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蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


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第二十九話 第十章「戦いのあと、それぞれ」其の三 

純太郎はしばらく黙って自分の両肩に手を置いて話す父を見つめていたが、突然そこから逃れるように踵を返すと走り去ってしまった。

だまったきりであった。

「純太郎!」

自分の手から逃れるように走り去った息子に純史郎はひとことだけ呼びかけた。

だが純太郎はそれには応えず、純史郎と奈央の見えないところに行ってしまった。

純史郎はそのままの姿勢でため息をついた。

奈央の方を見る。

奈央もまた、悲し気に途方にくれたような表情で部屋の畳の上に立っていた。

もうこれ以上、家族にしてやれることはないのだ。

純史郎はそう悟らずにはいられなかった。


堅柳(けんりゅう)泰賀(たいが)こと田原(たわら)真一(しんいち)海堂(かいどう)家の住み込み手伝い人兼海(かい)(りゅう)つかいの弟子になってから三日が経った。

北方(ほっぽう)王国(おうこく)連合(れんごう)からの追っ手が来ないことは彼を安堵(あんど)させた。

一方で彼が頼まれるのは海堂家の生活上のことばかりだった。

食事作りと大勢の人の配膳の手伝い、風呂作りと寝床を整える手伝い…

まるで大旅館に出稼ぎで働きに来たみたいだ、

と泰雅は思ったものだった。

海龍つかいの技術については信じられないほど教えられなかった。

というより触れられもしなかった。

どうも瑠璃(るり)の父親の海堂龍(りゅう)()は、泰雅の身の上に関してまだ疑いを持っているようだった。

海堂家には他に住み込みの弟子が三人もおり、かれらはある程度は修行が進んでいたので、かれら兄弟子たちに対する配慮もあるようだった。

田原真一だけ“えこひいき”するわけにはいかない——もしかしたらそう思っているのかもしれなかった。

「俺だって海龍つかいの技を教えてもらい始めるのに一年間はただで家事手伝いばっかりやらされたんだ」

一番弟子にあたる、(みさき)()(せい)(れい)と呼ばれる青年は泰雅に言ったものだった。

「それでこの間からやっと漁師が外海に出るのに同行して、かれらが仕事している間海龍から(まも)る仕事を見させてもらってるんだ。それが満足にできるようになってから、外海に出る船を護る仕事をすることになる」

だから田原真一こと泰雅も我慢しろ、と言わんばかりであった。

泰雅はと言えば呑気(のんき)なものだった。

彼はとりあえず北方王国連合を(あざむ)く立場があればそれで良かった。

海堂家はその立場をくれたのだった。

それだけでかれらに対する不満などあろうはずもなかった。

だから皆の師匠にあたる、瑠璃の父親の海堂龍治がある日、瑠璃を含む住み込み弟子全員を漁の護衛に連れて行こうと言い出した時、びっくりしたものだった。

「あんまりもったいぶって見せないものでもあるまい。なあ?」

龍治は皆の同意を求め、皆はもちろん賛同した。

一年間我慢した挙句、近海の小さな漁から外洋の漁をやっと見せてもらえる、一番弟子にあたる岬野成礼だけが不公平を感じて憮然(ぶぜん)としていただけだった。


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