【2-2】お姫様は遊び相手を見つけたようです
教室に入ってきたのは──黒を基調としたゴスロリの服に身を纏った少女であった。
「はい、初めましてぇ! 私は今日からこのクラスの担任をするシルヴァ先生でぇす。よろしくねぇ」
金髪のツインテールを揺らしながらシルヴァはピースをする。──心配だ。この人が担任とは。本当にこの学園は大丈夫なのか、との考えがヒナタの頭に流れてきた。
「あ、あの……」
「お、クリーム君だねぇ。可愛い名前してるのに体が大きいから覚えちゃった。早速質問? いいよぉ、なんでも聞いて?」
「ふ、服……いいんですか? その服……」
早速ぶち込んだ。ちゃんと体の大きさに度胸が付いてきてるタイプの男だ、とクラス全員の思考が一致する。
「え? この服可愛くない?」
「そうじゃなくて……」
「あはは! 冗談冗談! からかっただけだよぉ。教師に関しても服装の自由が認められてるんだぁ。あ、もちろん君たちはダメだよ?」
一応納得はする。納得はするが……人を教える立場の者として、その姿は如何なものか。だがまぁ許されているのだから文句を言う権利もない。ずっと見ていればすぐに慣れるだろう。
「他に質問は──なさそうだねぇ。では早速授業を始めよっかぁ。みんな、グラウンドに集合ぉ!」
初めは簡単な授業の説明とかだとヒナタは思ってたようだが、何だか違うようだ。シャーロットも同じなようで疑問符を浮かべている。
「何するんでしょうね?」
「血が出るやつがいいな」
「ほんと考えること物騒ですね……」
何をするのか楽しみ──そう思っていた時、シャーロットの背筋に冷たいものが走った。
あの不愉快でシャーロットにとっては最高の『敵意』という感情。向けられた場所へと顔を向けると──茶色のロングヘアを揺らしている少女がシャーロットを見ていました。
無言でヒナタの背中を叩くシャーロット。
「な、なんですか?」
「あれ……誰か分かる?」
「あれって──わっ、ステラ・アストラルだ……!」
「ステラ? 誰?」
「炎属性の名門アストラル家ですよ! 特にステラさんは歴代でも最高レベルの才能があるとか何とか……!」
ステラはシャーロットと目が合うと、すぐに顔を逸らした
「……いい」
「? 何がですか?」
「あの人。私に敵意を向けてた。あの、あの感じすっごくいい……!」
クラスメイトと関わっている時はあんなにもつまらなそうにしていたシャーロット。だがステラを見つめるその顔には恍惚とした、楽しそうな感情が宿っている。
こう見てみると正当な可愛さがあるのに。中身がマトモだったら──とヒナタは思ってしまうのだった。
* * *
「まずは──魔法の強さを見せてもらうよぉ!」
コマのように回転して──ババーンと決めポーズ。シルヴァと同じくらいの背丈のカカシが横に出現した。
魔法により強化された黒色の木造カカシ。無機質なへのへのもへじの顔が逆に不気味さを増している。
「いきなり実技……ですか?」
「そうだよぉ。ここは才能を磨く場所。その才能の見極めとしてまずは君たちがどれほどの魔法が使えるのかを確認しないといけない。だからまずは君たちに『今持てる最大威力の魔法』をこのカカシに放ってもらうよ。あ、もちろん魔術の子は魔術を使ってね」
疑問の声をあげた生徒に即座に返す。そしてシルヴァは指を鳴らした。
「それじゃあ出席番号順に並んでぇ。言っておくけど──舐めた真似はしないようにね」
突然のテストに困惑しながらも、生徒たちは流れるようにカカシへ魔法を放っていく。
「|ウォータースプラッシュ《水放出》。二十三点かぁ。この時期にしては悪くないねぇ」
シルヴァは気の抜けた声ながら淡々と物事を進めていた。水魔法を当てた生徒には軽く拍手し、土魔法を当てた生徒には『そういうこともあるよぉ』と背中を叩く。
この時点で二十点を超えれば強い方だ。魔法の強さは使ってきた歴の長さに比例する。魔法式も確立していない生徒たちでは高得点を出せないのは仕方ないことだ。
シルヴァは変わらずフレンドリー。だが顔も声も変わらないせいで、その奥底を覗き見ることができない。怒ると怖いのはシルヴァみたいなタイプだろう。
シャーロットなら『あえて手加減してシルヴァ先生を怒らせる』とか言い出しそうでヒナタは怖くなった。念を一応押しておこうかと近づく──が、そこにはいつになく真面目な表情のシャーロットがいた。
「シャロちゃん……?」
「……ちょっと本気出す」
やってきたシャーロットの番。かの美少女がどんな魔法を出すのか、クラスメイトたちの視線が注目する中──シャーロットは手の中から生成したサイコロを地面に転がせた。
「『半』──いいね。ノってきた」
──合計の出目は7。見事に当てたシャーロットの体内から黄金の魔力が流れ出した。
「な、なんだよあれ……!?」
「サ、サイコロ……え? どういう魔術……?」
「綺麗……でも、どんな魔術……?」
「まるで女神様だぁ……」
出目を当てたことによる強化モード。入学試験の時にも見たあの姿がヒナタの脳に蘇る。
シャーロットはゆっくりとカカシへと近づいた。腰を捻り、拳を下げ、魔力を右手に集中させる。そして──最大まで溜めた右ストレートを叩き込んだ。
風圧で砂煙が扇形に舞い、周囲にいた生徒はシャーロットが出した衝撃波に身体を震わせた。
──なんというパワー。魔法かどうかと言われると怪しいところだが、カカシから読み取ったパワーは凄まじいものであった。
「……へぇ」
飄々としていたシルヴァの目に光が宿る。だが──シャーロットはシルヴァに得点を聞きに行くよりも先に、違う場所へと歩を進めた。
ヒナタではなく、シルヴァでもなく。その先は──ステラ・アストラルの前である。
「……まさか」
何をするか察したヒナタ。だが引き止めるよりも先に、声を出すよりも先に、シャーロットは──鼻を鳴らした。
「……ふんっ」
「……は?」
煽るように。挑発するように。『私はこれくらいできますけど、貴女は?』と口に手を当てて聞くかのように。シャーロットは胸を張りながら空気を出す。
──挑発されている。脳を介さずとも理解したステラの額には青筋が立った。
「なんですの? わざわざワタクシの方まで来て……まさか、煽りに来たってだけじゃないですわよね?」
「わざわざ聞かないと分からない? それとも分からないくらい頭が悪いの?」
「……ワタクシが誰だか分かって言ってるんでしょうね」
「もう一度言わせる気? わざわざ、聞かないと、分からない?」
可憐で清楚な雰囲気はどこへ行ったのか。背丈の高いステラに上目遣いを向けながら、シャーロットは悪人のような微笑を浮かべながらこめかみの横で指を回す。
「……お退きなさい」
次に魔法を使おうとしていた生徒を退けてステラは前に出た。
「シルヴァ先生。さっきのシャーロットさんの得点は?」
「五十二点だよぉ。この時点では破格だねぇ」
「……分かりましたわ」
ステラが手を上にあげた。──収束する魔力。圧縮された魔力から火花が飛び散り、やがてそれは大きな火炎の塊へと成長した。
炎は液体のように形を変えながらステラの背後へと移動。七つに分裂し、周囲を衛星の如く回り始めた。
「中級魔法──」
──この時点では使えるはずのない魔法。
普通の人なら才能がある人で準中級魔法をやっと使える程度のはず。クラスメイトはもちろん、シルヴァでさえもニヤリと期待しているかのように笑った。
「──アストラルファイア」
炎は星のように形を変え──熱線を放った。七つの熱線は途中でひとつに収束。凝縮された熱のビームはカカシに触れた瞬間、大きな火柱を上げて燃え上がった。
ステラが出した得点は──なんと六十三点。シャーロットすら超えるほどの威力だ。驚くシルヴァだったが、ステラもまた点数も聞かない。
周囲に爆風のような圧を与えながら、ステラはカカシに背を向ける。そして──未だ挑発するように口角を上げるシャーロットに額を擦り付けた。
「ワタクシを挑発したことを後悔させてあげますわよ」
「いいね。最高」
血走っためで睨みつけるステラにシャーロットは不敵な笑みを返すのだった。




