第四十四話 第十二章「海龍研究所」其の六
そして泰雅は、瑠璃が食卓越しに心配そうな顔をして自分をじっと見つめているのを感じていた。
食事が終わり、旅をして来た四人は改めてミズトカゲたちと顔合わせしようということになった。
初めて見たとき、三匹の区別がつかなかった泰雅はひやひやしたが、意識して見てみると龍一丸、龍二丸、龍三丸の違いは明らかだった。
人への懐き方に大きな違いがあるのだ。
瑠璃は難無くいちばん元気な龍一丸をみつけた。
大きく黒い頭を瑠璃が撫ぜると龍一丸は口を開け、二股の舌を出してその指を舐めた。
「なんて可愛いの!」
瑠璃は龍一丸がすっかり気に入った様子である。
岬野成礼もまた、龍二丸を容易に見つけた。
龍一丸の次に元気で、人懐っこい。
成礼は恐る恐るといった調子でその頭を撫ぜた。
恥ずかしそうに小さな声で、
「よろしくな。龍二丸」
と呼びかける。
龍二丸は成礼が伸ばしてきた自身の繊細な指を太くて短い首を伸ばしてぱくりと咥えた。
「ひいっ!」
成礼が悲鳴をあげる。
後ろで立って腕組みしながら見ていた龍治と為之助がちょっとしかめっ面になった。
龍三丸はそんな間も、ずっと桶の底で静かに動かなかった。
身を潜めているようにも思えた。
たしかに三匹のうちいちばんおとなしいな。
泰雅は思った。
他の二匹と違って手を伸ばせば寄って来る、というわけでもなさそうだった。
だから泰雅は魚御崎の海で成長した海龍にしたのと同じように思念を使うことにした。
龍三丸を見つめ、
「こっちにおいで…」
と念を送る。
はじめ、龍三丸は何も反応しないように思われた。
だが構わず念じていると、しばらくしてきょろきょろと周りをうかがうような様子を見せ始めた。
「こっちにおいで…」
泰雅は念じ続けた。
やがて龍三丸は水の底で四本の足をゆっくりと動かし、向きを変えて這うように泰雅のほうへと進みだした。
「龍三丸のやつ、動いてる…」
いちばん龍三丸を世話して見てきたであろう為之助が後で驚いたような声を上げている。
龍三丸が動くのを見るのが本当に珍しいらしかった。
一方、龍治は落ち着いて見ていた。
「どうだい、泰雅くん?」
魚御崎の海での一件を見ている龍治は泰雅に尋ねた。
「ミズトカゲは海龍よりも交信が難しいです」
泰雅は正直に言った。
「もしかすると、さっき話に出た微生物が関係しているのかもしれません。あれが体内にたくさんいたり、ツノとして体の外に出ていた方が、交信がやりやすいのかもしれません」
泰雅の言葉に為之助が、
「なんせ北芹河河口の海草からあの微生物をとったミズトカゲと、とらないミズトカゲじゃそれこそ子猫と人間の大人ぐらい知能に差があるものなあ」
と補足した。




