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「今度、城でパーティーを行う」
グラナート様からそんなことを言われた。
私はこの城の女主人としてパーティーに参加する必要があるということだ。そのことに思い至ると、ただ不安になった。
私は伯爵令嬢という身分ではあったが、自分でパーティーなどを主催したことはなかった。私はいつも、大人しくしているように言われていた。参加したものも、本当にただ参加しているだけだった。
「シアンナ、どうした?」
私が黙り込んだのを見て、グラナート様が気遣うようにそう言った。
本当に優しい方だと思う。私の些細な変化にも気づいてくれて、嬉しくなった。
今まで生きてきて、私の表情などをこんなにも見てくれる人なんてこれまで居なかった。
私は空気のようなもので、何をしようと、何を感じようと誰も気にしていなかったのだから。
……でもこの大公家では違う。
私に何かあれば、すぐに皆が声をかけてくれる。何だか私自身がこの大公家で特別で、大切な物になってしまったかのようなそんな感覚に陥ってしまう。
私はお姉様と違うから、そんなことありえないのに。
ただ運よく、この大公家に嫁ぐことが出来ただけでお姉様のように私は特別ではないのに。
ただグラナート様の言葉を聞くと、ちゃんと質問には答えようと思った。グラナート様は私が何を言ったとしても受け入れてくれると思ったから。
「私は……伯爵令嬢として産まれましたが、社交界にはあまり慣れておりません」
「知っている」
「ご存じだったのですか?」
もしかしたらグラナート様は、私が実家でどのように過ごしていたかも知っているのだろうか。私が何も出来ない、お姉様と比べると出来損ないとも言えるほどに……至らないことも。
それでもグラナート様が私に向かって笑いかけてくれることが不思議だった。
私のことなんて、放っておいてもおかしくないのに。私に失望しても当然なのに……。それでもグラナート様は、当たり前のように私を妻として受け入れている。
「ああ」
「なら……その、私が不甲斐ないことに、社交界の場を取り仕切ったことなどがないことも知っておられますよね。この城でパーティーを行うということは、私が前に立って進めなければならないことだと思います。出来るのだろうかと、少し不安なのです。もし失敗してしまったら……他でもないグラナート様にご迷惑をかけてしまいます」
「くははっ、自分の心配ではなく、俺のことなのか?」
グラナート様は楽しそうに笑っている。
ただ真っすぐに私のことを見て、私のことを受け入れてくれる優しい瞳。そんな瞳を向けられると……私は不安を口にしたとしても問題がないのだとそんな気持ちになった。
「はい。私の評判なんてそもそもないようなものなのです。だから私の失敗でグラナート様の評判が下がったり、周りから悪く思われることが一番嫌です。私には……自信がないのです。大公夫人として取り仕切ることが出来ないかもしれないです」
元々私のことは、良い様に言われたことはなかった。
お姉様の功績ばかりを皆がもてはやして、私はお姉様のように上手くは出来なかった。
大公夫人という立場として私がやっていけるのだろうか。そんなことばかりを考えている。
嫁いでくる際は、お姉様にすぐに死ぬ運命だと言われていた。
嫁いだところでこんな風に任せてもらえるかなんて思ってもいなかった。
でも私は……これから大公夫人として色んなことをきっとやらせてもらえるのだ。でもそれが出来るのか? とそんな不安を感じている。
「初めてやることなら、失敗しても仕方ない。そもそも仮にシアンナが上手く出来なかったとしても、それはそれだ」
「……失敗してもいいんですか?」
「最初から完璧な人間などいないだろう。それにシアンナが大公夫人としてやっていけるように補助出来る存在をつける。それに俺だって手伝う。一度失敗して駄目なら、二回目を成功させればいいだけだ」
お姉様は最初から、全て完璧にこなせる人だった。
産まれた時から特別な存在だと、そんな風に言われていた。
私にとってお姉様は、自分とは全く異なる特別な存在だった。追いつけることのできない人。
お姉様の言葉は絶対で、だからこそ私は一生日陰者で、至らないのだとそう思っていた。
でもグラナート様は失敗を怒らない。出来ないことは、出来るようになればいいという。
実家では、私がお姉様のように出来ないことをがっかりされていた。グラナート様は、そうじゃない。
「分かりました。私、応援してもらえるなら頑張ります。グラナート様の隣で、お、奥さんとして立派に認めてもらえるようになります。お姉様のようには上手く出来ないかも……しれないけれど!」
「姉と比べる必要はない。お前の姉がどれだけ立派だと言われていようとも、シアンナはシアンナなんだから」
グラナート様は私に向かって、そう言って笑いかけた。




