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ショート・ショート その1 教授と僕

作者: スックブ

(仮)

実験的試み

 ある大学の一室。

「昨日までは涼しかったのに今日になって急に暑くなったね」

 教授は僕に言った。正確には独り言だが、大きな声で明らかに周りの反応を期待してて、室内には僕と教授しかいなかった。

 無視をすると教授は拗ねるばかりか僕が必死になって稼いだ単位を削ろうとするので渋々ながら、しかしそんなことは表情には出さずに答えた。

「秋は天気が変わりやすいですからね」

「そんな単純な話をしているのではないのだよ」

 教授は鼻をフフンと鳴らした。

「天気の話は話題がないときにするものでしょう」

 僕は生徒を苦しめるために出されたとしか思えない課題をS君が置き忘れたノートから必死になって自分のノートに写し取る作業に戻った。

「話をする必要がないなら黙っていれば良いのだ。無理に口を開いたところですぐに気まずい沈黙が幕を降ろす」

「でも、そういうわけにもいかない場合もあるでしょう?」

 僕はS君の綺麗な文字と自分の汚い文字を見比べながらこれは同じ言語だと心の中で言い聞かせた。

「そういう場合はもちろん、なにかしら、話せばいい」

「でしょう?」

「でもキミ。キミは例えば赤の他人に天気の話を振った経験があるのかい?」

「そりゃぁ有りませんが。今のご時世、声をかけただけで公的機関がすっ飛んで来ますよ」

「それはキミの下心が見透かされているからだ」

「もしかして結構な噂になってます?」

「ああ。私のところにキミを厳重に注意しろとお達しがあったよ」

 教授は僕に近づいてS君のノートを取り上げる。僕は思わず「ああっ!」と声をあげた。

「ふむ。J女史の課題か。相変わらずいやらしい。彼女は優秀なのだが若さに対してコンプレックスを隠す努力をするべきだ」

 僕はS君のノートを取り戻そうと手を伸ばすが全て避けられてしまう。

 僕は諦めて真面目に教授の話に付き合うことにした。

「なんでしたっけ。今日が急に寒いとかなんとか」

 教授は満足したように頷く。

「天気を操れる力を人類はまだ手に入れていないんです。しょうがないんじゃないですか?」

「私が一番嫌いな言葉はね、キミ。”しょうがない”の一言なんだよ」

 僕は先日教授が「”ドンマイ”という単語が一番嫌いだ」と言っていたことを覚えている。

「教授には急に暑くなった原因が気象現象の他になにか心当たりがあるんですか?」

「ああ。これは”だれ”のせいだ」

 教授が腕組みをして堂々と宣言する。

「”ダレ”? 焼き鳥の?」

「馬鹿者め。それは”タレ”だ。”だれる”と言った方がわかりやすいか」

「気持ちが緩むことですか?」

「そうだ。夏休みが明け、親の脛を齧るだけ学生が教育機関に通い戻る。そいつらの脳天から飛び出たエネルギーが今回の暑さの原因だ」

 僕は教授に話を合わせた。

「なるほど。なるほど。それは社会人にとってはいい迷惑ですね」

「当然ながら――私は社会人のどこが社会的なのかわからないが――その社会人が学生を見て悪態をつくエネルギーも加わっている」

 教授は白衣からバスケットボールほどの大きさがある漫画で描かれるようなエネルギーの固まりを取り出す。

「これがその一部だ」

「確かに”だれだれ~”な感じですね」

「なんだそれは」

「え? つまり、……はい。すみません」

 教授は焦げ茶色の球体をS君のノートを下敷きにしておくと今度は白色のソフトビニール人形を白衣から取り出した。僕は急いで机の上に広げた筆記用具を片付ける。

「その人形はなんです?」

「これはヤル気マンだ」

「そんなのどこで買ったんですか……」

「これはキミの盛ったヤル気を取り出して造ったのだ」

「……いつの間に」

「ゼミの飲み会の帰り、送り狼と化したキミが私の部屋に上がり込んで来た時だ」

 ヤル気が抜き取られていたから僕は柄になく課題をこなそうとしていたのか。

「もうちょっと桃色なのかと思いました」

「人形を精製する際に不純物を取り出したのだ。返してやるから今度取りに来い」

「はぁ。それでそのヤル気人形がどう”だれ”に作用するんですか?」

 桃色が抜き取られた僕は目の前のことに注目していた。

「む。こっちの方が気になるのか。まぁいい。楽しみは今度に取っておくとして、この人形を”だれ”の固まりに突っ込む。えい!」

 ”だれ”の固まりに上半身を突っ込まれたヤル気人形はじたばたして頭を抜き出すと机の上に乗り、”だれ”の固まりを両手で頭上に持ち上げる。

「おぉ~。力持ち」

「まだまだこれからさ」

 ヤル気人形は手の平から白いビームを放ち”だれ”の固まりを宙に浮かせる。”だれ”の固まりはビームの当たる部分からじわじわと白色に浸食されていく。

 焦げ茶色から完全に白色になるとヤル気人形は飛び上がり、空中で”だれ”の固まりだったものを叩き割った。中から飛び出た小さな人形をヤル気マンが優しく受け止める。

「何が言いたいかと言うとね、キミ。天気の話は言い難い話題に繋げるための振りでもあるんだよ」

「……」

 教授は自分のおへそ辺りをさする。

「キミの子だ」


                               おわり

誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いします。

発見しだい修正します。

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