性犯罪者のオニダルマオコゼとの思い出
性犯罪者と私の少し生々しい話なので、人間の暗い部分が苦手な人は読まないでください。
一応、生々しい部分は言葉を変え、フィクション感を強めています。
私は中学のとき、地元のBOOKOFFに入り浸っていた。
◇
ある日の夜、私は『GANTZ』という漫画を立ち読みしていた。GANTZの作者が持つ卓越した画力に「これはデジタルで描いているのか⋯?」という疑問を抱いていたからだ。
すると、右側から「バイトしない?」と言う男性の声が聞こえた。
声がした方角に顔を向けると、オニダルマオコゼのような風貌の男が立っていた。荒々しく大太りで、セットした髪は棘のように天井を指している。
私は「何ですか?⋯俺ですか?」と答えた。
オコゼは「そう、ココでは何だから⋯お店の外で話そう」と言い、イキりたいお年頃だった私は、ビビっていない風を装いながら「いいっスよ。」と返答した。
◇
BOOKOFFの看板が爛れた駐車場で、暗い街には不釣り合いな、綺麗な青い車が停まっている。
オニダルマオコゼはその車の隣に立ち、「バイトしたくない?」ともう1度言った。
私は、「そのバイトってなんすか?」と答えた。
オコゼは少しモジッとしながら、「⋯あのさ、俺が抜くところを見張っててくれない?」と言ってきた。
私はそれが、下の話だとすぐに理解した。
「バイトってことはなんかくれるんすか?」と、私は疑問を口にした。
それを聞いたオコゼは、「お金を少しと、コンビニで何か奢るよ」と答えた。
私はそれを了承した。
露出している肌が、切りつけられたようにひどく痛む。
ひときわ寒い、夜の契約だった。
◇
オコゼは「じゃ、中に入ろう」と言い、私を先導し始めた。私はそれについて行く。
BOOKOFFに入ったオコゼは、右に曲がって直進してゆく。私もそれに習い、右に曲がって直進する。
直進する道中、私が好きなトリイ・ヘイデンという作家が書いた『機械じかけの猫』という本が目に入った。
――あれだけはフィクション作品なんだよなー、なんか買う気が出ないな――なんて思いながら歩いていると、先導しているオコゼが従業員入り口の隣で立ち止まった。
オコゼは「ここ、監視カメラの死角になってる。」と言い、『ふたりエッチ』という漫画に手を伸ばした。
私はとりあえず、「へー知らなかったっす。」と答えた。
オコゼは右手に漫画を持ち、左手でジーパンのポケットから、綺麗に折りたたまれた正方形のティシュを取り出した。
そしてそのままジーパンのボタンを外し、珍宝を取り出した。
私はその一連の様子を――何してるん、この人――と思いながら見ていたのだが、オコゼは漫画ではなく、こちらを見ながら珍宝を磨いている。
オコゼは「人が来たら教えてね。」と言いながらも、自分磨きに専念している。
私は従業員の扉とカメラを見て、近づいてくる足音に耳を澄ませた。
オコゼは、ジーパンで首を絞められた亀のようになった珍宝を磨いているが、さっきと変わらず私のほうを見ている。
そしてオコゼは珍宝磨きを終えた。私はその瞬間を見ていたのだが、オコゼは天上の表情を浮かべていた。
◇
満足したオコゼは「もういいよ。コンビニ行こうか。」と言ってきた。
私は「もういいんですか?」と聞いた。
バイトなのに、数分で終わったからだ。
オコゼは「さすがに年だから、君みたいに若い人のようにはいかないよ。」と、呆れや無常に悲観しているとも読める表情を浮かべた。
私は「そうすっか。分かりました。」と答えた。
BOOKOFFから出ると、相変わらず冷たい曇り空だった。暗いはずなのに薄黒紫の雲が見える。
オコゼは青い車のドアに手を掛けて、「コンビニまで一緒に乗ってく?」と聞いてきた。
私は「自分で歩けますよ。」と答えた。
コンビニに行く道中、昔よく行っていたホビーショップが目に入った。今はもう、看板がめくれ、庇にはヒビが入り、そこから苔むした汚水が落ちている。
私の横をオコゼの車が走ってゆく。
多感な時期ゆえに、大人を信じていなかった。
けれど、オコゼがバイト代を払わずに逃げることは考えなかった。
オコゼから、自分と同じはみ出し者のニオイを感じたからだろうか。
◇
コンビニに着くと、オコゼは相変わらず綺麗な青い車の横に立っていた。
オコゼは「遅かったね。何が欲しい?」と言いながら、私の隣にくっついてきた。
私は少し遠慮しながらも「ジュースとかでいいですよ」と答えた。
オコゼは、「若いのにそれだけ?もっと肉まんとか弁当とかでもいいよ?俺が若い頃は――」と、鼻をピクつかせている。
私とオコゼは一緒にコンビニへ入った。
そして飲み物のコーナーへ向かった。
オコゼは「手、洗ってくる」と言いながら、胸元のポケットに入れたタバコをゴソゴソと触っている。
◇
冷たい『午後の紅茶』を選び、オコゼが戻ってくるのを待っていると、紅茶を持つ指先が徐々に冷えていくのを感じた。
温かいものでも良かったはずなのに、子供心として商品の内容量を気にしてしまった。
暖房の効いた店内で、私の指先だけが冷えてゆく。
そこにオコゼが戻ってきた。
「あれ。本当にジュースだけ?肉まんとかチキンとかいらない?一緒に見てみる?」とオコゼは言う。
私は遠慮して、「ジュースだけでいいです。」と答える。
私は幼い頃から両親に、「食べ物を欲しがるのを止めなさい。家が貧乏だと知られるでしょう。」と言い聞かされていた。
だから、その場に居もしない両親のプライドを、親を想う子供心として、無意識に守ろうとしていたのだろう。
私のその答えを聞いたオコゼは、「そっかぁ⋯⋯。」としょげている。心なしか、棘のようになっていた髪の毛も萎れているように見えた。
オコゼは「分かった。俺タバコも買うから外で待ってていいよ。」と言った。
私はそれを了承した。
◇
外で待ってると、バーコードにシールが貼られた午後の紅茶とオレンジ色のタバコを手にしたオコゼが戻ってきた。
オコゼは、「寒いから車で飲む?」と言いながら、紅茶を私に手渡す。
私はそれを受け取り、「いや、またBOOKOFFに戻るので大丈夫です。」と答えた。
オコゼはまた残念そうに「そっかぁ⋯⋯。」と呟いている。
オコゼはそのまま、「また次も会ったら頼むよ。俺、〇〇に住んでるからさ。」と言い、タバコに火をつけた。
私は「そうっすねー。」と言いながら、視界の端でオコゼの車のナンバーを覚えていた。
オコゼは突然、「あっ!」と言って何かに気がつくと、サイフから5000円を取り出して私に渡してきた。
オコゼは「忘れてた。また次があったらまた頼むよ。」と言いながら、私の冷えた手に5000円を握らせる。
オコゼの手もまた、ひどく冷たかった。
温められたタバコの灰が――冷めきった駐車場へと落ちてゆく。




