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第六話

 ギルド登録からはや3週間ほど経ったにも関わらず直人は今日も死の森で薬草採取に励んでいた。だが、それも人目の付かない位置にまで進むと薬草探しを止め目の瞑り風魔法で周囲の探知を始める。集中し出してから2時間程経った頃、直人は急に目を見開き風を纏うと空に飛び上がった。空を飛び始めてから10分もしない内に目標の物を見つけたのか空中に制止すると目標に向かって結界魔法を行使した。


「うし! ホーリーバード捕獲成功」


 直人はホクホク顔で2匹の白鳥はくうを閉じ込めた結界の前に降り立った。結界内ではホーリーバードが引き起こしたと思われる暴風や鉄砲水で周囲の木々はひどい有様になっていたものの、結界を破る事ができず水魔法や風魔法は結界に跳ね返されていた。そんな結界内の様子を見つつ直人は結界に遮空の機能も加えた上で、結界の大きさを少しずつ縮めていき半径1メートル程の所で固定する。そんな状態で1時間ほど放置するとホーリーバードは酸欠の為か段々ぐったりし始め結界内で伏せたので、その隙を付いて直人はロープを取り出し絞殺する。


「はぁ。やっと仕留められた。だが、これで資金面の問題は解決か」


 森の中で生活し始めた当初からずっと探し続けて来た高価で売れるレアな魔獣を捕まえられた為か、直人は非常に上機嫌な様子で2匹のホーリーバードを空間魔法付の鞄に放り込む。


「発見する事さえ困難で水魔法と風魔法を行使する魔獣なのに、こっちの攻撃が限定されるとかまじ鬼畜だよな。物損させればさせるほど売却価格が下がっていくとか……」


 直人がそう愚痴るのも無理は無かった。ホーリーバードの体毛や血液等は貴重な魔法薬となり、他の部分には劣る肉でさえ食べれば死にかけていた病人でさえ翌日には退院できるという話が出る程、ホーリーバードはその全身が薬と言える魔獣であった。その為、火魔法で焼いたり、武器で身体を切断したりする行為はお金をドブに捨てる行為に等しかった。したがって、戦闘能力で見れば風魔法と水魔法を使うが純粋な戦闘という意味での討伐難易度にすればC止まりのホーリーバードは、その発見困難性と攻撃手段が限定されるといった点で総合的な意味で討伐難易度はSランクまで引き上げられていた。だが、そんな苦労をした上でもホーリーバードは無傷で捕まえられた場合1匹最低でも金貨500枚で売れる為、冒険者にとってはあこがれの魔獣でもあった。





 ホーリーバードを捕獲したにも関わらず直人はいつも通りギルドに薬草を納めると宿屋に直帰しベットに寝転がった。


「とりあえずこれで実力を提示しないでの資金稼ぎはできるか。ハント中に偶然運よく発見したホーリーバードの番を風魔法で仕留めたという事にできそうだしな。せいぜい宝くじが当たっていきなり億万長者になったラッキーな野郎という評価かな」


 あまり高位の魔法使いだという事を表に出せばすぐにどこかの国から強引な勧誘をされる事は目に見えていた為、直人は実力を表に出す事を極力抑えていた。もし勧誘をしてきた国が直人にとって望ましい国家であれば良いが、そうでなければ断るしか無く恨まれたり潜在的敵対勢力として排除される危険性も内包していた為である。従って、直人は死の森で生活し始めてからすぐに高価で売却できるが、そこまで討伐難易度の高くない魔獣や珍しい薬草や鉱石等を探し続けていた。あくまでもラッキー的な要素によって資金を調達する方法を模索していたのだった。


「まぁ、ホーリーバード売るのはケレス王国に入ってからだな。ケレス王国になら勧誘されたとしても不都合な無いな。一応欠損無しでそこそこの大きさだから1匹金貨600として2匹で1200といった所か。日本円にして1億2,000万円くらい……こうして考えると大金だな」


 直人はホーリーバードの換金価値を考えながら3カ月程でこんなレアな魔獣を捕獲できた自分の幸運具合に頬を緩める。もっとも、こんな捕獲作戦は並大抵の魔法使いであればできない故にレアであるという理由もあった。


「ま、そろそろ潮時か……」


 パーティの勧誘が徐々にしつこくなって来ている事もあり当初の計画より1週間も早くなったが直人はイヤック村を出る事を決めたらしい。もともとヨスズ王国のイヤック村に最初に寄ったのは経歴作りの為であり、下手にパーティ等入ってしまえばもめる元だと直人は考え人との関わり合いを自制していた為、パーティの勧誘は害悪でしかなかった。そして、これ以上イヤック村に滞在すれば否応にも冒険者達との交流が深まってしまい下手をすれば取りこまれる事になりかねず出発を早める事にしたらしく、直人は荷物の確認をし始めた。明日から、このイヤック村を出て1月程ギルドを転々としつつもケレス王国を目指す為、旅に必要な物が揃っているか否かを集中的に調べ足りない物をリストアップしていく。そして、一通り確認が終了したのか自分自身に眠りの魔法をかけ眠りについた。





 朝早くから保存食や衣服の類を買い込むと直人はさっさとイヤック村からケレス王国の方面に歩き出す。てくてくと3時間程歩いた辺りで直人は早くも後悔し始めていた。何か乗り物を買えば良かったと。この世界にも馬に類似する生き物や騎乗用のダチョウのような鳥もおり、イヤック村でも金貨5枚からと割高であったが販売はされていた。しかし、魔獣に襲われた場合には乗り物を守らなければならない事や、村等に入った時に係留する手間や係留場所を探す手間等を考え直人は購入しなかった。こんな事を考えたのもポイントによって肉体改造されており身体能力的に言えば丸1日歩き続けても問題は無いと結論を出した為であったが、違った点で問題が出てきたのである。それは、孤独といった問題であった。


 田舎から都会に出てきて1人暮らしといった生半可なものでは無く、直人はこの世界でたった一人きりの地球であるという点で孤独感を味わっていた。電車や飛行機といった物に乗れば会いに行ける訳も無く、電話や手紙で繋がる事も当然ながらできない。親も友も知り合いも誰も居ない環境で1からスタートする事になるといった意味を、皮肉ながら魔獣を警戒する事も無く、ただ歩くという単調な作業によって余裕ができた事により改めて考えさせられたのだ。もし、慣れない乗馬や乗鳥をしていれば多少は気も紛れたかもしれないが自分の足を使っての歩行である。気が紛れる余地は微塵も無かったのである。


 孤独感は宿屋で寝る前等によく出てきたが、しなければならない事が山積しているおかげでそこまで意識せずにすんでいた。そして、たまに寝付けない事がっても明日も冒険だからと言い訳がましく自分に眠りの魔法をかけ眠りについていた。だが、現状直人には何も意識をそらせるような物はなかったのだ。これからの計画も歩き始めてからの3時間で何度も何度も見直しておりもう見直す必要も無く、魔獣の襲撃の可能性も死の森の中に比べれば無いに等しかったのである。ゆえに、心臓がえぐり取られるような孤独に苛まれ続けていた。孤独と1人戦いながらも直人は歩きながらひたすら前のみを見つめ続ける。後ろを振り返らないといった高尚なものでは到底ありえず、前を見るという作業により孤独を忘れようとするのだった。ただ、そんな事をしても自分の感情をごまかす事はできず直人の顔は今にも泣きそうな程ひどく歪められていた。







「まいどありー! 元気に育ててくれよ? 」


「もちろん。きちんと育てます」


 直人は植物商の男から種と苗の詰まった箱を受け取るとその足で宿に向かった。



 宿に戻り買ってきた種や苗を種類別に整理しながら直人は嬉しそうに頷いた。これで店が開けると。イヤック村を出てから国境の街まで飛行すれば1日もかからず来れたものの、直人は経歴作りと仕入れの為に周り道をしながらいろんな村を寄っていた。異世界人である直人の今までの経歴といえばイヤック村のギルド登録が始まりであり、それ以前はどれだけ調べようと直人の痕跡は無かった。ゆえに、経歴を調べられた際に少しでも痕跡を残す為に直人はケレス王国の国境までにあるヨスズ王国で寄れる限りの村を回っていた。そして、寄った村々で魔獣討伐の依頼を受けたりしつつ将来に向けて各村々で特産品である植物やハーブそれに果実等を買い求めていた。


「これでハーブ・薬草共に100種類越えたな。都会で集めればもう少し集まるかな」


 種や苗を纏めて空間魔法付の鞄に入れると直人は満足そうに笑った。これで喫茶店が開けると。ポイントシステムによりこの世界で最高位の蒼の眼を持つ魔法使いとしての能力を持っていたが、彼は冒険者として活躍するつもりは微塵も無かった。そもそも、高位になればなるほど魔法使いは安全な場所で過ごす事がこの世界では常識である。より正確に言えばほとんど全ての国では高位の魔法使いを国外はおろか主要都市から出そうとしない。何故なら、この世界で魔法使いはおよそ1,000人に1人という希少な存在であり、さらに神眼を持つ者は魔法使いの中でも10人に1人と尚更貴重な存在であった。


 そして、神眼の階位の中でも一番階位の低い10階位の眼を持つ魔法使いでも、その戦闘能力は最低でも戦士や剣士数十人に値した。あくまでもこれは対人戦における数値であり、対魔獣戦にこそ魔法使いの真価が発揮される事が多かった。ゆえに、国のトップとしては魔法使いを日々無駄に消費する事は防衛力をそぎ落とす行為に他ならず、そのような蛮行を控える決定をする事が常となっていた。直人はこういった慣習や制度を利用として、国に保護される事を選んだ。


 直人が今向かっているケレス王国では、自国民である神眼持ちの魔法使いには一定の義務があるものの一定の特権が与えられていた。住居の無断での引っ越しは許可されず、日々鍛錬をする事や一定の魔力提供を始めとした王国への貢献が義務づけられている反面、魔法使いには住居や土地購入の際の割引制度や優遇税制を始めとした特権が与えられている。ギルドの酒場等で情報を集め脳内の情報と照合させた結果、直人はケレス王国の法制度こそがこの周辺の国では最も魔法使いにとって有利だと判断した。そして、必要以上に縛られる事が無さそうであったので、直人は喫茶店の店主になる事を決めた。


「国境はギルドカードで越えられるとして目指す街をどこにするかな。王都とかだと光魔法でごまかしている眼がばれる可能性が高いから、どこかの主要都市なんだよな……」


 ケレス王国で主要な都市を思い浮かべながら直人はしばし悩む。今までの旅の中で色んな情報を聞きつつ脳内情報に加えていった結果、当初考えていた案を修正する事を余儀なくされたのだ。それは、あの白い空間で男に与えられた知識の古さに起因した。男から貰った知識は少なくても3年以上前の情報だと分かった為である。


 当初直人が目指していたケレス王国の街ユピリスは3年前に植物を発端とするアイムと呼ばれる疫病が発生しかかったらしく、街の中にある植物という植物は全て焼き払われたとの話を酒場で聞いたのだ。だが、そんな情報は直人の脳内には無く、脳内の情報が少なくても3年以上前の情報である事が判明した。この時、直人は思わず頭を抱えた。唯一の揺らぎ無い行動指針として採用していた知識が3年以上も前のものを起点としていのかと。それからである直人が今まで以上に積極的に情報を集め出したのは。その結果、脳内情報と噂話や歴史の話と照合を繰り返した結果、少なくても5年前の情報は脳内にある事が分かった。

 

「うーん、逆にチャンスなのか? 早期に原因となる植物を全て焼き払ったおかげで死人はほとんど出なかったみたいだし……。一部の農家が立ち直れず耕作放棄地が増えたというけど逆に安く買えるチャンスだよな」


 直人はひとつ頷くと当面の目的地をユピリスに決めた。もし行って荒廃していたら立ち去ろうと心の中で思いながら。







「ナオトさぁーん、ほらもっと飲んで飲んで」


「わ、わかった。ほら注いでくれ」


 直人はワイングラスを女に差し出すと直ぐにワインが注がれる。ワインの瓶を置きしなだれかかってくる女にどきまきしながらもワインを飲みほしていった。酒のせいか女のせいか分からないが直人の顔は既に真っ赤になっていた。



 国境線に最も近いケレス王国の街に着き、珍しい果物や植物それに料理などの調査を行っていた直人はとある店にどっぷりはまっていた。女の子がお酌してくれ楽しく話ができる酒場……日本でいう所のキャバクラに。接客態度や技能を考えると日本のキャバクラと比べると圧倒的に劣っていたが、まだ高校生の直人にとっては刺激が強すぎる環境であった。もっとも、そのような要素は直人にとっては比較的優先順位が低かったが1つだけ心惹かれるものがあった。それは自分の話を真剣に聞いてくれるという事だ。その要素ただ一つが直人がこの酒場にはまるきっかけとなり、昼には冒険で金を稼ぎ夜にはこの酒場に寄るという日々が2週間ほど続いていた。当初の予定では滞在は1週間ほどであった事を考えると十分すぎるくらいの延長であった。


 会計を済ませ宿に帰ってくると酔いがさめたのか直人は突然落ち込み始めた。


「心弱すぎるだろ……昨日で終りって決めたのに何で今日も行ってるんだよ、俺。くそっ!ニーナが優しすぎるのが悪いんだ……」


 前日にもう来ないと言ったがニーナのお願いに勝てず今日も結局キャバクラに行った自分が許せない様子で何度も何度も自分自身の事を罵る。いくら寂しかったといってもキャバクラでその心を埋めるのはどうなんだと。話を聞いてくれるという触れ込みに釣られてこの街滞在してから5日目に顔を出した自分を思いっきり殴ってやりたいと。


「よし! 明日だ明日。もう準備は済んでいるんだし朝から出よう。そうすればふっきれる。」


 立ちあがると自分の頬を叩いて活を入れた。もう決意は鈍らせないと。そして、直人はこの街に着いてから3週間目にしてようやくケレス王国へ向かった。

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