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社長命令で隠し子のフリをしていた地味な経理OL、クールなはずの御曹司にいつの間にか溺愛されて、極上のシンデレラになってしまいました。  作者: 水凪しおん


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第11章:逆転の一手

 蓮のあまりにドラマチックな愛の告白は、役員会議の混乱にさらに油を注いだ。黒田は、一瞬呆気にとられたものの、すぐに我に返り、ここぞとばかりに蓮を追い詰める。

「公私混同も甚だしい! 社長としてあるまじき行為だ! やはり、あなたにこの会社を任せることはできない!」

「そうだ、そうだ!」と黒田派閥の役員たちが同調する。しかし、以前ほどの勢いはなかった。蓮の、自分のキャリアの全てを捨てる覚悟で紬を守ろうとする姿に、一部の中立的な役員たちの心は、明らかに揺れていた。

 蓮は、そんな野次にも、全く動じなかった。彼は、冷静な視線を黒田に向け、そして、傍らに控えていた秘書の高遠に、静かに合図を送った。

「高遠」

「はい」

 高遠は、待っていましたとばかりに、持っていた分厚いファイルを手に、颯爽と役員たちの前に進み出た。そして、一人ひとりの席に、そのファイルから抜き出した資料の束を、丁寧かつ迅速に配布していく。彼の有能さが、この緊迫した場面で、ひときゆわ輝いて見えた。

「皆様、お配りした資料をご覧ください」

 蓮の静かな声が、再び会議室に響く。役員たちが、訝しげな顔で資料に目を落とした瞬間、会議室の空気が再び一変した。あちこちから、「なっ…」「これは…」という驚きの声が漏れる。

 そこには、紬が見つけ出した小さな綻びから、高遠が徹底的に裏付け調査を行った、黒田副社長とその派閥による、長年にわたる不正の全てが、詳細に記されていた。

 架空取引による裏金作り、子会社を使った売上操作、不正な経費請求、そして役員報酬の不当な水増し。その手口は巧妙かつ悪質で、横領された金額は、会社の屋台骨を揺るがしかねないほどの巨額に上っていた。

 形勢は、この一瞬で、劇的に逆転した。

「ば、馬鹿な! こんなもの、捏造だ! でっち上げに決まっている!」

 顔面蒼白になった黒田が、震える声で叫ぶ。しかし、資料には、銀行の送金記録や、取引先からの証言、そして黒田自身のサインが入った偽の契約書のコピーまで、完璧な証拠が添付されていた。もはや、いかなる言い逃れもできない。

 どよめきが、波のように会議室全体に広がっていく。

 蓮は、その混乱の中心で、静かに、しかし燃えるような怒りを宿した瞳で、黒田を真っ直ぐに見据えた。

「会社の金を私物化し、長年にわたってこの会社を蝕んできたあなたに、この会社の未来を語る資格など、微塵もない」

 その声は、絶対零度の冷たさだった。そして、蓮は視線を黒田派閥の役員一人ひとりに移し、資料を指差しながら、彼らの不正への関与を、冷静に、淡々と指摘していく。

「あなたは、この架空取引に関与しましたね」「あなたは、子会社の不正な利益供与を見逃し、見返りを得ていた」「そしてあなたは…」

 名指しされた役員たちは、次々と顔を青くさせ、俯いていく。鉄の結束を誇っていたはずの黒田派閥は、その内側から、あっけなく崩壊していった。

 嘘から始まった、紬を隠し子にするという奇策。それは、敵を油断させ、その懐に飛び込むための、壮大な布石だったのだ。この計画の本当の目的は、会社の奥深くに根を張っていた巨大な膿を、根こそぎ出し切るための、壮大な大掃除だったのだ。

 最後に、蓮は全役員に向かって、力強く宣言した。

「私が社長として最初に行う仕事は、失墜したこの会社のコンプライアンスを、徹底的に見直し、クリーンな経営体制を再構築することです。異論のある方は?」

 もはや、誰も何も言えなかった。会議室は、新しい時代の幕開けを予感させる、静かな緊張感に包まれていた。

 傍聴席で、固唾を飲んでその光景を見つめていた紬は、蓮の本当の狙いと、その壮大な計画の中で、自分がどれほど重要で、決定的な役割を果たしたのかを、ようやく理解した。守られていたのではない。自分も、彼と共に戦っていたのだ。胸の奥から、熱いものが込み上げてくるのを感じた。

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