【3-1】いくぜ食堂戦争完全攻略同盟
「ヒナタ。今日はストラック食堂に行こ」
シャーロットが入学して早くも一週間が経過した。
授業も始まりを告げ、新しい環境にも少しずつ慣れていく。運良くヒナタという友人もでき、シャーロットの学園生活はいいスタートを切ることができていた。
そんな時のことだ。寮から学校に登校してそうそう、シャーロットはヒナタに宣言したのだった。
「……なにゆえですか?」
「ヒナタも噂くらいは聞いてるでしょ。ストラック食堂には高名な美食家ですら涎を流して譲って欲しいと裸土下座するくらいに美味しい料理『焼きメーコルのモッツァレラチーズ包み』があるって。私、それ食べてみたい」
このグリモワール学園には食堂がなんと五つも存在する。ただ食堂にはグレードがあり、上の方になってくると入学してすぐの新入生では入口すら拝めないほどの競争率となっているのだ。
そしてグリモワール学園の中で最もグレードの高い食堂が『ストラック食堂』である。世界有数の料理人によって作られた料理はまさに絶品。そこいらのレストランでは追随することのできない料理を食べることができる。
そんなストラック食堂の中で最も美味しいとされるのがミカの言う『焼きメーコルのモッツァレラチーズ包み』である。
一匹の『メリープ』から五年に一個しか取れない天然のメーコルを優しく時間をかけて炙り旨味を閉じ込め、さらにプロの手によって極められたモッツァレラチーズを贅沢に使ってメーコルを包む。
料理の味は絶品以上。この料理を食べるためだけに入ろうとする生徒だっているくらいだ。
「でもストラック食堂は競争率が激しいって聞きま……もしかしてメインはそれですか?」
「人聞きが悪いね。『美味しい料理が食べたい』と『戦いたい』は同じランクだよ」
「じゃあ結局メインじゃないですか」
世界有数のグリモワール学園。その中でも最上級のグレードを持つストラック食堂。その中でも一番美味しいとされる料理。つまり最上級の中の最上級の中の最上級だ。
上級生も食堂に入るために容赦なく魔法を使用して妨害してくる。生半可な覚悟では昼飯抜きどころか午後の授業にすら出られないこともある。
「流石にやめときましょうよシャロちゃん……ストラック食堂に関してはいい噂を聞きませんよ? 委員長のクリームさんが最近行ってたじゃないですか。どうやらお尻に薔薇を突き刺された状態で保健室に運ばれたようですよ」
「そんなことある?」
珍しく普通にツッコむシャーロット。何をどうしたらそんな状況になるのかかシンプルに疑問である。
「でも気になる……むしろ行きたくなった。だって美味しいご飯も食べれるし、心躍るバトルもできるんでしょ? 授業ばっかりでつまんないから体がウズウズしてる」
「一週間前にあんな激しいバトルをしたばかりじゃないですか……」
「あれは心残りの消化不良。あれからもステラに突っかかってるのに、全然相手してくれないし」
「やめてあげてくださいよ……流石にステラさんが可哀想ですよ。人様に迷惑はかけちゃダメです」
「むぅ……」
シャーロットは口を尖らせる。
「……スラムではあんまりご飯を食べられなかった」
「……ちょっと。それ出すのズルいですよ」
「一日に一回食べれたら運が良かった。ゴミの中にあるパンとか、泥の入った水とか。味のあるものなんて全然食べられなくて。砂を食べようとした日もあるよ。チーズとかステーキとか、ずっと食べてみたかったんだけど……仕方ないよね。ヒナタに迷惑かけちゃうんだからしょうがないよね」
「そ、そんなこと言って気を引こうとしてもダメですからね! 私は騙されませんよ!」
「一度でいいから美味しいパスタが食べてみたかったな。脂の乗ったお肉が食べたかったな。トロトロになったチーズとか食べてみたかったな。いいなぁ……ヒナタは食べてきたんでしょ。いいなぁ……私は文明的な生活をやっとできたのに、美味しいご飯すら食べられな──」
「──あぁもう分かりました! 分かりましたから!」
ニッコリ笑ってダブルピース。こんな悲壮感に溢れないスラム育ちのホームレスがかつていただろうか。
「別に一人でも行ったらどうです? むしろ私がいると足手まといになるんじゃないですか?」
「一人寂しい……」
「シャロちゃん……」
悲しそうに言うシャーロット。さっきちょっとイラッとしたのだが、この素直な可愛さを見て怒りの感情はどこかへと消え去ってしまった。
「……あと足手まといがいるくらいがスリルがあっていい」
「そっちが本命ですね!?」
前言撤回。やっぱりシャーロットは憎たらしい。見た目が可憐な美少女じゃなければグーパンを顔に叩き込むくらいには。この一週間で分かったそんな事実をヒナタは改めて思い直した。
なんて馬鹿な話をしてた時、後ろからドタドタと走ってくる音がした。何事かと後ろを振り向くと──ステラがシャーロットに向かってタックルをぶちかました。
「うげっ」との声を出して吹っ飛ばされるシャーロット。ステラはそんなシャーロットに向かって怒鳴った。
「貴女──なんで昨日は誘いに来なかったんですか!?」
「……はい?」
隣にいたはずのシャーロットはぶっ飛ばされ。息を切らしながらやってきたステラは息を切らして怒っている。ヒナタの脳みそはフリーズしていた。
「い、いつもいつも『戦お、戦お』ってワンコのように来てたじゃないですか! ワタクシずっと今日まで待ってたんですのよ!?」
「でも全然戦ってくれないじゃん」
「だって貴女と戦うのは面倒じゃない。どっちかが再起不能になるくらい戦うでしょうし。毎回毎回ヒナタさんに運んでもらうのも申し訳ないですもの」
「……? それじゃあなんで誘いに来ないこと怒ったの?」
埃を払いながら立ち上がるシャーロット。
「戦いたくはありませんけど、お誘いには来てほしいの! 貴女はワタクシのライバルなのだから……その……飽きられたみたいで心配するじゃないの!」
──めんどくさい。この人、とてもめんどくさい。
まるでメンヘラの彼女。ヒナタが苦い顔をしてる中、シャーロットは心底不思議そうに言った。
「? 私が貴女に飽きるわけないでしょ。貴女、面白いし」
「面白い……ふ、ふん。そんな心にもないことっても、ワタクシは嬉しくないですわ」
とは言いつつ嬉しそうなステラ。尻尾があったら風車のように回してそうなほどに喜びが隠しきれていない。
「ちょうど良かった。今日はヒナタとストラック食堂に行こうと思うんだけど、ステラも来る?」
「ステラ……さん付けじゃなくて、呼び捨て──は! し、仕方ありませんわね。そこまで言うなら行ってあげましょう!」
「ワンラリーですけど。あと心の声が盛れすぎですよ」
ヒナタのツッコミも無視。ステラはルンルンで、シャーロットも戦いに飢えてルンルン。どいつもこいつもマイペースばかり……これからのことを考えてヒナタは胃が痛くなってきた。
「それじゃあここに宣言しよ。二人とも手を出して」
「こうですか?」
言われるがまま。二人はシャーロットの上に手を重ねた。
「──『食堂戦争完全攻略同盟』ふぁいやー」
「フ、ファイヤー?」
「ファイヤー!」
気合を入れて叫ぶステラ。ノリッノリのステラに対して誘った張本人の声はふにゃふにゃとしていた。
「……よし、ノルマ達成。じゃあ早速作戦会議をしよ。私も久しぶりにステーキが食べたいし」
「なんだったんですか今の」
「やりたかっただけ」
「ほんとにもう……待ってください。久しぶりに?」
久しぶりに食べてみたい──この言葉は以前に食べたことがないと出てこない言葉だ。
「食べてるじゃないですかステーキ! さっき食べたことないって言ってたじゃないですか!?」
「食べてみたかった、って言っただけ。食べてないとは言ってない」
「屁理屈ばっかりぃ!」
ヒナタはシャーロットの柔らかな頬を引っ張りながら教室へと入るのだった。




