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第二話

 人里離れた森と指定した直人であったが、男が送ってくれた位置情報によればここは【死の森】と呼ばれる危険地帯であった。直人が想定していた人里に半日程度歩けば着ける位置とは著しくずれていた事は言うまでも無かった。直人の当初の計画では、人里から多少外れた位置であればそこまで獣や魔獣が出る事も無く、魔法の実力から考えて結界を張っていれば安全であると踏んでいた。しかし、ここは森の入口から歩いて5日はある距離であった。直人と男の認識の齟齬が直人の現状を物語っていたのは言うまでも無かった。


 直人は自分の生命線を繋ぐべく魔法……特に結界魔法について調べ出す。といっても結界魔法系統の知識を思い浮かべるといったものであったが。目当ての情報を見つける事ができたのだろうか、一瞬にして直人の顔は驚きに染まり、すぐに地面に手をついて絶望している。直人が膝をついて絶望しているのは別に魔法が使えないといった訳でも、結界を張るのに特殊な媒介がいるという訳でもない。では、何が原因か。理由は簡単である。結界魔法の種類が多すぎてどれを張れば良いか分からなかったのである。


 直人は魔法の知識と魔法の使い方等の魔法使いとして必要な物は持っていた。だが、この場所で今張るべき結界をどれにするかといった具体的な疑問を持ってもすぐに出てくる訳では無い。例えば、火から身を守りたいのであれば耐火結界・遮熱結界・遮光結界等の組み合わせで結界を作成する必要があり、魔物から身を守りたいのであれば魔物の種類によって物理結界・魔法結界等色んな結界を組み合わせる必要がある。では、森で一人で野営する事になった場合どんな結界が必要であろうか。答えは場所によって異なるという事だ。


 つまり、色々結界の事を知り状況に合わせて結界を張る必要があるのだが、直人の魔法使いとしての経験値がそれを妨害していた。もちろん、教科書通りの結界の組み合わせ方であれば分かるがその結界も何十種類とある。結局の所、直人はどのような結界を作成するか選択の必要性に迫られていた。これがゲームであれば風系の魔獣が多い地域だから耐風結界や物理結界等の組み合わせを選べていたが、ここでの選択のミスは死に直結する。ゆえに、直人は悩む事になった。どんな結界を張ろうかと。


 2時間程考えた末、直人は制限時間の事もあり思考を放棄した。とりあえず今張れる最強の結界を張ろうと。普通、魔法使いが重視する事としては魔力量の保持にあたる。決して、無駄に使わない事こそが魔法使いに求められる重要項目であったりするのだ。つまり、100の攻撃で死ぬ魔獣に200の攻撃をするなんて事は言語道断である。だが、直人は敵のレベルの強さが分からない為、自分が使える脳内にストックされていた最強の結界を張る事にした。筆頭宮廷魔法使いレベルの魔力量を持って、結界に優れた特性を持って、ほぼ全ての魔力を使い結界を張った。


 直人は自分を中心に10メートルくらいに広がった半透明の膜を観察する。半透明の膜は一見頼りなさそうに見えたが知識のよるとドラゴンクラスの最大級の攻撃でも3発くらいなら耐えられるほどの性能があった。しばらく直人は結界を興味深げに見ていたが、疲れながらもこの結界の効能を検証する。物理結界・魔法結界・遮毒結界・遮風結界・遮蟲結界を始め様々な機能を持っている事は張った段階で分かっていた。


 ただ、万能な結界はある意味完成度が低いといえた。たった1つの機能を持った道具と何十種類の機能を持った道具、どちらの方が便利といえば当然ながら何十種類もの機能を持った道具だろう。では、1つの機能においてはどちらの方が優れているだろうか。当然ながら、たった1つの機能を持った道具だろう。そう、万能な結界は万能ゆえに魔力量を多量に必要とし各々の性能としてはおのずと単一結界より低くなり、そして継続期間が短かった。直人がほぼ全力の魔力量を持って張ったにも関わらず最大で7日間、魔獣の襲撃もあれば3日程度しか持たない結界ができあがったのだ。


 もっとも、直人としてこの半透明の結界に満足をしていた。効率云々よりも死にたくないという思いが強かったのだ。たった3日しか持たなくても張りなおせば良いと。今の自分に戦闘できるだけの判断ができるとは到底思えなかったので、防御に全力を注ぐ事は間違いだとは感じていなかったからだ。



 一通り、結界についての調査が終わると直人は自分と一緒に送り込まれた物資を確認することにした。物資は10数個の木箱に詰められており、整然と詰まれていた。直人はこの地に降り立ったときに横目で確認しただけであった木箱をまじまじと観察をする。


「この世界の文化レベルにそぐわないものは送れないと言っていたから……この世界の標準的な箱と言えば木箱なのか」


 直人が思い浮かべる箱といえば段ボール箱である。木箱といえばりんご等の一部の高級果物にしか使われていないイメージがあったが、この世界では違い木箱が主流であった。その事は箱の事をイメージした瞬間に直人の脳裏に浮かんできた。


「便利……なんだけどなぁ。異世界に来たけど一般的な事は知ろうと思えばすぐに知れるからあまり異世界という感じもしないか……。まぁ、お遊びじゃないんだし感慨に浸っている場合でもないか」


 直人は自分の発想に苦笑するしか無かった。これが近未来に出来るであろうダイブ型のゲームであれば許されたであろうが、今置かれているのは直人にとってまぎれもない現実である。失敗した場合に訪れるのはデスペナと言われるような金銭や経験値のマイナスでは無く、純粋なる死である。ゆえに、どこかゲーム感覚でいる自分の気持ちを引き締めるべく、両手で頬っぺたを叩くと木箱の中にあるテントを探し出し立て始めた。本日の寝床を確保する為に。


 始めはテント作りを割と簡単な作業だと思っていた直人だったが、すぐにその思いは改められた。ここは異世界であって日本では無いのだ。日本で使われているようなほぼ投げるように空気を入れるだけで完成するテントなどは無い。言ってしまえば組み立て式のテントであった。ポールの固定が上手くいかなければ次の手順を踏んだ所で崩れてしまい、ポールの足を土で固めても倒れてしまう。他にもポールとポールの接合部が抜けてしまう等、本格的なテントなど立てた事のない直人が苦戦を強いられる要素は多数あり、テントが簡単に立たないというのは必然であった。


「くそぉ……テント立てるのってこんなに難しかったのか……。知識で分かっているのに組み立てられないとか最悪だろ……」


 たかが、テントの1つも組み立てられない事に直人は苛立ちを隠せないようであった。この世界に来る前に直人はこれから起こりうるであろう問題を考えられるだけ考え、なるべく避けるようにそして避けられない問題は被害を最小にするような対応策を考えていた。だが、テントを張れないといった事態など想定していなかった。これで自分の力量不足を感じるなといった方が不可能である。もっとも、直人は落ち込んでいる間も無いと四苦八苦してようやくテントを組み立てる事に成功した。その時彼の顔には達成感が溢れていた。


「やっとできたぁ……。あとは携帯食料食べてから寝るだけか……。まぁ、今日は寝床を確認できて結界を張れただけでも良しとしよう。明日は朝から行動だな」


 直人は出来たばかりのテントにいくつか生活用品を持ちこむとようやく異世界初めての食事にありつく事になった。もっとも、食事といっても保存食の類であり堅焼きパンとドライソーセージ、ドライフルーツといった寂しいものであった。干し肉やチーズもあったのだが、今から火の魔法を使ってあぶるほど気力も無く寂しい食卓となったのだった。


 直人は腹が膨れるとすぐにテントに入り寝袋の中で眠りについた。寝心地が決して良いとはいえない環境であったが直人はすぐさま眠りについた。








 日も高くなり、もはや朝とは呼べなくなった時間になってようやく直人は目を覚ました。一瞬、現状が理解できなさそうな顔をしてテント内を見渡していたが、自分の置かれている立場を理解したらしく溜息ひとつつくと起き上がり朝食と取るべくテントの外へ出て行った。


 テントの外には原生林が広がっていた。そこには日本では見る事のなかった巨木を始め、見た事も無いツタ植物や毒々しい色の花々が存在していた。余裕の無かった昨日は薄暗い事もあり周囲をそこまで確認できなかった為、直人は大自然に対して感嘆するしかなかった。直人には、異世界の森林を見て一人取り残された恐怖などは存在していなかったし、その事に対して疑問を持つ事も無かった。


 ただ、直人の森林観察は長くは続かなかった。木々の先に黒い物体を見つけたからだ。直人はその物体をよく知る為、無詠唱で風魔法を使用した。直人が魔法を使った瞬間、魔法を使う事を察知したのかその黒い物体は直人と逆方面に走りだした。その事に直人は結界で守られているものの、戦闘にならなくて良かった事に感謝した。少なくても、戦闘経験ゼロで獣とは戦いたくないと。


 その去って行った黒い物体は風魔法を使って調べた所、ブラックウルフである事が分かった。ブラックウルフはウルフ系中位レベル魔獣であり討伐難易度はCランクといったものであった。しかし、ウルフ系全般に言える事だが彼らは群れで行動し、その場合の討伐難易度はBランクにまで跳ね上がる。実質、単体行動しない彼らのランクはBランクであった。


 その事を脳内情報で知った直人はすぐさま結界についての情報を調べた。直人にとって優先すべき事は彼らに勝てるかどうかでは無く、彼らが結界を破れるか否かであった。その結果、人間にとっては脅威となるブラックウルフであったが結界を破れるほどの強さが無い事が分かった。そもそも、ブラックウルフは集団戦で獲物を翻弄しながら仕留める種類であり物理攻撃力がそこまで強い訳では無かった。


「魔獣の強さはまだつかみ切れていないけど……とりあえず結界を張っていれば安全か」


 直人は胸をなでおろすと、いそいそと朝食の準備を始めた。いくら非常事態だとは言っても何も食べずに行動する訳にはいかなかったからだ。かといって、時間をかけて調理をしている暇も心のゆとりも無く昨晩と同じ堅焼きパンとドライソーセージ、ドライフルーツで朝食を済ませた。その味気なさに溜息をついたものの、スープや干し肉を炙って食べている時間が惜しいのも事実だったので直人は素直に諦めた。食事を楽しむ為に時間を浪費した挙句に死亡した、ということにでもなれば想像するだけで笑えなかったからだ。



「ブラックウルフは基本的に単独行動しないはずだから……やっぱりさっきのは斥候せっこうか……。となると排除した方が良いのか……」


 直人は身支度を整えると先ほどの魔獣に対する対処を考え出す。いくら結界の前では直接脅威とならないといっても、結界が無ければ脅威的な魔獣であることには変わりない為無策でいる事は出来るはずも無かった。だが、安易に討伐する事も望ましいとは直人は考えらなかった。この周辺がブラックウルフの縄張りであって彼らが支配しているのであれば、下手に彼らを討伐すれば今後この周辺には新たな魔獣が住み着く事になるからだ。その魔獣がブラックウルフより御しやすいという保証は無い。


「……放置するか。あまりにしつこいようであれば結界内部からは外に魔法が通るし……見せしめに1頭討伐すれば今後警戒して近づかないという選択をしてくれるかもしれないし……。よし、とりあえず結界の維持に努めるとして拠点作りをするか」


 直人の当初の計画は、人里から半日ほど歩いた距離に拠点を作る事であった。もし何らかのミスをして村や町に出入り出来なくなった場合に備えて密かに拠点を作るつもりだったのだ。そして、出現する初期位置が予定とは異なったものの直人はここに拠点を作る事にした。単純に無策でこの森から脱出することは命の危険を伴うし、魔法の習熟にも努めなければいざという時に対処もできない。ならば、しばらくここから動く事は出来ないと直人は判断し、生きる為の拠点を作る事にしたのだった。


「もう少し開けた土地を作らないと駄目だな……。少なくても植物と薬草が育てられるだけの広さがいるから……開拓するか」


 魔法によって植物の成長を促進できる直人にとって、食料問題はある程度の土地と植物の種さえあれば解決できる問題であった。だが、周囲には魔獣の住処もあり安易な開拓はためらわれるようで直人はぶつぶつと何かを呟きながら思考を巡らせている。そして何か思いついたらしく、手をひとつ叩くと風魔法を行使する。直人を中心に風が渦巻いていたが、その風は直人の頭上で円盤状に収束し回転し始めた。直人の誘導に従ってその円盤状の風は結界の外に出て1本1本木を切り倒していった。だが、切り倒されたはずの木は地面に音を立てて倒れる事なく、風に支えられなるべく音を立てないようにそっと地面に運ばれていった。


 開拓にあたって当初は効率面から火で一定範囲の森を全て焼いてしまう事を考えた直人であったが、火や煙に引き寄せられる魔獣も存在する事からこの案を見送った。その次に思いついたのが火以外の属性魔法による物量攻撃で森林を拓く事も考えたが、音に警戒する魔獣だけでなく近づいてくる魔獣も居る事からこの案も却下された。そこで直人が考え出したのが、そっと木々を切り倒して一定の場所を確保するという案でありそれが採用された。そして、この案では魔法の操作の練習も兼ねられていたのは言うまでも無かった。




 直人を中心として半径100メートルほどの空間が更地になった時には、既に夜となっていた。魔力量的には問題が無かったが、慣れない魔法の行使によって直人は疲れていた為それ以上の作業は断念したようだった。だが、魔力量に余裕がある事と本日の作業は一応全て完了した事で少しはゆとりが出来たのか、直人は念願だった干し肉を火であぶり始めた。実は異世界に来て初めて干し肉を見た時に、そのままかじろうとしたのだが脳裏に浮かんできた情報を見て断念した経緯があったりする。干し肉はそのままでは硬すぎる為炙る必要があると知ったからだ。そういった事もあり炙った干し肉を旨そうに直人は食べていった。


「寝る前に結界の強化をしておくか……」


 干し肉のある食事に満足したのか、直人テントから出るとおもむろに手を伸ばし結界に魔力を込め始めた。結界にはまだ十分魔力が残っておりその機能には問題が無かったが、結界が生命線の直人的には決して楽観視できるものでは無く時間を掛けて強化していった。魔力を注ぎ終えると直人は疲れたようにテントに入って座り込んだ。


「やっぱり魔法陣を書くべきだよな……。だが、今の生活スペースで書くと動きがかなり制限されてしまうし早く場所を確保しないとな」


 直人は今後の予定を思い浮かべながらテントの外を見つめる。そこには市街地などとは違い何の明りも無く真っ暗な光景が広がっているだけであった。それは今後の生活を暗示しているように一瞬感じられたが、直人は自分を勇気づけるようにそんな自分の考えを一笑に付した。そして、明日に備える為にテント内の光魔法を消し去り眠りについた。








 森林を開拓し始めてから数日後、直人の周りには草ひとつ生えていない完全な更地が広がっていた。直人は魔法の練習も兼ねて、切り倒した木々や草花を風魔法で一か所に集め結界を張り煙が拡散しないようにした上で燃やしたのだ。そして、何も無くなった土地を土魔法によって整地を行っていた。


 半径200メートル程の土地ではあるが、狭いながらも直人が苦労の末に確保した場所であり彼は少し感動していた。これでようやく本格的な拠点作りができると。そして、結界を強化する為の魔法陣を描けると。


 この世界ナハルでは、魔法の発動方法は多岐に渡る。一般的に魔法使いとして想像するような呪文を唱えるものや、歌によって発動するもの、印を切るもの、何かを媒介とするもの等様々な方法によって魔法は発動できる。言ってしまえば、各国の魔法体系によって使用される魔法は異なるといえた。


 これらの魔法方式の内、直人が使用しているのは主に魔法陣を使った魔法である。脳内にて正確な魔法陣を描き手順通りに魔力を込め発動する。もし、より強く魔法を行使したい場合は、呪文や魔法薬そして印によってイメージや術式を強化するといった方法を使う。これが今直人の居る地域では最もポピュラーな複合魔法と呼ばれる魔法体系であった。


 そして、直人も結界をより強くする為に魔法陣を直接描く事を決めたのである。戦闘等の切羽詰まった状況を除けば、より時間をかけて、より精密に、より補助的な物を使用して魔法を使う事が最大の効果をもたらしたいのであれば望ましいといえた。ただ、残念な事に直人は魔法薬や魔道具並びに宝石や鉱石等の魔法をより強く行使する為の道具を有していなかった。そこで、彼は補助術式を多いに盛り込んだ結界魔法陣を書き、長大な呪文詠唱をした上で結界を構築する事にした。


 だが、その魔法陣の作成を行うには直人の有しているスペースは狭すぎた。彼には半径10メートルほどの土地しか有しておらず、魔法陣を書けば書いている最中に住む場所が無くなってしまう事は確約されていたのだ。そこで、直人は開拓作業に出てようやく半径200メートルほどの小さい土地ではあるが入手することに成功したのだ。したがって、彼が喜ぶ理由も頷けた。


 その日、直人は朝早くから魔法陣を書いていた。といっても単純に魔法陣を地面に書いていた訳では無い。伐採した木から入手した太めの枝で地面に軽く線を書いてゆき、ある程度まとまると土魔法でその線を描いた部分を石に変えていく。せっかく魔法を強化する為に描いている魔法陣が何かのはずみで消えてしまえば効果が薄れるばかりか下手をすれば効果そのものを失いかねない。従って、地面に枝で線を引くという行為だけで留まる訳にはいかず、魔法陣部分の土を石に変化させることで状態維持に努めたのである。


 いくら朝早くからほとんど休みもとらずに描き続けているといっても、たった1日で終わるような作業では無く3割ほど終了した時点でその日の作業は終えた。そして、翌日もまたその翌日も必死に作業した末、残す所1割ほどの所まで描き上げる事ができたのだった。


「ふぅ……魔法陣はここまで出来たけどせっかく組み立てたテントをばらす事になるなんてな……。くそぉ……場所が無いのが悪いんだ……。魔法陣描くのにも魔力を込めながらじゃないと効果薄れるし、新たな場所を確保する為に新しい結界を作るなんてことで無駄に使う訳にはいかないしな……」


 直人は地面に直接寝袋で横たわりながらぶつぶつと文句をいった。彼は魔法陣に締め出される形で結界の隅に荷物と共に避難していた為、新たにテントを張るスペースなんて無かったのである。


「まぁ、いい。ここまで出来れば明日は新しい結界を構築できるし……生活スペースが広くなるな。そうなれば、ようやく植物とかが育てられる……。食い物もあと3週間分くらいしか無いし早く栽培しないと植えるからな……」


 すっかり癖になった独り言を言いつつ直人は眠りについた。一人暮らしをすると独り言が増えるというが、まさに直人はその状態に陥っていたのであった。




 直人は完成した魔法陣の端に立ち魔法を詠唱し始めた。魔法陣事態は昨日の段階で完成していたのだが、荷物と寝床を作る為にもう1つ結界を作った事と魔法陣を描くのに込めたりしたせいで魔力量が心もとなかった。なので仕方なく翌日に魔法陣の起動をする事にし、ようやく今日魔法陣を使用しての魔法詠唱となっていた。


 直人は脳内にある呪文を間違えないように一言一言慎重にそして丁寧に詠唱していく。もし一言でも間違えれば最初から詠唱を再開しなければならないからだ。その上で、印を切り少しでも結界の効果を高める為の動作も組み入れる。直人は体中汗まみれになりながら詠唱開始から2時間後ようやく魔法陣から光が漏れだし結界が完成した。


「ふぅ……やっと完成したぁ」


 結界の完成を見届け直人は地面にそのまま座り込んだ。そのまま周囲をうかがうと半径300メートルに渡って透明な結界が張り巡らされていた。当初に組んだ結界に比べると半数以上の機能を削除しているが十分高機能な結界であり、魔法陣と長い呪文詠唱のおかげで強化されている事もあり大規模結界として成立していた。


「やっぱり魔法陣の効果とかはでかいな。準備に時間も魔力も費やされるという事を考慮した上でも有用か。まぁ、これで新鮮な野菜や果物が食べられる……」


 いい加減乾燥させてばっかりの保存食に飽き始めていたらしく、直人が最初に興味を向けたのはその事であった。もっとも、安全が確保されたという前提の下に言えることであったが。


「だけど、魔法の知識も使う方法が分かっているといってもそれだけに頼っていれば効率が悪すぎるな……やっぱり、この森を安全に抜ける為にはもっと魔法の訓練が必要か」


 直人は同じ全力で張った結界でも、最初に張った結界と今張った結界の間にある歴然とした差を見て魔法の更なる特訓の必要性を感じ取った。いくら素晴らしい兵器や道具があろうとも使う人間が使い方を知っているだけの素人では本来の性能を発揮することは叶わない。魔法も道具の1つである以上、使用者が素人であるとその本来の良さが引き出せないのは至極当然であった。


 魔法陣が張り終わったのは昼前であったが、魔力が枯渇寸前であるという事と4日がかりの仕事で疲れが溜まっていた事もありこの日は昼飯を食べると直人は眠りにつき翌朝まで目覚める事は無かった。

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