【2-6】お嬢様は不満そうです
保健室の天井は白く、どこか無機質な感じがしていた。
寝かされたステラはその額に冷やされたタオルを置かれ、頬をアルコールが染みたガーゼで拭かれる。
「痛いですわ」
「が、我慢してください。保健室の先生はどこかに行ってるっぽいいから、応急処置くらいはしないと」
魔力因子が焼き付いてるので魔法の使用は不可。自己治癒の魔法をかけることのできないステラはヒナタにされるがままになっていた。
「……貴女。あの女と仲がいいですの?」
「シャロちゃんのことですか? 仲がいい……のかな。私にもよく分かんないです。あの子はぶっ飛びすぎてて」
「確かにそうですわね。ですがぶっ飛んでる、ってよりはイカれてるの方が正しいですわよ。ワタクシの炎に真正面から突っ込んできて。下手すれば死んでたかもなのに」
「それも個性なんじゃないですか?」
「個性で済ませていい範疇じゃないでしょう」
「それもそうですね」
ヒナタの静かな笑いにステラも少し微笑んだ。
「……貴女はあのまま続けてたら、どっちが勝っていたと思いますか?」
「答えに困る質問ですね……」
「別にワタクシに配慮しなくてもいいですわよ。気にしません」
「それなら──シャロちゃんです」
──ヒナタは迷いなく答えた。
「……配慮しなくていいとは言ったけど、思ってたよりも断言したわね」
「す、すみませんっ……」
「聞かせてくれる? 理由を」
「……シャロちゃんが言ってたんです。『最初から最後まで勝利のことを考えてる』って」
あの時。アリーナに上がる直前、シャーロットはそんなことを言っていた。すぐにあの悪い笑顔が思い浮かんだが、いい雰囲気なので頭を振ってその記憶を消す。
「シャロちゃんはリスクジャンキーの変態さんですが……やると言ったらやる子っていうのは分かります。入試の時は『ヒナタが相応のリスクを払うのなら、私はヒナタごと合格させる』って。……私を合格させてくれたシャロちゃんが負けるわけありません」
「……出会ってすぐの女の子にそんなに肩入れできるなんて、貴女も十分にイカれてるらしいですわね」
「え!? そんなことないですよぉ!?」
戦っていた時の鬼気迫る顔は捨て、年相応の少女のようにステラは笑った。──可愛らしい笑顔。思っていたよりも人間らしいステラにヒナタもつい顔が緩んでしまった。
そんな時──眠っていたシャーロットの布団が蹴り飛ばされた。
「あ、シャロちゃん! 起きた? 大丈夫?」
「……」
シャーロットは目を開き、ボケーッと天井を見ていた。ヒナタは濡れたタオルを持って駆け寄る。
「火傷のところ痛くない? 一応冷やしてはいるけど……」
「……つ」
「どうしたの──」
──シャーロットはヒナタの胸に顔を埋めた。
「ふぇ!? え!? シャ、シャロ、ちゃん!?」
大きく、柔らかく。小柄な見た目に反して大きい胸。そんな胸に──シャーロットは顔をグリグリと押し付けた。
「腹立つ、腹立つ、腹立つっ、腹立つ! 腹立つ!」
「え、え、え?」
「ズルい! 私が勝ってた! あの先生が邪魔しなかったら私が勝ってたもん! あの先生が邪魔した!」
これまたいつもと違う顔と話し方。シャーロットは目にいっぱいの涙を貯めながら子供のように喚く。胸に顔を押し付け、無抵抗のヒナタをペシペシと叩く。
思わぬ攻撃にヒナタはされるがまま。傍から見ていたステラは割と引いた目つきでシャーロットを見ている。
確かにシャーロットはスラム育ち。かなり酷い目にも会ってきたからか精神的にはかなりタフだ。
だがそれはそれとして、ホームレスたちにはかなり甘やかされて育ってきた。お金関係には厳しかったが、シャーロットのすることは全て褒められた。
自分たちのような不自由な生活をさせてるのだから、せめて幸せに生きてもらわなくては──。
──てなわけで、シャーロットはかなりワガママに育った。
ギャンブルで負けた日には八つ当たり。ホームレスたちはペチペチ叩くし、半泣きになりながら膝枕を要求。特に関係ない人にも『バカ』やら『アホ』やらの可愛らしい罵倒を言う。
そんなシャーロットが可愛かったので注意したりしなかったホームレスたちだがその結果がこれである。
「わぁん! もう嫌い! あの先生嫌いだもん!」
「お、落ち着いてくださいシャロちゃん……! 服がビチャビチャになります……!」
「ムー! もう先生も許さない! ステラも先生も私が倒すもぉん! わぁぁん!」
子供のように泣き喚きながらヒナタの胸を濡らす。今朝は可憐な美少女の雰囲気を纏い、さっきまでは狂戦士のような闘志を纏い、今は駄々を捏ねて泣きじゃくる子供の雰囲気を纏う。
もうこの子を表すにはどうやって表現すればいいのか。ヒナタとステラは困り果てたようにシャーロットを見ていたのだった。
* * *
数時間後。復活したシャーロットは教室の扉を開けた。あの激闘を演じたシャーロット──クラスメイトは一気にシャーロットの元へと群がる。
「シャーロットちゃん凄かったねぇ! あんな土下座からドロップキックするとかビックリしたんだけど!?」
「ていうか、あのアストラル家のステラさんと互角に戦うなんて凄い! ほんとにカッコよかったよ!」
「やっぱり君には特別な力が……僕と共に空の旅へ行かないか?」
周囲から賛美の声を受けるシャーロットだが本人の顔はとてつもなく不満そうだ。それらの声を無視して席に座り、ツーンと顔を逸らしている。
「まだ拗ねてますの? ほんっとうに子供ですわよねぇ」
そこへ──ステラが現れた。
シャーロットよりも先に戻ってきていたステラは先程のお返しと言わんばかりに挑発する顔を貼り付ける。
「でも良かったじゃないですの? あのままやっていればワタクシが勝っていたんですし? その可愛いお顔が歪んでしまうのを見たい人は少ないでしょうし?」
「……先生が止めてなかったら私が勝ってた。あの距離なら私の方が早かった」
「いいやワタクシが勝ってましたわ。貴女はワタクシの『アストラルファイヤ』に対応できてなかったじゃないですの。不意打ちに対応できるほど、あの時の貴女に余裕なんてなかったのではなくて?」
「できてた。……なんならもう一回やる? 中途半端に止められてて私は今最高に腹が立ってる」
「嫌ですわ。どうせ勝つ勝負をするほどワタクシ、暇じゃありませんもの」
「へぇ……勝つ勝負、ね。私ってそういうのをひっくり返すのが大好きなんだよね──」
──シャーロットとステラの頭にチョップが振り下ろされた。二人は「みゃっ」という可愛い声を漏らしながら頭を抑える。
「こら、ステラさん。シャロちゃんは怒ってるんだから、火に油を注ぐようなことはしないでください」
「う……ごめんなさいですわ」
「シャロちゃんもいつまで拗ねてるんですか。子供じゃないんですから、そろそろ機嫌を直してください」
「……はぁい」
振り下ろしたのは──ヒナタ。ヒナタの言葉に二人はシュンと肩を落としながら従った。
──あの激闘を繰り広げた二人。どちらも並外れた才能と実力を持っているあの二人。そんな二人を手駒にしている。子供扱いしている。
シャーロットとステラが抵抗していないのを見るに──もしや、あの二人よりもヒナタは強いのではないか。だから従わざるおえないのではないのか。
「実は一番やばいのは……」
「あの銀髪の子、だったり……?」
最初は美少女をぶっ叩く変な子として見られ。今は超がつくほどの実力者を抑え込む、真の強者として見られてしまう。
「……あ、あれ? なんか私見られてる気が」
「気のせいじゃないですの?」
「そうかな……?」
シャーロットの望む波乱万丈な学園生活。少なくともシャーロットが求めていた通りのことは起き、本人は一応の欲は満たすことができた。
そして──ヒナタ。なんとか普通に生活していこうとしていたヒナタだったが、いきなりドン引かれ、侮られ、恐れられ。想定していた学園生活は早速幕を閉じてしまったようだった。
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