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【2-5】若人の背中

 サイコロによるバフには身体能力の強化があることはステラも察していた。だがその身体能力がどこまでのことを指すのかが分からない。

 まず運動能力や耐久力は上がるだろう。だが動体視力は。反射神経や呼吸器関係は。戦闘に関わること全てが上がるとは思えなかった。


「調べたいところ……ですが」


 生憎なことに時間がない。相手がどこまで強くなったのかが測れないのが怖いが──ここで止まる選択肢は初めから捨ててある。


「──最大火力ですわよ。せいぜい足掻きなさい」


 ──周囲に発生した炎がステラの周囲を包み込む。

 収束した炎は複数個の球体となってステラの周りに滞留。腕の振りと同時に球体はシャーロットへと放たれた。


「はははっ──!」


 石畳にヒビを叩き入れながら突進。真正面から火球を──食らった。炎は爆発して炎上。しかしシャーロットは止まらない。

 指を鳴らすと同時にさらにシャーロットへ火球が連発される。もちろん避けることなんてしない真正面から炎をくらいながら接近。拳を振り上げた。


 それは──回避。と、同時にカウンターのように炎を連射。シャーロットは怯むことなく体勢を整えて追撃。アリーナ全体にヒビを入れるほどのパンチを放ち続け、ステラはそれを回避し続ける。


「真正面から叩くしか脳がないんですの!?」


「そうしたい……けど、まぁそうだね。そろそろ勝ちに行くか」


 シャーロットは石畳に手を突っ込んだ。そして石をむしり取り──ステラに投げつける。


「なっ──やることやっぱり脳筋じゃないですの!」


 咄嗟ではあったが反応できたので防御壁を貼って防ぐ。馬鹿げた威力だがなんとか防ぎ切る──も、その隙にシャーロットは距離を詰めていた。

 背後に回り込んでの飛び蹴り。後頭部に向けられた蹴りは──魔法ではなく腕でガード。右腕からの鈍い音を聞きながらステラは蹴り飛ばされる。


「っ……!?」


 ダメージを与えたのはシャーロット──たが、そのシャーロットの脚に高熱が宿っていた。

 防御と同時に相手に熱のダメージを負わせる『フレイムシールド(焔の盾)』を服の下に纏っていたことにより、物理的な攻撃をしたシャーロットの脚は焼け焦げたのだ。


「──天上に座す七つの星よ。それぞれに刻まれし神炎の灯火は収束する」


「え、詠唱!?」


 アリーナの下で見ていたヒナタは驚いた。

 魔法は『技名』『詠唱』『杖』の三段階によって威力を発揮する。技名で形を整え、詠唱で道筋を整え、杖で威力を底上げする。

 だが詠唱には隙が伴う。特にこの一体一のタイマンでは隙が命取りになる場合も多く、使われることは少ない。


 特に今回の相手はシャーロット。身体能力を上げて近接戦をするタイプに詠唱はかなり不向き。──のはずだ。


「──わっ」


 一気に距離を詰めようとするシャーロット──だが、足が思うように動かない。

 なんと戦闘によって石畳は熱されており、溶解していたのだ。軟化した大地に取られて隙が──できた。


「今、我が背後に並び立ち、星々の逃げ場なき光条となりて焼き貫け──」


 背後にできた七つの星。魔法の威力を試す試験の際に放たれた魔法の完成系。それが最大威力で襲いかかる。

 当たれば終わり。なのに──シャーロットの顔に一切の淀みも焦りもなかった。


「──『アストラルファイヤ(超新星の火花)』」


 収束する熱線。極太の赤と白の光の道はシャーロットを──貫いた。アリーナを削り取り、遠くにあったはずの魔法威力測定用のカカシにまで直撃。

 カカシが叩き出した数値は──百五点。怪物じみた威力を持つ魔法。流石のシャーロットもここで終わり。ヒナタを含めた誰もがそう思っていた──。


「──」


 ──極太の熱線からシャーロットが飛び出してきた。


「は──ぁ!?」


 なんで。どうやって。耐え切ったのか──違う。ステラはすぐに察した。

 シャーロットへ石畳を剥がしたのだ。剥がした石畳で熱線を一瞬だけ防御。すぐに石畳は溶けてなくなるが、その一瞬さえあればいい。


 これが隙。これぞ隙。熱線を放つステラに空中で体勢を整えて拳を構える。拳を当てれば倒せる。勝てる──。

 ──ステラの周囲にあったのは七つの星。だが、熱線を放っていたのは、その内の五個であった。


「何かしらしてくるって予想してましたわよ──っ!」


 念の為に残していた残り二つ。放っていた熱線を消し去り、残りの二つに魔力を集中させる。


「あぁ、やっぱり貴女と戦ってよかった……煽って良かった!」


「ほんと。何言ってるのか分かりませんわね。最初から最後まで──!」


 変わらない。まだステラの攻撃があろうがなかろうが関係ない。今はただ拳を叩きつけるのみ。

 変わらない。シャーロットがこっちの攻撃に関係なく拳を振るうことは予想済み。今はただ魔法をぶっぱなすのみ。


 集約する熱。凝縮する拳。高密なエネルギーと濃密なパワー。二つのエネルギーの奔流はアリーナの上で衝突──。



 ──しなかった。

 プヨン、という可愛らしい効果音のパンチがステラの顔にヒット。シャーロットは食らうはずだった熱線が来ないことに疑問を抱く。


「──はいそこまでぇ。これ以上は殺し合いになるからねぇ」


 手を叩きながらシルヴァが二人の元へ歩いてきた。その顔はやはり変わることがない。


「な、何を……!?」


「私はシャーロットちゃんと同じく特殊なタイプなんだよねぇ。『虚構属性』って言ってね。簡単に言うと、君たちの魔力を消させてもらったんだぁ」


 戦闘の際に出てしまった炎。木の葉を燃やして燃え上がる場外の炎にシルヴァは指を鳴らす。──するとどうだ。炎は息をふきかけたかのように消え去った。


「どう? 凄いでしょ」


「す、凄い……」


「──先生。どういうこと」


 唖然とするステラとは違い、シャーロットの顔には怒りが滲んでいた。最高のタイミングで邪魔をされたことに心底怒っているようだ。


「手を出すのは卑怯だよ。制限時間は無いって言ったはず」


「だからこれ以上は殺し合いになるって言ったでしょ。私が承諾したのは『模擬戦』だよ。入ってすぐの生徒たちに殺し合いをさせるほど私も馬鹿じゃないよ」


「……ふぅん。私が、死ぬって言いたいの?」


 ボロボロの体を引きずってシルヴァへと近づく。


「そりゃそうでしょ。君、超無理してそうだし」


「無理なんかしてない。私はまだやれる。邪魔するのなら先生でも容赦しな──」


 ──シャーロットの額に指を置いた。


「──ぴゃ」


 ──バタン、とシャーロットは倒れる。今までの気丈な態度は鳴りを潜め、目をグルグル回しながら気絶した。


「え、えぇ!? シャロちゃん!?」


 アリーナへよじ登ったヒナタはシャーロットへと駆け寄る。


「先生! 何したんですか!?」


「何もしてないよぉ。普通に指を置いただけ。だからその子は限界って言ったでしょ」


「限界……おでこに指を置かれただけで倒れるくらいギリギリ……」


「ヒナタちゃん、とりあえずシャーロットちゃんを保健室に連れて行ってくれる? ついでにステラちゃんも」


「ワ、ワタクシは一人で──」


「ダメだよ。無茶な魔法の使い方したから、魔力因子がかなり焼き付いてるでしょ。下手に動くと、もう二度と戻らないかもよ」


「……分かりました」


 ギリギリの戦い──これもシャーロットらしいか、とヒナタはシャーロットを横抱き。ついでに遠慮するステラもおんぶし、ぎこちない足取りで保健室へと向かいました。


「……将来有望だねぇ」


 悔しそうな顔で気絶するシャーロット。安堵したように眠るステラ。そしてそれを半泣きで必死に抱えるヒナタ。

 三人の後ろ姿を見ながらシルヴァは呟くのだった。

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