第2話 スライムの王、エルフの少女に合う。
……静かな朝。
森の湿気が心地いい。
(ふぅ……今日もぷるぷる日和だな)
俺はスライムの群れの中心でのんびりしていた。
周りには数十、いや百を超えるスライム。
皆、俺を囲むように並び、静かに震えている。
(ああ、いい眺めだ……働かずに敬われる生活……理想すぎる)
……と思っていた、その時。
ばさっ。
茂みが揺れた。
スライムたちが一斉にぷるぷると震える。
(……なんだ? 魔物か?)
視線を向けた先。
木々の隙間から現れたのは金色の髪に、長い耳を持つ少女。
エルフだった。
「な、なに……? スライム……こんなに……!?」
彼女は弓を構え、震えていた。
その瞳に、明確な“恐怖”が浮かんでいる。
(あー……やっぱり怖いよな。数、ちょっと多すぎたかも)
森一帯を覆うほどのスライムの群れ。
人間から見れば、まさに異様な光景だ。
少女は後ずさりながら、何度も辺りを見回す。
「う、嘘でしょ……? 全部スライム……? ど、どうなってるの……!」
《周囲のスライムがあなたを守るために集結しました》
スライムたちは一斉に俺の前に移動し、層をなして壁を作る。
少女の視界に映るのは、無数のぷるぷるの壁。
「ひっ!」
完全にパニックになった少女は、弓を取り落とし、森の奥へ走り出した。
(あ、逃げた……いや、まぁ、そりゃ逃げるよな。百体単位のスライムに囲まれたら、俺でも逃げる)
少女の叫びが森に響く。
「だ、誰かっ! 誰か来てぇっ!! スライムが! いっぱい!!」
その声に反応するように、森の奥から数人の気配が近づいてくる。
複数の足音。鋭い気配。武装したエルフの大人たちだ。
(うわ、来た……早いな。これ、完全に敵対ムードじゃん)
木々の隙間から、弓と槍を構えたエルフたちが現れる。
少女が必死に指を差した。
「あそこですっ! 森の奥に……スライムの王がいます!」
(いやいやいや、言い方! “王”とかつけるな、誤解が加速する!)
大人のエルフたちは表情を険しくし、弓を引き絞る。
「スライムのキング……まさか、伝承は本当だったのか」
「封印されていたはずだ……なぜ今、森に……!?」
(おい待て、伝承とか封印とか、そんな設定初耳なんだけど!?)
矢先が一斉にこちらへ向けられた。
スライムたちがまた俺の前に集まる。
ぷるぷる……ぷるぷる……。
地面が震えるほどの密集。
《スキル《キング》が自動防衛体制に移行しました》
(やばい、これ完全に戦闘フラグじゃん! 俺、戦う気ないのに!?)
緊迫した空気の中、森を渡る風が止んだ。
次の瞬間、矢が一斉に放たれる。
(ちょ、マジか!?)
その瞬間、俺の体が勝手に光を放った。
《スキル《王の加護》発動》
《全スライム防御力上昇》
無数の矢がスライムの群れに突き刺さるが、どれも弾かれて地面に落ちた。
エルフたちは驚愕に声を上げる。
「は、はね返した!? スライムが……!?」
(……これ、完全に“ヤバいやつ”扱いされたよな)
俺は光る身体を小さく震わせながら、心の中でため息をついた。
(平和に暮らしたいだけなんだけどなぁ……)




