Seed:03
フレンド申請が許可されました。という表示の後、今まで灰色だったフレンドリストの項目が白くなる。
選択すると、そこにはリンゴとミカンの名前が並んでいて、ここからフレンドチャットとPT申請もできるようだ。
あまりの様子に拒否されたらどうしようとも思ったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「もう、作っちゃったものは仕方ないからいいとして、ユズは化粧品手に入ったら化粧するんだよ?」
プリプリと擬音がしそうなリンゴの姿に、私は静かに頷いておいた。ここでめんどくさい、なんて口を滑らそうものなら何されるかわかったものじゃないし。
リンゴが落ち着いたのを見計らって、私はさっきから続々と神殿へと続くプレイヤーたちのことについて聞いてみた。
「ねぇ。あの人たちみんな何してるの? 礼拝?」
神殿でやるとしたら礼拝や何かしらの儀式とかをイメージする。しかも神聖なやつ。これはたぶん、私だけじゃなくて、他の人も同じゃないかな。
私の質問に答えてくれたのは、リンゴの頬をつつくミカンだった。
「あぁ。あれは礼拝とはちょっと違うくて、女神に祈りを捧げてんの」
「ふーん。なんのために?」
「なんのためにって、回復魔法のシードは戦闘で使う以外にもああやって一日一回祈ることでも成長するし、最初に回復魔法とらなかった人はあれを繰り返してシードとるからな。他にも魔力のシードとかも成長して手に入るよ。あとは加護とかもそうだったかな? とにかくそういうのが目当ての人たち、特に魔法職目指す人でヒーラー志願の人はここに来てるってわけ。てかこれ、攻略掲示板の方に書いてあるんだけど、あんた見てないの?」
「見るのは見たけど、開いただけ、みたいな?」
だってあれ、スクロールするのが億劫になるほどびっしり書き込まれてたし、課題のこともあって忙しかったんだもの。
頭を抱えて踞るミカンと、今度はミカンの頭を撫でて宥めるリンゴに苦笑いしつつ、私は昨日までの二人の言葉を思い出していた。
シードってのはつまり才能の種。
そのシードを得るには三つの方法がある。
一つ目は、シード一つ一つに設定された条件を達成して手にいれる方法。
しかし、その条件ってのが実はかなり厄介で、ヒントみたいなのがたまにあるらしいが、ほとんどわからないそうだ。ようは手当たり次第やってみろってことだ。
二つ目は、すごくシンプル。手にいれたシードを成長させることで、新たなシードを手にいれる方法。
これを俗に派生させる。株分けすると言う。
三つ目は、特定のイベントクエストを行うことで手にいれる方法。これはまだほとんど判明していないんだって。
ちなみに、回復魔法のシードは一つ目の方法で手に入る。この場合、神殿で祈る回数が条件になるのだ。
なんでも、ベータ版では用意されたシードの半分も判明しなかったとか。で、今回の正式版はベータ版の軽く三倍はシードがあるらしく、初期シード選択は今後のプレイを大きく左右させるそうだ。
つまり、シードの習得に関しては、ひたすら行動しまくって、株分けやって、イベントクエストやって、地道に増やしていくしかないんだって。
シードの装備数、習得数共に制限はないそうだが、あまりに手を広げると成長させるのが難しくなるので、多くの人は何系の職業を目指すかでシードの構成を考えるらしい。ようは広すぎる庭は水やりするのも大変だと言うことだ。
ちなみに、習得したシードはメニュー画面のシード項目で確認できる。
それからシード一つ一つの上限レベルは今のところ100で固定されているそうだ。ベータ版では30までと言うのだから、その本質というのは明かされてない。
これらの事が詳しく、そして分かりやすく纏められたのがシード攻略掲示板である。と言っても、自分の手札、プレイスタイルを晒すことになるので、活躍するのは序盤だけだ。
これにたいするのが、グランドクエストと呼ばれるSBOの本質を描いたイベント攻略専用の掲示板。こちらは常に盛んであり、ドロップアイテムやボス攻略掲示板と共に運営が腐るまで賑わいを見せるのが一般的らしい。
さて、話は戻るがこれで初期シード選択がいかに大事かわかったと思う。
その上で、私が選択したシードを見てほしい。
[ブーメラン Lv1]
[調教 Lv1]
[魔力 Lv1]
[魔法の心得 Lv1]
[召喚術 Lv1]
ブーメランは所謂武器系のシード。これがあることでプレイヤーは、つまり私はブーメランを武器にして戦えると言うことだ。もしこれがなければ、装備できてもダメージ補正がつかないし、モーションアシストがつかない。
シードを持たないってことは、ようは現実の高校生に剣を持たせせるってこと。もちろん振れば敵を切れるが、剣術を習っている人には及ばないのだ。
調教は読んで字の如く、フィールドやダンジョンにいるモンスターを従えるシード。
魔力はRPGで定番のMPのこと。これがなければMPがない、つまり魔法は使えない。
また、魔法なんか使わないからという理由でこれを取らないと、大半のシードがゴミになる。
要はSBOをする上でなくてはならないシードだ。ちなみにこれは初期シード選択画面で注釈としてでかでかと書かれているので、よほどのバカでなければ取るのだそうな。
魔法の心得は魔法関係のシードの効果をちょっとだけアップするシードである。攻撃ならダメージ増加、回復なら回復量増加といった感じ。
よく似たので魔力の心得ってのがあるが、これは魔力のシードの効果アップ、つまり最大MPを増やすためのシードだ。
召喚術は召喚獣や精霊と契約して、一緒に戦うシードだ。これは召喚したものによってできることが変わってくるようだ。
私的には基本は遠距離のブーメランで遠くから攻撃。で、召喚術で召喚獣とか精霊とか召喚して攻撃とサポート。召喚術が魔法の分類に入るので魔力と魔法の心得は絶対に必要。調教は可愛いMOBとかペットにしたかったからと、単なる趣味枠だ。
私的にはあの短時間でよく選べたなと感心してるくらいで、自分の気になるやつで尚且ついい感じに纏めたつもりだった。
だったんだが、どうやら彼女たちからしたら違うらしい。
「なにその組み合わせ……」
「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……」
二人に何をとったのか聞かれ素直に答えると、二人は遠い目をして、明後日の方を向いてしまった。
リンゴに至ってはぶつぶつと何か独り言を呟いている。そのあまりの変質者ぶりに、神殿に祈りを捧げにきたプレイヤーから胡乱な目を向けられる。
「えっと、そんなに悪いかな?」
自分ではよくわからないので、地雷覚悟で聞いてみた。
すると、案の定反応したリンゴにマシンガンで攻められる。
「悪いもなにもこれじゃまともになにもできないよ!! ブーメランってのは遠距離武器だけど、弓とかと違って投げて戻ってくるまでの時間がかかってその間無防備だし、そもそも手元に戻るとは限んないし、元々ATKも低めだしで使い勝手が最悪! 調教は鞭とか楽器類がないと難しいし、序盤のMOBは仲間にできても雑魚だし、MOBが強くなったらその分成功率下がるっていう鬼畜シードだし! 魔力と魔法の心得は二つで一つみたいなもんだから完璧だけど、属性とらないと魔法使えないし、召喚術も魔力がいるけど、まず召喚獣や精霊がどこにいてどうやって契約するのかわかんないしでもはや死んでる!!」
ゼーハー、ゼーハーと肩で呼吸するリンゴ。可愛い少女のはずの顔が今は幽鬼のような形相で睨み付けてくるのは、ギャップも手伝いかなり怖い。しかも体型にあった声は耳に痛いしで、もう二度とリンゴを怒らせまいと開始二十分で決心してしまった。
リンゴのそのあまりの怒りようにミカンの方は熱が引いているのか、私の肩を持ってくれようとしているのが幸いだ。
さすがの私も二人に責め立てられたら立ってはいられない。
リンゴの言ったことを簡潔にすると、ブーメランは元々攻撃力が低く、投げてから戻ってくるまでその場で待たなければならない。そのため隙が大きい。
調教は鞭も楽器も取ってない私には難しく、運よく従えたMOBも弱いので使えない。
魔法面に関しても、属性がないからダメで、頼みの綱の召喚術も呼び出す相手がいないから無理。
え、それって私、完全に詰んでない?
選んでしまったものは仕方がない。ミカンのそんなありがたいお言葉に、私は泣く泣く頷くしかなかった。
そして一刻も早く違うシードを習得して、方向性を変えることをリンゴにすすめられたのだが、もうここは開き直って、このまま進めることにしました。
決意を表明すると、二人特にリンゴは不服そうだが、もしかしてもしかすると化けるかもという理由でエールを送られた。もっとも、そんな望み薄な期待ははなからしていないが。
ちなみに二人のシードだが、リンゴは生産職、ミカンはこてこてのアタッカーをイメージした構成になっていた。
「よし、じゃあせっかくだし、神殿でお祈りしてから町いくか」
「そうだね。そんで準備したらいよいよフィールドだよ」
そうと決まれば早いに越したことはないと、私は二人に促され、手始めに目の前の神殿へと向かった。
リンゴのシード
[魔力 Lv1][風属性 Lv1][錬金 Lv1][裁縫 Lv1][裁縫の心得 Lv1]
ミカンのシード
[斧 Lv1][攻撃力上昇 Lv1][気合い Lv1][勇気 Lv1][魔力 Lv1]
リンゴのシードを、錬金術→錬金に改稿しました。