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【1-6】始まりの鐘は鳴らされた

「──試験終了。この合図の時点で迷路内にいる者は失格とします」


 シャーロットとヒナタがゴールした瞬間、ルアーの声が迷路内に響き渡った。

 ──試験は合格。そう確定したヒナタは安堵の表情を浮かべ、シャーロットの背中に全体重を預けた。


「やったぁ……シャロちゃん! やりましたよ!」


「ギリギリだった。あと一秒遅れていたら失格……むふふ」


「ブレないなぁ……」


 合格者はだいたい最初の半分程度か。名門貴族のご令嬢、聖騎士の子息、そして一目見ただけで分かる強者たち。この面々の中に入るのかと思うとヒナタは身が震えた。

 シャーロットはギリギリの快感に満足しながらヒナタを下ろす。


「シャロちゃん……ありがとうございます、本当に」


 ヒナタはシャーロットの手を握りながら微笑む。

 ──シャーロットは同性の友達がいなかった。そもそも同性と関わる機会が少なかった。周りには大人、しかも男ばかり。


 だから初めてだ。自分と同じくらいの女の子とこんなに笑えるのは。シャーロットは照れくさそうに微笑み返す。


「……ん。契約、果たしただけ」


「あれ? 照れてます? 意外な反応ですね」


「うるさい」


 ペチンと肩を軽く叩いた。


 三つの試験の中でも最難関とされる試験をクリア。残すところは学園長直々に行われる面接だけである。

 だがここで気を緩ませる受験生はほとんど居なかった。確かに最難関の試験はクリアした。だからこそ次の面接で落とされたら努力が水の泡になってしまう。

 決して慢心したり気を弛めたりせずに最後までやり通す。受験生たちの目には覚悟が宿っていた。


「あとは面接だけですねー。シャロちゃん、面接の前に学校探索しませんか?」


「エルグランド学園長が面接……緊張するかな……むふふ」


 ……この二人以外は。ヒナタは既に合格気分、シャーロットは学園長の圧を想像してニヤける。なんとも場違い。気が抜けているという感じだ。


 そんなこんなでフニャフニャしていた二人だったが、試験官の声でまた気を引き締め直した。


「最後は面接による試験です。受験番号順に並び、一人ずつ面接を行ってもらいます。合否は面接が終わった後に学園長から直接言い渡されます。合格ならば書類を受け取ってから帰宅するように」


 休憩もほどほどに。熱が冷めないうちに面接は開始される。シャーロットの受験番号は早め。ヒナタは遅めなので、ここで一時のお別れとなる。


「じゃあシャロちゃん。面接頑張ってね」


「ん。お互いにね」


 後ろへと下がるヒナタに手を振り、シャーロットは受験生の列に並んだ。



* * *



 時間が過ぎるのはあっという間。シャーロットは滑らかな木の素材でできた扉をノック。「失礼します」と言って中へと入った。


「──シャーロット・アクレミス、だね」


 赤い高級なカーペット。灯されたシャンデリアの光が淡く部屋全体を包んでいる。不正防止のための高級カーテンによって窓は隠されており、部屋の中にはクラクラするような妖艶な雰囲気が漂っていた。

 そしていかにもな机に鎮座する男こそ──かの有名な学園長『エルグランド・グランディオルト』である。


 金髪のオールバック。顔には深いシワが刻まれており、その手と服の隙間から覗く傷の数々はエルグランドが強者だと示しているかのようだった。

 シャーロットが予想してた通り、むしろ予想以上の圧。鋭い眼光を体で受け、シャーロットは身を震わせた。


「うむ。……運動試験を見ていたよ。あのボスゴーレムを倒すとはね。しかも一撃。しかも拳で。ははは、魔法使いとしてはあまり褒められないが、強さで見れば素晴らしい」


「ありがとうございます」


「座ってくれ。そう緊張することはない」


 招かれるままに座る。エルグランドは両肘をつき、凛としているシャーロットに声をかける。


「君は運命、もっといえば神様という存在を信じるか?」


「はい」


「私はね。信じてなどいない。誰かが上に立って私たちを操作してるなど、許せないことだ。運命を作っているなど腹が立って仕方ない」


 まるで演説するように、身振り手振りを大きくしながら、エルグランドは続ける。


「この世、天上天下において、この私の体も、思考も、血も、運命そのものも。全ては私のものだ。自らの肉体……それは人間に与えられた唯一の所有物。それを神が手駒にしようなど、おこがましいとは思わないか?」


「……そういう問題なのですか?」


「スタンスだよ。私はこう思ってる。だが私の意見を真っ向から否定する人間もいるだろう。私はそれを尊重する。問題なのは、君が自分の意見を持っているかどうかだ」


 事前に面接の練習はしたつもりだが、その時に出てきた予想の質問とは何一つとして掠っていない。シャーロットの体に緊張が走った。


「この学園で戦うには、自分の意思を持たなくては。意思なくして人間は動かない。意見なくして人はついて行かない。自分に意味を持たない人間が何かをするなど、努力をしている全ての人間に対する侮辱だ」


 エルグランドはシャーロットの意見を聞いている。事前に考えられた質問などではない。シャーロットの生の意見を聞こうとしていた。


「君にも意見があるだろう。──何をしたい。この場所で何を成し遂げたい」


 見ている。精査している。この少女は何を言うのか。どんな意見を持っているのか。それを期待して待っている。それこそがこの試験の内容。最終関門だ。


 何を成し遂げる──。正直、お爺ちゃんたちに頼まれたからなのと、蹴落としあいがしたいから、というぐらいしかない。

 シャーロットはただリスクのある日常を過ごしたいだけで成し遂げたいことなどなかった。日々をスリルある日常で謳歌し、時に命の危険を感じて、そして──。



「私は──不平等を無くしたいです」


「……ほう」


 ──無意識だった。頭で考えるのではなく、脊椎反射だった。


「私は学園長が神様や運命を嫌うように、『安泰』や『完璧』という言葉を嫌います。先に刺激がなく、完成されてしまった人生など楽しくなんてありません。適度に命を賭け、適度に開放された幸せを謳歌する。それが私にとっての幸福です」

「ですが……この世にはリスクを感じられる土俵に立てない人間が数多くいます」


 シャーロットが思い出すのは──スラム街の人々。お爺ちゃんたちはシャーロットのことを甘やかし、愛してくれた。しかし暮らしそのものは貧しく、質素だ。

 自分のことよりも他人のことを。逆に自分のことしか考えない人もいる。そんな人は自分や他人に精一杯。不安定な場所ではなく安定を目指して行動しようとしていた。


「私は愛されて育てられました。だからリスクやギャンブルが大好きです。大好きと思える性格になった。それは心に余裕があるから。だったら、誰しもが幸福で、心に余裕がある生活をすることができたなら。私みたいにリスクや不安を楽しめる人間になるはずです」


 ──自分を愛してくれた人たちは、幸せそうではなかった。

 明日の食事すらままならないのに自分のことを後回しにしてまでシャーロットを愛して育ててくれた。なのに育ててくれた人は幸せそうじゃない。


 許せない。そんなのは許すことができない。人は誰しも平等であるべきなのだ。リスクにはそれ相応の対価があるべきなのだ。

 リスクのみを享受するなど──真っ平御免である。


「私はこの世界の頂点に立ち、不平等を無くします。そして不安や絶望すら受け入れて笑えるくらいに平和な世界にします」



 数瞬。二人にとっては数時間かもしれない。場を包む静寂を突き破り──エルグランドは笑った。


「──ははは! そうだ。最高だ。今、この時点をもって、私は君に興味が湧いたよ」


「ありがとうございます」


「──合格だ。これ以上は話を聞く理由も意味もない。おめでとう、そして期待しているよシャーロット・アクレミス」


 ──合格。シャーロットはその言葉によって緊張が解かれ、安堵という快楽を受け入れた。

 脳が溶けそうになるほどの快楽物質を楽しみながらも顔は変えない。シャーロットはペコリと一礼してから席を立ち上がった。


「シャーロット。この場所は君にとって最高の場所になる」


 必要となる書類、そして入学証明書を手渡しながら、エルグランドは言った。


「何度でも言おう──期待しているよ。シャーロット」


「……はい」


 目尻と口角を上げながらシャーロットと目を合わせてくる。赤色の瞳は身を潰すような重圧を放っていたが──シャーロットは一切動じることなく碧色の瞳を合わせ続けるのだった。



* * *



 スラム街へと帰ってきたシャーロット。そこにはスラム街のホームレスたちが一同に集まり、シャーロットの帰りを今か今かと待ちわびていた。

 帰ってきたシャーロットを一目見た瞬間、ルゥを筆頭に雪崩のようにホームレスたちが集まってくる。


「け、結果は!?」


「……ほら」


 ──合格証明書。シャーロットがグリモワール学園に入学したことを証明する書類。嘘偽りのない入学の記録であった。


 歓喜。大歓喜。泣きながらシャーロットを抱きしめ、隣のホームレスを抱きしめ、声を上げる。スラムに響き渡る歓声は大気を揺らした。

 シャーロットは「うるさい」というが、ホームレスたちは収まる気配はない。


「姫ちゃん……! 姫ちゃん……!」


「そんなに泣かなくても」


 もはやシャーロット以外の全員が泣いてるのではないかと思うほどの涙。ここにいる全員の涙で川が作れそうなほどに流し出している。


「誇りだ……俺らみたいな、ハグレ者に言う権利なんてありはしないかもだけど……ありがとう。お前は俺たちの誇りだ」


「……こっちこそありがとう。今まで大切に育ててきてくれて。私はみんなのこと家族って思ってるよ」


 シャーロットの言葉にさらに涙を強めるホームレスたち。さすがに涙が飛び散って「汚い」とシャーロットが言ったことにより、ようやく涙は収まりを見せた。

 しかし興奮は収まらない。ホームレスたちは備蓄していた肉を全て取り出してどんちゃん騒ぎ。普段は飲まないお酒も飲みだし、陰鬱としたスラム街はこの時だけ宴の広間となっていた。


 暗くなった空にオレンジ色の炎とホームレスたちの声が乱反射する。シャーロットはそんなホームレスたちを見て優しく微笑み、久しぶりのジュースを口にした。

 家族が笑ってくれる幸せ。これから起こる波乱万丈な学園生活。そのスリルを味わう前に、この優しい幸せを味わっておこう。この時だけは、シャーロットは柄にもなく、不変を願っていたのだった。


 ──もう二度とホームレスたちとは会えなくなるとも知らずに。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

面白いと思ったら是非星5評価をお願いします。あとついでに感想とか、なんか感情出してるマークのやつとかやってくれると嬉しいです!


今後とも是非お贔屓にお願いします。ありがとうございました

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