俺の幼馴染が眼鏡を外したら超美少女だった件
俺の名前は田中健太。
俺の友達や知り合いはほとんどゲーム仲間で男としか交友関係がないが、一人だけ幼馴染の佐藤結衣という女子がいた。結衣は幼稚園からの幼馴染で、徒歩30秒でお互いの家に着く。結衣は身長も体型もTHE普通。特徴的なのは目元にまで掛かる長い艶のある黒髪と茶色のダサい眼鏡だ。眼鏡はこだわりがあるのかダサいとか言うと怒られる。一回も外したところは見たことない、というかお願いしても見せてくれない。何を恥ずかしがっているのだろうか。性格は大人しい性格だが、見知った相手にはフランクなコミュニケーションを取っている。陰キャだ。
俺の親と結衣の親が仲がいいため、彼女とは月に一回親を交えて食事を共にしたり、たまにオンラインでゲームをしたりする。とはいっても、俺は彼女を異性として認識したことはなく、腐れ縁の女友達と思っていた。
小学校、中学校は同じではなかったが、なんの偶然か同じ高校に進学し一緒のクラスになった。
クラスでは分からないところをたまに聞き合ったり、ゲームの話をしたりする。
「健太、さっき分からないところがあったんだけどこの問題分かる?」
「この問題か? この問題は因数分解をしてだな……」
結衣はTHE文系で数学が特に苦手だ。数字に興味が無く、公式などが頭に入ってこないらしい。数学ほど面白い授業はないと思うんだが、不思議で仕方がない。その代わり、国語能力は非常に高く、詩のコンテストで入賞したこともある。
俺は数学が得意なので、授業の課題くらいは簡単に教えることが出来た。数学は好きだ。数学をするために俺は学校に来ているといっても過言ではない。一方で国語は大の苦手なので、国語の課題などは結衣に手伝って貰っていた。互いの苦手分野を補うように俺達は教え合っていた。WIN-WINの関係って奴だ。
中間テスト終わり。
今回、俺と結衣は国語と数学の点数の合計点で勝負していた。
結果は俺155点。結衣157点。
結衣は散々俺のことを馬鹿にし煽り散らかした。彼女はゲーマーなことだけあり、すらすらと言葉が出ていた。そのくせ国語が得意なのであらゆる言葉を用いる。俺がとある戦闘民族であれば、この怒りでつい金髪の姿になっていただろう。
数学は100点だったが、国語が振るわなかった。登場人物の心情など誰が分かるんだ。国語が出来る奴はエスパーの才能がある。俺が普段考えていることも読み取られているのだろうか。…なんか怖くなってきた。
「合計点が負けた方が奢るんでしょ? 楽しみだなー」
「あんまり高いの頼むなよ」
「えー、私、期間限定のイチゴパフェにプリンアラモード、後は特製ハンバーグ定食を頼む予定だったんだけど」
「そんな食うと太るぞ」
突如凄まじい速度でチョップが腹に突き刺さった。
鋭い衝撃に思わず体内にあった息を吐く。
いったぁ。
チョップをしただろう人物を睨みつけると、逆に睨み返された。
ちょっと揶揄っただけだぞおい。今時暴力系ヒロインは流行らないぞ。結衣の場合、ヒロインというよりは腐れ縁の幼馴染だが。
「女の子に太るなんて言うなんて言っちゃいけないんだよ?」
「…もしかして気にしてるのか?」
「もう一回やって欲しいのかな?」
「すみませんでした」
「よろしい」
痛いのは嫌なので謝っておく。
暴力反対。
どうでもいいことを話しながら近くのファミレスへ向かっていると、曲がり角から自転車が猛スピードでやって来ていた。
結衣はこれから食べるパフェに気が緩み切っていてどこか上の空だ。自転車にはまったく気づいていない。自転車も結衣に気付くと焦った顔でブレーキを踏むが、このままだとぶつかってしまうだろう。
結衣の手を引いて、こちらに引き寄せる。結衣はぽかんとした様子で簡単に引き寄せられた。
結衣がいた場所で自転車は止まると「すみません。助かりました」と言って頭を下げると、自転車を漕いで行ってしまった。
もう少し謝罪が欲しかったが、ひとまず危険は去ったので結衣を離す。
結衣はどこか顔を紅くした状態で、俺から離れた。急に引き寄せたので怒らせたのかもしれない。
面倒なことになる前に謝っておいた方がよさそうだ。
「急に引いて悪かったな。びっくりしただろ」
「びっくりはしたけど、全然平気だよ。それに、ぶつかりそうなところを助けてくれたんでしょ? ありがとう助けてくれて」
「パフェが楽しみなのは分かるが、気を緩め過ぎないようにな。パフェ食べる前に怪我したら食べれなくなっちゃうぞ?」
「うん、そうだね。気をつけるよ」
普段は陳言をしたらふてくされる結衣だったが、素直に受け入れた。熱でもあるのだろうか?
思わず呆然とすると、結衣に右手を掴まれて、行こうと言われた。
「あぁ」と言葉を返すと、そのまま結衣に遅れないようについていった。
どこか浮ついた様子の結衣と歩いていると、今度は電柱に結衣がぶつかりそうになった。
今日は厄日だな。恐らく点数で負けた俺のことを散々結衣が馬鹿にしたのをたまたま神様が見ていて、結衣に天罰を与えているのだろう。そうに違いない。
ぶつかると可哀想なので再び引き寄せると、「ひゃあ」とやけに可愛い声を出しながら、結衣は俺の胸に顔を埋めた。
あ、やべ。
勢いで眼鏡を落としてしまった。しゃがみこんで、落ちた眼鏡を確認する。ぱっと見た感じ、レンズに傷などはついていないようだ。よかった。
引き寄せていた結衣を離して、眼鏡を渡そうとする。
そこで、俺は固まった。
そこにとてつもない美少女がいたのだ。シミ一つない肌に整った顔の形。大きな瞳は丸く潤んでいて、つい目が奪われる。黒く艶やかな長髪は彼女の美貌をより一層際立たせ、比類なき容貌を形成していた。
真ん中ストレート直球。
ドストライクだ。
頭の中が真っ白になった。
目の前の美少女は俺を見て不思議そうに首を傾げると、茶色の眼鏡を掛けた。すると、不思議なことにそこには腐れ縁である結衣が現れる。
「どうしたの健太?」
「」
「おーい、どうしちゃったの?」
「…………あぁ、何でもない。何でもないぞ結衣。」
「絶対なにかあったでしょ!? その間絶対おかしいよ! それで何もない訳ないよ!?」
ドストライクの美少女だった結衣に肩を揺すぶられながら、心臓がいつもより速くなっていることを感じた。
あー、ヤバい。一目惚れしたかもしれない。まさか結衣が美少女だったなんて。マジで可愛い。いつもダサい眼鏡を掛けてるなと思ったが、外したらこんなに変わるのか!?
美少女なことを知った今、結衣といつものように接することが出来るか怪しい。
なんとか訝しそうにする結衣を納得させると一度深呼吸をする。普段の俺を意識して、レストランへ足を進める。
そっか。俺、結衣と今から食事をするのか。今の結衣は腐れ縁の女友達というポジションからドストライクの美少女にレベルアップしている。場所はオシャレなカフェやバーではないが、異性の相手と食事をするというのは一般的にはデートというのではないだろうか。
そう考えると、心臓の速さが加速度的に上がるのを感じた。
俺、今からドストライクの美少女とデートするの?
モテた経験のない俺が、そんなレベルの高いこと出来るのか?
……出来たら奇跡だなぁ。
とても……無理そうです。
長い付き合いだからか、調子がおかしいのを結衣に直ぐ見破られた。結衣の疑いは追尾弾だったようで、一度回避したつもりが、俺の後をずっとつけていたらしい。絶体絶命。眼鏡外した姿に惚れましたとか正直に言ったら引かれるだろう。結衣が美少女だと知らないで結衣にそう言われたら、少しの間距離をあけるだろう。
「やっぱりどこかおかしいよ?」
「えーとだな…」
「……もしかして私、変なことした?」
結衣は変なことをしていない。
何を勘違いしたのか、どこか悲しそうにしゅんとした。その姿はどこか雨に濡れて寒そうにしている子猫を想起させた。そんな結衣を見るのは久しく、驚きを感じるとともに、庇護欲が湧いた。また、結衣がそうなった原因は俺の的を得ない返答であり、罪悪感も湧く。
俺は結衣の勘違いを早急に晴らす必要があり、調子がおかしい原因を正直に伝えなければ納得はされない筈だ。
息を吸い込む。
引かれるのを覚悟で伝えることにした。
「結衣の眼鏡外した姿がとても綺麗で、その……見惚れた」
「え?」
「こんなこと言われたら引くよな……ははは」
結衣は驚いたように固まった。果実が熟すように結衣の頬が紅くなる。そして、見られたくないのか顔を両手で隠した。
俺の恋終了のお知らせ。儚く散ったぜ。怒りのあまり顔が赤くなっているんだろう。「キモ」と言われ、殴られるまでの流れが一瞬で想像ついた。
気持ち悪いことを言った自覚もあり素直に殴られようと待っているが、結衣は一向に殴る素振りを見せなかった。
結衣は顔を覆っていた両手を退かすと、眼鏡を外して、目元を緩め微笑んだ。一輪の花が咲く。その花は今まで見たどの花よりも綺麗だった。
心臓が止まった。
「どう? 他の人には見せたくないけど、健太には見せてもいいよ私の眼鏡外した姿。その代わり、髪上げた姿見せてよね」
ふふふと、結衣は俺の反応を見て上機嫌に笑うと、眼鏡を掛け直し、俺の手を引いてレストランへの道を進む。呆然として彼女に引かれるままついていくと、少しして、彼女と手を繋いでいることに気が付いた。
俺の恋はどうやら続くそうだ。
心臓は激しく動き続けている。




