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社長命令で隠し子のフリをしていた地味な経理OL、クールなはずの御曹司にいつの間にか溺愛されて、極上のシンデレラになってしまいました。  作者: 水凪しおん


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第15章:家族へのご挨拶

 蓮との交際は、夢のように順調だった。秘密の社内恋愛を楽しみながら、休日は恋人として、穏やかで幸せな時間を過ごす。しかし、そんな日々の中で、紬は一つの、そして非常に大きな壁に直面することになる。

 それは、自分の両親への報告という、現実的な問題だった。

 下町で小さな定食屋を営む、ごくごく普通の家庭で育った紬にとって、日本有数のアパレル企業の社長である蓮は、あまりにも住む世界が違いすぎる。両親が、このあまりに突飛な話を、信じてくれるだろうか。驚いて、腰を抜かしてしまうのではないか。もしかしたら、身分違いだと、反対されてしまうかもしれない。

 一人で悩み抜いた末、紬は、まず電話で、母親にだけ、それとなく打ち明けてみることにした。

『もしもし、お母さん? あのね、今、お付き合いしている人がいるんだけど…』

『あら、そうなの! よかったじゃない! どんな人?』

『それが、その…私の、会社の…社長、なの』

 電話の向こうで、母親が息を呑む気配がした。そして、案の定、『ええっ!?』という絶叫に近い声が聞こえてきた。最初は、娘が悪い冗談を言っているのだと思ったらしい。しかし、紬が真剣だと分かると、今度は心配そうな声に変わった。

『紬、あなた、騙されてるんじゃないでしょうね!?』

 その反応は、紬の予想通りだった。このままでは、らちが明かない。

 その話を、正直に蓮に伝えると、彼は少しも慌てることなく、穏やかに、しかし、きっぱりと言った。

「それなら、俺が、きちんとご挨拶に伺います。紬さんのご両親に、直接お会いして、俺の気持ちをお伝えしたい」

 その男らしい申し出に、紬は嬉しさと不安で胸がいっぱいになった。

 そして、週末。下町の、どこにでもあるような商店街に、一台の黒塗りの高級車が、静かに停まった。そこから降りてきた、上質なスーツに身を包み、老舗和菓子店の高級そうな桐箱を手に持った蓮の姿は、明らかに周囲から浮いていた。

「ここが…」

「はい。私の実家の、『しらいし食堂』です」

 がらり、と引き戸を開けると、香ばしい醤油の匂いと、ダシの湯気が二人を迎えた。カウンターの中では、紬の父親が、緊張した面持ちで腕組みをしており、母親は、そわそわと落ち着かない様子で立っていた。

「はじめまして。一条蓮と申します。いつも、娘さんが、大変お世話になっております」

 蓮は、カウンターの前に立つと、非の打ち所のない、完璧な角度で、深く頭を下げた。その真摯な態度に、最初は戸惑っていた両親も、少しだけ表情を和らげた。

「ささ、どうぞ、こちらへ」と母親に促され、四人は、店の奥にある小さな座敷のテーブルを囲んだ。

「娘さんを、大切にさせてください。結婚を前提に、真剣にお付き合いをさせていただいております」

 蓮は、ごまかしや言い訳など一切せず、自分の言葉で、紬への気持ちを、誠実に、丁寧に語った。隠し子の件はもちろん伏せられていたが、二人が出会い、惹かれ合っていった経緯を、彼は誠心誠意、説明した。

 しばらく黙って話を聞いていた父親が、鋭い目で蓮を睨みつけ、口を開いた。

「一条さん。あんたのような、別世界の人間さんに、うちの娘が、本当についていけると思いますか。苦労するのが、目に見えてる」

 それは、娘を思う父親としての、当然の心配だった。

 その言葉に、蓮は、背筋を伸ばし、父親の目を真っ直ぐに見返して、答えた。

「おっしゃる通りかもしれません。ですが、もしそうなのだとしたら、私が、彼女の世界に寄り添います。紬さんのいる場所が、私の帰るべき場所です。彼女の笑顔を守ることこそが、私の、これからの人生で最も大切な仕事だと思っています」

 その、あまりにも誠実で、覚悟に満ちた言葉に、父親は、ぐっと言葉を詰まらせた。そして、大きなため息を一つつくと、照れくさそうに頭を掻きながら、言った。

「……分かった。娘を、泣かせたら承知しねえぞ!」

 それは、父親なりの、最大の祝福の言葉だった。

 場が和み、母親が出してくれた温かいお茶を飲みながら、蓮がふと微笑んで言った。

「お父さん、お母さん、とても素敵な方々ですね。紬さんが、こんなに優しくて、誠実な人に育った理由が、分かった気がします」

 その言葉に、紬は、この人を自分の家族に紹介できて、本当に良かったと、心の底から思った。蓮が、自分の大切な家族を、同じように大切にしてくれようとしている。その事実に、紬は、彼への深い愛情と、感謝の気持ちで、胸がいっぱいになるのを感じた。

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