第7話 鯉の王、カニ王に転生す
眩しい光。
水の冷たさが消え、代わりに感じるのは 空気の乾いた熱。
(……あれ? ここ、どこ?)
視界に映るのは白い板。
その上で、俺はぐったりと横たわっていた。
周囲にはざわざわと人間の声。
台所の匂い。
まな板の上に置かれた“俺”。
(……これ、まさか……)
《状態確認:呼吸不能/体表乾燥中》
《スキル発動不能》
(マジかよ! 生きたまま魚料理コース!?)
ガタン!
包丁の音が響く。
料理人の男が、無表情で俺を掴み上げた。
「お、今日は立派な鯉だな」
(褒めなくていい! 放してくれぇぇぇ!)
だが声は出ない。
代わりにヒレがパタパタ動くだけ。
「……活きがいいな。刺身にするか」
《死亡確定イベント:進行中》
(ちょ、待っ、神様!? また俺を見捨てるの!?)
銀色の包丁が、光を反射して振り下ろされる。
スッ……。
鋭い痛みが体を裂いた。
世界が赤く染まり、意識が遠のいていく。
(……楽して偉くなりたかっただけなのに……なんで毎回これ……)
視界が完全に暗転する直前。
頭の中に、あの声が響いた。
『お前、また死んだのか。いやぁ、根性あるねぇ』
(神様!? 遅ぇよ!)
『まぁまぁ。じゃあ次はもうちょっと……硬い生き物でどうだ?』
(硬いって何!? まさか……!)
『転生先決定。海の底、“甲殻王”へ』
(ちょっ……!)
意識が完全に溶け落ちた。
そして次の瞬間。
ゴポッ。
視界が青に染まる。
潮の香り。
砂の感触。
目の前には無数の泡と貝殻。
(……海だ……!?)
身体を動かすと、ガチッ、と何か硬い音がした。
下を見れば、鋭いハサミ。
そして分厚い甲羅。
《転生完了:新種族 カニ》
《称号:甲殻王》を授与》
(うわ……本当にカニになってる……)
周囲を見渡せば、岩場の陰から無数のカニたちがぞろぞろと現れた。
赤、青、黒。
大小さまざま。
全員、俺に向かってハサミを掲げている。
【キング・クラブ、ばんざい!】
【我らの殻は王のために!】
(うわ、まただ……また“王”だ……!)
潮がざわめく。
砂が舞い上がる。
《支配エリア:浅瀬の王国》
《敵勢力:海底のタコ軍団》
(……うん、なんかまた戦争の匂いがする……)
ハサミを見つめながら、
悠。いや、“カニ王”は心の底からため息をついた。
(どうして俺の“楽して偉くなりたい”は、いつも血と泡まみれなんだ……)
波が寄せては返す。
その中でカニ王は、静かに次の戦いの予感を感じていた。




