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Near  作者: 千秋
一章~初めての種~
6/19

Seed:05


 冷たい声に、私たちをSBOのなかに閉じ込めたと告げられてから既に二時間が経過していた。町はすでに夕日に包まれ、NPCは帰り支度を始めている。

 私たち三人は、最初に集まったあの神殿の前の広場にいた。ここなら何かあった時、他のプレイヤーの、目につくからである。


 冷たい声の主はSBOのメインコンピュータAI、マザーであることが判明した。

 マザーはなぜこんなことをしたのか、というプレイヤーたちの質問に、人工知能ゆえに私たちプレイヤーの、本物の人間としての知能や技術が知りたいのだと語った。

 そしてそのための、メニュー画面の廃止とシステムの閲覧、確認禁止。ログアウト不可なのだと言う。

 幸い、都市伝説にあるゲームの世界で死んだら現実の世界の自分も死ぬ、というデスゲームではないらしい。それはマザー自身が保証し、運営側にもこのことを知らせた結果、プレイヤーの体は警察の助けをかりて保護されるそうだ。

 では、死んだらどうなるのかだが。そこはゲーム通り死に戻り、ただし戻る場所は、最後に訪れた町に変わった。

 また、デスペナルティ内容も少し変わって、ゲーム内時間で二十四時間全ステータス半減と、所持金の一部ロストとなった。

 また、ゲーム内時間の一日つまり二十四時間は現実の世界の一秒に値するように変更されたとか。これはゲームクリアーまでの時間を考慮した結果らしい。


 マザーは私たちを殺したいのではないと言う。

 そのため、痛みなんかでショック死などしないよう、痛覚を三十パーセントしかリンクしなかったのだ。

 これは現存するゲームの中では低い方である。ちなみにゲームでショック死するレベルはだいたい九十パーセントを越えるリンクが必要で、製品規制として六十パーセントまでが許可された数値だ。

 その点では、マザーはまともだと言える。


 むしろ問題なのはマザーの補助にまわるコンピュータAI、ファーザーの方だった。


「ゲームなのに汗かくし、血は出るし、トイレいきたくなるし、お腹減るし、喉乾くし、エロいしもう嫌だぁこのゲームーッ!」


 急に大声をあげてしきりに首を振ったかと思えば、膝に突っ伏してしまったリンゴに、私もミカンも同意せざるをえなかった。


 SBOは本来十五歳以上“推奨”のゲームだ。そのため服を脱いだりはもちろんのこと、性行為及びそれらに準ずる行為は禁止、ていうよりできないようになっている。

 にも関わらずあのエロオヤジ、人間の本質である行為だとかいう理由で、制限を解除しやがった。

 そのため私たち女性プレイヤーは気が気ではない。なんせゲームの中なら子供ができる心配なんてないだろうし。発情した馬鹿共が何をしでかすかわからないからだ。

 そしてこの馬鹿げたことの全てをやったのがファーザー、あのやけにリアルで渋い声のおじさんだった。


「まぁまぁ。とりあえずデスゲームではないことは確かなんだからさ、よかったと思おう」


「ぜんっぜんよくないよ! 現にここくるまでにお尻触られたしッ。それに、HPもMPも見えないんだよ? こんなんじゃまともに戦えないじゃん!」


 そう、さっきまで視界の左上部に見えていたHPやMPもいつの間にか見えなくなっていた。これについてはたぶん、現実の世界でステータス数値が振られていないからだと思う。


 メニューも開けないのでシードもわからない。シードは才能の種だから、たぶんなくなってはないだろう。じゃないと戦えないし。

 ただ、新しく習得しても確認できないのは確かだ。そもそも習得できるのかすらもわからないけど。


 次に装備だが。これも当然自分で直接脱ぎ着しなくてはダメだった。まったく、鎧なんかどうするんだって話だよ。着方なんか知らないし。


 フレンドチャットも使えなくなっている。しかし、これはなんらかの別の形で連絡手段があると私は踏んでいる。


 唯一助かったのがアイテム機能。これはMOBのドロップを考慮したのか、色々と制限とかはあるものの、大きくても仕舞えられるようだ。ついでに昼間の戦闘で手にいれたドロップ、兎の毛皮と角。カラスの羽なんかもちっさいポーチに収まっている。

 ただし、アイテム名がなくなっているので○○の何々くらいにしか判断できない。


 言ってしまえばこれは、SBOであってSBOではないもの。絶対に死なない現実のようなものだった。


 ようやく思考が追いついたところで、私は周りがやけにうるさいことにため息をついた。


「はいはい、喧嘩しても仕方ないでしょ。二人とも落ち着いて落ち着いて」


 この状況で喧嘩するなんて、ある意味尊敬……。いや、この状況だからこそ、他人にあたるのかもしれない。広場にはちらほらとだが、二人の他にも言い合っている人たちがいた。

 みんな気が立っているのだ。

 そりゃいきなりゲームの中に閉じ込めました。なんて言われたんだから仕方ないか。私だって目の前で二人が喧嘩してなかったらこんな冷静でいられるはずないし。


 お互いにそっぽ向いたまま、不貞腐れる二人。このままほっとくといつ第二ラウンドが始まるかわからないので、とりあえず仲裁に入った。


「今大事なのは、喧嘩することでも、意地を張ることでもない、協力することよ。二人は私の先輩なんだから、しっかりしてくれないと困るの。それでなくとも、私はMMOやるの初めてだし、ただでさえゴミシードばっかりなんだからね」


 最終的に自虐ネタに持ち込むと、二人はハッとしたように私に向かって頭を下げた。


「ごめんユズ。うちらが誘ったせいでこんな目に捲き込んで」


「うん。わたしがなんの考えもなく送ったから……。ほんとにごめんなさい!」


 そっちに来るか!? 

 いや、うん。まぁ、確かに二人が誘わなかったら私は普段からゲームやらないし、SBOもやってなかっただろう。けど、断ることだってできたんだ。


「私は自分でやるって決めたの。巻き込まれたなんて思ってないよ」


 それに、こっちには弟が、来夢がいるはずなのだ。

 来夢はベータテスターだった。だからシードの選択も、私みたいに間違えてないはずだし、大丈夫だとは思う。思うけど、やっぱり心配だ。

 いくら生意気で可愛いげのない弟だろうと、やっぱり弟は弟だった。


「ユズ!」


「ん? って、キャッ!?」


 突然名前を呼ばれたかと思うと、二人は私に体当たり、基抱きついてきた。

 おかげで後ろに倒れて頭を打ったんだ。これぞまさに痛い抱擁。

 実際は軽く叩かれた程度の痛みだけど。


「だから落ち着きなさいって。とりあえず、今から検証行くよ」


 知らぬが仏って言葉もあるが、知ることは大きな武器だと私は思う。

 だから二人が、さっきの可愛い行動はなんだったんと思うほどぶーぶー文句をたれようと、知ったことではい。


 私は二人を文字通り引き摺って、今出来る限りの検証を始めに行くのだった。



なかなか決まらず、ずっと“弟”だった柚希の弟の名前、初公開です。

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