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Near  作者: 千秋
一章~初めての種~
3/19

Seed:02

今回解説が多めです。

 扉を潜ると、そこは中性ヨーロッパ風の石造りの建物や神殿といった町並みが一望できる、小高い丘の上だった。


「ついに正式版キターーー!!!」

「すっごい綺麗!」

「誰か一緒にクエスト行きませんかー!?」

「生産職の人いませんかー?」

「鍛冶士です! 材料持ち込みなら格安で注文受けます!!」


 辺りを見渡すと、私と同じ格好をしたプレイヤーたちがいた。それはもう、蜘蛛の子、蟷螂の子のように大量に……。


「うっ、酔いそう……」


 そのあまりの人工密集率にはVRと言えど気分が悪くなりそうで、というより、グラフィックが綺麗すぎるのも原因があると思うが、とりあえず私は早々にその場を後にすることに決めた。

 周りのプレイヤーたちの七割がぞろぞろと町に向かって伸びる坂道を進んでいくのに対し、残り二割は全くの反対側の道へと進んでいく。立て掛けてあった看板からこちらは遠回りな道なのだとわかった。最後の一割はメニューでも開いているのか、その場にじっと佇んでいた。

 人混みが苦手な私は当然二割の方に加わろうと、ゆっくりと歩き始めた。

 目的地は町の北西部にある神殿前の広場。そこで林檎たちと落ち合う予定だ。


 道中、のんびりと視覚、聴覚、嗅覚、触覚を総動員して辺りの風景を楽しみながら進む。

 緑豊かな街道に、所々咲いている野生の花。風が吹くと香る草の青臭い匂いに、花に鼻を近づれば、ほんのりといい匂いもする。耳をすませば遠くに鳥の鳴き声なんかも聞こえてきた。

 流石は今もっとも注目されているVRMMORPG。VRの特性をフルに活かした作りになっている。

 こうなると不安なのは戦闘でダメージを負ったときなのだが、どれくらい感じるのだろうか。もちろん、研究を重ねられ、ゲームで起きた事象は人体に影響がないようにしてある。というよりじゃないと製品として扱えない。


「気にしてもしょうがないか……」


 現時点ではフィールドのMOBと、戦闘でもしない限りはわからないし。


 そこで、歩きながらメニュー画面を開いてみることにした。

 メニューを開くにはメニュー起動と声に出すか強く念じればいいらしいが、今回ははじめてなので声ありで。


「メニュー起動」


 すると、目の前に半透明なスクリーンの様なものが展開される。そこには、各種項目が並んでいるのだが……どうやらこのゲーム、一番気になるステータスというものは確認できない仕組みのようだ。いや、もしかしたらシードのなかにそれらを確認できるようなものがあるのかもしれないが、これまた現段階では判断がつかないので保留だ。


 まず最初にアイテム確認。こちらは特殊装備アイテムである鞄やポーチを持つことで、直接そちらから使用できる、所謂ショートカットというやつが可能になる。現時点ではそれらを持っていないのでメニューからしか使えない。なんか無駄にリアルだ。

 現在の所持品は……。


 初心者専用ポーションが三つと1000Gのみ。


 これは……うん、なにも言うまい。

 初心者専用ポーションはログインしてから現実時間で五日間のみ使用できるポーション。五日過ぎると初心者じゃないから普通のポーションを使えってことだろう。

 ちなみに弟に聞いた話だと最初の1000Gは町に降りて三分でなくなるとのこと。詳しくは教えてくれなかったが、たぶん物価が高いんだろう。


 次に装備。こちらはシードの成長や各種ステータスで制限されたりするらしい。ちなみに装備品には個別に耐久値というものが存在し、それらが無くなると壊れてしまう。そのため、そうなる前に修復しなければならず、NPCよりもプレイヤーの方が生産はもちろん修復も性能がいいので俗に言う生産職のプレイヤーがいるのである。

 この辺がMMOの大きな特徴のひとつとも言えよう。

 で、現在の装備は……。


武器:なし

頭:なし

胴:初心者の服 上 DEF+1

腕:なし

腰:初心者の服 下 DEF+1

脚:初心者の靴 DEF+1

装飾品:なし

   :なし


 とまぁ、こんな感じ。一見かなり低スペックだが、この初期装備は耐久値が設定されてないので、壊れる心配がない。ただし性能は悪いし、ダサい。

 しかも、これまた女性のは無駄にエロい。

 首元がざっくり開いていて、かがめば谷間が見えるし、袖と胴の部分は革紐で縫い合わせていて、隙間からちらちら見えそうになる。まぁ、見えないようにはなっているのだが、心許ないのは確かだ。

 下はかなり丈の短いホットパンツで、生足を晒しているし。靴も単なる布だ。


「開発者の品性を疑うわ」


 メニューの画面には他にもマップとかフレンドとかPTとか色々あったが、始めたばかりではどれも使い道がなかった。


 やはり一番肝心なのはシードだろうが、それは林檎たちと合流してからにすることにして、ようやく見えてきた街並みに、私は人知れず心踊らせた。






 町に入って一番始めに思ったのは、かなり精密に再現されたグラフィックと、NPCの性能の高さにたいする感嘆だった。

 NPCと呼ばれる彼らは、本来決まった行動を繰り返し行うのだが、どうやらこのゲーム、その辺もかなり気を使っているらしい。彼らはまるで本当に生きているかのように、話したり、露店に呼び込みしたりと、とにかくリアルだ。顔も服ももちろん違って、誰一人として同じ服を着ていない。

 試しに井戸端会議に洒落こんでいたおば様方に神殿がどこにあるのか、話しかけてみると見事に捕まって、足止めを食らってしまった。


 人と待ち合わせをしていることを告げると、彼女たちは何を勘違いしたのか、生暖かい笑みを浮かべ「いい女には相手を焦らすのも大事なんだよ」と、斜め上をいくアドバイスを貰ったのには驚きを通り越して引いた。

 もちろんこのゲームの開発者を。


 かなりの時間を要旨ながら、約束の場所である神殿前に辿り着くと、そこにはプレイヤーと思われる人たちが結構いた。

 またしても人混みということで気が滅入るなか、よく見ればここにいるプレイヤーの大半が杖を持っているのが目にはいる。白や水色といった落ち着いた色合いをした人が多く、彼らはこぞって神殿の中へと入っていくのだ。


 そのある種奇妙な光景に若干引いていると、視界の端にここでは異様に目立つ、赤とオレンジの色が目にはいった。


「……まさかね」


 そんなありきたりなはずがない、と自分に言い聞かせる。が、私と目が合うと、二人はすごい勢いで走ってきた。ええ、それはもう、猪のように。


「柚希!! なんで、なんで見た目そのままにしてるの!?」


 私の目の前で、人目も憚らずに叫ぶのは赤いお団子頭に、私のよりも濃い緑の目をした女の子。推定年齢は十二歳くらいか。


「あんたねぇ、名前もほとんど変えず見た目は髪と目の色だけ、同じ学校の奴が見たらすぐばれるよ? てか、どのオンラインゲームもそうだけど、変な奴はいるんだからね。ちったぁ自分の容姿を自覚しなよ」


 苦笑いを浮かべ、頭を押さえるのは、オレンジのショッートカットにオレンジの目をした長身でスリムな女性。こちらは二十代くらいに見える。


 二人とも体つきが違う、というより極端になっていて、顔もそれぞれが望む方向性に弄ってはいるが、よく見れば昨日私にSBOについて散々叩き込んでくれた二人に似ている。しかも林檎と蜜柑の代名詞のような色ときたら、間違いようがない。


「林檎も蜜柑も昨日ぶりだね。とりあえず、フレンドなろっか?」


 紛れもなく二人だと確認した私は、とりあえずフレンド申請をしてみた。

 すると、林檎は顔を赤くして蜜柑はやれやれと肩を落とす。

 うん。予想通りの反応で何よりです。


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