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「……ふぅ」
一息を吐く。
パーティーのために私は準備に勤しんでいる。
パーティー自体はこの城で行われるものだ。それでいて王都から人を呼ぶわけでもない。すなわち、お姉様たちは来ないということ。
……そもそもの話、お姉様からしてみれば私が生き延びていることが予想外かもしれない。
だってお姉様は、私は殺されてしまうはずなのだから。
それなのに私は生きている。お姉様にとってはきっと予想外のことなんだろうなとは思う。そのうち死ぬだろうと思われていてもおかしくない。というか、思われてそう。
お姉様の言葉は絶対だったのに、こうして生きていることがいまだに不思議だ。
お姉様や他の家族達だって、嫁いでいった私のことはどうでもいいとさえ思っているだろう。彼等の中では、私はもう死んだも同然のはず。
そう考えると何とも言えない気持ちになった。
……もしかして、私の家って普通ではないのかもしれない。
なんてことに気づけたのは、この大公家の人達がただただ優しいからだ。そして当たり前を私に教えてくれるから。
実家に居た頃、私は姉と比べられてばかりだった。姉のようになれない私が悪いのだと、ずっとそう思っていた。
だけどグラナート様が、比べる必要はないと、私は私なんだって、そう言ってくれた。
ありのままの私で、いいのだと。お姉様のようじゃなくてもいいのだと。
私はそう言ってもらえたから、頑張ろうと思えた。
こんなにも、私は私でいいのだと言ってもらえることが嬉しいのだって知らなかった。私はずっと自分がお姉様に劣ることばかりを考えていたから。
今回は、私にとって初めて主催するパーティーだ。とはいっても、全て私が決めるわけじゃない。
どういった人を呼べばいいかとか、どんな装飾品にすべきかとか、食事に関してとか……そのあたりを私は全て把握できていない。
大公夫人という立場になって間もないので、このあたりの貴族達の趣向などを知らない。
周りの人たちに助けてもらいながら招待状の準備などもしているの。一通一通、心を込めて書いている。
なんでもかんでも聞いていて迷惑をかけてしまっていないだろうかと心配になった。だけれども周りの侍女や使用人達には「寧ろ聞いてもらえて助かります」などと言われた。
一人で勝手に決めて、その結果失敗されるよりはずっといいって。
私は貴族夫人として生きて行くためには、絶対的な自信があった方がいいと思っていた。それこそお姉様のように自分の行動は全て正しいのだと、そう思って行動する方がいいって。
伯爵家に居た頃は、皆がお姉様は素晴らしいと言っていた。
それなのにこの大公家の人達は、全然違うのだ。私に問いかけられることを喜んでいるというか、頼られて嬉しそうにしている。
もしかしたら私が思い込んでいただけで、貴族夫人としての在り方って様々なのかななんて初めて知った。
私はずっと、こうあらなければならないってそんな風に頭の中で決めつけすぎていたのかも。
お姉様っていう、偉大な貴族令嬢。私にとって特別……ううん、私だけじゃなくて誰にとっても特別で眩しすぎるお姉様のようにあるのが一番良いのだと思っていた。
そうじゃなければいけないのだと。ああなれない私は……お姉様より劣っているのだと、ただずっとそう考えていた。
でもそうじゃなくて、私のような者でも大公夫人と名乗っていいのだとなんだか不思議な感覚になった。
嫁ぐ前と、嫁いだ後で世界がこんなにも違うなんて思ってもいなかったから。
この大公家だからなのか。それとも実家の伯爵家がああいう考えなだけだったのか。私にはそれが判断がつかない。
実家だけがただお姉様こそが正しいという考え方だけで、周りに助けられて、沢山相談している貴族も中には居たのだろうか?
そう考えると、もっと王都でも私は人付き合いをしていればよかったと思った。私はパーティーに参加しても、誰かと特別仲良くなることなんてなかった。
いつだってパーティーの中心はお姉様だった。
思えば私は……お姉様の参加していないパーティーに行ったことがない。今回のパーティーが、初めてなんだ。
そう考えると少しだけ不思議に思った。どうしてお父様やお母様は、私だけでパーティーに行かせてくれなかったのだろうか?
実家に居た時は一度も不思議に思うことがなかった。それが当たり前だったから。
私に家のお金がほとんど使われないのも、お姉様ばかりが優先されていたのも――同じ伯爵令嬢でも、私が出来損ないだからっておもっていたのに。
この大公家に来て、私という存在が認められると不思議な気持ちだった。
出来損ないでも、そのままの私をグラナート様は妻として受け入れてくれている。
それでいてこんな私に凄く良くしてくれている。私がこんな風に受け入れられているのは、当たり前なのだとそう行動で示してくれている。
だからどうして実家では私とお姉様への家族の対応が全然違ったんだろうとよく分からなくなった。




