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「いたっ」
針を勢い余って指にさしてしまった。思わず漏れ出た言葉に、周りに居た侍女が慌てふためいている。
「奥様、大丈夫ですか?」
「奥様、手当てをしましょう!!」
あまりにも周りが大げさすぎて、私はびっくりした。
私が少し怪我をしてしまったところで、此処まで慌てる必要はないのでは? とそう思ってしまっていた。
正直今回の怪我に関しては完全に、私の行動が原因なのだ。だからこそ何も責任を感じる必要はない。それなのにこんなにも心配してくれるなんて……なんだか、凄く不思議な感覚でいっぱいになった。
「もう、大げさよ? 少しだけ血が出てしまっただけだもの」
この位の怪我、そこまで痛みは感じていない。大怪我というわけでもないのに、どうして? とそう思った。
「駄目ですよ。奥様はもっと自分の身体を大切にしないといけません」
「そうです。奥様は自分のことに無頓着な一面がありますが、それでは駄目ですわ。私達も悲しくなりますし、何よりご当主様がどれだけ落ち込まれることか……!」
そう言われて、私は確かに……と思った。
きっとグラナート様は私に何かあったら、悲しまれると思う。私はあの人がそんな思いをすることは避けたい。
なので私は大人しく侍女達の言葉に頷いた。
その日は刺繍をさせてもらえなかった。侍女達も過保護だわ。まるでこんな小さな怪我で、私が死んでしまうのではないかとでも心配しているようにさえ見える。私は流石にそこまでか弱くはないわ!
確かにこの大公家の人々と比べると背も低いし、弱々しくは見えるかもしれないけれども……。
「……シアンナ、この怪我は?」
夜、グラナート様にもそう問いかけられてしまった。
ちょっとした傷なのに、大げさに包帯を巻かれてしまったの。厳しい視線をグラナート様から向けられて驚いてしまった。
「少し、怪我しただけですわ。侍女達が心配して大げさにしてしまって……」
「そうか。その場にいた侍女の名は?」
「グラナート様、もしかして処罰をしようとしていらっしゃいます……? やめてほしいです。これは私の自己責任なので。もちろん……その、処罰をしなければならないほどの出来事だったら仕方ないのですが、今回は違いますから!」
慌てて必死になってそう言った。
グラナート様は、本当に私が怪我したりするのを嫌がっているんだなと実感する。侍女達も、落ち込むって言っていたもの。
……私の身体って、私だけのものじゃないんだな。そんな感覚に陥った。
そう思うと何だか不思議な感覚になった。私のことで、自分のことのようにグラナート様は怒ってくれているんだ。
夫婦だからってことよね。
それならば、グラナート様も私の物ってこと? そう思うと思わずぼっと顔が赤くなってしまった。
「どうした? 風邪でも引いたか?」
「いえ、全然! グラナート様が私が少し怪我しただけでとても慌ててるから、その私はグラナート様の物なんだなと思って」
「そうか」
「はい。それで、その……夫婦だからなのかなと思ったら。グラナート様も私の物ということになるのかもしれないと……烏滸がましいことを思ってしまって……!!」
私がそう言ったら、グラナート様は笑った。
機嫌を損ねていないみたいでほっとした。寧ろ嬉しそうにさえ見えた。
「シアンナ、烏滸がましいことはない」
「そ、そうですか? でも……グラナート様も私なんかの物なんて言われるのは嫌ですよね……?」
お姉様や他の見目麗しい素敵な女性ならともかく私なんかの物って!! グラナート様はとても素敵な方なんだから、私が独占していいような方ではない気もする。
寧ろ社交界の場に出たら、私の方が絶対に見劣りするわ。そしてきっと似合わないとか、そんな風に言われる気しかしない。
「いや? 全く」
「なんで、嬉しそうなんですか? そんなこと言われたら、他の人にもグラナート様が私の物だって言ってしまいますよ?」
グラナート様が私を甘やかすから、そんな感情まで芽生えてしまう。
グラナート様の独占権を主張してもいいと周りから認められて、肯定されたら……そのまま周りにも言ってもいいのかもと勘違いしてしまいそうになる。
「別にいいだろう。実際にシアンナは俺の妻なんだから、俺はシアンナの物で間違いない。寧ろもっと独占しろ」
「そ、そうなんですね。夫婦はそう言う感じなのですね。分かりました!」
「くははっ」
夫婦なら互いを独占するのも当たり前なのか、と受け入れて口にした私にグラナート様は楽しそうに笑った。
グラナート様の笑った顔、好きだな。
そう思って見つめたら、そのまま口づけされるのだった。
グラナート様は、私に口づけをするのが結構好きだ。初夜を終えてからよく口づけを落とされる。夫婦ならこの位当たり前だし、私もこの行為が好きだからそのまま受け入れている。




