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【1-3】スリルこそが快感である

 この世界には魔法と呼ばれる異能が存在する。

 魔法とは、魔力を媒介にして使用できる超常現象のことであり、自身が持っている属性によって使用できる魔法は異なる。

 属性は炎や水などの基本属性、氷や磁力などの派生属性があり、ほとんどの人間はこの属性に則って魔法を行使する。


 だが稀にこの系統に属さない魔法を行使する人間がいる。基本属性、派生属性にもない属性の者が操る超常現象は『魔術』と言われ、魔法とは区別されている。

 そして──シャーロットは魔術を行使する人間であった。


 シャーロットの属性。それは神が面白半分で与えたような『賭博』という属性であった。その内容はシンプル。シャーロットが行使する賭博の内容で自分にバフをかけるというもの。

 試験が始まった直後。シャーロットは自分が生成した二つのサイコロを地面へ投げた。


「今回は……『丁』にしよっかな」


 サイコロは地面でバウンドしながら回転。目まぐるしく変化する目は何も無かったかのように停止し──四と二を示した。


「……幸先がいいや」


 ──瞬間。シャーロットの輪郭が黄金のように煌めいた。周囲の受験生は緊張すら忘れてシャーロットに意識が奪われる。

 指先一つで何もかもを変えられると思えるほどの万能感。集まる視線を真っ向から受け止めながらシャーロットはスタートした。


 ──シャーロットが使用したのは賭博魔法『|デット・オア・ブースト《丁半博打》』というもの。

 生成したサイコロを投げる前に偶数なら『丁』を、奇数なら『半』と宣言。投げた二つのサイコロの目の総数が事前に申告したものと同じならばバフを得られるというものである。

 もちろん外せば効果なし。さらに三分間は同じ魔法を使用することができず、素手で戦うしかないというリスキーな技。つまりシャーロットにうってつけの技である。


「あ、いきなり罠っぽい」


 シャーロットの目の前に──岩石が現れた。歪な形の岩がくっついて人型となったもの。それはほとんど絶滅したと言われる『人造生命体(ゴーレム)』であった。

 ゴーレムは受験生を発見すると即座に攻撃。さすがに命を刈り取るほどのパワーはないが、グリモワール学園を受験するエリートでもゴーレムの直撃を食らって吹っ飛ばされていた。


 そんな相手にシャーロットは──もちろん戦う。

 他の受験生はゴーレムから逃げる中、シャーロットはあえてゴーレムの前に立ちふさがった。


「来て。殴って。私を興奮させて」


 試験の目標はゴールすること。ゴーレムを倒すことではない。相手するだけ無駄なことだが、生憎なことにシャーロットはその無駄を好む性格だ。


 ゴーレムは定められた通り、受験生であるシャーロットに目をつけた。拳を握りしめ、シャーロットの端正な顔に躊躇いなく拳を叩きつける。

 ──直撃。近くの葉っぱが揺れるほどの威力。だが──シャーロットは動かない。軽く首が後ろに下がっただけである。


「……いいね。凄くいい。けどやっぱり生きた人の攻撃には敵わないね」


 シャーロットは鼻血を出しながら反撃。拳がゴーレムの腹部に衝突すると──ゴーレムの体は爆発したかのように弾け飛んだ。


「来てよかった……こんなのが沢山いるんだぁ……。早く他の人に合わないかな。戦いたい……見つけ次第喧嘩売っちゃお」


 鼻血を親指で弾きながらムフフと微笑むシャーロット。買い物をしている少女のような言い方だが、中身は完全にバーサーカーである。

 ついでだから他のゴーレムも一掃してやろうとした──その時。近くから声が聞こえてきた。


「うわぁぁん! もう終わりですぅ! 世界は残酷ですぅ!」


 襲いかかってきたゴーレムを片手で殴り飛ばしつつ声の方向へ足を進める。入り組んだ迷路を通り抜け、少し開けた場所へ着いた。

 そこには──シャーロットよりかは小柄な少女がいた。長い銀髪を揺らしながらワンワンと泣いている。目の前には──ゴーレムがいた。


「脚も怪我したし杖も壊れたしぃ! やっぱり私はダメな子なんですぅ! せめて殴らないでぇ!」


 少女の足首からは血が滲んでいる。折れてはいないだろうが、動くのはかなり厳しいだろう。

 これではゴーレムから逃げる術はない。杖もないらしいし反撃も不可。天と地がひっくり返りでもしない限り少女が試験を合格するのは不可能だ。


 この世で平等なものは二つある。それが『命』と『運』だ。人は生まれや育ちは平等ではない。だがこの二つのみは金持ちだろうが貧乏だろうが平等に渡されるものだ。


「やだぁ──ぁ!」



 ──少女は二つのうち『運』を持っていた。近くに『シャーロットがいた』という幸運を。

 シャーロットは少女の前にいるゴーレムに飛び蹴りを放つ。見事に体は爆散。少女は粉々になったゴーレムの破片を浴びながらシャーロットを視界に収めていた。


「……ぇ?」


「ん。硬さが変わらないとつまらない」


 無機質な岩の破片はまるで雨のようにシャーロットへ降りかかっている。それが──上から刺す光、そして周囲に漂う金色の魔力と共にシャーロットを絵画のような景色へと変えていた。

 美しい。同性ながら、少女は恋をしたように胸を高鳴らせた。


「あ……」


「立てる?」


 シャーロットは少女に手を出す。少女はちょっとだけ躊躇い、シャーロットの彫刻のような手に触れた。


「名前は?」


「……ヒ、ヒナタ、です」


「ヒナタ。いい名前。私はシャーロット。よろしく」


 少女──ヒナタは、微笑みかけてくるシャーロットにまた胸を高鳴らせた。


「歩ける?」


「っ……ちょっと厳しそう、です」


「分かった。背中貸してあげる」


「え……いいんですか?」


「もちろん──」


 美しいだけではなく優しい。本当に天女のような子だ。まさかゴーレムに倒されそうな場面からこんなことになるとは。ヒナタは予想もしなかった事態にニヤニヤが止まらない。

 優しさを無下にするのもどうかと思うので、ヒナタは遠慮なくシャーロットの背中に──空振り。倒れるヒナタを横目にシャーロットは立ち上がる。


「うぇ!? な、なんでですか!?」


「ゴーレム」


 ──破壊音が大きすぎたからか。ヒナタの鳴き声が大きすぎたからか。

 三体のゴーレムが破片の粉を舞わせながら出現した。あのゴーレムが三体も──しかしヒナタの心に絶望という霧は発生しない。


「か、勝てますか!?」


「もちろん。私はすごく強い」


 なんと頼りになる言葉だろうか。華奢な見た目に反してゴーレムを一撃で倒せるパワー。これは期待できる。そう思った瞬間──シャーロットの体から金色の魔力が消え去った。

 さっきまでの天使のような雰囲気は消え去り、ただのカリスマしかない少女に逆戻りした感覚。シャーロット自身もそのことに気がついたようだ。


「……あ。バフ消えた」


「ふぇ?」


 目の前にゴーレムがいるにも拘わらずシャーロットは落ち着いた表情でサイコロを生成。地面に転がす。


「今回も同じく『丁』でいこ」


「あ、あの何を……?」


「私の魔法はこうしないと発動しない」


 出た目は──二と三。総和は五。つまりハズレである。


「……」


「……あの、ハズレですけど」


「だね。これで私は三分間は使い物にならない」


 シャーロットはヒナタを背中に抱える。そして──ゴーレムに背を向けて全速力で走り出した。


「あ、ぇ、ぇえ!? 逃げるんですかぁ!?」


「言ったでしょ。出目を外したから今は魔法が使えない。勝てない」


 お淑やかな見た目に反してやってることは丁半博打。今までに見たことの無い魔法、この場合は魔術を見たヒナタ。

 多分これは自分の人生で最も影響を与える人だ。ヒナタはシャーロットに抱えられながらそんなことを思っていた。

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