表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
2/95

言葉の壁

 ゆらゆらとした水の中から追い出される感覚で僕は目を覚ました。


(なんだ!なにがあった!?)


 目を開けると二人の美形が見えた、見たことがない人達だ。


(だ、誰だ?!銀髪の知り合いなんて居ないぞ!!)


 僕は日本から出たことがない、出る必要もなかった。


 二人共銀髪で整った顔立ちをしている。

 よく似ているが片方は十歳ぐらいの少年?随分可愛らしいので女の子に見える。

 もう一人は二十歳ぐらいの青年…格好からして男だろう。

 華奢なようだが鍛えられた体つきをしている。

 二人共とても嬉しそうな顔をして僕を見ている。


 手足がろくに動かない、体を起こそうとしてもあまり動かない。

 誰かに抱きかかえられている感覚がある。


「Какой мальчик или девочка?」


 少年が僕を抱きかかえている人物に飛びかからんばかりに話しかけた。


(日本語じゃないな?どこかで聞いたことがあるような言語だ、メジャーな言語だったらいいけれど。

和風な格好でもない……中世から近世ぐらいの服装に見えるな。

日本の量販店じゃ売ってないだろうな、コスプレしてるってわけじゃなさそうだ。使い古してある)


 大混乱していた頭が少し冷えてきた、落ち着いて情報を整理しなければいけない。

 ちらちら見える部屋の様子を見る限りは木造の家のようだ。


(剣……剣が置いてある!軟鉄じゃないな、精錬してある鋼だ。調べてみたい、ある程度新しい物だな)


 見ただけである程度わかるのは『能力』のおかげだ、触ったりすればもっと分かる。


(おっ、柄の部分見たこと無い素材じゃないか)


 僕は鉱物、金属なら大抵見ただけでわかる、わかるように訓練させられている。

 その僕が見たことない、わからないということは未知の鉱物、金属の可能性が高い。


「―・・――・・・」


 考え事に夢中になっていた僕を抱きかかえている……女性だ、が少年に返事をしている。

 キラキラとした目で僕を見ている少年を見るかぎりだが、彼らは僕に害する気がないようだ、

それだけでも安心できる。


 青年が奥にいる誰かに話しかけた。


「Что бы вы ни сделали,ナディア」

「Спасибо брату」


 僕を持った女性が、僕をその誰かに軽々と差し出した。

 とまどう僕はナディアと呼ばれた女性に抱かれた。


「Ваша name'm Александра」


(うわ……すごい美人、シーツだけ着てるから絵画みたいだ)


 僕を見つめるナディア?さん、その青い目は透き通るように綺麗だ。

 その目に写る僕は……


 どう見ても赤ん坊だった。


(えっ、ちょ、まっ、えっ?えっ?ん?えっ?)

(ちょっと待て落ち着こう、僕はどうなったんだ?

えーっと実験室に戻るところだった、事故に遭遇して車の中にいる人を助けようとした

その後……その後は……)


 刺された。


(そうだ刺されたんだ、なんでかはわからないけど美人に刺された。それから…それから…)


 久しぶりに僕の作ったナンデモキレールを見た。


(そうじゃない!刺されて大量に出血してた、そして意識を失ったんだ

思い返したら痛くなってきた、なんでこんな目に合うんだ)


 単に仕事をサボってタルトを食べていただけなのに、理不尽だ。

 ムカムカしてきた。


 怒りだ!もう怒りしかない!


 怒りは涙に変わった。


「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」


 僕の渾身の泣き声はどう聞いても赤ん坊だった。


「Плакал!」


 ナディア?が嬉しそうに叫ぶ。


「Я был освобожден」


 先ほどまで僕を抱いていた女性がそう言った。

 泣き疲れて意識が混濁してきた僕の耳に数々の言葉が聞こえてくる。


「――・―――・―」

「――・―・―」

「урааааааааааааа!!」


(あ、ロシア語だ)


 僕はそのまま眠った。



---


 五日後、へその緒が取れた。

(うえぇ、気持ち悪いぃ)


---



 一週間後、赤ん坊用の寝床で僕は情報を整理していた。


 ひとつ、僕は今現在、赤ん坊である。

 輪廻転生などは信じていなかったが、現実に起こったのだから仕方がない。


 ふたつ、ロシア語圏である。だが、僕の知っているロシアではない。

僕の知っているロシアはエネルギー問題の解決により、ガンガン開発が進んで電気が通ってないなどということは無かったはずだ。

電気が通ってないなんてのは無人島か、近代化を拒否し続けている一部の人々が住むところしか無い。


 みっつ、この家に住んでいるのは僕の他に四人。

 彼らは自分の名前を覚えてもらうためにか僕に名前を何回も言ってくる、0歳児に何を期待してるんだ。


 ヴァーニャという青年、僕の……赤ん坊の僕の父だ。

 毎日剣を持ってどこかへ通っているようだ。あの剣はいつか調べたい。


 ナディアという女性、僕の母だ。銀髪のロングヘアで青い目、美人というより美少女に見える。


 ダーシャという少年、この少年の立場がわからない。多分、ヴァーニャかナディアの弟だろう。


 リーザという僕を抱えていた女性。茶髪のショートヘア、二十歳半ばぐらいだろう、使用人かベビーシッターの様な仕事をしているのでそういう立場なのだろう。


 そして僕はサーシャと呼ばれている。 どうやら愛称のようだが。

 股間を確認したが生えていた、元気な男の子ですよお母様。


 情報を整理しても何も出来ない、少し考えるだけで眠くなるし、大人しく寝ることにしよう。赤ん坊は寝るのが仕事だ。


---


 半年が経過した…と思われる。

 カレンダーも無い、確認しようがないから仕方がない。

 おっぱい吸うのも慣れました。

 ここが何処なのか、今は何年かなどは考えないようにしている。

 言葉や文字がわからない以上、調べても仕方がないからだ。


 ハイハイが出来るようになったからちょっと外に出ようとするとリーザに止められた。


「Вне Это опасно」


 何言ってるかわかんないよ……


---


 僕が生まれたのは夏だったと思う、二度目の夏が来て現在は冬だ。

 大体一年半が経過したことになる。

 部屋の中にずっと居ると言う状態に精神が参ってきた。

 一歳になった時にはもうよちよち歩きができるようになっていたが、リーザが外に出るのを止めるのだ。

 何度も何度も止められるたびに同じ言葉を言われていた、多分外は危ないと言っているのだろう。


 リーザは仕事熱心だし真面目そうだ、子供を怯えさせるために嘘をついてるようには思えない、言葉がまだわからないわけだし。

 窓はあるのだが、僕の身長では届かないし、寒かったり夜になったら木の蓋をしてしまう。

 結局、僕は家の中しか見れないのだ。


(旅行に行きたい……刺し身が食べたい……伊豆か熱海が良い。風呂が無いんだよなこの家。けど危ないって言われてる外に行くって死にたいわけじゃない)


 そんな益体もない事を考えていると両親とダーシャが帰ってきた。

 僕は両親に向かっておかえりなさいに値すると思われる言葉を贈った。


「привет!」


 多分合ってる……はずだ。

 みんなニッコリ笑っている、よしっ。


 最近はヴァーニャの外出にナディアとダーシャが同行するようになった。

 ヴァーニャはたまに怪我をして帰ってくる、未だになんの仕事をしているのかがわからない。

 妙に大きいウサギ?っぽい死骸やイノシシ?のような死骸を持って帰って来る時があるので猟師だと思っていたが。

 絶対に剣を持っていくし、ナディアは杖のようなものを持っていくしでさっぱりわからない。

 ウサギ?は結構美味しい、ホロホロで臭みがない。


 ここは聞いてみるのが一番良い。

 杖を指さして僕は渾身のロシア語を放った!


「Что это?(これは何ですか?)」


 ナディアはニッコリ笑って口を開いた。


「Я волшебная палочка」


(たまには日本語喋ってくれないかなぁ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ