第十八話 第八章「作戦決行」其の二
丁度奈央が声を発するのを終えたところだった。
高い台から階段を降りる。
純史郎が合図し、十人以上の護衛がすぐ奈央を取り囲む。
奈央は驚いたものの、かれらはそのまますぐに刀を抜ける構えで奈央を取り囲んだまま、ぞろぞろと近くの宿泊場所である武家の屋敷まで彼女を護送した。
「ぬかるなよ」
純史郎は矢本家の父親であり、奈央の夫であると同時に矢本奈央姫の護衛隊長でもあった。
先程同じ気配に気が付いた仲間は副隊長にあたる男だった。
その仲間に純史郎は耳打ちしたのであった。
「やはり誘拐か暗殺狙いでしょうか?」
副隊長も同様に押し殺した声で応じた。
「さあ。わからん」
純史郎は答えた。
「わかったのはこちらを探る気配だけだ」
「蛇眼の忍団でしょうか?」
副隊長が訊いてくる。
「神奈ノ(の)国からの者とすれば、それをまず疑わなくてはならぬだろうな」
純史郎が答える。
「それにしても疑問です」
副隊長は言った。
「彼らとは戦ったこともありますが、とにかく自分たちの気配を消してくる、戦いにくい連中でした」
「ほお…」
「今日のように、あんな遠距離から気付かれることなど絶対になかった。今日来たであろう連中はそれに比べるとまるで素人のようです」
「彼らも最近は人材難というからな」
純史郎は軽く肩をすくめながら返した。
「実力の平均値は落ちているのかもしれん。いずれにせよ、奈央姫が狙われていることは確かだ」
「はい。当然といえば当然ですが…」
副隊長は神妙に返した。
「今晩は特に警備を厚くしておきます。奈央姫さまも、息子さまも」
副隊長は隊長役の純史郎が矢本家の父親でもあることを知っていた。
真面目な純史郎が俺の妻と息子により手厚い警護を頼む、とは言いにくいのを知っていて、気を利かして言ってくれたのだった。
純史郎は副隊長を見つめ、精一杯の気持ちをこめて、
「ありがとう」
と言った。
副隊長は少しばつの悪い顔をしたが、向こうから走って来る男の幼児を見て、
「ほら、噂をすればなんとやらだ。じゃあ俺は後で。ごゆっくり」
と言って笑った。
幼児はまっすぐ純史郎へと走り込み、跳び付くように抱き付いた。
「ちちうえ―!」
と覚えたての言葉を甲高く叫ぶ。
「よしよし。純太郎」
と純史郎も息子の名前を呼んでその小さな体を抱き上げた。
「純太郎よ。今晩は知らないおじさんたちがいっぱいおまえを守ってくれるかもしれん。おまえを悪い人たちから守るためだ。だから今晩は我慢してくれ。わかるな?」
純史郎は愛する息子の鼻先を自分の人差し指でつんとつついた。
「はい!」
小さな息子は元気よく返事をした。
そして
「ちちうえとははうえはどうするの?」
と両目を開いて訊いてくる。
「父ももちろんおまえと母を守る一員だ。仕事だからな」
と純史郎は真剣に言った。
そうだ、それが俺の仕事だ。
純史郎は思った。
若いときからずっと。
「おまえの母上さまにも同じように護衛をつけなければならん」
純史郎は続けた。
「これからそのための打ち合わせをしなければならん。おまえは知らない人ばかりに囲まれて寂しい思いもするだろうが、我慢してくれ。わかったな?」
「はい!」
純史郎は元気よく返事をする息子を抱きかかえたまま、彼を護衛団に預けに行った。




