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蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


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第十七話 第八章「作戦決行」其の一

ともに列島世界を旅するみなさま、いつも本当にありがとうございます。

今回はみなさまに心よりお詫び申し上げなければならないことがあります。

実は原稿を投稿する順番を間違え、今日のこの原稿の代わりにもっと先の話を投稿していました。

その話は削除し、代わって今回の話を投稿させて頂きました。

読んでくれたみなさま、本当に申し訳ございません。

代わってこの原稿をお楽しみいただければ幸いです。

作者・石笛 実乃里より。

矢本(やもと)()()は今日も三千人もの兵士を前に“(じゃ)(がん)(やぶ)りの声”を唱えていた。

「わたしのからだ、

 わたしのこころはわたしのもの。

 どんな蛇眼も

 わたしを(あやつ)ることは

 できはしない…」

高い台の上に立った奈央の前に整列した兵士たちは目を閉じて立っている。

ある者はただ奈央の声を聴いており、

またある者は奈央の言うことを複唱するように口を動かしている。

だがやがてすべての者が雷に打たれたように恍惚(こうこつ)となり、

奈央の声にただ(ひた)り続けた。


純史郎(じゅんしろう)はそういう人々をみて改めて不思議に感じていた。

彼らは戦場で(じゃ)(がん)にかかることがない。

つまり(じゃ)眼族(がんぞく)互角(ごかく)に戦うことができた。

(じゃ)(がん)(やぶ)りの声を使うものは、とくにイズクメが後進の育成に専念するようになってから増えてはいた。

ただそれでも奈央の力は頭抜(ずぬ)けていた。

奈央の声に浸った人の中には何週間も蛇眼がかからない者がいた。

かれら蛇眼に耐性を持つ戦士たちのはたらきで北方王国連合軍は南へ順調に進撃を続けていると言って良かった。

とくに突発的に北部に出現した常人による独裁国家、(ねり)野州(やす)人民共和国を滅ぼしてから、北方王国連合の士気は上がる一方だった。

同時にかれらを壊滅させた作戦の最高司令官、鈴之(すずの)()(そう)()が行方不明になったことは多くの人々を驚かせ、心配させた。

ここにいる矢本純史郎もそのひとりだった。

思えば北練井を奪還し、神奈ノ国・貝那留(かいなる)王朝軍との戦いが一段落したとき、鈴之緒雪音(ゆきね)草原(くさはら)蒼馬が突然身分違いの結婚を発表したことは皆を驚かせ、とくに蛇眼族の姫君と常人で孤児の寺男との結婚は北練井じゅうの常人を熱狂させたものだった。

その熱気にあてられたように北練井では常人、蛇眼族問わず若い男女の結婚がまるで流行のようになった。

アテルイ王国の地方豪族の娘・矢本奈央姫と北方二王国連合忍者団の一員・純史郎の結婚もまたそのひとつだった。

この二人は時期こそ短かかったものの雪音・蒼馬とともにイカルガ王国防衛戦を戦い抜き、とくに奈央姫の卓越した“蛇眼破りの声”の能力が途中で開花したことは決戦の勝敗をそれで決したとさえ言われた。結果草原蒼馬は(けん)(りゅう)宗次(そうじ)敵討(かたきう)ちを果たしている。

だがその結果蒼馬は宗次の声が頭の中で時々響く、という復讐の(ごう)のような症状に十年以上苦しめられることになった…のは奈央・純史郎ふくめ一部の人間しか知らない事実だった。

いずれにせよ蒼馬は伝説上の人物のように語られるようになり、純史郎も結婚の際鈴之緒の姓に自ら変えた蒼馬に(なら)って矢本姓を名乗っている。

あれから十年を遥かに超えるのか…

純史郎は整列して奈央の唱える声に聴き入る兵士たちの向こうに広がる、晩夏の北部の山々をぼんやりと眺めた。

そしてある種の気配に気付いた。

すぐ周りにいる奈央の護衛隊、そのほとんどは忍者だが十人以上の仲間に合図する。

仲間も純史郎と同じ方向を見て、同じ気配に気が付く。


そして彼らが見据える低い山中の森の中、気取られたことに勘付く人間もいた。

矢本奈央姫襲撃隊の若手ふたり、蟋蟀(こおろぎ)(けん)(りゅう)(たい)()であった。

ふたりは木に登って身を潜めながら奈央姫のいるほうを伺っていた。

「まずい。勘付かれた」

新入りとはいえ蛇眼の忍団らしい鋭さで蟋蟀が小さく声を発した。

ただ鋭いのは泰雅も同等であった。

泰雅は蟋蟀の横、木の枝につかまるように座りながら矢本奈央姫のほうを伺っていた。

泰雅にとって奈央姫は噂に聞くより穏やかで優し気で、少し呑気(のんき)な印象さえ受けた。

予定ではその奈央姫を今夜にも我々が暗殺団として襲うことになる。

正直言ってまったく気が乗らないなあ、取り止めにならないかな、というのが泰雅の本音だった。

そんなとき、向こうからなにか鋭い刃物のような気配がいくつか飛んで来た。

泰雅は子供のときからこの手の気配には敏感だった。

「向こうの警備団だ。複数人に気付かれた」

泰雅がそう返すと、蟋蟀は横の泰雅を肘で小突くように合図して、

「すぐ集合場所まで逃げるぞ。このままじゃふたりとも捕まる」

と言うなり木からひらりと飛び降りた。

泰雅もすぐに真似して忍者よろしく木から飛び降りた。

ただ若いとはいえ本物の忍者である蟋蟀と同じというわけにはいかず、飛び降りると同時に地面に倒れ込んでしまった。

起き上がって服の土埃(つちぼこり)を払うともう蟋蟀の姿はそこになかった。

どうやら蛇眼の忍団は逃げるときはいつも単独行動であらかじめ決めておいた場所を目指すらしい。

泰雅も周囲を見渡してまだ追っ手が来ていないことを確かめると襲撃団の今日だけの本拠地に向かって走り出した。

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