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社交界の場で、こんな風に注目を受ける経験は初めてだ。いつだってその役割は私のものではなく、お姉様のものだった。
それなのに、私は今、グラナート様の横で沢山の視線を浴びている。
それにその視線は、あまり悪いものがなかった。もちろん、興味本位な視線は向けられている。それに関しては当たり前だとは思う。だって、グラナート様は目立つ方だ。それでいて大公などという栄えある立場である。その妻になった私がどういった人物なのかと気になるのも気持ちがよく分かる。
大公領付近に住まう人たちは、お姉様のことを知っている人はほとんどいないみたい。だって私が登場した場で、お姉様の名前が聞こえてこないのなんて私にとっては初めてだった。
それだけ今まで私が生きてきた世界では、お姉様という存在が目立っていた。誰もがお姉様のことが大好きで、私よりもお姉様のことばかりを気にしていた。お姉様が居ない世界なんて……私は知らなかった。
だけどそうか、このパーティーではお姉様は関係ないんだ。
寧ろ私が主役なんだと思うと、少しだけ心配になった。私が……グラナート様の隣に立っていて大丈夫なのかと。
「シアンナ、緊張しているのか?」
「……少し。私、こんなに注目を浴びることはこれまでなかったですから。私が此処にいることが凄く不思議なんです」
私がそう口にすると、グラナート様はおかしそうに笑った。
「そんなことを悩んでいるなんて、やっぱり可愛いな」
「もう……こんなところで何を言っているんですか」
突然の言葉にぼっと顔が赤くなってしまった。だって、こんなに周りから注目を浴びている中でそんなことを言われると思わなかった。
だって私の顔、赤いわ。
何を話しているんだろうかとか訝しがられるかもしれない。
「別にいいだろう。俺とシアンナの夫婦仲が良いと示すのは、何の問題もない。寧ろ良いことだらけだぞ?」
そう言われて、確かにそれはそうかも……と私は思った。
「はい。えっと、なら……」
私はグラナート様の言葉を聞いて、一つのことを思い浮かべた。そしてすぐに行動に起こす。
今もグラナート様にエスコートされている形だった。だけど更にぎゅっと身体を近づけた。密着させた形だ。
「な、仲良く示した方がいいならこうやってくっついた方がいいかなと」
グラナート様の驚いた顔を見ながらそう口にすると、彼は楽しそうに笑った。
「ああ。問題ない」
「なら、今日は出来る限りくっついていますね」
私はグラナート様に向かって、そう言って笑いかけた。
それからグラナート様に連れられて、私はパーティーを楽しむことになった。参加している誰もが着飾っていて、とても綺麗な人達ばかりだなとそんなことを思った。
中にはグラナート様のことを熱っぽい瞳で見ている人もいて……それにはちょっとだけ何とも言えない気持ちになった。だってそういう女性の方は、私のことを居ない者のように扱おうとしたりしていたから。
グラナート様はそう言う人たちを見ると、不快そうな顔をしていた。
それからそう言う人たちのことは冷たくあしらっていた。……私が蔑ろにされたりするの、グラナート様は嫌みたいだった。
嫁ぐ前の私は、放っておかれたりすることも多かった。私のことなんか気にしなくて、他の家族の人達に関わってばかりだった。
だから凄く不思議な感覚だった。
パーティーの場で、私がこんなに主役みたいに存在すること初めてだった。それにグラナート様が私のことを尊重してくれて、こうして守ろうとしてくれている。そのことが何だか嬉しい。
「グラナート様が隣に居ると、まるでこの場の主人公にでもなったような気持ちです」
「俺が隣に居なくても、俺の妻なんだからシアンナはこのパーティーの主役だぞ」
「そう、ですかね……」
グラナート様が傍にいてくれるからこそだと思ってしまった。だって私一人だけでパーティーの主役になれるかというと、そんな気は全然しないもの。
でもグラナート様は、
「ああ。シアンナ一人でも多くの連中が話しかけてくるだろう。第一、俺の妻という立場がなかったとしてもシアンナは十分社交界の主役になれるだけの素質はある」
私に向かって、グラナート様はそう告げる。
きっと本心なんだろうなというのは、その言動を見ていたら分かる。
グラナート様は、私ならばそう言う存在になれると私自身を信じてくださっている。それに認めてくれている。
その言葉だけでなんだかどうしようもないほど、嬉しかった。何だって出来るような無敵にでもなったような気分になる。
緊張は一気にほぐれた。
だって何かあっても、私は大丈夫だと思えたから。
出来れば問題は起こらないでほしいけれど、それが起こったとしても……グラナート様が居るならすぐに解決するって分かったから。




