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Near  作者: 千秋
一章~初めての種~
2/19

Seed:01


 一週間後。


 私は少し早めの昼食を弟と一緒に済ませーー弟も実はベータテスターだったーー早々に自分の部屋に引き上げていた。


 サービス開始は今日の正午。キャラクターメイキングだけは三日前から出来るようになっていたみたいだが、私は髪と目の色を変える以外興味がなかったので開始二十分前に初めてインすることに決めていた。

 なんでも初め十分近くは端末がプレイヤーの脳のなんたらかんたらとリンクして、プレイヤーの個体情報を記録するのに必要で、その情報を元にキャラクターメイキングをするとのこと。


 その為現在絶賛セット中。といっても、SBO自体は既にインストール済みだから、後はPC端末に林檎から送られてきた最新型のヘルメット型VR装置を接続するだけ。

 この作業事態も、VRの一般化を図った際は複雑な手順を踏まえなければならなかったし、今でこそ一般家庭でも手が出る代物だが、当初は新車を買うよりも値が張った。そう考えると、文明とは常に進化し、人々の生活をよくしているのだろう。


 私はいそいそとヘルメットを頭に被せ、ベッドに横になった。


「個別信号認識、及び個体情報をサーチします」


 左の耳の辺りにある電源ボタンにふれると、無機質な冷たい音声がヘッドレストを付けた頭の中に響く。


 VR、仮想現実世界へリンクする際の独特の浮遊感に一瞬だけ襲われ、私は初めてSBOの中へと入った。






 十分、正確には十一分二十三秒後。ただ暗い闇に包まれていただけの視界に光が点った。


「登録完了。これよりキャラクターメイキングを行えます」


 またしても冷たい音声が頭に流れ、目の前に私の身体が音もなく現れた。無駄にエロい下着姿で。


「このゲーム、確か十五歳以上推奨だったっけー。納得だわ」


 機械に自分の身体、それこそバストサイズからなんやら完璧に再現されるんだ。これはある意味、セクハラなような気がするのは私だけでしょうか。


 一先ず、自分の姿は置いとくとして、時間もあまりないこどたし、はやく弄ってしまおう。


「……って言ったはいいけど、項目多すぎ。完全になめてたわ」


 髪型一つとっても、前髪、横、トップ、後ろの長さ。内巻きか外巻きか、なんてものまであるなんて。恐ろしい。これは弟が貫徹して作業してた意味がわかったわ。


 さて、とりあえず気を取り直してまずは髪型。今実際には肩の辺りだからー……うん、長くしよう。癖のないさらっさらの髪でロングとかいいよね。色は、かなり明るい金で。

 お次は目。目元は肝心なんだけど、幸いなことに二重だから特に弄らず、色だけ変更。金髪には碧眼、な気もするけど翠に決定。

 その他は……まぁいいや。自慢じゃないけど、こう見えて去年の文化祭でミスコン優勝するくらいには容姿がいいらしいから、めんどくさいしこのままいきます。クォーターでマジよかった。

 それに、このゲームなんと大手化粧品会社や有名ブランドが支援しているらしく、それらの道具がゲームの中でも使えるそうだ。剣と魔法の冒険物でありながら、女性ユーザーにも人気の理由なのはこの部分が大きい。なので最悪私も化粧して化ければいいだろう。


 ふと、システムに組み込まれた時計に目をやると、サービス開始まで後五分と言うところに差し迫ろうとしていた。うどん系のカップ麺一個分の時間……結構長く感じる。


 そんなことを考えているとまたしてもあの音声が流れた。


「サービス開始まで残り五分です。これよりプレイヤー名、及び初期シード選択、及び初期ステータス振り分けを行えます。行いますか?」


 そう言えば、サービス開始五分前に待機状態にできるって弟が言ってたっけ。


 目の前に表示されたyes/noの表示。私はもちろん、yesを選択した。


「汝、その名を我に示せ」


 突如として切り替わった音声案内。今度の声は低く威圧感のあるおじさんの声だ。こちらはかなりリアルに聞こえる。むしろさっきまでのはわざとか。だとしたら運営側も芸が細かい。


 感心しつつ表示されたキーボードウインドウを一瞥して、私は自身の名前の一部であるユズと打った。

 本当は、あまり現実の名に近いものはよくないらしいのだが、果物の名前が本名と思う人は少ないということで、私はいつもこれにしている。

 これは蜜柑や林檎も同じで、彼女たちのは私以上に珍しいだろう。

 ユズで間違いないかという表示にyesとタッチで選択すると、キーボードは灰になって消えた。


「汝、何の種を望む」


 おじさんの言葉と共に、今度はシード選択画面が表示された。


 シードとは他で言うスキルのこと。

 SBOではこのシードを才能の種。熟練度を上げることを成長させる、または開花させると言うらしい。


 初期シードとして表示された数は、五分で全部見るには難しいのでは、と思うくらいにはあった。まぁ、その点は公式サイトに色々書いてあったので、みんなリサーチ済みなんだろうから問題ないのだろうが、私は流し見て終わっている。

 どういう構成にしようか、今度ばかりは結構迷う。なんせ今後ゲームをする上でシードは大きく関係してくるらしいのだ。弟や林檎たちいわく。

 でも、みんなでやるなら被りたくはないし、テンプレでいっても面白くない。かといってVRMMORPG初めての私がイロモノと呼ばれるプレイが出来るとは到底思えないし……。うん、ここはとにかく気になるやつをとろう。自分がやりたいやつでなら失敗しても痛くないはずだ。


 とりあえず、なんとか初期シード五つを選択し終えて次のステップに進む。はやくしないと、もうすぐ始まっちゃう。


「汝、力を望むか」


 再び聞こえるおじさんの声。yes/noの二者択一。おそらくこれが初期ステータスの振り分けなんだろう。


 力を望むか。つまり攻撃だよね。なら答えはno。


「汝、知を望むか」


 yes。


「汝、……」


 その後、五、六問答えた後に質問は終わった。果たして私が望んだようなステータスになってるのか、不安だ。


 時計を見れば時刻は後五秒で正午になる。これはもう、カウントダウン。するかしかないよね?


「5、4、3、2、1ッ、0!!」


 カウントがゼロになった瞬間。薄暗かったその空間にピカッと光が発生し、目の前に大きな観音開きの扉が現れた。たぶんこれを通ればいいんだろう。現に扉を音たててゆっくり開いていく。


「汝、その力を世に示せ」


 最後の案内音声の声はかなり肉感的に聞こえた。たぶん、臨場感とかを出す演出なんだろう。

 期待と不安が入り交じるような、落ち無かない心を必死に宥めながら、私はついにSBOの世界へと一歩、踏み出した。


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