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【3-3】飛び上がれプリンセス!

 シルヴァは頭を抱えていた。新学期となり、自分が受け持つクラスと会って早くも一週間。個性の強めな子が多いが今のところはいい子ばかり。

 特に優秀なのはステラ。シャーロットとの戦いから見ても将来性が強く、さらに昨日の小テストもクラスで一番の高得点であった。これからの動向が期待でき、シルヴァも胸を高鳴らせる。


 ただ……そう、シャーロット。シルヴァが頭を抱えているのはシャーロットが原因だ。

 強さは分かった。あの名門アストラル家のステラとも互角に渡り合う戦闘能力の高さ。即興で戦術を組み立てる頭の良さ。その面についてはシルヴァも理解している。

 問題は──頭の良さの方だ。戦闘面の方ではなく、学術の方面で。


 つい先日に行った簡単な試験。そりゃトップクラスの学園なので常識問題よりは遥かに難しいとは思うが、平均点が七十六点のところ、シャーロットはまさかの二十二点。落第とかがないテストとはいえども、これは見過ごせない点数だ。


「まったくもう……ステラちゃんとの戦いを止めたから嫌がらせでもしてるのかねぇ……」


 にしても陰湿というか、遠回りというか。とにかくこれは担任として怒らなくてはならない。四時間目が終わり授業を終えたシルヴァはすぐにシャーロットを探した。

 昼休みに入ると皆が食堂に行ってしまう。まぁ入って一週間なので激戦となるストラック食堂には行かないと思うが──。


「……いや、待て。待て──絶対行くつもりだぁ!」


 一週間、というより一日目くらいでシャーロットの性格をある程度は理解したシルヴァ。嫌な予感がしてEクラスの教室の扉を強く開けた──。


「……」


 唖然とした。せざるを得なかった。

 教室の端から端、窓にかけて滑走路のようなものができており、手前の方にはシャーロットが座り込んでいる。そしてシャーロットを挟み込むようにステラと不安そうな顔をするヒナタが立っていた。


「ほ、本当に大丈夫ですかシャロちゃん……!?」


「はやくっ、はやくっ、はやくっ」


「お待ちなさい。まだタイミングじゃないですわ」


 これは一体どういう状況なのか。シルヴァの頭は固められたかのようにフリーズしていた。


「あ、シルヴァ先生。どうしたんです?」


 窓際にて中庭を監視するように眺めていたクリームに言われ、シルヴァはフリーズしていた脳みそを再回転させた。


「……どうしたんです? じゃないよ! こ、これどうしたのぉ!?」


「委員長の魔法で作ったんですの」


「それは分かるよぉ! だってクリーム君は鉄属性だし……そうじゃなくてねぇ!」


「──私たち、ストラック食堂に挑戦する」


 シャーロットは『ワクワクしてる』と顔に書いてあるようなほどに期待している顔をシルヴァに見せた。


「クリームの『下がダメなら上から行けばいいじゃない作戦』をする。このままオープンの看板が出されると同時にステラが炎で空気を膨張させて、ヒナタが風で私を押し込む。私は魔術で身体能力を強化して、この最短距離ルートをひとっ飛びする」


「ストラック食堂……!? というか、普通にそれ危ないよぉ!」


「シルヴァ先生ぃ……そうですよねぇ……! 誰も、誰もツッコまないから私がおかしいのかと思ってましたよぉ……!」


「ヒナタは心配性。最短距離をぶち抜くんだから反撃ももらわないし、誰も追いつけない……追いつかれるのもいいけど。むふふ」


「むふふ、じゃないですよぉ!」


 食堂が開くのは昼休みが始まってから五分後。過去にとある教師が授業を放り投げて食堂前を陣取った事件があって以降、食堂に並ぶことは禁止されている。

 故にストラック食堂を目指す生徒は教室に居なければならない。窓の外から他の教室を見ていあクリームはソワソワしている他の生徒たちを視界に収めて武者震いをした。


「もうすぐで五分だ! シャーロットちゃん、準備はいい?」


「バッチリ」


「ワタクシも完璧ですわ!」


「うぅ……や、やればいいんですよね!」


「待って、待って! 私は担任としてそんな危ないことは認めないよぉ! そもそも食堂戦争自体、私はどうかと思うけど……とにかく! その行動はさせないから──」


 シルヴァは手をかざして魔力を圧縮。前にも使った『虚構属性』を使用して四人が展開しようとしている魔法をなかったことにしようとした──瞬間、シャーロットはシルヴァになんと上着を放り投げた。


「──!?」


 その隙にシャーロットは|デッド・オア・ブースト《丁半博打》を使用。生成したサイコロを放り投げ、今回は『半』を宣言した。

 結果は──当たり。シャーロットは三分間の強化モードへと移行する。


 食堂が開くまで残り三秒。始まりの合図と共に動けるように窓に手をかけて構える生徒たち。

 教室から食堂までの距離はおおよそ百三十メートル。中庭は障害物がほとんどないのでシンプルな短距離。だからこそ生半可な実力ではすぐに攻撃を受けて終わりだ。


「ふふん。シルヴァ先生の魔術は対策済み。技を視界に収めてないと消すのは無理なんでしょ? お見通し、むふふ」


「なっ、シャーロットちゃん──!」


 白い服を着た調理員が食堂前に『開店』の看板を立てかけた。──開戦の合図である。



* * *



 中庭では早くも激戦。爆発に斬撃、弾丸みたいな音に炎が燃え盛る音、それどころか場所によっては空間すらも歪んでいる。

 たかが食堂なのに規模があまりにも大きい。これは怪我人どころか下手すれば死人が出てもおかしくない。


「──ファイア!」


 ──だがクリームの手は躊躇いなく振り下ろされた。

 ステラの『|ヒートエクスパンション《熱膨張》』を使用して炎を生成。熱により空気を膨張させてシャーロットを一気に押し込む。

 さらにヒナタの『トルネードホールド(風の通り道)』を使用してシャーロットをさらに加速する。


 二つの加速が重なり合ったことによりミサイルのようにシャーロットは発射。シルヴァが反応する間もなくシャーロットは一気に校庭へと飛び出した。


「あっ、ちょっ! あ、後でお説教だからねぇ!」


 なんてシルヴァの声を聞きながらシャーロットは空中を飛来していた。

 下から爆風やら水飛沫、土飛沫が発生してシャーロットの頬にへばりつく。空中で体勢を整えていると──狙い通り先頭集団に追いつくことができた。


 減速はまだしていない。このまま行けばトップに──と、思った刹那、背後から強い敵意を感じた。


「ははは! 俺と同じ考えをしてる子がいるとはな!」


 ──両手に羽を生やし、空を滑空するように移動していた男子生徒。特徴的な見た目からすぐに『アガリビト(獣人)』と分かった。

 アガリビトとは人と獣の遺伝子を良いとこ取りした種族。基本的には身体能力が高く、魔法はあまり使用しない傾向が多いが、たまにグリモワール学園にもアガリビトが入学してくることがある。


 それがよりにもよってこのタイミング。しかもアガリビトの中でも珍しい鳥類タイプとは。シャーロットは空中で逆さになりながら恍惚とした笑みを浮かべる。


「貴方がボクレー?」


「はぁ!? あんなナルシストと一緒にするな! 俺の名はグライダー! 悪いが先頭に立つのは俺だ! 面のいいお嬢ちゃん、俺とキスしてほしいところだが、今回ばかりは地面とキスしててもらうぜ!」


「悪いけどファーストキスはまだあげるつもりはない。……むふふ、やっぱり参加してよかった」


 空中で体勢を立て直す。シャーロットは体を細めて向かってくるグライダーに向けて拳を構えた。

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