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魔法あります  作者: 猫屋ちゃき
第二章 青い鳥
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4 少年と花瓶

 晴れの日続きで水溜りがないせいで、ここ数日ハッちゃんたちに会っていない。

 俺と武内さんと時々タマさんが加わって、他愛もないおしゃべりをしながら魔法を求めて来るお客さんを待っていたけれど、結局は新作アイスを食す以外の活動ができていない。タマさんがアイス作りに熱を上げていることだし、いっそのこと「アイス同好会」を名乗ってしまおうかとまで思えてくる。

 そんな感じで今日もアイス品評会とおしゃべりで時間が過ぎていくと思っていたのに、来たのだ。待ちに待ったお客様が――。


「なぁ、ここは魔法を売ってくれるんだろう?この花瓶を直す魔法をくれよ」


 そう言って現れたのは、何ともふてぶてしいお子様だった。花瓶の破片と思しきものが入ったビニール袋をズイっとこちらへ差し出してくる仕草といい口調といい、生意気の見本のような子供だ。


「あらら。随分と派手に割っちゃったね。直せるかな」


 武内さんは子供の目の高さに合わせるように腰を落とし、優しく話しかけた。

 けれどそんな気遣いに応えることなく、子供は面倒くさそうに顔を背けた。


「あんた魔法使いじゃないだろ。部外者に用はないんだ。早く魔法使いを出せ」


 随分な態度だ。元気な子供は好きだけれど、行儀の悪い子供は受けつけない。


「君が壊したの?」

「……そうだよ。それがどうした! 早く魔法使いを出せ!」

「魔法使いはいない。この店の魔法に関しては俺が任されているんだ」

「あんたが?」


 少年は疑り深い目でこちらを睨んでくる。それに対して俺も、努めてきつい目つきで応戦する。そんな俺たちのギスギスした空気に、武内さんはオロオロしていた。


「持ち主には謝ったのか? もしまだで、証拠隠滅のために花瓶を修理したいのなら協力しない。悪事の片棒は担ぎたくないからな」


 証拠隠滅や悪事という言葉に怖気づいたのか、少年の顔が見る間に曇って弱々しくなっていった。この態度を見る限り、根っからの悪ガキというわけではないのかもしれない。


「……まだ謝ってない。でも、隠すつもりで直してもらいにきたんじゃないんだ」


 年のころは小学校中学年くらいだろうか。少年は泣くのを堪えて、ポツポツと話しはじめた。


「これ、死んだおばあちゃんが大事にしてた花瓶なんだ。おばあちゃんが死んでからおじいちゃん、元気なくなっちゃって……笑って欲しくて庭でボールのすごい技見せようと思って練習してたら、うまくできなくて、花瓶に当たって……このままにしとくと、おじいちゃんが悲しむ……」


 少年の涙まじりの告白を聞いて、俺と武内さんは顔を見合わせた。

 さっきまでの横柄な態度は、焦りの表れだったのかもしれない。そう思うと、どうにかしてやりたいという気持ちが強くなった。

 それは武内さんも同じらしく、さっきから「ねぇ。なんとかしてやってよ」というような無言の圧力がすごい。


「完璧な状態に戻せるかわかんねぇけど、やってみよう」

「お願いします!」

「よかったねー」


 少年がペコリと頭を下げ、その横で武内さんがぴょんぴょんと跳ねださんばかりに喜んでいる。もう完全に二人は修理ができるつもりでいるらしく、その期待に少し胃が痛む。

 少年がこの店に辿りつけたということは魔法に縁があったということだけれど、それでも直せるという確証にはならない。


「花瓶の修理って、何を使えばいいんだろうなぁ……」


 店内を物色してみるけれど、求めるものは見当たらない。この「たまや」で接着剤のようなものを探すのが間違っているのかもしれないけれど。


「安達くん、これは?」

「……そんなものあったんだ」


 どこから引っぱりだしてきたのか、武内さんの手にはセロハンテープが握られていた。テープカッターの部分は凝ったアンティーク調で、そういう雑貨が好きな人にはウケそうだけれど、そんなものが店内にあったことが驚きだ。やっぱりここは不思議を売る店なのだなぁと改めて実感する。


「何でそんなもの使うの! 僕は魔法で直してもらいにきたんだよ!」

「ちょっとあっちでアイス食べて待ってようか」


 セロハンテープを目にして泣きそうに叫ぶ少年を、武内さんがなだめながら表に連れ出してくれた。頼みの綱でここを訪れたのに、出てきたものがセロハンテープだったら、確かに泣きたくなるだろう。


「粘着力、残ってるかなぁ」


 ビニールから破片を取り出して並べてみながら、まずはパズルのように組み立てていくことにしよう。

 少年と同じように不安はあるけれど、ここは「たまや」だ。魔法の力を信じてやるしかない。



「……できた」


 大きめの破片からくっつけていき、残りの破片は形と柄で推理していくことで、何とか完成させることができた。テープの粘着力はちゃんと残っていたから、くっつけていくこと自体は難しくなかった。難しかったのは細かい破片を接ぎ合わせることだったけれど、それもテープを長めに切ってコーティングするように貼り付けることで乗りきることができた。

 ただ――


「これは、どうしたもんかなぁ……」


 直せたのは直せたのだ。けれどそれはあくまで物理的な話で、魔法の力を感じるような見た目にはなっていない。つまり、ツギハギということだ。


「まぁ斬新な修理だねぇ。金接ぎに代わる庶民的な方法として広まるかもしれないよ」

「タマさん……笑えません。どうしよう」


 奥からやってきたタマさんが、花瓶を手にクスクス笑っていた。俺としては全くもって笑い事じゃないのだけれど。


「大丈夫よ、司くん。よくやったわ。おーい」


 タマさんは表にいた武内さんたちに呼びかけた。武内さんと打ち解けたのか、少年はもう泣いても怒ってもいなかった。


「ボク、直ったよ」

「え……」


 タマさんから花瓶を手渡されて、少年の顔にあきらかな落胆の色が浮かんだのがわかった。それをなだめるように、タマさんは少年の頭を撫でた。


「大丈夫よ。司くんがちゃんとどうにかしてくれるから。ね?」


 タマさんと、タマさんになだめられた少年が、期待の眼差しで俺を見た。

 タマさんが大丈夫というのだから、きっとそうなのだろう。だから、俺は二人に頷いてみせた。


「司くん、今回の場合どうやったら魔法が発動すると思う?」

「どうやったら、ですか……」


 タマさんに問われて、ハッちゃんたちのことを思い出してみた。ハッちゃんたちは呪文を唱えて、水たまりを飛び越えることで変身する。これは使うのがハッちゃんたち猫であるということを考慮してのお手軽さだ。

 でも、呪文を考えて少年が唱えることで花瓶がちょちょいと直るというのは、何だかダメな気がした。

 今回の場合は、あのおばあさんに教えてもらった会いたい人に会える魔法のように、強い思いを発動条件にするのが適しているように感じる。

 魔法は人の気持ちに寄り添って奇跡を起こすけれど、楽をするために使ってはいけない気がするからだ。


「心から謝ることができたら、花瓶はちゃんと直る――っていうのはどうかな?」


 悩みながらそう口にすると、タマさんはニッコリ笑って頷いた。


「いいと思う。ボクが本当に悪いと思っていて、そのことをきちんとおじいちゃんに伝えることができたら、魔法はそれに応えるわ。わかった?」

「うん!」


 タマさんの問いかけに、少年は大きく首を縦に振った。そして、タマさん、俺、武内さんを順々に見てペコリとおじぎをすると、花瓶を手に駆けていった。

 その後ろ姿には苛立ちも悲壮感もなく、安堵とこれから目にする魔法への期待が溢れていた。


「よかったね、幸太くん」


 口を挟む隙がなかったためか、さっきまで大人しくしていた武内さんが嬉しそうにしみじみと言った。いつの間に少年の名前を聞きだしていたのだろう。武内さんのコミュニケーション能力にはいつも驚かされる。


「何で安達くんが魔法に関われるのかわかった気がする。それから、タマさんが前に言ってたことも」


 ポツリと武内さんが呟いた。ちょっと残念がっているような、でも面白がっているような感じで。


「魔法って、感覚的な部分が大きいんだろうね。だから何でも理詰めで考えて、人の気持ちとか状況より理屈を優先させちゃうようなタイプのあたしは向いてないなーって」

「どういうこと?」

「安達くんみたいな、数学の公式を素直に丸暗記できるタイプが魔法には向いてるんだなーって思ったって話!」

「……馬鹿にしてる?」

「してない。でも、文理選択は間違わないほうがいいと思う」


 さっきまで神妙な顔をしていたのに、武内さんはそう言うといたずらっぽく笑った。失礼な奴だ。数学と魔法は関係ないし、数学は不得意だけれど何とか赤点は免れている。


「魔法を信じることができるっていうのも立派な資質なんだよ、春香ちゃん。でも向き不向きの話なら、春香ちゃんは魔術向きかもね。魔法が芸術なら、魔術は学問だから」


 少ししょんぼりしている武内さんを気づかってか、タマさんがそう言って武内さんの背中をポンポンと叩いた。

 それを聞いて武内さんはしばらく考えたあと、


「そっかぁ。だってよ、芸術家!」


 と言ってニンマリしながら俺の背中をバシバシ叩いた。



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