第6話 鯉の王、ようやく楽を知る
水面は穏やかで、陽光がゆらゆらと揺れていた。
戦いの翌日、池の中はまるで別世界のように静かだった。
悠。いや、今や“鯉王”となった彼は、水草の上にふわりと寝そべっていた。
(……いいなぁ、これ。静かで、動かなくても息できるし。最高じゃん)
《環境ステータス:理想的》
《池内の支配率:100%》
《反乱勢力:なし》
(反乱なし、ね……やっと“楽して偉い”状態になったか)
近くでは、鯉の臣下たちが群れていた。
金色の鯉が水泡を吹きながら、恭しく頭を下げる。
【王よ、本日の餌の供給が始まりました】
【人間たちが白い供物を投げ入れております】
(ああ、あれか。昨日も食べたな)
悠はゆったりと泳ぎだし、水面に浮かぶ白い餌をパクッと口に含んだ。
うまい。
(……なにこれ、幸せ)
《満腹度+10》
《幸福度+15》
【王よ、民たちも供物を望んでおります】
(いいぞ、皆で食べろ。食糧は分け合うのが王の務めだ)
【さすが我が王……!】
周囲の鯉たちが感激の泡をぶくぶくと上げる。
悠はその様子を見ながら。
(ふっ、王ってのは“分けるだけ”で偉く見えるんだな)
満足げに泡を吐いた。
やがて、池の奥から小魚たちが泳ぎ寄ってきた。
【鯉王さま! ナマズが消えてから、池がすごく明るいです!】
【藻も増えて、小エビも戻ってきました!】
(おお、それは良かったな。自然が戻るっていいことだ)
【ありがとうございます! 王さまのおかげです!】
(いや、俺、ほとんど何もしてないんだけどね……)
《民の信頼度が上昇しました》
《称号:安寧をもたらす王 を獲得》
(おお……放っておいても称号増えるの、ちょっと気持ちいい)
悠は水面に漂いながら、心から思った。
(やっと……理想のスローライフ来たかも)
朝は人間がパンをくれる。
昼は臣下たちが報告をしてくれる。
夜は月明かりの下でゆっくり泳ぐだけ。
戦いも、責任も、ない。
ただ流れる水に身を任せるだけの毎日。
(これこそ、俺が望んでた“楽して偉い”生活だよなぁ……)
そう思った矢先。
《異常反応を検知しました》
《水面上に巨大な影》
(……ん?)
見上げると、池の端に“人間”の姿があった。
棒のようなものを構え、糸を垂らしている。
パシャ!
音がして水面に銀色の針が落ちた。
(あれ……釣り? もしかして――)
糸の先端が、悠の目の前を通り過ぎた。
餌のパンがふわりと漂う。
《危険度:未知》
《選択:①逃げる/②食べる》
(……うまそうだな)
《選択:② 食べる》
パクッ。
瞬間、糸がピンと張った。
(……あ、やばっ!)
《状態異常:吊り上げられ中》
水面が割れた。
悠の体は宙に浮かび、太陽の光がまぶしく差し込んだ。
(え、俺、空飛んでる!? いやこれ違う! 釣られてるぅぅぅ!)




