【1-4】初めての従者はツッコミ役
ゴーレムたちは植物をかき分けるどころか引きちぎりながら追いかけてきた。人を背負ってるにしてはそこそこ早いシャーロットでもものの数秒で追いつかれてしまう。
「あ、いい。追い詰められてる。追い詰められてる気がする」
「何言ってるんですぁ!」
振り下ろされる一撃を回避。曲がり角をスライディングしながら曲がり、また再加速する。
「ちょっと待って興奮してきた。もっかい止まっていい? 今の回避をもっかいやってみたい」
「ダメですよ馬鹿なんですかぁ!?」
「ケチ」
口を尖らせるシャーロット。下手にこのまま走らせてしまっては本気で止まられる。普通の人間はそんなリスクのある行動をしたいとは思わない。
だが逃げ続けるのも厳しい。シャーロットは三分間は使いものにならないと言っていた。これでは三分も持たないだろう。
植物には魔法の耐性があるようで、生半可な魔法じゃ壊すことはできない。それならば──生半可な魔法じゃなければいい。
「あ、あの! やっぱりちょっとだけ止まってください!」
「貴女も分かってきたね。助けた甲斐があった」
「そういうことではなく! とにかく壁に背を向けて止まってください!」
言う通りにシャーロットは停止。迷路の壁に背を向けてゴーレム三体を迎え撃つ。ただ命令に従うだけのゴーレムに『なぜ止まったのか』という疑問を持つことはない。
単純に目的の受験生であるシャーロットに向けて拳を構えて──振り下ろした。
「避けてください!」
「も、もう少しギリギリを」
「早く! ほんとに早くお願いします! え、ちょ、ほんとに、ほんとにぃ──!?」
拳を──額に当たる数センチで回避。植物の壁はゴーレムによっていとも容易く破壊され、奥へ繋がる道が現れた。
「心臓に悪いぃ……で、でも予想通り! この植物の壁は魔法に強い耐性がある! ただしそれは魔法のみ。ゴーレムの拳なら簡単に壊せる!」
「……今のもうちょっと遅く躱せた。もっかいやる」
「ダメに決まってるでしょ!? 早く逃げてください!」
「む……はいはい。あ、三分経った」
次々とやってくる拳の嵐を避けながら、シャーロットはまたサイコロを投げる。指定したのは『半』。結果は──失敗。
「ツキが回ってこない……むふふ」
顔面スレスレで回避されて泣きじゃくるヒナタ。そして笑うシャーロット。二人はゴーレムの攻撃を掻い潜りながら迷路の奥へと突き進んだ。
* * *
ゴーレムを撒くことに成功した二人。ひとまず安心したヒナタはシャーロットの肩に顎を置く。
「あぅ……背負ってもらってるのに疲れました……」
「もう居ないの……? つまんない」
危機を脱したというのにつまらなそうな顔。かなり変な人に助けられてしまった、とヒナタは眉を困らせる。
「あ、あの……色々ありましたけど、まずは助けてくれてありがとうございます」
「ん。別にいい」
「シャーロットさん、でしたよね?」
「シャーロットでいいよ。皆からは姫ちゃんって言われてた」
「姫ちゃんは恥ずかしいですね……シャーロットも長いですし……シャロちゃん! シャロちゃんって呼ばせてもらいます」
「ふぅん……いいね。シャロか」
初めての呼ばれ方だ。シャーロットは満足したように微笑む。
「シャロちゃんはどこから来たんですか?」
「アフロディーテのウェーブル地区」
「ウェーブル地区……? あそこってスラム街じゃないんですか?」
「そうだよ」
「ってことは……シャロちゃんってホームレスなんですか!?」
「私の場合はストリートチルドレンだね」
ヒナタは酷く驚いた。スラム街といえばホームレスやストリートチルドレンの溜まり場。汚らしく、不潔な場所。そこに住む人々は無条件で嫌われて疎まれる。
母親からもそう教えられたヒナタだったが──目の前の少女はストリートチルドレンだと言うのに、そこいらのお姫様よりも可憐な存在。あんまり信じられない。
「生まれた時に両親に捨てられたっぽい。物心ついた時にはスラム街にいたし」
「じゃあ……今まで一人で暮らしてきたんですか?」
「そんなことはない。そこに住むお爺ちゃんたちが私のこと育ててくれた。スラム街に時々来る怖い人たちも私にご飯くれたし。ほら、私可愛いから」
自画自賛……だが、反論できない。シャーロットのドヤ顔にドキッとしてしまったヒナタは目を逸らす。
「た、大変だったんですね……」
「そうでも無いよ。時々私のことを狙って誘拐しようとしてくる人とか、私のことを奴隷にしようとしてくる人が襲ってきたから」
「無茶苦茶に大変じゃないですか!?」
「特に十人くらいに襲われかけた時は良かった……脚を折られて逃げられなくてさ。死ぬかと思った……むふふ」
「……」
かなり酷い過去を持っていると思ったが、本人がこんな性格だからかなんか同情する気持ちにならない。悲しそうにしてるわけじゃないので同情しない方がいいかもしれないが。
「あの……なんでそんな危ない目に遭ってるのに笑ってるんですか? さっきもなんかギリギリをずっと攻めてたし」
「私はスリルが好きなの。一歩間違えたら命を失うようなリスクを背負ったときにこそ、それを乗り越えた時に得られる快感がある。私はその快感の虜になってる」
「……助けてもらってなんですけど、頭おかしいですね」
「褒め言葉」
とことん変な人だ。しかも自分の意見は曲げないタイプの変な人。厄介な人種──だがヒナタは少し羨ましいと思った。
危ないと分かっていても自分から突っ込み、あまつさえ他人を助けて、なおかつ自分の趣味嗜好も満足させる。そんな強欲さとそれを叶える実力を持つシャーロットに、出会って十分程度なのにヒナタは憧れてしまった。
「とりあえず先へ進む。脚はどう?」
「ん……大丈夫そうです」
──いつの間にかヒナタの足首の血は止まっていた。背中から降りたヒナタはぎこちない動きながらも歩けるようになっている。
使用したのは『ヒール』という誰でもできる基礎魔法。あくまでも応急処置程度の弱い魔法ではあるが、ヒナタが自分で歩ける程度には回復できた。
「そ、それじゃあ。……ここからは敵ですね」
「? なんで? 一緒に行かないの?」
「……ふぇ?」
心底疑問そうにしているシャーロットにヒナタは首を傾げた。
「だ、だって、これは試験だし、それに……」
「魔法で他の受験生を倒すのはありって言ってた。だから共闘するのも別にルール違反じゃないでしょ」
「それ、は……」
「早く行こ」
……本当に強欲で、傲慢な人。ヒナタはそんな強引なシャーロットに泣きそうになりながらも、唇を閉じてシャーロットの背中を追いかけた。
「助けたんだから私の言うことには絶対服従ね」
「だ、打算的……」
「まずは誰か受験生を見つけて攻撃して」
「ふぇ!? なんで!? 邪魔しなければいいだけじゃ……!?」
「喧嘩を売れば私たちに反撃してくる。……むふふ」
「リ、リスクジャンキー……」
……ちょっとだけ追いかけたのを後悔しつつ、シャーロットとヒナタは先を急ぐのだった。




