベッドから出る。

──いくらなんでもそこまで豪華じゃありませんっ。


と、気配を察したメイドさんたちが現れて、ちゃっちゃと寝間着を脱がされる。


「お⋯⋯おはよう、ござい……ます」


恐る恐る、メイドさんに声をかけてみたり……ビクッとメイドさん達が震える。

スイッチの入ってる「しずか」なら『おはよう!今日も清々しい朝だな!(シャキッ!!』とか何とか某宝塚の男役みたいに言えるんだけど……瀬梨華の見た目とキャラが違いすぎてスイッチなんぞ入るか!


「……おぅ……おはおはようご…ざいます、お嬢様」


メイドさん達もギクシャクした感じの挨拶を返してくれる。1週間前まで、小さな暴君のように振る舞ってた凶暴な奴が、急に態度を変えたってビックリするだけだ。


こんな「2人分の記憶」があるなんてバレないように、できれば……いつも通り→イイ感じのお嬢様と徐々にグラデーションしてくようにシフトしていこうと脳内会議では決まったんだけど…………


──あんな真似……もう死ぬほど恥ずかしくて……できません。


「しずか」にしても、ワガママでタカビーなお姫様みたいなキャラを演じるスイッチなんてねえですよ!!


で、結局、オドオドとご機嫌を伺うような言動に。


そのまま、洗面器やら何やらが運ばれてきて、顔を洗ってもらい歯も磨いてもらい、簡単ではあるがしっかり髪の毛を梳かしてもらう。もう……どこのお姫様だよ……コレ?


自分でやるといったら……泣いて謝られたので……こういうことになってるんだけども……。



何故、このようにウダウダと考え事をしてるかというと、私はマッパで人に着させられてる最中なんでございますですよ!うわあああ!

「せりか」は生まれた時から当り前で、何とも思ってないみたいだけどっ。


29歳にもなって、すっぽんぽんで人様の手を借りて服を着せてもらうなんて!

恥ずかしくて死にそう……


これ、何の罰ゲーム?ねえ?



ぎこちない空気のまま朝食用の部屋着に着替えおわり……


「いま、朝食の用意を整えておりますので、少々……お待ちいただけますでしょうか?」

「着替え……ありがとう……。準備が、できたら……呼んでください」



ひいっ!と恐れおののくような悲鳴をあげてメイドさん達が、駆け出して部屋から逃走する。


そんな猛獣の檻の中にいた訳じゃあるまいし……。あたしゃ虎かライオンか?


──まぁ、ずいぶんとマシにはなったけどねぇ……


って、自分しずかに自分せりかが、申し訳ないとか思ってどうするのよ?

「こんなことに巻き込んですいません」とか言うなよ!


願ってこうなった訳でもないが、二人で一人の「私」なのだから、いちいち謝り合ってたらキリが無い。

頭の中が「ごめんなさい」だらけになっちゃう。


一瞬、きょとんとして……くすっと笑みがこぼれる感じがする。


初日──三日前は、私が「……おはよう」って必死になって絞り出したら、悲鳴を上げて逃げたもんな。


「お、お嬢様が朝のご挨拶を……!?」って。心のなかで、笑いを噛み殺す。

もぉっ、ネタしないで下さいっ!という抗議の声が、頭の片隅でザワザワっとしてるけど、キニシナイ。


自室の真ん中で、ぼんやり呼ばれるのを待つ。どうせ数分だしね。


待てずにキレたところで朝食が早く整うわけでもない。……まあ、以前は待てずに癇癪おこしてたんだけど。

毎朝アレが気に入らないコレが嫌だとキレて、メイドさん達を怒鳴り散らしていた。


もちろん、挨拶を交わしたこともなければ、労ったことなど一度もない。


今朝のメイドさん達の態度だって、私がいつ以前のように些細なことで逆上するかビクビク怯えてたにすぎない。

──そもそも、メイドさんに起こされた時点で……


消え入りそうに、しょげた呟き。起こされた時点で、蹴ったり殴ったりしてたなあ……そういえば。


あんなイライラしてビリビリしてたら、夜だって眠れやしないし朝だって時間に起きられる訳ないもん。

明け方までベッドの中で泣いたり怒ったりして。


何だか知らないけど以前のイライラしてた瀬梨華の時より、ぐっすり安眠できるし……二人の意識は割とイイ感じで馴染んできてる気もする。

起こされる前に時間通りに目が覚めるしねっ。


ふと、部屋の隅にある姿見に目をやると……自分が……「瀬梨華」が写ってる。


近寄ってマジマジと覗き込む。……綺麗だよなぁ……ぺたぺたと頬を触る。

睫毛も長いし……地毛が蜂蜜色で瞳がブルー、いや藍色かな??さすがクォーターだぁ。


──少女マンガのヒロインでも今どきアリエネーですよ?


なんだか脳内でモジモジと恥ずかしがっている感じがするけど。


ただなぁ……表情……ないんだよな。生気がないって程じゃないけど、物凄くクールな無表情。

本人、かなりニッコリて笑ってるつもりでも、すっと口元が涼しく微笑むくらい。


……しかも……なんだか……凄い悪いこと考えてるみたいなゾッとする感じの微笑み……


うう……これじゃ、メイドさん達が怯えて逃げるの当たり前だよぉ……。


両手の指で頬の表情筋を揉んだりして笑ってみても、かなり頑固な鉄面皮。


──瀬梨華ってもっと喜怒哀楽がドバドバ顔に出る感じじゃなかったけ?


いや、いくらなんでもそんな迸るように表情豊かじゃなかったと思うけど……静のとき、会社とか外ではカナーリ表情がっちり固定してたからなあ。そのせいかなあ。


頬を、むにゅっと引っ張ったり、顔の向きを色々変えたりして瀬梨華の美少女成分を満喫してると……


鏡の中の肩越し……半開きのドアの奥に、一人の栗色の髪の美少年が立っているのが写っていた。


私と目線が合うと、その翡翠の瞳がゾッとするほど冷たい色を帯びる。目障りなモノを見たといわんばかり一瞥すると戸口を通り過ぎ、廊下の向こうへ歩いていった。


で、今のが……私の“お兄様”だ。くそ……おかしなトコ見られちゃったじゃないか。

だいたい、ここまでベタ展開なら、テンプレどおりのシスコン兄でイイじゃねえかよ!?


何いまの?ケンカ売ってる?ねえ?特大セールしてる??


……ただ、どうも、なんか引っかかるんだよなあ……“お兄様”も。以前の瀬梨華の印象だと「妹のことクズかゴミくらいにしか見ていない」というんだけど。


確かに、毎度毎度、今みたいな冷め切った目線で見下すように一瞥されれば……そりゃそうだよねえ。

この三日間の間も、何度も心のなかで「殴ってイイ?」「張り倒していい?」と呟いたことか。


ぼそり、と自分の口から怨嗟の呟きが漏れる。


「美少年は……平面で結構。……三次元の美少年なんて、もげてしまえ……」


そう、これは「しずか」の信条だ。まさしく前世の呪い?業?

「せりか」が慌てて意識の海に溶けて退散する。


とにかく「しずか」は三次元の美青年、美少年が大嫌いなのだ。

無条件で敵性対象だ!


それが、あんな目線送られれば宣戦布告と同義!

「爆ぜてしまえ!」としか言い様がない。


……でも、何か……それでも……違和感が残るお兄様だ。



とりあえず、大した表情もできない顔だし……誠意をもって謝罪とかいうノリは無理だ。

ひたすら大人しく揉め事を起こさない方向で信頼回復を狙うしかない。


そんな訳で、お淑やかで口数の少ない深窓のご令嬢作戦実施中だ!


……その分、お屋敷内は大混乱だったみたいだけど。


      ★ ★ ★


「お父様、お母様、お兄様……おはよう…ござい、ます」


ダイニングルームに入り既に席に着いている家族に、お作法通りの挨拶をすると、それぞれの返事がくる。


お父様は目も合わせず「うむ」の一言。

お母様は弾むような声で「おはよう。瀬梨華さん」と満面の笑み。

お兄様はチラリを蔑むように一瞥し視線を外すとボソリと「おはよう」


「瀬梨華さん、体調の方は?具合が悪くなったらすぐ言うんですよ?」


席についた私の方を心配そうに覗き込みながら、お母様が言う。


お母様……今日も目が醒めるような超美人!!

ゆるいパーマのかかったプラチナ・ブロンドのロングヘアで40歳過ぎてるとは思えない抜群のプロポーション!

それも、きょぬーです!たゆんたゆんです!!いわゆる美魔女って奴ですかっ!?

誰かが「それ古くない?」とか言ってる気がするけど、キニシナイ!!


そしてっ……お父様……。


うぅ……ダメだ。ダメだよぅ……。

心のなかで、私はガクリと両手両膝を地に落として打ちひしがれる。

渋いっ!!渋すぎるっ!!こんなカッコイイ神ダンディが父親なんて!!

ええい!せりか!!うるさい!!黙れ!

見ろ!このサラッとベタつき感皆無のオールバックに幾筋かの年季を語る白髪!

シャープなお顔立ちに決してこちらを見ないクールな眼差し!

そして、端正に整えられたお髭!全てが嫌味にならないギリギリのバランス!!


はうあぁ……ダメだぁ……カッコよすぎるぅうう……


どんなに瀬梨華が厭われ足蹴にされ無視されても、これは譲れない。むしろ踏まれたい。


そう。私はシルバーグレーのおじさまにメチャクチャ弱い。これは、思い切り静の趣味だ。


もしも、超絶技巧の天才絵師によるロマンスグレーおじさま×頑固一徹の職人オヤジの

ハイクオリティーなカップリング本を、コミケとかで入手してしまったら、タブン死ぬと思う。


主に鼻血による失血死か溺死で。


とかなんとか頭の中で盛り上がっているのに、私は殆ど無表情でポツリとお母様に返事をした。


「はい……お母様……」


「はぁ……急に瀬梨華さんがお淑やかになってしまったわ。お母さん、少し寂しいな……」


周囲の使用人一同の「全ッ然!寂しくありません!」っぽい感じの

願いだからヘタに刺激しないでくれという魂のシャウトが聞こえたような??


無意識の内に、チラリとお父様を見てしまう。お父様はスッとお兄様の方へ顔向け、学校での様子などをお尋ねになり頻りに褒める。


だが……私は気づいてしまったのだ。そう、重度のおじ様フェチの記憶とともに。

かつての私は、お父様に我儘なオネダリを度々していた。膝や腰に縋り付き泣きじゃくったりもした。

──な、なんて美味しいんだ!!


いかん、ヨダレがつーーーっと垂れそう!


と、ともかく、瀬梨華の記憶を辿ってみると……


いつも、お父様の目元や口元が不自然にピクピクッとなっていて……

オネダリ開始から20秒過ぎた辺りで天を仰ぎフルフルした後に……

振り払うように「勝手にしろ」「知らん。好きにしろ」と努めて重く冷たく言い放って瀬梨華を引き剥がす。


それも……断腸の思いで。


瀬梨華は気づかずに、はしゃいでいたが……ネクタイを緩め溜め息をついたり、くっと残念そうな声を漏らしていた。


──どこが娘嫌いなんだよなーー。


……ねー、気づいてみたら、何の事はない……ただの娘を溺愛してる親バカじゃないか。


横で「せりか」が転げて爆笑してます。いやいや、君ね……ちょっと笑いすぎ。ほら、お腹痛いって。


しかも、私が「ご機嫌で薄っすらと微笑む」のと「悪巧みしてニヤっと薄く笑う」の違いをお父様はわかってるみたい。


ご機嫌な方だと、目尻が下がりそうになるのをグッと堪えてピクッてなるし、

悪い方だと、またコイツ何かやらかすのか!?って驚くのをグッ抑えてピクッてなる。


……もう、親娘で、どんだけ微妙な表情筋のコミュニケーションなんだよっ!?


父親の威厳の為か、相好を崩すのが照れくさいのかわかんないけど

そのお陰で、小さい瀬梨華がどれだけ傷ついたと思っているんだ!?


愛情は……なんとなく辛うじてわかったら、一応……許してあげるけど。

どストライクの超絶美形ロマンスグレーだしね!……違う!静、黙れ!


でも、しばらくは薄っすら微笑んだり、ちら見したりして、ドキドキさせてあげるんだ。


──くす♪




……ガチャ!(動揺したお父様のフォークの音)



R18モノと違って、割と方針もなくキャラに勝手に喋らせて動いてもらっている感じなので…………なかなか学園モノになる気配がない!∑(´Д`)


拙い文章ですが、お気楽に読んでいただければと思いますす。

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