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蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


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第二十四話 第九章「逃避行」其の二

「あの…失礼します」

瑠璃(るり)はなおも話しかけた。

「どこから何のために来られたんですか?」

気付かぬうちに敬語(けいご)になっていた。

なにか感じているのはこの若い男も同様だった。

なにかこの女性には本当のことを言わなければいけないような気がそれこそ霊感(れいかん)のようにしていた。

だから男は本当のことを言うことにした。

「わたしの名は堅柳(けんりゅう)泰賀(たいが)といいます」

泰雅が本当のことを言うと瑠璃は両眼(りょうめ)を真ん丸に見開いた。

「堅柳って…あの八家門のひとつの?」

「そうです」

泰雅はあっさり白状した。

なおも続ける。

「とは言うものの、北方侵攻作戦の失敗と父の堅柳宗次の戦死以来、堅柳家は没落の一途(いっと)辿(たど)っていました。それを挽回(ばんかい)するためかどうかはわかりませんが、わたしは“蛇眼破りの声”を使い神奈ノ国に脅威を与え続ける矢本奈央姫の襲撃計画に参加するよう王府に命じられました。しかし結局計画は失敗し襲撃団は散り散りになりました。わたしは自分でここまで逃げて来たのです」

言いながら泰雅は驚いていた。

こんなに正直に話してしまっていいものだろうか。

母親の(まき)()真叡(しんえい)(きょう)(さい)恩派(おんは)の僧・()(ねん)との関係までは長くなるので話さなかったが、それ以外のことはあらかた話してしまった。

いや、話さざるを得なかった。

この少女の前に立って、そうせざるを得ない気持ちにさせられたのだった。

なぜだろう?

今度口を開いたのは瑠璃のほうだった。

「わたしの名前は海堂(かいどう)瑠璃です」

瑠璃は言ってから驚いていた。

なぜこのような見ず知らずの男性に自分の名前を正直に告げなければならないのだろう?

めったに言わないように親からも言われてるのに。

彼女もまた、本当のことを言わざるを得ないような気持ちになっているのだった。

瑠璃は続けた。

「わたしの家は代々続く“(かい)(りゅう)つかい”を育てていました」

「はい…」

泰雅が(うなず)く。

「でも最近は()()不足で、南之(みなみの)大島(おおしま)にすら満足に行けなくなってしまいました。列島世界がばらばらになりかけているんです。そんななか、わたしは唯一の直系の“海龍つかい”の後継者なんです」

瑠璃はなぜか自分に言い聞かせるように力説してしまっていた。

「あの…」

泰雅はおずおずと切り出した。

「ここはまだ、北方王国連合の勢力圏なんでしょうか?僕は故郷、(けい)(おん)(みやこ)近くの堅柳の(さと)にまで帰りたいんです」

「まあ!」

瑠璃は驚いて声を出した。

「あなたまったく見当違いの方向を歩いて来たのね!ここはあなたが逃げて来た、奈央姫がいまいるだろう場所から見れば慶恩の都とはまったく別の方角よ」

「えっ…」

泰雅は今さらながら意外そうな声を出し、頭を掻いた。

「じゃあここはまだ北方王国連合の勢力圏…」

「そうよ」

瑠璃は思わず声を(ひそ)めた。

「と言っても最近からよ、ここら一帯が北方王国連合の傘下(さんか)に入ったのは。最近この地方をめぐる(いくさ)があって、神奈ノ国は北方王国連合に負けてしまったの。そのすぐ後に村長の家で会議があって、少なくともこの村は北方王国連合に従うことになったのよ」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう。それにしてもまずいなあ…」

泰雅は相変わらず頭を掻いていた。

瑠璃はこの危険な状況のなか、少しおかしくなった。

「あなた、もう神奈ノ国の勢力圏内に入ったと思ったのね。もう安全だと思ったんでしょう?」

瑠璃が尋ねると泰雅は、

「うん、そんなところさ」

と答えた。

瑠璃はしばらく黙って考えているように見えた。

瑠璃は初めて見るこの少年のような男を助けなければいけないような気がしていた。

深くひと呼吸して、瑠璃は言った。

「ねえ、良かったらうちでしばらくあなたをかくまってあげられると思うんだけど?住み込みの見習い“海龍つかい”ってことにすれば若い男の人ひとりぐらいはきっと大丈夫よ」

泰雅もまたなにか考えているように見えた。

これから堅柳の郷へ帰ると言っても道がわからない。

北街道へ出れば少しはわかるかもしれないが、そもそも北街道がどこにあるかわからない。

それにここにもう少しいれば、ある人物に会える予感がしていた。

ここにもう少しとどまって、その人物に会わなければ。

泰雅からみれば、それは少女のような若い女性に思えた。

はじめ瑠璃がその人物かと思ったが、どうもそうではないようだった。

泰雅は口を開いた。

「本当にいいの?実は自分がどこにいるかさっぱりわからないんだ。少しの間だけでもかくまってもらえたらうれしいんだけど…」

瑠璃は笑った。

「これで決まりね。あなたお腹すいてるでしょ?さっきの水の飲み方見てわかったわよ」

ちょうどいい時間で、泰雅の腹が大きく鳴った。

瑠璃は声を上げて笑い、泰雅も苦笑いした。

瑠璃はなぜかときめいた。

思えばこの海沿いの村は退屈な場所だった。

瑠璃は正直大人たちの中にあって退屈していた。

だからこの少年のような若い男が目の前に転がり込んで来て、なにか自分の人生がこじ開けられているような気がしたのであった。

それにこの堅柳泰賀という男、かなり育ちがいいみたいでみすぼらしい格好をして無精(ぶしょう)(ひげ)を生やしてはいるがかなり貴族的な男前ではないか。

「わたしも家に帰るところなの。一緒に帰りましょ?お父さんとお母さんにあなたを“海龍つかい”志望で訪ねて来た人として紹介するわね。堅柳泰賀って本名はまずいと思うから隠しましょう。自分で仮の名前を考えられる?」

「うん。なんとか」

あまりにとんとん拍子で話が進むのに怖くなりながら泰雅は答えた。

一方瑠璃はどぎまぎしながらも泰雅を連れて海が見える野原を降り、両親の待つ家へ向かった。

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