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【3-4】綺麗な薔薇には棘がある

「『アウターソング(不快音源)』!」


 グライダーの口から衝撃波のようなものが発射された。モロに直撃したシャーロットの思考は停止。無意識に涙が弾けるように飛び出てきた。

 その隙にグライダーはシャーロットの腹に着地。羽を引っ込めて拳を振り上げる。


「音属性……!」


「正解! ご褒美は俺の拳だ!」


 振り上げた拳は超振動。音の力を乗せることにより増幅されたパワーを加算して放たれる拳がシャーロットの腹部を貫いた。


「『サウンドエンチャント(共鳴の共有)』──っぅお!!?」


 ──シャーロットは殴られると同時にグライダーの胸ぐらを掴んだ。地面へと殴り飛ばされるシャーロットにグライダーも引き寄せられ、共に落下する。

 爆発を思わせるような揺れを出しながら二人は地面に叩きつけられる。砂煙を払うようにグライダーは羽を展開。


「ガッツがあるなお嬢ちゃん! だが俺はこのまま飛び上がらせてもらうぜ──」


 飛び立とうと腕を振るう──瞬間、シャーロットはグライダーの足首を掴んで地面に振り下ろした。


「しまっ──っ!?」


「キスしたかったんでしょ? ご褒美にキスさせてあげる。私の拳にだけど」


 ──シャーロットはグライダーの顔面に向けて拳を叩き下ろした。無数の石や土の破片が飛び散り、グライダーの意識ごと完全にぶち壊した。



 肩を鳴らしながら前を向く。現在は──トップ。つまり一位。つまり先端。つまり一番前にいるということだ。

 ──となると目立つのが自然。走り出そうとしたシャーロットの脇腹に何かが叩きつけられぶっ飛ばされる。


「『アースブレイク(大地の力)』! 悪いけど先頭は私がもらうね!」


 地面から突出した岩のようなものがシャーロットを押し上げて蛇のように巻きついてきた。


「いいね漁夫の利。私もよくするよ──でも縛られるのは好きじゃないかな」


 シャーロットは簡単に拘束を破壊。破片を掴んで少女に投げつけようと振りかぶるが──何者かがシャーロットの背中をタッチした。


「『コールドフリーズ(静かな氷眠)』……貴女、噂のシャーロットちゃんでしょ? まともには戦いたくないね」


「だから不意打ち? 最高の考え方だね」


 ──触れられた背中から焼きつくような痛みを感じた。

 だが実際の現象は真逆。シャーロットの背中には薄氷が侵食しており、背中を覆い尽くして四肢にまで到達しようとしていた。


「行くよロックちゃん!」


「失敗すれば終わり、一撃で終わらせるよアイスちゃん」


 地属性を使うのがアイスで氷属性を使うのがロック。普通逆じゃないのかとシャーロットは思うが、二人は構わず攻撃を仕掛けてきた。

 巨大な大地の柱。巨大な氷柱。二つの柱がシャーロットに向けられて発射される。


「いいね。温まってきた──」


 体が凍りついて動きが鈍い──だから避けられないのではなく、シャーロットはあえて避けずに二つの柱をまともに受ける。

 衝撃で体を覆っていた薄氷は砕け散った。シャーロットは柱二本に押し込まれるが地面に脚を突き刺して受け止めきった。


「受け止めた!? ば、化け物じゃん!」


「化け物? こんな可愛い子にそんなこと言うなんて酷いね」


 ──二本の柱をアイスとロックに向けて投げつけた。ロックは氷の壁を生成して防御。しかしアイスは防御壁こそ展開するものの、分厚く生成できなかったせいで土の壁を貫通して柱が直撃。校舎をぶち壊しながら場外へと飛ばされてダウンした。


 ロックは悔しそうに舌打ちをしながらも魔法をさらに展開する。地面に大小様々な魔法陣を作り出してシャーロットの場所まで繋げて線のように生成した。


「『フロストストリート(零通り)』!」


 魔法陣から氷が飛び出した。氷は魔法陣の上から線のように生み出され──シャーロットに直撃。シャーロットの上半身は凍りついた。

 さらにロックは魔法を展開。無理をした魔法の連続に魔力因子が焼きつく痛みを感じながらも魔力を放出する。


 地面には一際大きな魔法陣が張り出された。魔法陣はロックの命令に従い甲高い音を立てながら空気を凍結させて柱を射出させた。


「『フローズン(壊れる)ファンタズム(氷柱)』!」


 巨大な氷の柱は飛来する鷹の如し速度でシャーロットに向かって走り抜ける。直撃すれば数十メートルは後方にぶっ飛ばされるだろう威力。

 だがシャーロットは避けるどころか、防ぐこともしない。ただ一発。ただ一発──氷の柱を蹴り飛ばしたのだ。

 柱は無慈悲にも悲鳴のような音を奏でながら破裂。皮肉にも光に反射して美しい破片がロックの目に映る。


「嘘──」


 唖然とするロック。シャーロットは氷の柱をひとっ飛び。着地するのを見てロックは咄嗟に反撃しようとするが、時は既に遅かった。

 両腕ごと胴体を挟み込むようにシャーロットは飛びついた。両腕は使えないので両脚で。少女は万力のような力で締め付けられる。


「が……ぁ……!?」


「貴女たち最高に良かった。次は時間に追われない時に()ろうね」


 上半身を反らせて──思い切り頭突きをロックの額に叩き込んだ。

 脳が揺れる。視界が揺れる。神経が揺れる。頚椎が揺れる。揺れる、揺れる。何もかもが揺れ、ロックの意識は揺らりと揺らめいて消えていった。



 両腕の氷を力で破壊。頭突きのせいで流れた血を舐めながらシャーロットはまた前へと走り出そうとした──時、ふと、自分の左腕に違和感を覚えた。

 気になったシャーロットがゆっくりと左腕を前に持ってくる。そこには──前腕から美しく薔薇が咲き誇っていたのだ。


「薔薇……?」


 誰もが見たことのある赤い薔薇。茎には棘が付いており、肌に根を張っている。どこにでもあるような薔薇だ。なんと異常も見当たらない普通の薔薇だ。

 ただ自分の肌から生えているということを除けば──。


「これ……むふふ、そ、うか……!」


 そして気がついた。徐々に自分の体が動かなくなってきていることに。動こうとするが、やがては歩く力も失って地面に膝から倒れる。


 尻に薔薇が刺さった状態で気絶していた。

 字面だけでも無茶苦茶に間抜けな姿だったが、シャーロットはクリームが言っていた言葉を思い出した。


 ──赤い髪の男には気をつけろ、と。


「──ふむ」


 止まりそうになる体に喝を入れるために大きく呼吸をしていると──突然、目の前に顔が現れた。

 男の顔だ。赤い髪をした男。キリッとしたつり目にシュッとした顎。イケメンと言うに相応しい顔付きをしている。


「いい顔だ」


 男はそう言うと立ち上がり、シャーロットの前に立ち塞がった。

 ──赤い髪。──手の甲に咲いた薔薇。言われずとも察せられる。目の前にいる男こそ、クリームが言っていたボクレー・ストリートなのだと。


「美しい。君はかなり美しい顔をしている。認めよう。そこは認めよう」


「そう? 自信があるからね……認めてくれて感謝するよ」


「だが……ここまで来た動き。君はまるで子供がパチンコで遊ぶかのように飛来してきた。空を切り裂き、派手に地面に激突した」


「……?」


 ボクレーの指がシャーロットへ向けられる。


「その行動は──美しくない」



 ──瞬間、右肩がうずいた。そしてなんと服を突き破り肩から薔薇が咲き誇ったのである。


「なっ、ぐっ、ぇ!?」


「うん。やはり薔薇は美しい。醜い人間に咲けば美しくなるし、美しい人間に咲けばより美しくなる。──素晴らしい植物だと思わないか?」


 ボクレーはそう言って煌めく歯を見せながら笑った。

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