第1話 スライムの王になった。
光の中に飛び込んだ瞬間、意識が途切れた。
次に目を開けたとき、視界は一面の青に染まっていた。
(……ん? なんか視点、低くね? ていうか、地面近すぎだろ?)
身体を動かそうとして、ようやく異変に気づく。
腕も、足も、ない。
代わりに、全身がぷよんと揺れた。
(……お、おいおい……俺、これ……スライムじゃねぇか!?)
透き通った身体。
跳ねるたびに、ぶよんと弾む感覚。
そう、最弱モンスターの代名詞。
スライム。
よりによって、これかよ……。
途方に暮れていると、突然、頭の中に機械的な声が響いた。
《スキル《キング》が発動しました》
《現在の支配対象:スライム種》
《称号:スライムキング》を授与します》
(……スライムのキング? いやいや、王様スキルでスライムの王とか、どんな嫌がらせだよ……)
文句を言いたくても、声は出ない。
ただ、ぷるぷると震えるだけだった。
どれくらい時間が経っただろうか。
ぼんやりしていると、周囲の草むらがもぞもぞと動き出した。
ずるっ……ずるずるっ……。
青や緑の半透明なスライムたちが、次々と這い出してくる。
気づけば十、二十、三十……数えきれないほどのスライムが、俺の前に並んでいた。
みんな、無言で俺を見つめている。
……正直、ちょっと怖い。
《周囲のスライムが、あなたを“王”と認識しました》
(まじか……俺、今、本当にスライムの王様ってこと?)
信じがたいが、確かにスキルが作用している。
スライムたちは俺の意志に反応し、ゆっくりと動いた。
(……これ、もしかしなくても“働かずに偉くなれる”やつ、きたんじゃね?)
脳裏によみがえる、前世の口癖。
“楽して偉くなりたい”。
まさかスライム経由で叶うとは、誰が思うだろう。
試しにスキル《キング》の詳細を確認してみると、
仲間となったスライムを“進化”させられる能力があった。
名を与えることで力が増す。
《王の恩寵》
(……なるほど。試してみるか)
目の前のスライムを見つめ、考える。
(お前は……そうだな、“デルタ”でいいか)
《スライムに名を与えました》
《個体:デルタが進化します》
瞬間、デルタの身体が淡く光り出し、形が変わっていく。
触手が伸び、背に膜のようなものが広がる――
《新種:ウィングスライム 誕生!》
(……飛んだ!? 本当に飛んだ!!)
無音のまま、デルタはふわりと空中を舞った。
スライムが飛ぶ。
そんな光景、誰が想像できる?
(……これ、使えるぞ)
森の奥で震える無数のスライムたちを見渡しながら、俺は決意した。
(よし……スライム王国、建国開始だ)
“楽して偉くなりたい”男が、最弱の王として歩き出す。
スライムたちの国の物語が、静かに幕を開けた。




