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Near  作者: 千秋
序章~始まりの種~
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Seed:00

 午前中の長く退屈な授業を終えた教室では、親しい者同士が集まり、談笑しながら昼食をとるといった全国でもお馴染みの光景が広がっている。そして私たちも例に漏れず、窓際の一番後ろの席という、かなりいい席にいた。


「あと一週間で夏休み!」


「しかもSBOの正式稼働日が夏休み初日!!」


 なんて偶然で、なんて幸運なのだろうか。これは神がゲームをやるように導いているにちがいないと、二人の友人は互いに手を取り合い、大袈裟な身ぶり手振りと芝居口調で歓喜を表現する。それはもう、クラスメートからあいつら大丈夫か? などと言った視線を感じながらの、まさに捨て身の行動である。


「……で、何が言いたいの?」


 その様子、発言からしてだいたいの予想はつく。だが、ここはお約束的に、二人の思いを聞くべきだろう。


「柚希さぁ、うちらがSBOのベータテスターやってるのは知ってるよね?」


「知ってるよ」


 世界にVR技術が発表されてからはや五十年強。はじめは軍事用として開発されたそれも、今では幅広く活用され、娯楽にまで使われている。中でも人気なのはやはり、実際に自分がゲームの世界に入り込んだかのような体感ができる、大規模多人数同時参加型RPG、通称MMORPGである。

 そして通称SBO、正式名Seed Bloom Onlineもそのうちの一つであり、今もっとも注目されているゲームである。そのベータテスト抽選に見事当選し、一足早くプレイしていたのが彼女たち、赤磐林檎と橙蜜柑だった。


「あんたたち、学校中で騒ぎ回ってたじゃない」


 それこそ授業中、休み時間中関係なく。

 あれをきっかけに、私たち果物トリオは学年の垣根を大きく越えて有名になってしまったのだ、忘れるわけがなかろう。

 ちょっと恨みがましい目で二人の顔を交互に見つめれば、二人はばつが悪そうに苦笑いを浮かべて誤魔化そうとする。まぁ、今回は見逃してあげるけど、次はないからな。


「で? それがどうしたの?」


 SBOの正式稼働日が決まったのは一月ほど前のことだったと思う。夏休みの開始日はそれよりも前にわかっていたことなので、当初はうちの学校はお祭り騒ぎだった。

 当然、二人も例に漏れず騒いでいたので、改めて言われるまでもなく知っているし、既に配布された課題は私も含め終わらせていた。というよりは、二人に泣きつかれて答えを写させてあげたに近い。

 そして明後日、残るすべての教科の課題が配られる手筈になっていることから、二人が言いたいことは誰にだってわかるだろう。


「約束なら覚えてるよ。課題は写させてあげる。その代わり、コンビニのスイーツ全種類だからね」


「わかってるわかってるー」


「さすが柚希!」


 見事に買収されてしまった私が言うのもなんだが、この二人は休み明けにテストがあることを覚えているのだろうか。

 まぁ、二人が赤で追試でも私には関係ないけどね。


 少しばかり薄情なことを考えていると自覚しながら、私は視線をお手製のキャラ弁に落とした。ちなみに今日は某ネズミのリスのキャラクターで、私のは梅干しの赤鼻。弟のは昆布で黒鼻にしてみた。

 我ながら中々の出来に、ちょっとだけ悦に入っていると、視界の端から出てきた四本の腕に弁当箱と箸を取り上げられてしまった。


「柚希、話はまだ終わってないの」


 そう言ったのは林檎で、ちらちらリスを気にしながら弁当を手の届かないとこに置いてしまう。


「そうそう! 実は柚希に重要なお知らせですっごいサプライズがあるのさ」


 にしし、といいった効果音が似合いそうな笑みを浮かべる蜜柑。うん、正直悪い予感しかしない。蜜柑がこういう時って、大抵何か起こるのだ。


 てか、箸で人を指すのは止めなさい。


「実はねー、こないだナンクロでなんとなく応募したら当たっちゃってね。一個余ってるんだー。だから、柚希も一緒にやらない? てかてか、もう宅急便で送っちゃったから、今日中に届くはずだよ」


「やるって何を? ていうか何を送ったの?」


「SBOに決まってるじゃない。で、送ったのはSBO推奨の最新VR装置。私たちはベータテスターの特権で、同じ型の持ってるし、データももう貰ってるから、ちょうどよかったから送ったの」


 さらりと凄いことを言ってのけてしまう林檎に私は絶句した。


 見た目も性格も女の子らしい、可愛くおっとりした林檎だが、実はかなりの行動派だったりする。通学中、落としたハンカチを拾ってくれた一つ上の先輩に一目惚れし、翌日早々告白した武勇伝を持っている。余談だが結果は林檎の惨敗、しかし不屈の根性? で諦めなかった林檎の粘り勝ちで、二人は今順調に交際中である。


「いやね、迷惑かなって思ったんだけどね。やっぱ三人でおんなじゲームしたいし、柚希にもSBOのすっごいとか見せてあけだくってさ。……やっぱ、迷惑だった?」


 と、意外なことに普段元気一杯の蜜柑の方が慎重だったりするから面白い。これまた余談だが、蜜柑は慎重になりすぎて、あと一歩のところでいつも男を逃がしている。


 さてさて、二人がこうも誘ってくれているのにやらないなんて言えるはずもなく、私は結局ゲームをすることにした。

 今もっとも注目を集めているMMORPG、SBO。それをタダで出来るんだ、これを逃すてはない。それに、やっぱり友達とゲームするのが面白くないはずないしね。


 こうして、この夏の長期休暇は現代人らしく、空調の効いた部屋でゲーム三昧だと決まったのだった。


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