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 大公であるグラナート様の住まいは、大きなお城だ。

 その中をグラナート様に手をひかれながら歩く。子供じゃないのにどうして手をつなぐのだろうと聞いたら、「目を離すとどこかに行きそうだから」なんて言われてしまった。

 私のことを心配してくださっているんだろうか?

 それに大公という立場のグラナート様がじきじきに私の案内をしているから凄く目立っている。

 異性と手を繋ぐのも経験はない。昨夜、初夜を済ませたのに何だか落ち着かない。





「どうした?」

「……えっと、こんな風に男性と手を繋いだりはしてこなかったのでちょっと落ち着かなくて。グラナート様の手、とても大きいですね」




 握っていたら分かるけれど、私の手の大きさに比べるとずっと大きい。男の人の手はこんなに大きいのかと驚いた。




「……っ」



 グラナート様はなぜか、手を繋いでない方の手で顔を抑えた。





「どうなさいましたか?」





 なにか、不快な思いをさせてしまったのかと心配になる。だけどグラナート様は予想外のことを言った。




「……お前は可愛いな」

「え?」

「そんな可愛いことは俺以外に言うな」

「それはどういう……?」

「手を繋ぐのも駄目だ。分かったか?」

「は、はい」





 可愛いと言われたことは理解が出来なかった。これまで生きてきてそんな言葉をかけられたことはなかったから、余計に不思議な気持ち。

 何を言われたのかもよく分からない。ただ私は結婚しているので、異性と手を繋がないのは当然のことだと思う。ただ思ったことを言ったのが「可愛いこと」というのがよく分からない。





 侍女達に聞いてみようかしら。

 私は歩幅が小さくて、グラナート様と歩いていると置いていかれそうになる。でもグラナート様は途中で気づいてか、ゆっくり歩いてくれた。とても優しい。

 書庫や食堂、衣装室など様々な場所を沢山案内してくれる。とても広々としている。当然、全てを見て回ることは出来ない。







「あの、私が入ってはいけない場所などはありますか?」



 私がそう聞いたら、驚いた顔をされる。






「なぜ、そんなことを聞く?」

「このようなお城だと、外の人間に知られてはならないことなど沢山あると思います。グラナート様にとっても、いきなり嫁いできた私のような者に歩き回られるのは嫌かと思いまして……」



 すっかり私はグラナート様が良い人だと、そう思ってしまっている。





 嫌われたら、少し悲しいかもしれない。

 実家にいた頃も、余計なことをしないようにと散々言われていた。なるべく大人しくして、家族の目に入らないようにいつだってしていた。

 きっと大公家でもそうだろうと想像が出来た。

 評判の良いお姉様ならともかく、私が嫁いできてしまったのだから知られてはいけないことなどもあるはずだ。







「何を馬鹿なことを。お前は既に俺の妻で、大公家の人間だ」



 グラナート様は何を言っているんだとでもいう風に私の目をまっすぐに見て言う。

 本当になんて綺麗で、力強い瞳なんだろうか。見つめられると、私も目を離せない。





「シアンナが入れない場所などない。寧ろお前を侮る人間が一人でもいるなら速攻首を刎ねる」

「グラナート様……、冗談でもそのようなことを軽々しく言っては駄目ですわ」




 首を刎ねるなんて恐ろしいことを顔色一つ変えずに言うのだから、びっくりした。ただ本当にグラナート様にそれだけの力があるのも事実だとは分かっている。

 私も彼の不興を買えば、すぐに殺されることだってあるだろう。







「冗談ではない。シアンナが侮られるということは、俺が侮られるということだ。だから、何かあればすぐに言え」

「そんな過激な処罰は望みませんが……何かあれば伝えますね」




 私一人では、何か問題が起きた時に対応など出来るはずもない。最低限の令嬢教育は受けてはいるけれど、大公夫人としての判断は分からない。それに私が勝手に決めたことで、グラナート様に迷惑が掛かるのは嫌だなと思った。




「お前はこんな時でも俺の目をまっすぐに見るんだな」

「……だって綺麗なのですもの」




 綺麗だなと、ただそればかりを思う。

 私、ゼラニウムの色は確かに好きだ。だけれどもこんな風にじっと見つめたくなるのは初めてで、自分でも驚く。



「そうか、幾らでも見るといい」




 グラナート様はそう言って、楽しそうに笑った。

 本当によく笑う人だなと思う。私を見て、こんな様子の人って初めてかもしれない。

 そんなことを考えながら私はグラナート様の言葉に頷くのだった。


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