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【3-6】問題文はよく読もう

「負ける? ははは、面白いことを……魔法の弱点が分かったから勝てる、なんて思考は単純すぎるんじゃないかな?」


「世の中は単純なものだよ。運がいい人間はどれだけ無能でも勝って、悪い人間はどれだけ有能でも負ける。それが世の中の真理」


「シンプルな考え方だ。そのような頭の方が生きるのも楽なのかもな」


 乾いた笑いを見せるボクレー。変わらずシャーロットは笑みを止めたりはしない。


「魔術のクールタイムは終わっただろ。──振ってみろ。言っておくが、我は強化モードに入っても貴様を倒す自信はある。接近戦ができないと思うなら今のうちに考えを改めるべきだ」


「さっきは私にボコられてたのに?」


「貴様に突然キスされたら誰だって狼狽えるだろう」


 ──誘いに乗った。手の中から生成したサイコロを二つ。ボクレーに見せつけるように手を広げた。


「そうだね……どうせなら賭けをしてみようよ。私の使う魔術は丁半博打。ルールは分かる?」


「偶数なら『丁』で奇数なら『半』というやつだろう」


「話が早いや。じゃあ当てた方は相手の言うことを一つだけなんでも聞くってことで」


「……なんでも、か?」


 ボクレーはノールックで襲いかかってきた男子生徒を茨で絡め取り拘束。無視して食堂へ向かおうとした女子生徒も自動追尾する茨で絡めとった。


「そう、なんでも。さっきのキスでもいいよ? ほっぺじゃなくて、唇同士……とかね」


 艶のあるふっくらとした唇を扇情的に指で突つく。


「……面白い。二言は無いな?」


「三言はあるかも」


 シャーロットは──サイコロを投げた。


「『丁』」


「我は『半』だ」


 シャーロットが選んだのは偶数。オーロットが選んだのは奇数。見事に分かれた。確率は二分の一。つまり片方は確実に外れる。

 投げたサイコロは回転しながら地面に落下。乾いた土の上に飛沫を上げながら跳ね回る。そして──停止した。


 結果は──『二』と『五』だった。合計で七。──勝者はボクレーだ。


「……くく、ははは!」


 勝利の笑み。勝者の笑い。王のような傲慢な高笑いが空気を揺らした。


「我の勝ちだ! そしてお前の負けだ。外れたということは強化モードに入ることはできず、また素の状態で戦わなくてはならない! 時間はおおよそ三分……か?」


「それは間違いかな。この魔術は連続で外す度に再使用するまでに三分間加算されていく。だから今回は次のサイコロを投げるために六分間は待たなくちゃならない」


「ならもっと最悪な状況じゃないか! 貴様はさっきなんと言った? 『貴方はこれから負けるから』だったか? まさか……強化モードなしで我に勝てると言うんじゃないだろうな。それは言わないでくれよ、腹が捻れて死んでしまう」


「……ひとつ、聞きたいことがあるんだけど?」


「なんだ? 言い訳の仕方か? 聞いてみろ」


 シャーロットは──少し笑いながら言った。


「貴方──もしかして、勝利条件を忘れてない?」


「……は?」


 どういう意味か。意図も理由も分からない言葉にボクレーは首を傾げた。


「私はまだ戦いたいんだけどね。貴方かなり面白い人だし。でも今回はそうじゃない」


「何を言ってる。また時間稼ぎか? 今度はさっきのようにはいかないぞ」


「冷静になって思い出してみなよ。私たちは何をしてる? なんのために──戦ってたっけ?」


 シャーロットは胸ポケットから赤い宝石のようなものを取り出した。それは魔晶石と呼ばれるもの。魔力を溜め込むことのできる鉱石だ。


「私はリスクが大好き。ギャンブルも大好き。負けるかも、ってハラハラ感が癖になってる。でもね、負けることそのものは好きじゃないんだよ」


「だから何を──」


 ──何を、していたか。そもそも何のために戦っていたのか。何を目的としていたのか。


「約束は約束。負けちゃったのは残念だけど、言うことは聞いてあげる。──でも勝負には勝たせてもらうよ」


 手にしていた魔晶石を上へ投げた。上空でクルクルと回転する魔晶石。投げる直前にシャーロットは魔力を流してヒビを入れていた。

 魔晶石は溜め込める魔力量の許容値を超えた場合にとある現象が起こる。その現象とは──爆散。


 空中に投げられた魔晶石は一気にひび割れて爆散。真っ赤な光を閃光のように爆音を引き連れて弾けさせた。


「目眩し……!?」


 しかしシャーロットは動かない。逃げるでも不意打ちでもなく。笑顔のままその場所に突っ立っている。

 そのことに疑問がよぎったが、ボクレーは反射的に魔法を展開し、茨を発射していた。


 乾いた茨は無数の触手のようにしなりながら空気を割いていく。茨はシャーロットの眼前、鼻先に付くくらいに接近し──。


「「──『ストライク(風林)フレアドライブ(火山)』!」」


 ──地面から飛び出してきた炎の塊に焼き尽くされた。


「なっ……に!?」


 炎の塊はシャーロットを掴みあげてさらに加速。隕石のように焔を纏いながら超スピードで移動し──食堂の中へと突入した。



 纏っていた炎と風は離散。奥から出てきたのは、なんとヒナタとステラであった。


「あ、あっぶなかった……もう少しで酸素が切れるところでしたわ!」


「シャロちゃん結構危なくなかったですか? 茨がギリギリまで近づいてた気がしたんですけど」


「むしろ私にしては素直に助けを呼んだ。戦っていいなら、あのまま戦ってた」


 三人はヒイヒイ言いながら席に荷物を置いた。これで四人分が確保──場所取り完了だ。


「これでいい……ですわよね? 物を置くってルール違反な気がしますけど」


「置けなかった遅い奴らが悪い。クリームは?」


「──こ、ここだ」


 後からオーロットも合流。戦っていないはずの三人だが、全員が過呼吸になるほどに疲弊していた。


「しかし委員長もいい作戦を思いつきましたわね。『下がダメなら上、それかもっと下に行けばいいじゃない作戦』なんて」


「もっとかっこいい作戦名なかったんですか……?」


 ──クリームの立てた作戦は、なにもシャーロットをぶっ飛ばすことだけではなかった。

 シャーロットの魔術は運が絡む。どう頑張っても作戦に組み込んでしまえば運が必要となってしまう。ならばもうシャーロットは運とか関係ない場所に個別で入れればいい。


 まずは先にシャーロットをぶっ飛ばす。その間に三人は一気に地上に降りて地面に穴を掘り進める。地下通路は乱戦区なので近寄らないようにしつつ、ステラの炎で土を焼き、ヒナタの風で土を弾き飛ばし、クリームの鉄魔法で穴を補強する。

 シャーロットが上振れを引けば先にゴールして席取りをすることが可能。仮にシャーロットが下振れを引いたとしても三人がゴールすることができる。

 魔晶石は『負けてボロボロになったらご飯どころじゃないから』とヒナタがシャーロットに持たせたものだ。もしも負けそうになった時に破裂させて合図を送るためのもの。


「やっぱり急いでる時ほど冷静にならないとだわ。酸素の少ない状況で炎魔法を使うなんて……アストラル家の娘として恥ずかしいですわ」


「そ、そんなに自分を責めないでください。私が見越して酸素を洞窟内に送り込まなかったのも悪いですから……!」


 三人が酸欠になっているのは穴を掘っていたからだ。無理に作った洞窟なので酸素も少なく、さらにそのことを忘れていたステラがバンバン炎魔法を使ったがためである。


「まぁまぁ落ち着けって。俺たちはストラック食堂にやってこれた! 一年生でだぞ!? それで十分だろ?」


「……そうですわね。ワタクシたちは上級生すら退けてここへ来れた。それで十分ですわね」


「十分ではないよ。時間がなかっただけで、私はもっとボクレーと戦いたかった」


「ほんと変わらないですねシャロちゃん……」



 ──ボクレーは四人の様子を食堂の入口から眺めていた。


「……はん」


 その肩には──薔薇が咲いていた。

 ボクレーの魔法は自分にも適用される。ナルシスト気質のボクレーは自分を卑下することなど全くと言っていいほどなかった。

 だから欠点が欠点では無くなっていたのだが、今回は血のように赤く美しい薔薇がボクレーの肩に咲き誇っていた。


「認めよう。我の負けだ。そしてさらに認めよう──貴様らの美しい勝利を」


 ボクレーの純粋な賞賛は四人の耳に届くこともなく、騒がしくなってきた食堂の中に消えていった。

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