第十一話 第四章「霧の領域へ」其の三
猿田彦は続けた。
「これには知っておかなければならないことがある。かつて“おわらせるもの”の運命は鈴之緒家の雪音姫に託され、龍鳥さまも彼女に託そうと北方にある霧の領域で彼女に会ったのだ」
「その話は佐之雄勘治さんに聞きました」
堅柳泰賀は言った。
「彼女はその運命を断り、代わって僕に託された…」
「その通りだ」
猿田彦は答えた。
「彼女は草原蒼馬への愛情と、彼との人生という道を選んだ。“おわらせるもの”の道は選ばなかったのだ」
「それでなんで、僕が代わりに選ばれるのでしょうか?」
泰雅は尋ねた。
「僕は堅柳宗次の息子、彼女の仇の息子なのに⁉」
「さあ。それは知らん」
猿田彦はあっさりと答えた。
「わたしはただの代弁者だ。龍鳥さまがお考えになっていることまではわからん。ただ、それほどこれは鈴之緒雪音にとって重い選択であったということだ」
泰雅はぼんやりと頷いた。
龍鳥がまた鳴いた。
猿田彦が言った。
「堅柳泰賀よ、おまえには“おわらせるもの”以外の運命はないようだ」
「じゃあ僕は何をすればいいんですか?」
泰雅は龍鳥を見つめながら言った。
龍鳥が鋭く一声鳴く。
猿田彦が言った。
「堅柳泰賀よ、まずは堅柳の郷へ戻るのだ。そこがお前にとってつらい場所になってしまったのは理解している。だけれども、一旦戻るのだ。あとは神がおまえを導いてくださる。“おわらせるもの”として」
しばらく沈黙した後、泰雅は答えた。
「…わかりました。堅柳の郷へ戻ります」
泰雅は立ち上がった。
猿田彦は安心したように大きく一息ついた。
「龍鳥さまももう去られるとのことだ。もちろん私も」
代弁者の狒狒もまた砂地から立ち上がった。
龍鳥も中州で大きく羽ばたいた。
その風の強さに泰雅は馬に近付きながら思わず両目を細めた。
猿田彦は去り、龍鳥は一瞬周りの霧を吹き飛ばして舞い上がると飛び去って行った。
堅柳泰賀は馬に乗ると手綱を持ち直し、進み始めた。




