第4話 鯉の王、池で天下を取る
どこまでも静かな世界だった。
水の揺らめきと、藻の匂い。
陽の光が水面を通して差し込み、底の砂をきらめかせている。
(……ここは、池?)
身体を動かしてみると、尾びれがゆったりと動いた。
透明な水を押しながら、ゆらゆらと進む。
《種族:鯉》
《階級:王》
《スキル《キング》適用中》
(……まだ“王”なんだな)
ぼんやりと泡を吐き出しながら、
悠は水草の陰から周囲を観察した。
周囲には、十数匹の鯉やフナたちが泳いでいた。
金色や黒、白と赤の模様。
どうやらこの池の群れらしい。
(……よし、まずは馴染もう。目立たないのが一番)
そう思ってそっと群れに近づく。
だが……。
《威圧スキル:キングオーラ発動》
水が一瞬、震えた。
鯉たちが一斉に体を反らせ、尾を震わせながら逃げていく。
(あれ? 俺、なんかやった?)
《周囲の魚類が“服従”状態に入りました》
(えぇ……!? またかよ……!)
周囲を囲むように、鯉たちが頭を下げてきた。
泡を吐きながら、まるで礼をしているかのようだ。
(おいおい、俺そんなつもりじゃ……)
一匹の黒鯉が前に出てきた。
大きく口を開け、泡をぶくぶく吐きながら、低い鳴き声のような音を出す。
【……我らの王……ついに現れた……】
(やっぱり俺、王なんだね!?)
どうやら《キング》スキルは、転生しても“その種族の王”になる能力らしい。
つまり、鯉なら“鯉の王様”。
(はぁ……またトップに立っちゃったよ……楽して生きたいのに)
それでも群れは止まらない。
次々と魚が集まり、池の中央で悠を囲むように円を作る。
(王よ、この池には恐ろしい捕食者がいます……)
【“主”黒い影の怪物です……】
(捕食者? まさか……)
その瞬間、水面が大きく揺れた。
太陽の光をさえぎるような巨大な影が差す。
バシャァンッ!
銀色の体。無数の歯。
池の主、巨大ナマズが悠たちの前に姿を現した。
(うわ、でかっ! こんなの相手できるかよ!?)
《敵対存在:古代ナマズ種/レベル65》
《あなたの現在レベル:1》
(いやいやいや、レベル差ありすぎ!)
逃げるか、戦うか……。
だが《キング》のスキルが、勝手に反応する。
《スキル《統率命令》が発動しました》
《全鯉ユニット、戦闘モードへ移行》
(勝手に!? 待て待て! 俺、そんなつもりじゃ!?)
池の鯉たちが一斉に跳ね上がる。
まるで紅白の波のように、無数の鯉が巨大ナマズに突撃した。
悠はその中心で、ただ流れに飲まれていく。
(なんでこうなるんだよぉおおお!)
水しぶきと泡の嵐の中、“鯉王”の初陣が幕を開けた。




