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「そんなに少ない量でいいのか?」
初夜を終えて、そのまま私はグラナート様と一緒に朝食を取っている。
なぜだか分からないけれど、執事や侍女達は私がグラナート様と一緒に寝室から出てきたことを驚いてたみたい。それにグラナート様が私に話しかけてくださっていることも。
どうしてだろう? なんて思いながらも、パンが美味しいなと考えていた。
ただそんなに多くは食べられなかった。美味しかったけれど、そんなに入らないの。
「はい。あんまり多くは食べられなくて……」
「もっと食べた方がいいと思うが……」
グラナート様はそう言いながらも、食べている量が私の倍ぐらいだ。こんなに食べられるグラナート様からすると、私がこれだけしか口にしないのは心配になるのかしら。
「グラナート様、一般的な女性の食事量はこの位です。確かに領内の女性はよく食べる者が多いですが」
隣にいた執事がグラナート様にそう言っていた。
「そうなのか……。どういったものを食べるのが好きだ?」
「えっと、甘いものは好きですね。あとはスープも」
「なら、用意をさせる」
そんなことを言われて驚いてしまう。
伯爵家にいた頃は、私の好む食事が出ることなんてなかった。そもそも私に希望を聞く人なんて皆無だった。
どちらかというとお兄様やお姉様の要望ばかりが優先された。伯爵家に仕えている使用人達も私のことなんてあまり気にしていなかった。
だから何だか、当たり前みたいにグラナート様が私の好みを反映してくれようとしていることが凄く不思議だった。
「ありがとうございます。グラナート様」
私は笑ってお礼を告げた。こんな私の好みの食事を用意してくれようとするなんて、優しい人だ。
今の所、冷たい要素が一切見当たらない。どうして冷たいなんて言われているのだろうか。
「妻の好みのものを用意するのは当たり前だろう」
「そうなのですね。でも嬉しいですわ。グラナート様はどういったものが好きですか?」
「肉は好きだな」
「まぁ、そうなのですね。昨夜はあまりお話出来なかったので、これからグラナート様のことを沢山教えていただけたら嬉しいですわ」
昨夜はこちらに着いたのは夕刻だった。
それから事務的な手続きをした後、初夜だった。特にこれといって会話を交わすこともなかった。
だからなんというか、こうして朝食の時間にお話が出来るのが嬉しい。
そもそも私は誰かからこうやって、話をすることはなかなかなかった。私と話したがる人は居なかった。
私と話すことを皆、望んでいなかったから。
……グラナート様は、私と話そうとしてくれているんだな。それに全く嫌がる様子一つ見せない。それがただ、嬉しかった。
「もちろんだ。シアンナのことも教えてくれ」
「はい。もちろんですわ。どういったことをお聞きしたいですか?」
なんだろう、高揚した気持ちになってしまう。グラナート様は私の話を聞いてくれようとしてくれているんだなって。私に興味でも抱いてくれているのかなって。
「そうだな。聞きたいことか……」
何もないのだろうか。
それはそれで少し悲しいかもしれない。もっと沢山聞いてほしいなとそんなことを思ってしまっている。
昨日会ったばかりなのに、優しいなとすっかりグラナート様に好意的になっている私は単純なのかもしれない。
「今日は何をしたい?」
「何を……って考えてませんでした。大公夫人というのは何をしたらいいでしょうか」
正直、私は最低限の教育しかされていなくて、大公夫人なんて大層な立場で何が出来るのだろうかと、分からない。
私に何が出来るのだろうか。……今はグラナート様は私に笑いかけてくださるけれど、私がお姉様のようには役に立たないと思われたら、殺されてしまうかな。いや、でもグラナート様は優しいから、私が頼んだら生かしてはくれたりするだろうか。
「なんでもいい。大公夫人であるシアンナの行動を阻害する者はいない。居たら解雇するから言え」
「そうなのですね。……少し考えてみますわ」
とはいっても、自分で何かを考えることなんてあまりなかった。私の希望が叶えられることもなく、ただ言われるままに過ごしていた。
余計なことをして家族に迷惑をかけることも嫌だった。
――だから、なんというか何をしたいと聞かれても困った。
「思いつかないですわ」
どうしようと、そう答えてしまう。
「なら、奥様。この城内を案内させていただきます。それからやりたいことをお決めになられたらいいかと」
「そうするといい。時間があるから俺が案内する」
執事が言った言葉に、グラナート様もそう言ってくれた。
わざわざ案内してくださろうとするなんて、嬉しいなと思った。一緒にいる時間が増えればグラナート様から、嫌われてしまうだろうか?
少し心配だけどなるようにしかならないので、案内してもらうのを楽しもう。