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Near  作者: 千秋
一章~初めての種~
17/19

Seed:16


 若干すね気味のナクラさんをリンゴに宥めてもらい、気を取り直してエンカウント二回目。

 ティアラビットでは私とリンゴの魔法だけで倒せてしまうので、今度の相手はカラス――イーグレイブ。


 私たちが視界に入るなり、こちらへ向かってくるイーグレイブ。その動きはティアラビットに比べて早い。


「――カッター」


 作戦通り、手始めにリンゴが一発。しかし、イーグレイブはティアラビットとは違い、ある程度攻撃を躱す仕様なので、リンゴの放った魔法は翼を掠めただけで終わる。


「んー、やっぱ射程ギリギリじゃ直撃は難しいかぁ」


 ベータ版だったらあんな奴一発で仕留められたのにと、リンゴは嘆いている。


「いやいや、生産しかしてないリンゴが一発で仕留めたら攻略組が泣くだろ」


「そうだけどー」


 呑気に前と後ろで会話を交わすリンゴとナクラさんは、さすがというべきか。ゲーマーとしての貫録がある。

 私はそんな緊張感のない二人に苦笑いしつつ、イーグレイブとの距離が十メートル切ったのを見て、第一投目を投げた。

 風を切り進むブーメランは運よくイーグレイブの翼の付け根に当たり、その体を地面に叩き落とす。

 イーグレイブに限らず、空を飛ぶMOBの大半は翼の付け根に攻撃を当てるか、上から叩き付けるかで地面に落ちるそうだ。


「お、ユズちゃんナイス! ちょっと遠いけど、おれらも行くぞ」


 さっきみたいに出番がないのはごめんだとナクラさんは叫びながら、地面でのた打ち回るイーグレイブの元へと走っていく。

 ショウは最初その後ろへ続く形だったが、残り四メートルの辺りでナクラさんを追い抜かしてしまった。


「うわ、ナっくん足おそっ」


 いや、ナクラさんは決して足が遅いわけではない。ただ、速度上昇のシードを取っていたショウが早いんだ、と思う。


 ショウはナクラさんを置いてイーグレイブの元まで行くと、ようやく体を起こして飛び上ろうとしたイーグレイブの頭に踵落しを決める。

 するとイーグレイブは再び地面に逆戻り。ショウは陸にあげられた魚のようなイーグレイブの上に跨り体を押さえつけた。俗にいうマウント、正確にはバックマウントポジションというやつである。

 圧倒的優位なポジションを手にいれたショウは、バタバタ暴れるイーグレイブを上からたこ殴り。当然イーグレイブも逃れようとその嘴で振り返りショウを突いたりしているのだが、ものともしない。


「って、ユズっ。ヒール! ヒール!」


「う、うん。――ヒールっ」


 リンゴに言われて急いで回復魔法を使う。

 昨日の事前練習を除いて、他人に使ったのはこれがはじめてだったが、淡い光がショウの頭の上から降り注いだのを見て、ほっとした。


 ショウはナクラさんが追いつくと最後に一発重いのをお見舞いして飛び退く。


「おらっ!」


 そうしてナクラさんが右手に持つ槌を振りおろし、イーグレイブの頭部を叩き割る形で二回目のエンカウントは終わった。

 戦闘が終わり、何やらギャーギャーと騒ぐ二人を遠目に私とリンゴは苦笑しか浮かばない。


「それにしても、ショウってやっぱ本物だったんだね」


 リンゴの言わんとしていることはよくわかる。

 拳術の反射ダメージをものともせず、相手の反撃も気にせず、ただひたすらに拳を振るう。それは最早戦闘ではなく蹂躙に近い。


「拳術とか脚術って、基本リアルで何か格闘技をやっている人がとるんだけど。ショウの場合はなんていうか、アレだよね」


「うん。アレだね」


 それは格闘技などと高尚なものではない。ただ刃向ってくる者を完膚なきまでに潰す。そのためだけに磨かれた力。

 言うなればそれは……。


「「喧嘩術」」


 狂犬の名はだてではなかった、ということか。

 苦笑を通り越して乾いた笑みしか浮かばない私たちは、ナクラさんたちの元へと自分たちから近づいて行くことに決めた。

 そうしないと、ナクラさんがいつまでもショウに絡んで終わりそうにないからである。



 その後、なぜか功を競い合う男二人を生暖かい目で見ながらも、私たち四人は順調にMOBを狩って行った。

 途中イーグレイブ三匹、コールドスネーク二匹に囲まれるというできごともあったが、そこはベータテスターでありゲーマーの二人と、日々の喧嘩で積み上げきた力を存分に且つ無駄に発揮したショウのおかげもあり、なんとか乗り切った。

 ベータテスター組曰く、ショウのプレイヤーとしての腕は高いとのこと。

 で、それなりの素材を得たことだし、シードも育っていそうだし、日も落ちてきたしで、今日のところはプラトに戻ることにした。


「あーあぁ、ベータ版の頃はセーフティエリアに入っとけばフィールドでも安全に過ごせたのになぁ」


 そう言って言外に一々移動するのがめんどくさいと語るリンゴ。


「仕方ないだろ。それともリンゴは他のプレイヤーに寝首掻かれたいのか?」


「うっ。そうだけどさぁ」


 セーフティエリアとは、MOBが侵入してこれない安全な場所である。ログアウトする際はセーフティエリアか町の中で行うのが基本なんだそうな。

 ただし、プレイヤーは出入り自由なので、PVPも可能になり猥褻な行為も可能。そもそもログアウトが不可能になった今のSBOでは、ある意味では危険な場所ともいえる。

 現にリンゴがお客さんから聞いた話によると、セーフティエリアで野宿していて、物を盗まれたり襲われそうになったプレイヤーもいるらしいのだ。

 危ない橋は渡らないに限る。


「交代で見張りするのもありだろうが、日帰りで町に戻れるってならそれに越したことはねぇよ」


「ショウの言う通りだぞ。それにアレだろ。リンゴはこのあと、道場行くのが嫌なだけなんだろ?」


「うぐっ。鋭いっ」


 にやにやと人の悪い笑みを浮かべてリンゴに詰め寄るナクラさん。どうやら図星だったようなリンゴは、バツが悪そうに顔を背けた。

 うん。その気持ちはわかるよ。ショウも神殿でのことを思い出したのか、憐れむような目でリンゴを見ていた。


 そうして賑やかに談笑しつつ、たまに襲ってくるMOBを倒しながら、私たち四人はプラトへと帰ってきた。


「おっし、じゃあ今日はお疲れさん! 明日は朝から町を出るからな。起きた奴から宿の食堂に集合ってことで。ショウ、寝坊するなよ。リンゴはこれから真っ直ぐ道場行ってこいな。杖はおれがリンゴのためだけに作ってやるから。ユズちゃんは、何も言わなくても大丈夫か。じゃ、かいさーん」


 門をくぐるなりナクラさんはそう言って、一人ですたすたと街を歩いて行ってしまう。おそらく職人通りに向かったのだろう。

 リンゴも、自分のためだけの杖と聞いて顔を赤くしながら、メインストリートを、人混みを縫うようにして走って行ってしまった。

 それにしても……。


「さすがはテニス部主将。伝達事項がスムーズで淀みない」


「だな。おまけに飴と鞭の使い分けも完璧ときた」


 町に近づくごとに元気をなくしていくリンゴを、彼はショウと張り合いながらちゃんと見ていたのだろう。その上で、リンゴの少々現金な性格とああ見えて意外とピュアな部分をついての一言。いやはや、末恐ろしい。

 この日、私とショウは決してナクラさんを敵にはまわさまいと決めた。


「ショウはこれからどうするの? 私は特にすることもないし宿に帰るけど、なんなら一緒に帰る?」


 隣で欠伸をしながら体を伸ばす男に、私は聞く。

 というのも、四人で行動をすると決めた際に、宿が一緒の方が何かと都合がいいだろうと、私が泊まっていた眠れる大樹亭に三人とも移ったからだ。


「いや、悪いけど俺はこれから細工職人のとこに行こうかと思ってな」


「そっか。あれから順調?」


 あれからというのは、つらい思いをして魔力のシードを取ってからのこと。

 ショウはあの時、魔力を持ってなかったせいで思うように生産ができなかったのだ。

 私がそう尋ねると、ショウは珍しく本当に嬉しそうに笑った。


「おう。それもこれも、全部お前のおかげだ。サンキューな」


 そう言ってもらえると、ノートを纏めた甲斐があったというものだ。


「そっか。うん、よかったね。じゃあ、頑張って」


 普段怠そうな人や仏頂面の人の屈託のない笑顔って、なんだかいいな。

 なんて、俗にいうギャップ萌えに、私は柄にもなく照れてしまいその場を早々と後にすることに決めた。


「送って行かなくていいのか?」


「大丈夫。ここからっていったらそんなに遠くないし」


 それに、今までは一人で行動することの方が多かったのだ。今更何を恐れる必要があるというのか。

 私はそう言ってショウと別れ、一人宿へと向かうのだった。



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