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蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


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第二話 第一章「処刑実習」其の一

いつものことだが、(じゃ)眼族(がんぞく)による常人(じょうにん)の処刑は(きり)領域(りょういき)に入ってすぐの場所で行われていた。

理由は単純で残酷なものだった。

霧の領域で処刑された人間の亡骸(なきがら)は放置していてもどこかへ消えてしまう。

霧の領域を徘徊する異形(いぎょう)の生物の所業(しょぎょう)かもしれなかったし、霧の領域それ自身の力のなせることかもしれなかった。

いずれにせよ、それは真叡(しんえい)(きょう)(さい)恩派(おんは)儀礼(ぎれい)(そう)によって先導(せんどう)された。

以前は大蛇(おろち)のいる湖に処刑する常人を、必要ならば蛇眼をかけて突き落とす、という方法がとられていた。

だが(けん)(りゅう)宗次(そうじ)による第四次北方侵攻作戦の前に北方からの(しのび)の介入もあり、大蛇は(りゅう)(ちょう)に殺されてしまっていた。

だからそれ以降はただ常人の処刑を宣告された者を高所から暗い湖に落とすのみとなった。

そしてその際は必ず蛇眼が使われることとなった。

しかも蛇眼をかけるのは神奈ノ国公設の学問所に通う、まだ経験の浅い学生たちだった。

彼らは蛇眼の修練、という名目で駆り出され、特に優秀な、つまり蛇眼の強いものは王国の軍にその名を覚えられることもあるのだった。

そして今回も斎恩派の儀礼僧に先導された処刑予定の一団がゆっくりと霧の中を進んでいた。

処刑予定の三人の男女—男二人と女一人—が白装束を着させられ、(なわ)に両手を(しば)られ武士団に囲まれて引き連れられていた。

大蛇が殺される事件の後、武士団の犠牲も問題となりより多くの武士が投入されるようになった。

今回も処刑予定の三人に対し五人の武士がいた。

そしてその後から五人の選ばれた学生たちが続いていた。


一団は湖の上の高台まで登って行った。

ついに一団は突き当りで止まり、白装束の常人三人は横一列に並ばされた。

老年の儀礼僧は三人をぎょろりと(にら)みつけ、武士と学生たちに

「これよりこの度の一揆を扇動(せんどう)した三人の常人を処刑する。学生が蛇眼をかけ、湖に彼らを飛び込みさせるのだ。いいな?」

と言った。

皆うなずいた。誰かがごくりと(つば)を呑み込む音がした。

「ではまず一人目。君、前に出て名前を言いなさい」

儀礼僧に指された学生は前に出て、やや緊張した様子で

(しゅう)禅寺(ぜんじ)直人(なおひと)です」

と名乗った。

儀礼僧は

「よろしい。では君が一人目を処刑するように」

と慣れた調子で言った。

一人目は男だった。

修禅寺直人はまず武士になにやら耳打ちされ、説明を受けた。

蛇眼がうまくいかなかった場合、自分があの男を斬って湖に突き落とすから、というような説明を受けているに違いなかった。

説明を受けると修禅寺直人は男を見て、その両眼を紅色(くれないいろ)に燃え立たせた。

瘦せこけた男は白装束で縛られて蛇眼族の屈強な武士に引き立てられながらも、その両眼はしっかりと修禅寺直人を見据えていた。

「また北方軍が勝利したらしいな」

処刑される男は言った。

「蛇眼族の時代は終わりつつある。処刑される常人も多分我々が最後だ。おまえたちは最後まで足掻(あが)き続けるのか?わたしに言えることは、人は自由だ、人は自分の運命を自分で決められるということだ」

「うるさい!」

修禅寺直人は叫んだ。

「おまえはここから湖に飛び降りろ!」

直人の両眼がさらに紅色に燃え立った。

するとさっきまで語っていた処刑される男の様子が変わった。

瞬間、朦朧(もうろう)とした表情になる。

そして次の瞬間、白装束の男は向きを変えると真っ直ぐに湖に向かって歩き、崖のような高台から湖に飛び降りた。

男が黒い湖面に飛び込む水しぶきの音だけが響いた。


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